仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

院生が休学する時のことを考えてみた('20.5.21、16時台、 #リンク貼り直し )

1.はじめに~学部生の休学費問題を起点として~

10月の半ば、一週間ほど、学部生の休学について、休学中に大学へ「休学費」なるものを支払わないといけないことを知った女子大生が、この制度を変えようとした記事が話題となりました。

nlab.itmedia.co.jp

高すぎる休学費用に日本女子大の卒業生が一石を投じた! 大学側は「重要な課題として検討したい」と前向きな返答 - ねとらぼ

 

休学する理由には、大学を休んで働き、授業料や生活費用を確保してから、復学しようとすることが最も多いことを、Tさんが次の記事で指摘なさっています。加えて、大学を退学・休学する理由の最多は、経済的な困窮にあることも指摘されています↓ 

t-ritama.hatenablog.com

私が休学を決めるまで - Tritamaブログ

 

今回の休学費用を含めた問題は、私の周囲の同級生や後輩に、経済的な困窮を理由として、退学・休学した人が複数人いたことがあって、見過ごせないと思いました。学部生の休学をめぐる問題は休学費を含めて、既に議論が諸場所進んでいるようですので、ここでは院生の休学について、考えます。

 

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2.院生の休学で気を付けるべきこと

 ①休学費用と復学以後のことについての確認

休学する際、休学中に大学に支払う費用。私立なら学部と同様、大学院にも支払う可能性があります。

周囲に聞きまくっても、先生や院生は知らないケースがあるので、大学院の規則を読んだり、担当事務に聞いてみたり、して下さい。特に、経済的な理由で休学を検討している方は。

 

もう一つ、休学前に調べておくべきことは、復学以後のこと。私が通っていた大学院では、学部も共に、休学した時間分だけ、復帰後は大学にプラスで在籍できる。つまり、一年休学して留学から戻ってきたら、留学前の学年に復帰して所定の単位と学位論文を書き、合格したら卒業・修了するという、よく知られた一般的な仕組みでした。ケガや病気の治療のため、休学せざるを得ない場合、基本的なことですが本人、および周囲が確認をしておくといいかと思います。なぜなら、休学期間にも●●年以内といった制限があるからです。そして、周囲が知っておくといい理由は、次のようなケースがあったから。

 

Twitterのほうで少し触れましたが、身近な院生の方が心を病まれたのか、だんだん、ゼミに出席されなくなり、そのうち、まったく大学院のほうに来れなくなったことが、数年に一回、あったように思います。その中の一人、社会人院生Aさんの場合、頂いていた勤務先(大学院生ということを許可した企業)に電話をしたものの、ずっと病欠状態とのこと。気が気でない指導教員B先生と一緒に、手を尽くして探したものの、見つからない…。

数週間後、ゼミに現れたAさんは、「休学の相談をさせてください」と指導教員の先生に言われました。その後、分かったことでは、Aさんは多忙なお仕事と、うまくいかない研究論文の板挟みにより、心が不調になっておられたようです。心配したご友人に支えられながら、音信不通のころ、専門のクリニックを受診されるようになり、心が落ち着いたのが、ゼミにいらっしゃった時期でした。心が落ち着いたとはいえ、見ていて万全じゃなさそう…。そういうわけで、指導教員の先生が休学のシステムに関する資料を事務室でコピーしてもらい、Aさんに渡して、一緒に休学の書類を準備されていました。

 

中には、ご両親を病気で急に亡くされたり、失恋で人間不信になったり、そういったことが重なって、心身の不調とその治療で休学される方もおられました。そういった方には、健康状態がよいとは言えず、休学の手続き書類の準備がしんどい人もいるでしょう。なるべく、そういった方には周囲の人たちがサポートできるようになれれば、ご本人も助かるかと思います。

 

 ②指導教員の退職・死亡等にともなう交代による研究継続の困難

例えば、一年休学して海外の研究機関や大学に留学に行っていて、研究室に戻ったら、指導教員が病気で退職していた。とか、事故で亡くなったことを、休学して調査に行っていたフィールドワーク先でその連絡を受け取った。とか、無いようでいて、あり得る話です。

 

学部の頃の話ですが、2年次の終わりに卒論ゼミの説明会があり、同級生には3年次に所属するゼミの調査表を出して、年度末に指導教員の希望が通った人がいました。ところが、3年生になった4月の頭、希望の先生が交通事故で亡くなり、そのゼミは開講されないことになりました。その同級生は、第2希望の先生のゼミに移ったようです。

 

学部生の場合、特に文系はこのような緊急事態ならゼミを柔軟に変更できる大学は、あるようです。それより上の大学院になると、特に教員ごとに指導する院生が少人数のシステムのところでは、学部ほど柔軟に指導教員を変えられない。変更できるにしても、手続きに時間のかかるところがあります。

 

近年は院生の管理が厳格になってきているところもあり、放任主義が多かったらしい十数年前に比べると、指導教員と院生の距離が近くなっている研究室もあるようです。それ故、信頼関係を緊密に築いていた師弟ほど、指導教員が病気や事故で交替せざるを得なくなると、その院生は研究の継続自体が困難になることがあります。性格の相性がよい、ほか、院生の研究テーマとして、世界にその先生しか指導できないから院生が来た、そういうことだって、あるのです(特に理系)。

 

実際、無理をし過ぎて持病を悪化させ、弟子たちをハラハラさせる先生方は、いらっしゃるようです。弟子の院生ができることは、指導教員の健康状態を可能な限り、把握しておくこと。そして、万が一のことを考えて、研究継続のため、今いる大学院の外で、自分を受け入れてくれる力のある研究者、大学院や研究機関を見つけておくことでしょうか?

 

 特に、先生の体調に関しては、院志望者の方にも、注意を払って頂きたいところです。最近はTwitterで体調を呟かれて、担当学生に授業をやる、やらないを告知されている方もおられます。こういうSNSも、細かくチェックすることが、今後に繋がるかと思いました。

 

 ③修士課程・博士課程の留学ビザ関係に伴う休学不可

発端は、研究室のアジア系留学生の先輩が、実際に博士課程の在籍年数を越えたことに気がつかず、やってしまった時に休学が使えなかった経験談。しかも、研究と指導は熱心だけど、所属研究科の事務手続きや規則にほとんど気を気を配れていなかった指導教員の先生。そう、院生本人も先生も、気が付いていなかったパターンです…。この先輩、博士課程の在籍予定年数を越してしまった上、博士課程の在籍年数をとっくに過ぎてしまい、博士論文をこのままだと書くことすら、危うくなってしまった!

 

この案件は、留学生だけでなく、受け入れ教員や後輩院生もも気をつけておかないと、地味に痛いです。共同の研究プロジェクトやってると、下手したら、優秀な人員を失いかねないので。

 

そこで、一旦休学し、どういう身分でこの先輩を研究室に留めようか、考えようとしたが、「留学に関するビザの手続き上、休学はできません!」と事務室の方に言われてしまい、指導教員、当人の先輩、更に先輩を研究で頼りにしていた後輩院生一同、パニックになった。そこへボス先生がやって来て、「ならば研究生*1の身分で、この4月から入学させる手続きをしましょう。私が担当者に詳細を説明しますから」と話してくださり、その先輩は見習い院生である「研究生」の身分で、プラス2年ほど在籍を伸ばし、何とか課程博士の博士号を取得しました

 

ボス先生の冷静な判断で事なきを得ましたが、その後、研究科会議で先輩の指導教員とボス先生は注意を事務長から受けたそうで…。研究に没頭している先生方には、うっかり院生の在籍年数に関する事務処理の注意が抜けている方もいらっしゃるため、後輩院生は気が付いたら早めに「在籍年数、大丈夫ですか?」と尋ねましょう。

 

 

3.まとめ

大学院の院生も、研究者の一人で人間です。 かつての私、そして今の院生を指導している先生方も、人間です。研究論文を書くため、海外や国内の諸地域に住んでじっくりデータを集めることに専念したいと思うこともあるでしょう。仕事や人間関係で、悩み過ぎて心を病んでしまうこともあります。バイトで研究に必要な文献を買うお金を準備しても、流行りの感染症で急に病院にかかってしまい、資料に使うはずだった資金を診療代・薬代に回さざるを得ない時だってあります(ブログ管理人の話)。実家の祖父母や両親の誰かが倒れ、介護のために田舎へ帰らなければならなくなる時だって、年をとってくればありうるでしょう。我々は、人間なんです。無理はできません。

 

個人個人のそのために休学せざるを得ない状況は、タイミング次第で誰にだってあるんです。それは、学部生だって、そして院生だって、あり得ます。休学して、結果的に「留年」となったとしましょう。それは、今週話題となった下の京都大学カウンセリングルームの「留年について」ページにあるとおり、人生の「破滅」を意味するわけでは決してありません。

留年について-カウンセリングルーム(京都大学)

 

そして、休学すると決めたら、あるいはせざるを得ない状況となったら、できるだけ情報を集め、自分の所属している機関の休学にかかわる制度を確認しましょう。書類を提出する際、合わせて提出する行政に必要な文書、病院の診断書等、ひょっとしたら出てくるかもしれません。もし、休学することになったら、どういった手順で手続きを進めるのか、どの先生にサインを頂いたらいいのか?このようなちょっとした情報がどこにか行けばあるのか、確認しておくだけでも、いざという時、素早く動くことができるでしょう。

 

これを読まれら方で、休学を検討中の方々のお役に少しでも立てたら幸いです。そして、留学、病気やケガといった医療的なこと等で、休学手続きが必要な方をご存知の方には、早めに休学制度の確認をするよう、伝えていただけたらと思います。

 

今回も長くなりました。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

*1:大学院等の正規の学生ではないものの、それに準じる身分。研究生として大学に在籍すると、図書館の利用ができたり、単位履修はできないものの授業を聴講できたり、研究に必要な最低限の制度やサービスを利用することができるようになる。大学によってその名称はさまざま(研修生など)。

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