仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

現代史を知るための「擬人化」世界史漫画~ゆげ塾『ゆげ塾の中国とアラブがわかる世界史』:中国編~

先週は、大学院のアカハラ問題、院生兼非常勤講師の子どもの保育所入所問題など、研究者のハードな部分を取り上げてきました。ここで、一息、自分の研究領域に関する漫画のレビューをしようと思います。

 

<今回の内容>

1.世界史の仕事と参考書漫画

以前、教育関係でフリーターをしていた時、世界史の授業を高校生にする機会がありました。特に大学受験で出題が多いのは現代史。18世紀半ば以降の産業革命から、21世紀のアメリカのオバマ大統領の政策まで、扱う中身の濃い内容でした。

 

その範囲で、主軸となる欧米列強と連合国vs枢軸国、それからロシア帝国を経てのソ連、アフリカやアジアの植民地と独立運動。二つの対戦を経て、冷戦による東西対立、二つの「中国」と、独立した中東、インドやアフリカ諸国の第三勢力。これらの複雑な国際情勢により、今の我々の住む世界は、出来上がったということをローティーンの若者に覚えてもらわないといけませんでした。

 

その中で、私は学部時代に夢中になっていた某国・地域の擬人化漫画シリーズを教材の候補に挙げていました。が、過去にアニメ放映の際、内容の中で歴史上のストーリー解釈で国際的に物議を醸したことがあったらいことを思い出し、このシリーズは使うのを控えようとしました(時代考証の資料は、研究者の書いた国内外の本が多いです。最新シリーズはジャンプ+で連載中です)

 

代わりに、同じような国・地域などの擬人化を扱い、高校生にも分かりやすい漫画で、学習方向に特化した参考書を探しました。そこで、見つけたのが次の作品です。後半のアラブとイスラーム世界のところは、中身が濃いため、本書のレビューは中国編、アラブ編の2回に分けてお送り致します。

 

2.『ゆげ塾の中国とアラブがわかる世界史』の紹介と経緯

 

 

世界史の授業で切羽詰まっていた私は、仕事一気に読了しました。本書は、おそらく、一般の日本人には理解しにくい、近いようで遠い感覚の隣国中国のこと、そらから宗教上で最も縁遠く、でも昨今、急速にお付き合いの増えてきつつあるイスラーム世界のことを取り上げています。

 

昨年、話題となった爆買い、それから日本の大学に通う留学生では最も多い中華系の人たち(中国、香港、台湾、諸外国からの中国系)は、これからは日本各地、市町村のご近所さんとして、お世話になるほど日本に滞在したり、就職したら会社では同僚として付き合う密度のレベルになってきています。

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一方、インドネシアなどの国々との協定により、福祉や医療の現場のスタッフとして、東南アジア諸国などから外国人の専門労働者を日本で受け入れる動きが始まっています。この国々には、ムスリムを国民にもつところも含まれています。労働条件の整備とともに、今後は彼らの先祖の歴史や生活、文化を、お世話になるかもしれない我々が知る必要があると考えました。

 

そういうわけで、これから中国やイスラームの人たちと付き合いが増すであろう高校生に向けて、授業をしました。生徒に、自分達の将来の日常と、世界史の授業内容とが繋がっていることを印象付けつつ、授業内容に応じて、本書の一部を音読したり、紛争背景の略図を見開きにして生徒に見せたり、工夫をしました。

 

3.中国編の内容

全体的には、中国について領海侵犯、国内の情報統制まで、歴史の流れをおさえつつ、簡潔に漫画化されていました。

 第1章「中国のプライド」:

稲という高カロリーの作物が栽培された地域で、人口が増えていき、その中で紙の改良による文書行政や羅針盤、火薬、印刷技術といった三大発明が生み出され、中国は超文明国として中国文明圏を形成たこと。それが、冊封体制という独特の外交スタイルと中華のプライドをもたせたことが簡潔に纏められています。

 第2章の「中国のトラウマ」:

近代中国がアヘン戦争を機に、列強に半植民地化されるところから、話は始まります。イギリスは工業化により、ろ過しても濁って臭う水を飲用するのに紅茶を欲した。その背景から解き明かしてあります。当時、イギリスは欧州の主権国家体制という国同士が対等である文化圏にいて、でもお茶が欲しくて、冊封体制として中国皇帝にペコペコ礼をしないといけない外交スタイルが、苦痛なようでした。このような、外交文化の違いを明確に描いている章です。

また第2章の後半では、列強に虫食い状態で租界を作られて行く中国と、列強側に入った日本と関係の拗れも、漏れなく書き込まれていました。日中戦争のところでは、日本兵が中国現地の農民に食糧を求めて配った、貨幣がわりの軍票が、農民の抗日化の遠因となったことを示唆。このあたりが、今もトラウマとなっていると指摘しています。

 第3章「中国の情報統制」:

2012年、Googleが中国から撤退後、FacebookTwitterも、ニコニコ動画も、YouTubeも、中国では使えない!(だから、ポケモンGOでも遊べないし、ピコ太郎とPPAPも直接は見られないはず)

そのことを入口に、歴代中国の政権が民衆に敏感であり、その恐れが情報統制に繋がっていることを解説。春秋戦国時代儒家の思想には「腐った政権は、天命を受けたとして、民が倒し、新しい為政者になちゃっていいのよ」という、孟子の唱えた「易姓革命」があります。今の中国共産党も、この思想で十数億の民に反乱起こされるのが怖い(1990年代にも、易姓革命を受けたらしい無頼漢たちの蜂起の未遂があったそう)。だから、24時間、人民解放軍や党の専門監視者にネットを見張らせているそう(なお、私の追加情報として2016年5月は、LINEは使えませんでした。しかし、mixiは繋がりました。あと、韓国の朴槿恵大統領が習近平国家首席にごり押しして、カカオトークのアプリは使えるようにした噂があります)。これが、本章の筋。

そして、易姓革命を起こして、次の王朝を開いた為政者は、前王朝の正史(だいたい紀伝体)を編んでこき下ろし、自分が前王朝を倒して為政者となった正当性をアピール。清王朝崩壊後、中国に皇帝はいなくなりましたが、台湾に移った中華民国は『清史』を編纂。同じく、大陸の中華人民共和国(中国)でも、『清史』が編纂中(完成予定は今年だった模様。詳しくはこちら:竹内康浩『「正史」はいかに書かれてきたか―中国の歴史書を読み解く 』(あじあブックス)大修館書店、))。正史を編んだら、また易姓革命である意味、デモクラティックに倒されるのが前提になるんですが、国共ともいいんでしょうか?

 

 中国編のまとめ:

冊封体制に見えた中華思想によるプライド、それからアヘン戦争に始まるトラウマ、そして易姓革命による暴力から歴代政権が生まれてきた中国大陸では、外交面でも内政面でも、ガンガン攻めていく。それが、領海侵犯やデモ抑制に出てきているんだそうです。

 

 

4.中国編のまとめ

さくっと、中国編の内容を簡単にまとめてしまいました。もう一つ、付け加えておくと、易世革命を口実に政権交代を重ねてきた中国大陸の人々は、たたき上げの人とか、アウトロー好きな土地柄があるんじゃないかと、私は考えております。

 

だから、家族経営の製造メーカーが技術力を持って集まる深圳では、ネット上のクラウドファウンディングのサイトで見つけた「儲かりそうなアイディア」を見つけると、あっという間に資材をい集めて加工。元のクラウドファウンディングサイトで、提案者が想定していた価格の何分の1以下で、さっさとネットショップに販売を開始してしまう。つまり、海賊版、ニセモノ=”山塞”を作りだすような、アウトロー的な「山塞文化」が深圳にはあるということです。そして、儲かるなら共産党政権も黙認している節もありそうです。

(参考:クラウドファンディングで起こっている闇の戦い。資金調達前のアイデアを製品化、販売する中国の製造会社たち | FUZE

 

このアウトロー好きなところは、日本人に一定数の時代劇ファンがいるように、中国に武侠小説の読者が多く存在するところにも窺えます。

 

このあたり、最近はチャイナウォッチャーとして、フリーライター安田峰俊氏、ジャーナリストの福島香織氏らの主張が分かりやすいと思います。本書の中国編と併読して頂けると、中国という存在との付き合い方が立ち上がってくるかもしれません。

 

(「現代史を知るための「擬人化」世界史漫画」中国編おわり。アラブ編に続く) 

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<関連記事>

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↑この中にある概説書の新版、改訂版を探すと、中国の通史の勉強になると思います。

 

 

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