白話小説の『源氏物語』的な風俗小説 『金瓶梅』
『水滸伝』『三国志演義』『西遊記』とともに中国四大奇書と並び称される。『水滸伝』のスピンオフであることは有名。
中国文学史上、語り物から生まれた白話小説が「書かれた小説」へと転換する記念碑的な作品。それが『金瓶梅』の一面だ。
〈(一)のあらすじ〉※以下、ネタバレ注意!
薬屋の主人で好色の西門慶といい仲になった潘金蓮は、2人で金蓮の夫・武大を毒殺する。事実を知った被害者の弟・武松は、敵討ちを試みるも、西門慶と間違えて別人を殺してしまい、流刑となる。
武松の流罪を聞いた西門慶は、自邸で酒席を催す。そこには、正妻の呉月娘をはじめ、西門家の妻妾たちの姿があった。西門慶は、この酒宴にやって来た遣いを通じて、花家夫人・李瓶児と行き交う仲となっていく。こうして、西門家の男女関係は複雑となってゆくが、西門慶によってこの家は繁栄を極めてゆく———。
以下、レビューです。
(一)から、自分の欲望に任せ、数々の女性達と関係を持ってゆく西門慶の生き様がしっかりと描かれています。
中心人物である西門慶をとりまき、潘金蓮や孫雪娥ら妻妾の繰り広げる駆け引きといったら、日本の昼ドラ以上に激しく、ドロドロした様相。
私個人としては、(一)の中盤に輿入れし、西門慶の妻妾となった商家の未亡人・孟玉楼のスタイルが好きです。他の妻妾たちの争いを傍観しつつ、時に主人をたしなめ、時に正妻をなだめる。冷静に状況を見ては、己の判断で西門慶の泥沼から一歩、外側を行く賢さ。スマートでカッコイイ女性だと思います。
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岩波文庫版は全10巻。一巻あたり10回、合計100回の構成。
「ちょっと、読むには分量が多いかも・・・」と不安な方は、徳間文庫版もあります。全二巻で、画像は上巻↓
まだ、読んだことはありませんが、年表つき、岩波文庫版よりも訳文が易しいそうです。
(*2016年7月追記:物語の子細な流れの描写が簡略化され、性描写が現代風に 詳しくなり、文字を追っていて、クラクラしてきました)
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『金瓶梅』を読んでいる理由は、中国の明代(正確には明代後期)の生活習慣や風俗が詳細に分かるのです。つまり、『金瓶梅』は当時の社会事情を知る研究材料として、打ってつけな作品なんです。
妻妾の身に着けているアクセサリー、西門慶宅の各部屋の設えや調度品、宴会で食卓に並んだ豊富な料理の献立などなど。あと、登場人物たちの誕生パーティーも頻繁にありますし、年中行事も分かるかな?
もう、本当に鬱陶しいくらい、これでもか!!とばかりに事細かに描いてあるのです。
様々な方面からの先行研究が豊富。中国文学以外の分野からの学問的アプローチのできる面白い資料として注目されてきたということでしょうか?
ここらへんの事情は、
井波律子『中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 』(岩波新書 新赤版 1128)、岩波書店、2009年
に詳しいので、興味を持った方は読んでみて下さい。
近日、『紅楼夢』の日本語訳(伊藤版)全巻が届く予定なので、こちらも合わせて読み、『金瓶梅』と比較し、研究を進めていきたいと思っております。
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