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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

大学院生や研究生・研修生の出てくる漫画_理系編その3(理工学編)~高世えり子『理系クン』:後編~

↓前回の記事です。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

文系女子大生の著者・高世えり子氏による、理工学理系クンことN島氏の観察日記をもとに、理工学院生の特徴を見ていきたいと思います。

高世えり子『理系クン』(文春文庫)、2013年

 

前編では、専攻のこととなると語りが止まらず、独特なセンスによるプレゼント選をする。そういった点を見てきました。この後編では理工学院生にありがちな、修士課程に進み、研究に忙しくなってから、困難な交際をどう続けていたのか、見ていきたいと思います。

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(デスクトップPCのイメージ画像:本書『理系クン』と関係はありません) 

 

4.修士課程に進学したN島氏に見る理工学男子の特徴

  4-1.研究作業と論文執筆・学会報告等で多忙

二人の交際状態の前提としては、N島氏は著者と2学年違いであり、インカレサークルで出会っているので、所属している大学と学部が全く異なります。本書の中盤となる第5章では、N島氏は修士2年生(M2)で修士論文の研究で多忙、高世氏は学部4年生で卒論を提出後に時間ができてきた、という時期に突入。二人はすれ違い始めます。

 

もともと、二人は実家から東京の大学に通う学生(=自宅生)であり、著者は神奈川県から、N島氏は千葉県から、中間地点の東京新宿に通うという「ビミョーな遠距離」でした。自宅生同士のため、デートで遅くなった時、片方が片方の家に泊まるということが難しく、「第4章 理系クンとつきあって1年」では夜10時の特急に乗らないと、本日中に帰宅できません。著者は、そんな彼氏を「シンデレラ」と呼んでいました。

 

こういった「ビミューな遠距離」に加えて、第5章では、彼氏のほうが大学院修士課程での研究活動に忙しくなってきたため、デートが難しくなってきます。

ある日、デートの別れ際に、「あ、来週はどうする?」と尋ねる高世氏に、「来週は論文の〆切りが近いから会えそーもないんだ…」と返答するN島氏は、「研究室にこもりっきり…」とつぶやいて、うなだれる。著者は内心で[行きたい美術館あったのに―!]とイライラしつつも、顔は「模範的笑顔」で「しかたないよね、学業第一」、「じゃ、再来週にね」、「論文頑張ってねー」と声をかけて、最初は理解ある彼女のフリをしていた。

 

そのうち、日単位→週単位→週続き単位→月単位、そして季節単位で彼氏のほうに予定が入っていき、春まで会えないことを告げた時点で、高世氏がブチ切れた!「週に1秒くらい空いていないのっ?!」と怒鳴られ、N島氏は木曜夜7時の夕飯だけは時間を確保することになるのでした。

 

さて、木曜夜7時のN島氏の大学近くのレストランで、2人は夕飯を一緒にしつつ、どうにか予定を合わせないかと話し合いをすることになりました(こうしている間、〆切りが迫っている彼氏は気が気ではない)。先に、著者が告げた自分の予定と主張は、次のような感じでした。

 ・文系の学部4年生で(卒業論文を書き上げ)、この1月半ばから春休み。

  (本書巻末の著者略歴によると、「日本女子大学人間社会学部」に通う)

 ・卒業が近く、学生最後の長期休み。社会人になる前にいろいろと遊んでおきたい。

 ・N島氏が忙しいのは重々承知であるし、自分は我がまま言いたくない。

 ・だが、何故、学生同士なのに年末から春休み3ケ月全部会えないのか?

 

N島氏は、二人の予定をすり合わせるため、ボードを取り出して、どこかの会社の会議のような話し合いをすることに。

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(画像:本書p.105)

 

右側のN島氏の埋まった予定を見ると、論文〆切りと学会のダブルパンチ・修士論文の執筆と発表(公聴会?)と学会だらけ…。ちなみに、私の知っている理工学(前編のトコロ先輩も)や地学の研究室は、修士・博士関係なく、少なくとも2週間に一回は何かしら、こんな感じで研究関係の予定が入っていました。なので、N島氏が多忙なのも、無理はないです。

 

一方、左の著者の予定表を見ていると、1月のテストと3月のアルバイト以外、真っ白です。こちちらに言及をすると、文学部の文献を主に扱う専攻(民俗学や文学、文献史学等)や法学部といった文系学部では、ありがちです。ちなみに、社会学、心理学や文化人類学、地理学等の野外調査や実験のあるところは、もっと忙しいですが、N島氏よりは時間に余裕はあるかもしれません。

 

N島氏が研究で多忙すぎて「時間がない」のと、高世氏に時間があって学生のうちに「デートで遊びたい」。どっちも、文系学部生と理系大学院生とでは、それぞれ予定の埋まり具合は一般的ですし、両者の状況について私は共感できます。ここで、「時間がない」と「デート」を両立させるべく、彼氏のほうが提案します。

 

「じゃあ、研究室に会いにくればいいんじゃない?」

 

まあ、これが当時の二人にとっては、ベストだったと思います。

身近にも、院生同のカップルで、専攻と大学院が異なり、なかなか大学と離れた場所に行けず、破局したカップルがいます。特に、院生部屋の宿泊記事で書いたように修士論文(や博士論文)の〆切りまでの1カ月以内に入ると、研究室のある建物や敷地から、離れたくなくなるほど、時間を惜しむようになります。無理に引きはがしにかかると、喧嘩どころか、別れる・別れないの話が出てくることになりかねません。

そういう事情を鑑みた上で、もし読者の方で、現在、交際相手が大学院生で多忙すぎて、それでも恋人に会いたい!という方がおられたら、思い切って大学院にまで、会いに行ってみては、いかがでしょうか。

 

 

 4-2.女性が話しかけた時の反応が薄い

本書に戻りましょう。N島氏の提案に、著者は[それ「デートじゃないんじゃ…?!」と疑問を抱きつつ、約束の日、彼氏の研究室に向かうのでした。案内するN島氏は、その建物に一つしかないという女子トイレの位置を示し、「共学でも女子が入学してこない学部の証拠です」と説明し(これも理系で男子の多い学部の建物にありがちなこと)、しばらく歩いて遠く離れた研究室にやっと到着。

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(画像:p.111)

 

大部屋タイプの研究室に、机上のPCに向かう男子が沢山なのに、高世氏が挨拶しても、誰一人、反応しない。確かに、訪問者と男子たちに境界線はあります。

 

N島氏は研究室の隅の椅子に彼女を坐らせ、研究の袋小路に入っていたため、死んだ魚の目でゴリゴリ引いた豆による濃すぎるコーヒーを出します。その後は、PC画面を眺めて作業に戻ります。覗き込むも、モニタには著者の分からないプラログラミングの文字列が並び、完全に置いてけぼり…。半端じゃない孤独感を味わう著者でした。

 

途中、衛生中継で、W杯のサッカー試合が見られるという、モニタPCに著者が連れていかれると、そこにはN島氏のように、

 

メガネで、短髪黒髪に白のカッターシャツ、黒長ズボンの男子

が、大量に張り付いていた。

仲良くなろうと著者は話しかけるも、一言答えたら、男子はすぐモニタに目を戻す。疎外感を強める高世氏でした。

 

研究室の帰り道、高世氏が男子に話しかけても反応がなく、人の輪に入れなかったことを嘆きます。それに対し、N島氏は

 ・男子たちは何を話していいか、分からなかった。

 (天気の話題など、どうでもいい、うわべの会話を成立させる自信がない)

 ・彼らにとって、女性は外国人やエイリアン並に理解できない存在であり、

  思わぬ発言がセクハラにならないかと心配で、話ができなかった

 

という心配があったと返答します。確かに、異性なれしていない研究一筋の人々には、異性って「未知なる生物」だから、下手に会話できないという恐怖もわかります。

 

こなれていないから、女性に話しかけられても反応が薄いというのは、裏を返せば、ウブで可愛らしい男子たちとも言えます。ただ、せっかく彼女が会いに来てくれたんだから、そこはN島氏、読めそうな本を渡すとか、自分の専攻の入門的なサイトを教えておくとか、何かしら、配慮をしてあげてほしかったです。

 

 

  43.会話のようなメールのやり取りができない時がある

引き続き、研究作業と修士論文で多忙な、彼氏のN島氏。時間を持て余す、彼女の高世氏。彼氏は時間が1秒でも惜しく、PCをダンダン叩きっぱなしの中、気に入ったカフェで食事をした高世氏がケーキの画像付きメールをケイタイ送り、今度二人で食べに行きたいと伝えてくる。のんびりした彼女の調子に、N島氏は急ぎじゃないと分かるとケイタイを閉じたり、「わかった」とか「了解」と短い返事をする。

 

そっけない返事が続くと、会話のようなメールのやり取りを期待していた高世氏は、キレて、自分のことが好きじゃないんの?とメールを送り、そこへN島氏が「どうして、そういうふうに考えるの?」と電話をしてくる。多忙なN島氏には、会話のようなメールを頻繁に返信するのは非効率的であり、正直、やめてほしいようです。そこで、文系の高世氏は「こういう時、理系の女性って、どうやってこの問題を解決するんだろう?」と理論的・分析的に思案をめぐらした結果、N島氏が返信しやすい休憩時間を狙って、ケイタイのメールを送る提案をしました。それなら、できるかもと承諾し、二人で実践してみるも、N島氏は「わかったー」という、そっけない返信が続く。

 

この二人のやり取りは、現在のLINEで言うと、著者の送ったメッセージに対し、N島は既読にするけど、返信がいっこうになくて、彼女がやきもきする、といった感じでしょう。

私だったら、研究から逃避していたい休憩時間なら、いくらでも長い返事を書きたいところです。が、いかんせん、思考システムが論文アウトプット型になっているので、会話に適した返しをするのは、なかなか、困難だったと思います。ひょっとしたら、N島氏が「わかったー」と一見、そっけない返事をしたとしても、それは本心ではなく、研究に精いっぱいで気持ちに余裕がなかったことに加え、脳の思考システムが会話に適した状態ではなかったことも考えられるでしょう。

 

 

  4-4.交際相手が異分野の人だからこそ、よかった

そっけない返事をもらいつつも、時間を絞りに絞って会っていた二人。ある日の外食で、論文のリテイクをくらい、落ち込み続ける彼氏を励ます著者。ふと、彼女は、自分が理系の女性なら、的確なアドバイスができてよいのでは?と、理系女性へのコンプレックスに苛まれます。

 

そうこうしているうち、修士論文&学会ざんまいが終わったN島氏。にこやかにワインを楽しみつつ、食事を二人で楽しみます。忙しい彼氏の役に立たず、むしろ邪魔だったという著者に、N島氏は修士論文の原稿をノートPCで見せながら、「精神的援助」をしてくれたお礼に修論末尾の「謝辞」に、彼女の名前を入れたことを告げます。彼曰く、二人で会っていた時は研究のことを忘れられて気分転換になったし、何よりも全く会えなくても別れ話が出ずに彼女が我慢してくれていたことが、執筆の一番の支えになったと答えます。

 

ちなみに、彼女が理系女性であったら、疲れている時にまで研究のことで指摘が入るので、余計へこんでいたかもしれなかった、とのこと。これは、私も疲れに疲れて、ヘロヘロ状態で交際相手と会っているときに、ツッコミを入れられていたら、相当、しんどかったと思います。最悪、同分野同士のカップルで同じ学年だと、食事の時の会話でお互いにダメ出しのし合いをすることになり、別れ話にまでいって、精神的ダメージから修士論文を締め切り直前に書き上げられなくなることもあるでしょう。

 

ところで、突然出てきた「謝辞」について、少し、説明をしたいと思います。卒論、修論、そして博論(博士論文)の末尾には、分野関係なく、お世話になった人たち、団体に向けてお礼を述べるための項目として「謝辞」を設けることがあります(設けないこともある)。貴重な文献を見せて下さったり、助成金やバックアップをしてくれたり、そういう人や団体にお世話になった場合は、必ず「謝辞」を書いて、どういうことでお世話になったのかとお礼の言葉を載せます。論文によっては、ちょっとしたエッセイ並の長さになることがあり、筆者の人間味や交友関係、その分野の研究生活を把握することができ、非常におもろい興味深い項目でもあります。

 

その「謝辞」に名前が載るということは、N島氏にとって高世氏が非常に貢献してくれた存在であったということが伺えます。彼氏が忙しい時期に、あれこれ、悩んだ著者は一つの答えにたどり着きます。うーん、カップルや夫婦にとっては真理かも↓ 

 

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(画像:p.153)

 

 

5.全体のまとめ

ここまで、前編・後編と2回にわたって、N島氏に見える理工学男子の特徴を見てきました。再度、その特徴を振り返ると、

  ・自分の専攻について語りだすと長くなる

  ・独特なセンスによるプレゼント選び

  ・研究作業と論文執筆・学会等で多忙

  ・会話のようなメールのやり取りができない時がある

  ・交際相手が異分野の人だからこそ、よかった

の5点を挙げました。さらに言うと、このような特徴が見つかったのは、著者がN島氏と全くの異分野の民俗学をやっていた文系女子大生の恋人だったからこそ、興味を持って愛のある観察マンガにすることができたんだと思います。つまるところ、著者が相手に魅力を感じて、我慢強く、長く付き合うことができたからこそ(これらはこのカップルでなくとも関係維持に重要かと)、エンターテインメント作品として出来上がったんだともいえましょう。

 

これが、例えば彼女が異なる分野でも理系だったり、文系でも心理学や地理学といった理系よりの専攻であったり、あるいはシステムエンジニアプログラマといったN島氏に近い分野の職場に就職していたりしたら…?それはそれで、メリットやデメリットがあって、うまくいったかもしれないし、うまくいってなかったかもしれません。

 

さて、ところどころで出してきた、私の先輩に当たるギ-クのトコロ先輩のいた研究室には、N島氏のような、女性なれしていない男子院生ハム先輩(仮名)がいました。その方は面倒見のよい、非常に気のつく好青年で、数年ぶりの恋に慌てふためき、「プレゼント、何にしよう?」といった相談を、うちの研究室のメンバーが、自炊のお礼に一緒になって考えていたこともありました。N島氏に挙動がそっくりだったハム先輩でしたが、博士学位を取得前後に学会で出会った女性と交際が進み、入籍されたそうです。今はポスドクをしつつ、共働きの奥さまと結婚式に向けて準備をされているそう。

 

ひとくちに理工学の男子院生といっても、個人個人によって性格が違い、自分の研究は分野外の人には長く話さないとか、プレゼントはさらっとデパートのアクセサリー売り場に買いに行くとか、上のような特徴に合わない人もいると思います。ただ、私がいた大学院の理工学の研究室、それから合同研究会をしていた工学研究科にはハム先輩のように、N島氏が示した特徴を持っている人も何人かいましたので、まんざら、挙げてきた特徴が珍しい、というわけでもないのです。

 

この2つの記事を読まれた方で、理工学の男子院生に興味を持たれたら、積極的に会ってみるのも楽しいでしょう。交際に至らなくても、きっと、研究に関する面白い(そして長い)話が聞けるかもしれません。

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