仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』は「ブラック」な研究業界にも言える

<今回の内容>

  • 1.はじめに
  • 2.本書の内容と「ブラック」な研究業界のこと
    •  2-1.「第3章 がんばらない勇気」
    •  2-2.「第4章 自分の人生を生きるために」
    •  2-3.「第5章 世界は広いんです」
    •  2-4.「最終章 自分を犠牲にしてがんばりすぎちゃう人へ」
  • 3.最後に
  • <関連記事>

1.はじめに

今週頭に発売され、増刷が決定された本があります。本書のプロローグはTwitterで公開され、20万RTされるほどの共感を呼びました。出版後の反応は、即日重版決定! 『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(著・汐街コナ 監修・ゆうきゆう)反響まとめ #死ぬ辞め - Togetterまとめで、その凄まじさを知ることが出来、また、出版元のサイトでは特設ページが作られています↓

special.asa21.com

 

さて、Amazonの「ノンフィクション」本では、4月12日付けで3位になっていたのが、こちらの本書です↓

 

プロローグは、昔、デザイナーをしていた著者がその会社で「90~100時間」となっていた毎日のある夜に残業時間が終わり、毎晩そうしていたように終電を地下鉄の駅のホームで待っていたところから始まります。その日、著者は

 

「今一歩踏み出せば明日は会社に行かなくていい」

 

「一歩 たった一歩 それだけで」

 

「明日は会社に行かなくていい?!」

 

という思いが浮かび、ナレーションが「それは素晴らしいアイディアのように思えました」という言葉が重なります。そうこうしているうちに、電車が到着し、乗り込んだ著者は自分が危ない状態に陥っていたことに気づき、その後、縁故だろうが、なんだろうが、「めちゃくちゃ転職活動した」そうで、事務職に転職したことが本作の中盤で語られます。

 

プロローグの途中で、過労自殺の恐ろしいところは、他の人は「死ぬくらいなら辞めればいいのに」と思うのに対し、本人は「その程度の判断力すら失ってしまうのがブラックの恐ろしいところなのです」と指摘。ブラックな職場にいることで、精神的にボロボロで、生命より精神的に楽になるほうを選んでしまうかも…、といった危険が身に染みました。

 

最初、この本を手に取った時、テーマとしてなかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)にレビュー記事を公開しようと思いました。ですが、読み進めるうち、「ブラック」な研究業界にも同じことが言えるよね?ということに気づいたのです。

例えば、院生時代にいた研究室でのボス先生の研究会や学会の論文集の編集業務をしていた時、私は日付が変わった直後に自転車で川沿いの道を入っていた帰宅途中、「ああ、このまま、ガードレールに当たって川に落ちて溺れたら、明日はとりあえず、編集の仕事をしなくていいんだな」ということを考えていたことがありました。その思考は、本書のプロローグで著者が陥ったのと同レベルで危うかったでしょう。

(おまけに、学生のただ働きのことが多くて、残業代なんて入らなかった…)

 

そうは言っても、私は先輩方は黙々と業務をされているし、口に出して一人で断る訳にもいかなかったため、「科研費の出版部門に落ちたから、最終締め切りが延びました」という取りまとめ役の常勤講師の先生が院生部屋に来た時、研究室メンバーが集まっている真ん前で、ゴチーン!と自分の席のスチール製本棚の柱に頭突きをかましました。言葉で言えない私は「もう、自分はその仕事、できません!」と行動で示し、研究室のメンバーを無言にさせ、ボス先生が常勤講師の先生に院生にこれ以上、仕事をふらないように仰いました。これ以降、口実を見つけては「ごめんなさい」と感じつつ、資料調べのふりをして、雑務から逃げるようにしました。

 

こういう感じで、実は本書に書いてある「ブラック企業」の過労自殺の危険は、研究室での雑務を含み、研究会や学会への参加・事務局の仕事ほか、けっこう、研究業界についても同じように院生や職業研究者を心身の極限にまで追い込む危うさは、同じだと考えられます。

 

そういうわけで、今回は『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』をとおして、実は「ブラック」な研究業界のことを振り返り、これから研究業界との付き合い方を考えてみたいと思います。

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【目次】「Ciniiがなくなる?!」という噂の真相シリーズ

2017年4月5日、日本国の学術情報検索サービスCiniiで論文PDFが見られなくなっていたことから、起こった「Cinii消失騒動」。その発端と背景、論文PDFの閲覧を含む機能の移行先のJ-STAGEに、2017年3月8日に外部からサイバー攻撃がなされ、J-STAGEがセキュリティ面の対応で、一週間近く、サービス停止となっていたこと。騒動から5日後、4月10日にCiniiで一部の論文PDFの公開が再開されたニュースまで、エントリ記事をまとめました。

 

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「CiNii、論文データの提供を再開」(ITmediaより)~続々・「Ciniiがなくなる?!」という噂の真相~

1.速報:「CiNii、論文データの提供を再開」

 【2017.4.7_1941更新】「Ciniiがなくなる?!」という噂の真相~「「CiNiiで論文が見られない」電子図書館終了に困惑の声」(ITmediaビジネスより)~ - 仲見満月の研究室

↑この記事の更に続報が10日、出ました。下のITmediaニュースの記事です。

(以下、ニュース記事)

www.itmedia.co.jp

 

 国立情報学研究所(NII)は4月10日、論文検索サービス「CiNii(サイニー) Articles」で、停止していた論文PDFデータのダウンロード提供を一部再開した。3月までCiNiiで公開していた全約378万件の論文のうち、約110万件の提供を再開。「J-STAGE」への移行が完了した論文も含めると、約199万件が閲覧可能になった。残りの論文についても、学会などと協議し、可能なものは再公開する予定だ。

 

 NIIは「利用者の利便性を考慮し、論文データ提供の再開を決めた」という。

(CiNii、論文データの提供を再開 「利用者の利便性を考慮」 - ITmedia NEWS)

とのことです。 そもそも、この4月5日に「CiniiでPDFファイルが閲覧できなよ?!」ということが、「Cinii消失騒動」になっていました。この騒ぎの経緯は、前回の先月のJ-STAGEへのサイバー攻撃と国の学術情報検索サービスの問題~続・「「Ciniiがなくなる?!」という噂の真相」~ - 仲見満月の研究室の「1.前回の記事のあらすじ」に詳細が載っていますので、そちらでご確認ください。

 

f:id:nakami_midsuki:20170410233521p:plain

 

J-STAGEというのは、文科省の関連機関である科学技術振興機構JST)が運用する「電子ジャーナル出版プラットフォーム」です。一方、Ciniiのほうは、JSTとは別の国立情報学研究所が運営・管理しています。CiniiのほうがJ-STAGEよりも、より検索に特化した学術情報検索サービスだったようで、J-STAGEのほうが学術ジャーナルのページから論文PDFを閲覧できるとか、よりカバー範囲が広いといったらいいイメージです。

(書誌情報は、J-STAGEのほうは学術ジャーナルの発行者が入れている模様)

 

そもそも、CiniiからJ-STAGEへの論文PDFを含む機能移行は、2014年に「国立情報学研究所電子図書館事業」の終了が告知され、そこから2年のうちに、Ciniiでの論文PDFの公開が終わることも、言われていたそうです。そうだったのですが、事前に告知され、情報を受け取っていた人たちがいたにも拘わらず、CiniiからJ-STAGEへの移行作業には時間がかかり、今回、CiniiでPDFが見らえないというところから、「Cinii消失騒動」は発生しました。

(詳細は、先月のJ-STAGEへのサイバー攻撃と国の学術情報検索サービスの問題の「3.2014年に国立情報学研究所の電子図書館事業の終了告知とその周辺の問題」)

 

この「Cinii消失騒動」から約一週間、本日10日、冒頭に引用したとおり、Ciniiで「停止していた論文PDFデータのダウンロード提供を一部再開した」。今年3月まで公開していた全論文約378万件のうち、その約3割をの提供をCiniiで再び検索者が見られるようにした、ということです。再び、閲覧できるようになったこの199万件の内訳は、

J-STAGEに移行できていない論文(約22万件)と、学会誌の発行終了などで移行予定がない論文(約88万件)の合計約110万件。

(CiNii、論文データの提供を再開 「利用者の利便性を考慮」 - ITmedia NEWS)

であり、既にJ-STAGEへ移行している約89万件は、Ciniiの論文情報ページからJ-STAGEへのリンクを押すと、PDFが閲覧可能だそうです。

 

今後、Ciniiを管理している国立情報学研究所(NII)としては、各方面と提携し、

 J-STAGE以外に移行予定だったり、学会で移行方針が決まっていなかったり、NII-ELSで有料提供されていた論文は公開を停止したままだが、NIIは今後、各学会や科学技術振興機構と協議し、無料公開が可能なものについては、ダウンロード機能を提供する方針だ。

CiNii、論文データの提供を再開 「利用者の利便性を考慮」 - ITmedia NEWS

 ということをしようとしているそうです。

 

 

2.一連の「Cinii消失騒動」についての感想

結局、NII-ELSで公開されていた論文PDFのうちの一部しか、これからは、見られなくなるんかーい!とツッコミを入れたいのが、現在の正直な気持ちです。おまけに、前回の記事で、先月の8日にJ-STAGEが外部からサイバー攻撃を受け、一週間近くサービスの利用停止をしていたことをお伝えしました。CiniiからJ-STAGEへの機能移行に時間がかかりすぎていて、本当に日本は国として「研究成果の電子文献の管理を含めて、学術情報サービスに力が入れられていないんだなぁ」と改めて、実感しました。つまり、こっちに割けるお金が回ってきていなんです。

 

Ciniiでの一部の論文PDFの公開を再開したものの、もう、国に頼っていられないから、Twitterはじめ、ネット上のあちこちで声が上がっているように、各学会や民間企業、自治体で論文PDFを集めて検索できるプラットフォーム作っていき、それを組織化していくしかないでしょうね。

 

個人単位でできそうなことは、次のようなことかもしれません。

一部の研究者ユーザーのの方々が自分の論文の情報と公開先のURLに「 #CiNiiは闇に呑まれたから私の論文を読め 」のタグを付ける動きが始まっています。これも、学術情報の広い意味での保存に寄与するかもしれません。

(しないかもしれません)

(先月のJ-STAGEへのサイバー攻撃と国の学術情報検索サービスの問題~続・「「Ciniiがなくなる?!」という噂の真相」~ - 仲見満月の研究室)

 

もっと効果的な方法がありましたら、どなたか教えてください。 

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