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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

【8.31追記】理系女性の人生カタログ~内田麻理香『理系なお姉さんは苦手ですか?』前編:プロデュ―サー~

理系 レビュー 研究生活 院卒者 進路 生き方

0.はじめに

24日更新の下の記事では、環境省自然環境局の女性官僚・尾頭ヒロミについて、修士卒以上で官僚となったと仮定し、それは彼女の劇中のどういった描かれ方から読み取れるのか、考察しました。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

私が院生だった頃、実際にいた(主に理系の)女子院生の先輩方の特徴と突き合わせて、検討してみたところ、読者の方々から「工学の女性は、こんな特徴がある!」、「企業勤務の女性社員の研究職にも、尾頭ヒロミと似た特徴があった」といったご感想を頂きました。Twitterやコメント頂いた皆さまに、この場を借りて、お礼申し上げます。

 

実は、    尾頭ヒロミを(とあるフォロワーさん曰く)プロファイルするにあたり、私は理系女性が大学・大学院に在籍していた時の様子について、参考にした文献があります。今回は、その本を紹介致します。

 

内田麻理香(著)/高世えり子(絵)『理系なお姉さんは苦手ですか?』技術評論社、2011年

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タイトル通り、理系の道に進み、社会の様々な場所で活躍する女性たちの半生や大学・大学院時代の学び・研究、卒業・修了後の進路決定とそれを選んだ理由、そして現在の仕事や活動を取材した、インタビュー集です。「はじめに」を読むと、本書の対象読者は、

 *「理系女性」候補の皆さま

 *「理系女性」候補の親御さん

 *すでに「理系女性」の皆さま

 *「理系女性」萌えの皆さま

 *「理系女性」がいまいち苦手で、遠巻きに見ている皆さま

といった人たちだそうです。私は上記のどれにも当たらないんですが、中高教員の皆さんにもおすすめしたいと思います。私が初めて本書を手に取ったのは、通っていた文理総合系大学院の研究科図書館で、キャリアの新着コーナーにあったのを見つけたからでした。

 

 インタビューはもちろん、その間にある「理系な女性の「アンケート」」と「これあるある!」も、面白かったです。件の「シン・ゴジラ」の尾頭ヒロミの描かれ方を検証した記事で、「似ている点その1:化粧が薄いように見える」を項目に挙げましたが、これは本書の「理系女の「これあるある!」パート2」の「理系女のオシャレ」の1項目目で確認しています。このコラム曰く「化粧しない、もしくはごく薄い人が多い。」とのことでした。

 

本書は、理系を入口にして、様々な分野の職業に進んだ女性たちを扱っています。かなり濃い内容になるため、本書の紹介を前編、後編にわたってお送り致します。

(2016.8.31追記:思った以上に濃くなったため、後編を更に2回に分けることに致しました。ご了承ください) 

 

1.本書に登場する「理系な女性10人」

さて、本の内容を具体的に見ていきましょう。本の裏には、登場する理系女性10人の簡単なプロフィール付きで、リストになっています。これに、個人個人の学生時代の専攻の情報を加えていくと、次のような感じになります。

 

#01科学と文化をつなぐプロデューサー

 加藤牧菜さん:プロデューサー・コンサルタント

  学生時代の専攻:生物学(生命倫理
 
#02日本ではまだ珍しい科学絵専門のイラストレータ

 菊谷詩子さん:サイエンスイラストレータ
  学生時代の専攻:動物学

#03論理的な対話で科学を伝える博物館のおねえさん

 岡野麻衣子さん:日本科学未来館勤務

  学生時代の専攻:生命科学
 
#04理系的「なぜなに」思考をお花屋さんの経営に活かす

 本多るみさん:お花屋コンサルタント

  学生時代の専攻:植物学
 
#05業界の異分子?! 科学教育系テレビ番組のディレクター

 森美樹さん:NHK制作局付NHKエデュケーショナル教育部シニアプロデューサー
  学生時代の専攻:分子生物学


#06勉強嫌いをパワーに変えた女医

 中村あやさん:女医
  学生時代の専攻:医学

#07教育とSFと理系男子へのやまない愛

 軽部鈴子(仮名)さん:高校教師

  学生時代の専攻:応用生物学
 
#08アートで科学を伝えるデザイナー

 竹村真由子さん:グラフィックデザイナー
  学生時代の専攻:生物科学


#09就職後に見つけた「やりがい」を活かし起業へ

 中川登紀子さん:パーソナルヘアカラー講師
  学生時代の専攻:有機化学

#10東大工学部電気系初の女性准教授

 熊田亜紀子さん:東京大学大学院工学系研究科 准教授
  学生時代の専攻:電気工学

+番外編 理系と文系の架け橋を目指すサイエンスコミュニケーター

 内田麻理香:サイエンスコミュニケーター
  学生時代の専攻:応用化学

 

最後に番外編として、著者が自らを語るページを含めると、正確には11人の理系な女性のインタビューが読めるということ。

全体を通じて見ると、生物学系(01:生物学(生命倫理)、02:動物学、03:生命科学、04:植物学、05:分子生物学、07:応用生物学、08:生物科学)、医学(06)、化学系(09:有機化学、番外編:応用科学)、工学系(10:電気工学)といように、大枠で分類できると思います。11人中、生物学系が7人もいます。理学部や農学部の生物学系の専攻は、3~4割を女性が占める大学もあると聞いたことがありますが、インタビューを受けた女性たちも半分以上が生物学系とは…。たまたま、取材に応じた方々に生物学系の方が多いというだけなのかもしれませんが、それにしても多いという印象です。

 

この専攻分野の偏り、および現在の仕事や活動を考慮して、本記事の前編では、01:加藤牧菜さん、後編①では07:軽部鈴子さん、後編②では10:熊田亜紀子さん、以上3人を選び、簡単な経歴と専攻分野のこと、現在の仕事や生活について、紹介したいと思います(2016.8.31追記:後編を2回に分けることにしました)。

 

 

 2.#01科学と文化をつなぐプロデューサー:加藤牧菜さん

1976年東京生まれ。筑波第二学群生物学類卒業、同大学院生物学研究科修了。京都大学生命学研究科勤務を経て、「科学と文化のプロデュ―サー」として活動。2006年より、株式会社オフィスマキナ代表取締役を務める。

 

小学生の頃から、学校ではクラス委員や生徒会、部活動を楽しんで熱心に活動していた加藤さん。一方で、小学校高学年の時、アポロ宇宙計画のドキュメンタリーをきかっけに、科学への関心を持ち、高1で『Newton』のDNA特集を読んで生物学に目覚めました。学校での課外活動の方向か、科学の道へ進むか。選べなかった加藤さんは、高3の時、推薦制度を使って、筑波大学に進学することになります。ちなみに、高校では漢文や子分も好きだったそうで、「多分、私は理系じゃないんです。読むのも書くのも、大好きだし。」とのこと。

 

大学入学後、加藤さんは大学のある町に週の半分いて授業を受け、週末にはもぐりこんでいた東京の芸術大学で指揮法とリズムの授業を受けるという生活をすることになります。音楽学部の学食で、歌手志望の音大生からオペラのことを教わる代わりに、彼らに加藤さんはノドを健康にするという話題から細胞の話までして、「異文化交流」をしていました。音大生たちとの交流が人脈を広げ、現在の音楽コンサートのプロデュース、司会の仕事にも結びついています。

 

そんな加藤さんが生物学で博士号を取得することにしたのは、学部4年生の時に丁稚奉公していたオペラ評論家に、西洋では博士号を持っていると扱いがよくなる、という一言がきっかけとなりました。

その待遇が良くなるというメリットだけで受験を決めてしまい、筑波大学大学院の「修士と博士がくっついた5年コース」に進学。実は、進学直前の学部4年の研究室選択で生命倫理を選び、理系をドロップアウトしていたそうです。この生命倫理学とは、「医療や生命科学に関する倫理的、哲学的、社会問題や、それに関する問題をめぐり学際的に研究する学問」(1992年10月の国際生命倫理学会の定義)であり、文系と理系の境界にある分野です。この分野の人には、法律の専門家や医者など、純粋に生物学を学んで来きた人は少ないそう。加藤さんの自覚では、「遺伝子組み換え反対!」と叫んだり、「文系方面から生命倫理をやって」いたりする研究者とは視点が異なり、「半分社会科学のような感じ」でいるとのこと。

 

研究と合わせて、大学院時代は自宅で主婦向けにお菓子を持ち寄ってバイオ講座、といって遺伝子やその仕組みを説明する会を始めました。このイベントで、一般人が胎児の性別が決まる時期を知らなかったり、遺伝子検査を扱いたいという法学部の大学生に解説した上で、理解の浅さにもう一度講義をし直したりしました。バイオ講座の経験によって、彼女は生物学の話をするための入り口として、どういった話題を持って来たらいいのか、など多くのことに気がつきます。より深くサイエンスコミュニケーションの世界に入っていったきっかけは、学会で名刺交換していた京大の加藤和人准教授に連絡を取り、研究室の立ち上げでポスドクが欲しいから来てくれないか、という誘いを受けたこと。京大の先生に電話をかけた時、加藤さんは博士課程を終えた3月であり、「論文書き終わったから何か一緒にしませんか」とその先生に伝え、加藤さんはポスドクに誘われました。彼女は、その時まで博士学位をとって修了したあとのことを考えていなかった!何とも軽いようなノリで人生を切り拓いているところに、聞き手の著者は驚き、魅了されています。

 

しばらく、加藤さんは東京と京都、半々ぐらいの生活を続けました。現在、彼女は個人事務所を立ち上げて、芸術や文化方面でコンサルタントをしています。起業のきっかけは、学生時代に大勢の音楽家と接して、ステージに立って演奏しないがイベントをバックアップするという自分の立ち位置を見出したこと。小学校から、自分自身が「ずっとものを仕掛ける側にいるのが好き」であることを思い出したそうです。さて、仕掛ける仕事を始めた彼女の「教訓」は、「とにかく100回はやってみる」こと。それは、スポンサーを探す際、電話帳を開いて100件かけてみたら、赤字にならない程度には額が集まったこと、博士研究で国内企業にアンケートをお願いした際に1000件電話した経験に基づいています。読んでいた私は、聞き手の著者と一緒に、加藤さんの行動力に驚いていました。

 

もう一つ、加藤さんが得た「教訓」の中で、私が注目するのは「人脈が仕事を呼ぶ」こと。人が集まると、掛け算式でいろんなことができたり、知識が広がって知恵がついたり、広がりが大きいです。これは文理総合系大学院にいた私が先生から聞いたことでもあります。もし、自分が研究する上で新しい分野の知識が必要なら、それを知っている人を人脈から探す、あるいは紹介してもらい、コンタクトをとることが基本とのこと。加藤さんはポスドクを終えて起業する時、自身が持っていた住所録が財産となり、これがあれば将来も大丈夫だろうと思いました。人との繋がりは、実際に大切なんですよね。「シン・ゴジラ」では、国連軍による核兵器の使用を東京で使えないようにするため、主人公・矢口の友人の泉がフランスに伝手を使って、フランスに拒否させることに成功しています。外交の場でも、人脈は役に立つのです。

 

最後に、著者は「理系を選択して良かった」ことを質問します。答えは、専門家に聞けば何かの情報はもらえる、という「情報のありかがわかる」こと。どんな仕事に就くにしても、新しい知識が必要になっても、知っている人に聞けば教えてくれるし、本や論文を探せば理解することができる。情報にたどり着くまでの方法が分かれば、自分で学ぶことができるのです。

 

理系と芸術系の間で仕事をする加藤さんが目指すのは、スペシャリストではなく、ジェネラリスト。境界に立つ人間になりたかった彼女は、これからも異分野を仲立ちする存在として、活躍を続けるのだと思います。

 

 

(*前編おわり。後編①へ続く)

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