仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

Korea is Wonderland!~野崎充彦『コリアの不思議世界 朝鮮文化史27話』~

朝鮮王朝時代の漢文 - 仲見満月の研究室

ハングルにも旧字体がある?! - 仲見満月の研究室

 

先週、更新した上の2つの記事を読み返していて、ふと、朝鮮・韓国の歴史や文化を広範囲かつ、そこそこ深く掘り下げた新書を思い出したので、今回、取り上げます。

 

野崎充彦『コリアの不思議世界 朝鮮文化史27話』(平凡社新書196)平凡社、2003

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私の知る限り、著者は日本の朝鮮・韓国の古典文学研究の第一人者。著作は、歴史・文学・宗教などの諸相から古典世界の登場人物像の形成過程を幅広く考察。本書には、そんな著者の集めた朝鮮・韓国を知るため選んだ27話が納められています。

 

全27話中、序盤は文化史の話が中心(理想郷、太極旗、馬etc)。
中盤から終盤にかけて、医学の歴史と現代医療、「-父なるもの」、「光州よ、永遠に」など時代劇や現代ドラマ・映画を入口に時事問題を結びつけ、掘り下げて終わる話が増えてゆきます。(本書のもとになったエッセイの掲載誌『NHK TVハングル講座テキストが2001年4月号から月刊化されたから、とのこと。)

 

今回は、その中で特に印象深かった話を一つピックアップし、感想を述べてみようとお思います。


●第17話「CRAZY ENGLISH またはグローバル化の言語について」

私は現在、韓国人の院生や先生方と韓国語の話をよくしています。そこで思った以上にハングルの原典にたくさんの漢字語が含まれていることに対して驚きました!これは史書や詩歌にもいえることで、第17話を読んでいて納得。

「漢文化と朝鮮文学」の項に書いてあるように、朝鮮に与えた漢文化の影響は世界史的にみても稀なものといって過言ではないほどです。788年、朝鮮では統一新羅時代に読書三品科を施行したのを最初に、科挙制度(現在の国家公務員試験に当たる制度)が本格化します。それによって中国が朝鮮に与えた、およそ2000年にわたる文化的影響は決定づけられました。

影響は、ハングルが誕生して間もないころに表れています。16世紀、文人達はハングルを駆使して詩歌を作ることに苦労していました。漢文を使っていた詩歌をハングルに切り替えただけでは、内容の「即脱漢文化」には至らなかったんです。

それほどまでに、漢文化を受け入れてしまっていた朝鮮でした。

 


また、この新書をもとに、朝鮮や韓国について、何かを書こうと思った人がいたら、役立つ部分は、話の中に引用された古典作品と巻末の参考文献リスト。日本で翻訳・刊行されている作品タイトルが含まれていて、時代劇で知った人物を調べたい時に便利。もちろん、専門的に学術研究をされている方々にもオススメです。

ただし、話の内容によって、朝鮮・韓国の歴史をかじっていないとイメージしにくい事柄や人物も扱っています。専門の人たちでしか通じないような話題が出てくると、「???」状態になりました。理解に困った箇所が出てきたので、現在、朝鮮・韓国史の入門概説書を探しています。


本書は、広くて奥の深い朝鮮・韓国の入り口としては、取っつきやすい新書なのではないでしょうか。一度、読んでみてください。

 

(記録:2011年8月末)

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