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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

家庭と学校の限られた世界で「関係性の貧困」に陥る青少年たち~仁藤夢乃『女子高生の裏社会』~

*しばらく、院生や研究者はどんな生活してるんだろう?彼らはどんな人々?といった内容の記事を書いていました。が、教育に関して記録しておきたい本を読み終わったので、自分の意見をはさみつつ、レビュー記事を投稿致します。

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ここ数カ月の間、虐待事件と見られる幼児の死亡容疑で逮捕される親とその交際相手や再婚相手のニュース、昨今に話題となった毒親による搾取される体験記の出版を、頻繁に聞くような気がする。そのたびに、親が子を「大切」に思って養育し、日本国憲法の「教育をうけさせる義務」に則って子どもの教育にかかる経済的な負担やそれを免除するため、親は協力的であること、ということを前提にして日本国の教育行政の制度は、整えられているのだということを、否応なしに意識してしまう。

 

こうした我が国の教育行政では、「子を大切に養育する親」や、「子が教育を受けることに協力的な親」ではない親を持ってしまった子どもたちは、家庭環境や学校での人間関係によって、中等教育を中退しやすくなり、結果、貧困に陥りやすくなる。その点に触れた本を今回は紹介したい。

 

仁藤夢乃『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』

(光文社新書711)、2014年

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著者の仁藤夢乃氏は、家庭での親や兄弟姉妹との関係悪化、経済的貧困によって「関係性の貧困」を抱えることになってしまった「女子高生」を囲い込み、JKリフレやJKお散歩といった性的営業に結びつく、あるいは結びついた上に彼女達が容易に売春する産業の危険性を説き、また同じような境遇にいる少年を含め、青少年を支える活動をしている。かつて、著者自身が渋谷で「難民女子高生」として、ビルの屋上で段ボールを敷いて仲間と野宿することもあったという、当事者であったことが、原動力になっているようだ。

 

本書は、そんな著者の支援活動の中で出会った数人の女子高生に、インタビューを重ねて彼女達の置かれた家庭・学校での不安定な人間関係や経済的な困難さを把握し、JKリフレやJKお散歩の危険性を「告発」するノンフィクションである。インタビューの間には、こうした性的産業の背景にあるスカウトや店長といった経営側のシステム(「関係性の貧困に陥っている女子高生たちを衣食住や学習の面でもサポートする機能を備えた店もある)、女子高生たちを囲い込んだ後に水商売や風俗店へ繋げる危険性を細かに書き、アンケートに基づくデータを示すことで、彼女たちの置かれた状況をクリアに浮かび上がらせている。

 

 

著者が取材した女子高生たちの個別の状況、および性的産業の実態、彼女達を「買う」男性たちのことは、本書を読んでいただけたら、よくわかると思う。そのため、ここでは、彼女達、そして登場する女子高生の一人が著者の仁藤氏の支援に繋いだ少年・タクヤとった、青少年一人一人とのことは詳しく触れないでおく。

 

私が本書のレビューを通じて伝えたいのは、仁藤氏が訴えているように、社会福祉制度に支援を必要とする青少年を繋ぎ、繋いだ後は長いスパンで彼らを見守りつつサポートできるような、そういった活動が必要であるということ。そして、私がここに付け加える提案としては、そういったサポーターは家庭と学校の「外」に置かれた上で、家庭と学校と連携をとることが理想であるということ。

 

例えば、家庭に精神的に不安定な母親と喧嘩が絶えないという女子生徒は、登下校時や部活、学校でトラブルを抱えても、母親に絶対に連絡をしてほしくないと担任やカウンセラーに訴える。もし、母親に知られてしまえば、そのトラブルが引き金となって母親がますます精神的に不安定となり、その生徒の心が休まる場所が家庭に無くなる恐れがあるからだ。

実際、本書では生徒がカウンセラーに「母親にトラブルのことを伝えないでください」と訴えたにも拘わらず、カウンセラーが生徒に無断で自宅に連絡し、母親に伝えてしまった。その生徒は母親から悪化する罵倒を受け続け、精神科にかかるようになり、家庭で安心して眠ることができなくなってしまったという。この一件で、女子生徒は大人への不信感を強め、周囲に相談することを諦めてしまったという。

 

中学校・高校時代、生徒は日常を主に家庭と学校で過ごし、居場所と人間関係が狭い世界に限定されがちである。トラブルがどちらか、あるいは両方にまたがる形で起こると、たちまち、逃げ場がなくなってしまう。もし、上記の本書の女子生徒のケースで、家庭と学校の外に彼女が相談できる場所があれば、または相談できる大人がいれば、女子生徒は安心して眠る場所を家庭に持ち、大人への信頼を絶つこともなかったかもしれない。

 

 

実際、現場に短いながらもいた者として、また自分の中高時代を振り返っても、青少年には家庭と学校以外の場所はあったほうが、いざという時に救いとなると考えている。さらに、家庭や学校側から見てみた場合、両者と異なる位置に生徒達をサポート(場合によっては「監護」)する機能の団体や場所があれば、この三者各々にかかる負担を軽減することにもなるかと思われる(あくまで、この三者がうまく連携したが場合)。

 

以上のような観点から、家庭と学校の外にいて、青少年に向き合う仁藤氏の活動は、現在の日本の社会状況において、必要であるといえよう。最後に、著者も少し触れているようだが、これからの日本は、「子を大切に養育」しないで暴力や育児放棄する親や、「子が教育を受けることに」に否定的な上に経済的な搾取をする親を持ってしまったとしても、すべての子どもたちが学び、健全に成長することができる場所や機会を持てるような、柔軟な教育行政のシステムが不可欠であろう。

 

つまり、子どもたち自身の自己決定によって、虐待や搾取をしてくるような親から逃れ、生きていくために必要な教育を受けられ、直接彼ら自身が社会福祉制度にアクセス可能な環境を作っていくことが、今の日本には求められているのである。

ここで、本記事を終わりとする。

 

 

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〈参考〉

●仁藤夢乃氏が代表の団体:

www.colabo-official.net

●著者の自伝:

 『難民高校生 絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』英治出版、2013年

 

●今回の「関係性の貧困」を考えるきっかけになったオンラインニュース記事

bylines.news.yahoo.co.jp

bylines.news.yahoo.co.jp

 

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