仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

大学院生や研究生・研修生の出てくる漫画_理系編その3(理工学編)~高世えり子『理系クン』:前編~

〈今回の目次〉

0.前置き

ここ数日、院生部屋での院生たちの生活を書きながら、「そういえば、暮らしに身近な理工学の院生の話を記事にしていないなぁ」ということに気がつき、ある先輩を思い出したのです。その人は私が院生の時、液晶ディスプレイにつながるテーマの研究をしていトコロ先輩(仮名)。その人は、趣味でジャンクパーツを電気街で集めてきては、PCを組み立てて起動し、その上、プログラミングまでやってのけてしまう人でした。


この先輩の影響か、プログラマシステムエンジニアの人たちは誰もが機械の組み上げ、そして中身のOSの設定から各種アプリのインストール、更に使いやすいようなプログラミングまでやってのけてしまうと私は思い込むことになります(後年、出会ったSEの人たちは、ジャンクパーツを組み立てるところから出発する人は殆どいなくて、その先輩が稀な人だったということが判明しました)。

 

そういうわけで、今回は上記の先輩のようなことを研究でやっている理工学の院生について、その彼女で文系女子大生だった著者の視点から捉えた漫画をご紹介いたします↓

 

高世えり子『理系クン』(文春文庫)、2013年

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もとの単行本は2008年にA5サイズで文藝春秋から刊行されました。リンクを貼ったほうは2013年の文庫版で、単行本にはなかった「おまけ」も追加されていますが、やはり小さくなっていて、読みづらいです。文庫版は電子書籍も出ているので、3タイプのうち、自分に合ったものを選んで、お読みいただければと思います。

 

本書を読み返したところ、思っていた以上に中身が濃いと感じたため、前編と後編の2回に分けてお送り致します。そういうわけで、いつも以上に長くなりますこと、ご承知おきくださいませ。

 

 

1.『理系クン』の概要

関東の大学・大学院で理工学を学び、研究職として就職した「理系クン」こと、N島たろう氏。彼が大学3年生の時にインカレサークルの勧誘で出会い、交際を経て結婚し、出産を経て家庭を持つこととなった元文系女子大生で著者の漫画家・高世えり子氏。本書は著者によるN島氏を観察したエッセイコミックの『理系クン』シリーズの第1段で、二人の出会いからN島氏の修士課程修了までを追った物語です。

 

久しぶりに読み返していると、どうやらトコロ先輩含め、知り合いの一部の理工学院生が抱えていた特徴が少なからず出て来たので、ここでまとめてみることに致しました。

 

 

2.N島氏に見る理工学男子の特徴

 2-1.自分の専攻について語りだすと長くなる

語りだすと長いのは何も文系研究者に限った話ではなく、理工学男子だって語りだすととても長い!本書で語りに初めて著者(下の画像のボブカット真ん中分けの女性)が体験したのは、N島氏(下の画像のメガネの短髪男性)と出会ってメールのやり取りを半年経てから出かけたときのエピソード。キラキラ輝きだした話し手は、語るスピードが徐々にアップ。スピードアップすると、N島氏は息継ぎを途中でしているというのか怪しいほどの描写です↓  

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 (画像:本書p.30)

 

N島氏の専攻は、「分散処理」。「パソコンを速く動かす処理」をするため、「並列処理といってマシンをつなげる」ことのこと。このあたりまでは、一般人が理解できる内容だと思います。が、次のp.30(画像)になると、著者どころか、読者さえ語りについていけなくなっていきます。でも、高世氏は頑張って聞きとおしたのです。彼女、頑張った!

 

 

結局、N島氏の語りが終わったのは15分後。疲れた様子の著者に対し、今度はN島氏が相手の専攻を尋ねる。高世氏は「日本民俗学です。 お祭りとか風習とか柳田国男のような」と説明するものの、聞き手の彼の食いつきが悪い…。

 

私が思いますに、よっぽど興味がある人でない限り、柳田国男の名前を聞いたことがあっても、具体的にどういうことをした人であるかは、なかなか、ピンとくる理系大学生はいないんじゃないでしょうか?(ちなみに宮本常一は、よりマニアックなレベルの人物かと)気軽なデートで話すには、水木しげる御大の方面に話題を持って行ったほうが、N島氏にはイメージしやすかったんじゃないかと思います。

 

自分の専攻を分かりやすく、できるだけコンパクトに一言で別分野の人に説明するのは、なかなか、至難の技。私も、上記のトコロ先輩に研究の話を一言で説明できず、大変でした。

 

 

本書の冒頭にあったのですが、この二人は専攻の分野が全く重ならなかったため、共通の話題を見つけるが困難だったようです。上の話の続きのやり取りでは、著者の趣味が読書、絵を描くことだと判明し、何とか、二人は共通の話題を発見したのでした。

 

こうしてデートを重ねていく上で、「理系クン」はN島式解決思考回路を立ち上げ、なぜ話が通じなかったのかを解析し、N島氏の語りを聞きっぱなしだった著者に説明するのでした。気がつくと、二人は一緒に食事をするようになって1年が経っていました。ここから、高世氏による本格的な「理系クン」観察が始まるのです。

 

 

 2-2.独特なセンスによるプレゼント選び

二人が付き合って初めてのクリスマスのデートで、N島氏は著者に大きな紙袋を渡しています(ちなみに、この彼氏さん、前もって彼女にリクエストを聞いておくということはしていません)。ここで、著者は考える。

 

  《アクセサリーでないのは確かだけど…》  

  《文具でもなさそうだし…》

  《バッグ…なわけないか…》

 

とおそる、おそる、包み紙を開けてみると…。

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(画像:本書p.58)

 

ケルトン魚の延長コードでした。初めてのクリスマスプレゼントに、よっぽどの趣味の人でないと、たいがいの文系女子大生であれば、p.58の3コマ目の著者のように沈黙すると思います。正直、受け取った高世氏も反応に困りました。

 

  《…えっ

  延長コード?!》  

その背景には

 《何故に?!》の大文字が浮かぶ。

 

そして、目の前には、反応を期待する彼氏がいてまして。プレゼント自体は素直にうれしいけど、延長コードについては、正直、感想のコメントに困る著者です。

彼女がどう答えたかというと「かわい~ですね?」という返し。贈り主の気持ちを悪くしないよう考慮した、なかなか、よいリアクションなのではないでしょうか。N島氏はその様子を見て、喜々として魚類コードの魅力を語り出します。

 

 

その3カ月後、N島氏は、どストレートに「あれって失敗だった?」と著者に尋ねます。なぜ、そんなことを言い出したのかというと、サークルの後輩女子たちに魚類コードをクリスマスプレゼントにチョイスしたことを彼が話したところ、「えー超ありえなーい!!」、「そんなんいらなーい!!」と女子たちに腹を抱えて大笑いされたそう…。そういう経緯があり、次のホワイトデーのプレゼントは、二人で買いに行くことになったのでした。

 

 

ここから、私による(独断と偏見に満ちた)ツッコミをN島氏に入れていきたいと思います。大変、失礼な言葉遣いとなりますこと、読者の皆様、お許しください。

 

まず、アドバイスするとするなら、あらかじめ交際相手のリクエストを聞いておきましょう、ということが1つ。ただ、事前に聞いておいても、彼女が欲しいものが、例えば、アクセサリーや服といったファッション関係のものだと、一人でおしゃれなブティックや雑貨店に入りにくいN島氏なので、購入のハードルが上がります。特にサプライズを狙うのでなければ、彼女とデートがてら、プレゼントを買いに行くのも手だと思います(どうしてもリクエストが聞けなかったり、「なんでもいいよ」と言われたりした場合にも使える手かと)。

 

あと、(ちょっと)変わった(性格の)人を好み、自身が研究者を目指している女性なら、魚類コードをもらったとしても動じないどころか、「何これ?おもしろーい!これ、何の魚がモデルなの?」という興味津々なオーラを出しつつ、返答をしてくる人もいます。早い話、自分と同じタイプの人を選ぶと、プレゼントを渡しても素直に喜んでくれる可能性があるかもしれません(そのプレゼントを実生活で使うかどうかは別として)。

 

 

 3.前編の結び

こういった感じで、実家暮らし同士、二人のペースで交際は進んでいくのですが、そのうち、N島氏は大学院修士課程に進み、著者は就活がスタートします。研究に忙しくなり、デートできない日々にイライラする高世氏。すれ違っていく二人は、果たしてどうなるのか?

 

後編で詳しく取り上げたいと思います↓

 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

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