院生が獲得した助成金をめぐる問題~人力検索はてなの質問から~
1.はじめに
9月22日の「人力検索はてな」に投稿された質問で、迷ってしまいまいました。
が、どうしても見過ごせないと考え、こちらで取り上げることにしました↓
匿名質問者による投稿です。質問者である院生の関係者に知られる危険性があるため、本当はブログの記事に取り上げるようなことは、しないほうがよいと思います。それでも、私の身近で助成金の使い方に関して悩む人を見ていたので、俎上に載せることに致しました。こういった事情から、本記事の投稿から時間を置かず、消すことになるかもしれません。また、質問者が書いていることを「事実」と捉え、話を進めます。ご了承ください。
2.質問内容について
さて、テーマは質問タイトルのとおり。院生が自分の名前で研究計画を提出して申請し、助成団体に認められた研究助成金を、どうやら所属研究室の教員が、既にこの院生の研究プロジェクトとは関係のない研究の試薬購入に勝手に使っていたことが判明したというもの。果たして、院生は既に使われてしまった部分を含めて、費用の返還をこの教員に求めることができるのでしょうか?
質問内容をまとめると、次のようになります。
⓪質問者所属の研究室の教員曰く「そのお金は君の自由にはさせない」と。この主張は正当か?
①質問者は国立大学の院生(博士課程)である。
②研究計画の作成や提出は、質問者が質問者個人の名前で行った。
③日本学術振興会特別研究員の研究奨励費ではない。
④質問者が確認したところ、
・助成金(大学の口座で管理する)の一部は、質問者の所属する研究室の教員によって既に使用された
・既に使用された助成金の一部は、その助成金の申請にあたり財団に提出した研究プロジェクトとは直接関係ない研究の試薬購入費等に使用された
以上2点の事実が発覚した。
⑤質問者は申請した計画に基づき、研究を遂行する意志を持っている。
⑥既に使用された部分を含め、返還を求めることが可能なのかどうか?
質問者は、その研究室を選ばざるをえなかったとしたら、厄介な教員に出会ってしまい、運が悪かったとした言いようがないです。が、実は研究室の所属学生が個人で申請した研究助成金の使用をめぐって、なかなか、報道はされませんが、けっこうゴタゴタ揉めるようです。研究指導をしているのは教員ですから、「自分のアドバイスがあったから、院生は研究助成金を獲得することができたんだ」と考え、質問の教員のように、院生の獲得した助成金は自分のものでもある、という人が研究室の構成員にいても不思議ではないのです。匿名回答No.7の方が答えておられるように、よくある話と言えるでしょう。
研究助成金の使用をめぐるこういった問題については、大学によって、まだまだ閉鎖的な組織があり、あまり表沙汰になることはありません。そして、院生が下手に動き、所属研究室の教員による助成金の使用について、その教員の上司に当たる組織長にジャッジを求める等の行動をとれば、問題の教員は処罰されるでしょう。しかし、研究室の人間関係にヒビが入り、院生のほうが実質的に研究室を出て行かざるを得ないことになりかねません。そういう意味で、研究に関する資金をめぐる問題は、非常にデリケートなんです。非常に残念なことですが、否定できないのです。
質問内容を読んだ限りでは、質問者は実験系の研究室に所属しており、迂闊に動けば、せっかく苦労して獲得した研究助成金をこれ以上、使えないまま、研究の道を諦めなければならなくなるかもしれません。
それでは、この問題について、どのように対処すればいいのか?次の項で、書いていきます。
3.質問の問題とポイント
3-1.ブログ管理人からのアドバイス
先に、質問者への私からのアドバイスを書いておくと、次のとおり。
この問題も、弁護士に相談したほうがいいと思います。なお、光熱費は授業料に含まれていますので、助成金と切り離して考えてよし! https://t.co/IRiQXJl4zf
— 仲見満月 なかみ・みづき (@naka3_3dsuki) 2016年9月23日
上のリンクから、該当質問ページに行っていただき、回答者の答えを読んでいただくと、大学事務局と教授会関係者に相談すること、という答えがあります。個人的には、優先順位として、すすめません。理由は、2の項に書いたとおり、院生の告発が閉鎖的な大学によっては、うやむやになったり、最悪もみ消されたり、こういった恐れがあるからです。また、研究室内の人にも相談しないほうがよいでしょう。研究室内の人間関係が悪化して、質問者が研究室内で孤立し、さらに研究室を出ていかざるを得ない危険があります。
まず、ファーストテップとして、研究室外、法学部のある大学で可能なら法律の無料相談会に出たり、法テラス、そして「弁護士ドットコム」等、市民向けのトラブル相談を受け付けているところに連絡たりして、弁護士にアポをとって相談にするとよいでしょう。
セカンドステップとして、相談できるアドバイザーとして弁護士を確保します。合わせて、助成財団のほうに連絡を入れ、然るべき対処法を仰ぐこと。そして、弁護士や周囲に言って、必要以上に騒がないようにしてもらい、同時に大学の研究費や助成金の担当者で相談できる人に、相談と報告を行うこと。これは、大学側にとって不祥事になので、慎重に動きましょう。動きを周囲に感知されないようにしつつ、然るべき部署や窓口には事実を速やかに伝えておくことが重要です。
このあたりは、できれば専門の弁護士をアドバイザーにして、じっくり作戦を練ること。
現段階で、私がアドバイスできるのは、ここまでです。
こういったトラブルのが起こった時のため、というのではないですが、日頃から学内外の人脈を築いておくこのが、役立ちます。なぜか?困った時、相談できる人がいるか、いないかでトラブルに直面した人は、多少なりとも心強いと思うからです。
そして、必ず学外でお世話になれる教授や准教授、研究機関の力を持っている役職の人と信頼関係を築いておけると、さらに心強いでしょう。詳しいことは、次の項で説明します。
3-2.この質問の問題のポイント
研究助成金の申請者、本記事では質問者が助成財団の定める期限に従い、会計報告書を出さなければなりません。私の知り合いで、この質問者と同じように民間の助成団体にその人個人の名前で書類(研究計画書や推薦状)を提出し、助成金を獲得した国立大学の院生がいました。その人は、非常にマメな人であり、きちんと期限内に会計報告書を提出していました。その人の大学では、所属している院生や教員が獲得した研究資金は、大学の事務局に預け、大学の口座を通じて管理されるとのこと。そういうわけで、申請者が口座を確認すると、不正使用は発覚するし、ここの部分をごまかして会計報告を申請者が行うと、財団によって助成金が止められた上、支払われた助成金の返還等を求められることになります。また、昨今あるように、報道されることで、社会的にマイナスな印象を一般の人たち等に与えることがあるでしょう。
この質問に対する匿名回答3号の方への返答にありますが、
教授の資金は、研究員の研究内容に基づいて出されたものですので、研究員が研究に利用するのは当然のことです。
逆に、質問者が獲得した資金は教員の研究計画に基づくものではありませんので、質問者の研究と関係ない用途には1円も使ってはいけないのは当然ですよね。
2016/09/23 22:46:54
ということで、質問者の個人申請した研究助成金を、それ以外の人である所属研究室の教員が勝手に使ってはいけないのです。
それから、匿名回答3号の肩の回答内容について、少し、言及させていただきます。
匿名回答3号2016/09/23 13:07:49
逆に、教授が獲得した外部資金を、あなたは1円も使ってないのでしょうか?もしそうなら権利を主張しても良いでしょうが、実際、あなたが在席しているだけで光熱費等(外部資金で支払えませんが…)を消費している訳で、100%権利主張は難しそうです。
研究室の光熱費に関しては、先の知り合いの話では、国立大学の場合、院生の授業料に大学施設の使用料が含まれているとのことで、今回の問題では気にしなくてよいでしょう。ただし、 日本学術振興会特別研究員の場合、この学振会のほうから給与に当たる形で毎月定額でお金を支給されるため、大学の研究室の光熱費は学振の支給金から天引きされていくとのこと(by この知り合いの研究室の学振ポスドクの方)。
以上の理由により、質問者の申請した助成金を所属研究室の教員が一部使用したことは、不当だと言えるのです。
3-3.今回の問題と質問者の将来について
そして、今回の問題に絡むもう一つの心配は、質問者の将来の進路です。つまり、博士生の就職活動のこと。質問ページで、匿名回答6号の方(2016/09/24 02:29:13)が答えておられるとおり、今回の質問の問題は、アカデミックハラスメント(アカハラ)です。ですが、私はそれ以降の匿名回答6号のアドバイスには、素直にうなずけません。以下、匿名回答6号の方の回答を引用させて頂きつつ、私の意見を書かせていただきます。
2つ質問があります
1) 学位を取った後の就職先はどのように考えていますか?
2) 学内に,相談出来る教授レベルの先生は何人いますか?1)については
まず優先すべきものは「目先のお金」ではなく「今後の人生」だと思います
つまりまずは卒業して就職することです学生向けの助成金なんて精々数百万円ですよね?
残りの人生を賭けて取り返すほどの価値はありませんたとえば卒業してその後アカポスのような人生を考えているなら
教員や大学事務とは仲良くしておいたほうが良いです
1)については、「教員や大学事務と仲良くしておいたほうが良いです」という部分には、賛成致します。ただし、「学生向けの助成金なんて精々数百万円ですよね?
残りの人生を賭けて取り返すほどの価値はありません」の部分は、納得できませんし、してはいけないと思います。なぜなら、一つのアカハラを放っておいたら、質問者個人と所属研究室の当該教員を含む構成員、果ては大学との信頼関係を壊しかねないからです。一度、信頼が壊れてしまうと、結果的に質問者は研究室と大学を離れざるを得なくなるでしょう。また、質問者が研究室を離れた後、当該教員が資金の不正使用の問題が再度起こり、その分野での大学に対する信用が失墜する危険さえ、あり得ます。
2)については
行動を起こす前に,同じ学科の別ラボの教授に相談するべきですその教授が頼れる,つまり今後の学位審査や就職のお世話になれそうなら
今の教員や今のラボは切り捨てる方向で,財団に直接通報しましょう.通報すると財団から大学にクレームが届きます.
大学の事務と教員は予算の管理義務があるので,この件は立派な不祥事です.
外部からクレームが届いた時点で大学側はこの件を見逃すことができませんし
その教員は最悪クビになります
2)については、本記事2の項にも書きましたが、相談したり、報告したりする人は、慎重に選ぶことが大切です。先生同士の関係も微妙な研究室や学科はたくさんあります。だからこそ、前項の終わりで書いたように、学外の人脈を築き、いざという時のためにその人脈を頼って、思い切れれば所属先を変わることができるようにしていないと、いけないのです。チャンスがあれば、海外の研究機関に移れるなら、そのほうがいいこともあるかもしれません。
質問者がアカデミックポストを目指していたとして、今回の助成金問題が絡み、研究職への道が閉ざされたとしましょう。そうだったとしても、別のルートで生活していけるよう、セーフティーネットを持っていたほうがよいということです。特定分野の世界・業界は狭いです。匿名回答6号の方が言っておられるように、博士課程修了者の後の就職、特にアカデミックポストは、院生時代にお世話になった人たちに握られていると言っても、過言ではありません。
4. 最後に
今回、「人力検索はてな」にあった院生の獲得した研究助成金をめぐる問題について、こちらで取り上げました。再度、私のアドバイスを申し上げますと、
・アドバイザーとして弁護士を確保し、相談して作戦を練る
・質問者は助成財団、学内の研究費や助成金担当者等の然るべきところには相談
・問題が遠因となって、研究室や大学院を出て行かざるを得ない、
あるいは就職のアカデミックポストが閉ざされたとしても、
研究や生活をしていくために頼れる人脈を学外に日頃から作っておくこと
の3つになります。現時点で考え得る最適解かどうかは、分かりません。
もし、可能でしたら本記事を読まれた方々に、ご意見をいただけたら有り難いです。本ブログ右サイドのメールフォームから、受け付けております。
本記事は、ここで終わりです。お付き合いくださり、ありがとうございました。
〈続きの補足記事〉