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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

生きづらさの根にあるもの~竹信三恵子『家事労働ハラスメント』~

レビュー 進路 生き方

 学部時代のキャリア教育、就職活動、資格取得、そして働き方…。人生を振り返ったり、課題レポートを書いたり、履歴書や志望理由書を書いたり、そういう時に、ふと働き方と生活のバランスをどうしようかと考え、読み返した本がありました。それが、元朝日新聞記者、現在は和光大学教授の竹信三恵子によって書かれた本書です。

 

竹信三恵子『家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの 』(岩波新書1449)、2013年 

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新書カバーの裏にある本書の概要は次のとおりです。

 

食事の支度や後片付け、洗濯、掃除、育児に親の介護……。本来、だれもが必要とする「暮らしの営み」のはずの労働が、不公正な分配によって、どのように生きづらさや貧困を招き寄せていくのか。終わりなき「見えない労働」を担う人びとが、社会から不当に締め出されている実態に光をあて、直面する困難から抜け出す道を内外にさぐる。

概要にある「生きづらさ」や「貧困」は、「不公正な分配」によって起こるものと筆者は指摘しています。それは、なぜ発生するのか? 上の画像にはありませんが、私の購入した本の帯によると、「はじめに」のところには次のように簡潔な答えが書いてありました。

 家事労働を貶めて、労働時間などの設計から排除し、家事労働に携わる働き手を忌避し、買いたたく。こうした「家事労働ハラスメント(家事労働への嫌がらせ)」ともいえる行為の数々が、多くの女性の貧困と生きづらさを生み、それが、いま女性以外の人々の貧困と生きづらさをも招き寄せる。……見えない働きの公正な分配なしに、私たちは直面する困難から抜け出すことはできない……。

 

それでは、筆者の指摘する「不公正な分配」は現代社会でどのような形で起こり、進んで今の状態となったのか。筆者は、東日本大震災の被災地を入口に、正規・非正規雇用といった雇用の枠組み、それによって変化する所得税・年金・扶養控除といった社会保障・福祉、日本のブラック化するケア労働(介護や育児)の現場、海外における家事労働が動かす経済と諸問題とった、様々な角度から分析を行い、原因や背景を探っています。そして、終章は「公正な家事分配を求めて」と題し、論じてきたことを踏まえ、これからの家事労働への向き合い方を模索しています。

 

例えば、第1章の「元祖ワークングプア」には、筆者が取材した30代の夫婦が出てきます。契約社員の夫と派遣社員の妻というカップルで、妻の妊娠をめぐって、会社の育休、更新をめぐり、2人は苦しみます。妻はいろいろと考えますが、派遣会社は冷たかった。

彼女の収入なしでは家計は成り立たない。派遣会社が育休を認めてくれれば育休手当が出る。これに夫の収入を合わせて、なんとか乗り切ろうと思った。だが、派遣会社の男性営業担当は「派遣先のニーズに合わない、ビジネスとはそういうもの」と契約解除を通告してきた。さらに、夫に対し、「同じ男として、面倒を見る自信がないのに妊娠させたりはしません。私も妻がおりますが、家でごろごろしております(中略)いつ妊娠しても安心な経済的蓄えもございます」というメールを送りつけてきた。女性は夫の経済力で生活すべきで、子どもができたら働き続けることなど論外、派遣会社はこれを前提に労務管理をしているということだ。

前 に紹介した石川結貴『ルポ子どもの無縁社会』の子どもに対して、冷たいどころか、追い払う世間と同じような、理不尽さを感じました。この派遣会社員の女性は、「しかたなく中絶を決意して訪れた病院で」、面談した看護師から派遣社員の中絶が珍しくないことを知って、衝撃を受けたそうです。

 

実際、私の院生時代の先輩に当たる 既婚女性も、非常勤に行っていた大学の前期・後期の講義を半期休んで出産したところ、その時期と更新時期が重なり、クビになりました。非常勤講師の契約を更新できなかったのです。もう一つの職場である自治体では、臨時の契約職員だったのですが、こちらも契約更新が危機的な状態に。幸い、こちらは部署の異動が出て、育休後に復帰して働き出すことができたそうです。

 

このようなケースが身近にあったので、私にとって派遣社員の妊娠中絶は他人事ではありませんでた。

 

ほかにも、この記事の執筆していて、私は気になったことがいくつかあります。それは、納税制度と女性について。

 

本書の第3章「法と政治が「労働を消す」とき」の88~93ページを読むと、現在の日本の所得税法は明治民法の流れを一部にくんでいることが分かります。明治民法をもとにして成立した旧所得税法には、家族内での労働力は家長である男性戸主の財産の一部とされるという考え方がありました。筆者によれば、この考え方は現在の所得税法にも一部引き継がれており、そのせいで現代では女性の勤務実態を無視した徴税が行われます。具体的には、中小企業の経営者が夫から息子へ代わった時、経営者の「妻」は「母」へ納税制度における位置づけが変わり、専従者控除との関係で、この経営者の家族の女性は、受け取る国民年金の保険料が30万円も下がることが指摘されています。

 

 

外で働く日本の女性のこれまでの事情を本書で振り返ると、家事労働が軽視され、こんなにも会社システムや社会制度の中で、会社員だろうが、経営者側だろうが関係なく、みんな「働きづらかった」という彼女たちの苦しみが伝わってきます。それは、私の周囲の女性たちが悩み、それでも生きている姿に重なってきます。

 

もう一つ、本書は女性だけでなく、シングルファーザー、主夫として家事に携わる男性側についても取材がなされています。扶養控除をめぐる会社とのやり取りやバトル、国家の福祉制度に対して、問題点が挙がっています。

 

特に、今の20代から30代の人たちに読んでほしいと思う新書でした。

 

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