仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

『ル・オタク』で考える文化的摩擦~清谷信一『ル・オタク フランスおたく物語』~

〈今回の目次〉

0.はじめに

naka3-3dsuki.hatenablog.com

↑の2巻のレビュー最後で書いた、第三章「クールジャパンに憧れて」のところで、思い出した本が、6年前の記録にあったので、レビュー致します。本書は、一度、1998年に出版された『Le OTAKU フランスおたく事情』(KKベストセラーズ)に、10年後のことを新章として書き加え、出版されたようです。 

 

(以下、2010年3月14日の記録)

 

今や「クール・ジャパン」と呼ばれるほど、日本の漫画やアニメなどオタク文化は世界で通用する産業。でも、10年前まではそうではありませんでした。

 

新しいモノが登場したときって、必ず、反対の声があがったり、物議を醸したり、摩擦がつきものです。

 

実は、欧米に日本のオタク文化が知名度を得る前、受け入れるメディア、出版業界などで同じようなことが起こっていたんです↓

 

清谷信一『ル・オタク フランスおたく物語』(講談社文庫)講談社.2009年

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1.序盤

どんな経緯で日本のオタク文化が欧米に入っていたのか?

だいたい、欧米って日本のことにどんなイメージを持ってたの?

こんなところから始まる。

 

本書は最初、欧米(特にフランス)のメディア機器の発達や雑誌など、オタク文化の媒体の概要に触れている。

 

1990年代初頭まで、ヨーロッパのテレビ局はほとんどが国営。民営化が始まると、それまで日本のアニメを放送していたテレビ業界の競争は激化。視聴率を稼ごうと、使用料の安い日本製アニメを買い取り、売り元に許可無く、内容を編集して放映(こんなことされるのには、当時、日本のアニメ業界の著作権や使用権の管理にも問題があったのですが)。

 

こうしたアニメには暴力的なシーンも多く、特にフランスでは「子どもの教育上、よくない!」と日本のアニメに反発が強まりました。似たようなことは、漫画でも起こっていきます。それこそ、「文化的侵略」の言葉で以って…。

 

 

問題の裏には、当時、日本のコンテンツ産業界に製作者の利益を守るシステム、使用料に関する規定が確立されてなかった原因が1つ。

 

日本の外務省が本来、自国のコンテンツ産業を積極的に売り込むべきだったのに、アニメや漫画などを積極的に海外に売り込まず、中小企業の海外での利益を守る動きを見せなかったことが1つ。

 

著者は、これらの原因を列挙し、茶道や歌舞伎など、高尚な伝統文化を紹介するだけでなく、現在の日本の生活に密着したオタク文化を海外に紹介してゆく戦略が日本政府に必要だと主張。序盤を締めくくっている。

 

 

2.中盤

フランス・オタク界のボス、ドミニクが店のトンカムで日本の漫画を商い始めたいきさつを中心に、フランスのオタク事情に迫っていく。

 

オタクとはいえ、日本とフランスでは行動が全くちがう!

 

コスプレ大会によく表れていて、日本のコスプレイヤーは恋人や家族に内緒で衣装を持ってゆき、会場の着替え室で着替え、会場内でコスプレを楽しむ。一方、フランスのコスプレイヤーには、自宅から衣装を着て会場に向かう勇者がいたり、会場でカップルのコスプレイヤーがいたり、日本よりもオープン。

 

ここらへん、日本とフランスの文化が違って、面白いです。

 

 

3.終盤

2008年現在のフランスのオタク事情を取材。主にジャパン・エキスポのレポートです。

 

中盤で登場したフランス・オタク界の有名人・セバスチャンがいかにして夢を達成しつつあるかを書きつつ、日本ではサブカルを脱したオタク文化の行く末を慮り、本書は終わります。

 

 

日本のコンテンツ産業の海外ルポとして読んでもいいし、海外に広がるオタク文化の研究書として使ってもいい。

 

いろんな読み方ができますが、これから日本語教師や外交官、海外に出張する人、とにかく、世界を舞台に仕事をしてゆく若者たちにオススメします。

 

 

(以下、2016年9月23日の追記)

4.最後に

今回の記録を読んでいて思ったことは、本書の刊行から6年経って、クールジャパンの意義を問い直すのに、参考にある本だということです。例えば、今年のリオ・オリンピックの閉会式で、安倍首相扮する某ゲームの配管工の技師が土管から飛び出すまでの一連の演出についても、振り返ることができるかと。

 

あと、補足として。フランス・オタク界のボス、ドミニクの半生を通じ、フランスの婚姻制度、あるいはそれに近いパートナー制度、親の子に対する保護・教育の監督義務などのシステムや考え方を知ることができるでしょう。今の日本社会が抱える「家族制度」の諸問題について、夫婦別姓の制度、あるいはLGBTのカップルの婚姻やそれに近い制度を議論していく上で、参考になる部分はあると思います。

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