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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

日本人音大留学生によるドイツ音大の大学教員採用の裏側レポ~齋藤友亨「ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる」~

<今回の内容>

1.はじめに

実は私、Twitterのフォロワーの日本人音大生・齋藤友亨さんのブログ「あうすどいちゅらんと」が、おそらく開設されて少しの時ぐらいに、読者登録して、断続的に送られてくるブログ新着通知で、齋藤さんの留学先ドイツのレポートを読んでいました。

 

留学先のヴュルツブルク音楽大学での出来事、ドイツ語と日本語の比較やコミュニケーションの違い、休暇で帰国した際の日本旅行で留学生ならではの視点でによるレポート、更に料理番組さながらのドイツでの自炊レポまで。幅広い話題と齋藤さん独特の切り口と視点で、読者を楽しませるブログです。こりゃ、人気でメディア取材や出演を受けても、不思議ではないぞ!と思って読んでいました。

 

今週半ば、斎藤さんが本ブログにとって、非常に興味深い記事を執筆されていました↓

www.tomotrp.com

齋藤さん所属の音大のホルン担当の教授をオーディションで決める時、どういうプロセスで選考が行われたのかという報告です。失礼ながら、文路総合系の研究大学院に行っていた私は、下の記事の芸術系編『のだめカンタービレ』のところで明確に書いたほど、特に音大は最も縁遠い存在だと考えておりました↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

音大って、どういうところなんだろうか?」と音楽学はブログに書きにくい分野だとも考えておりました。そういうわけで、今回は齋藤さんのドイツ音大の大学教員採用レポ―ト記事を紹介させて頂き、ドイツ音大のことを取り上げることに致しました。なお、私の知識不足のため、日本の一般的な大学教員の採用試験の聞きかじり、および不適切ではありますが『のだめカンタービレ』で得たことを盛り込みつつ、話を進めていきたいと思います。

 

 

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2.齋藤さんによるドイツ音大の大学教員の採用・選考の解説

  2-1.ドイツの音大教員のステータス

ドイツでは博士号を持っていると、住居の表札に書き入れてもいいくらい、尊敬されるし、EU内の列車で職務質問されても知り合いの日本人の東洋建築学者はドイツの研究所の身分証に「Dr.○○」と書かれていたことで、丁重に扱われた!そうです。

ここでは関係ありませんが、アメリカ系の飛行機でも、エコノミークラスでさえ、博士号持ちはサービスが少しよくなるそうです。

 

それでは、ドイツの音楽大学の教員、ここでは教授はどのようなステータスを持っているのでしょうか?齋藤さんによると、ドイツには国立の音楽大学が十数校ありそうで、 

もちろん国立大学の教授ということなので社会的な地位もとても高く、自分の公式な生徒を10人以上持てて、さらには年収も教授職だけで月収100万くらいなのでなりたい人はたくさんいます。

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

とのこと。正直、「月収100万くらい」というのは、日本円なのか、ユーロなのか、貨幣単位が気になりますが、どちらにしても、富裕層には入りそうな雰囲気です。

 

そういえば、『のだめカンタービレ』の男主人公といってもいい千秋真一は、幼少期をドイツやフランスで過ごし、父親が国際的な地位のある音楽家でした。両親離婚の際には、父親が慰謝料代わりにニューヨークかどこかの高級マンションを母親に譲り、また母方の三好家も資産家という、父親も母方もセレブなイメージが強かったです。

 

 2-2.ドイツの音大教授の求人発表と候補者の絞り込み

齋藤さんは、まず、日本の大学教員へのなり方として、

大学院へ進学→講師→教授

という内部での動きが大きいイメージですが(音大は必ずしもこうではありませんが)

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

と仰っています。最近はそう単純ではなく、例えば、専門職大学院では取得資格の職業に実績のある士業の有資格者を募集し、論文実績よりも、その資格関係の実用書・指南書の著作数、指導力重視の観点で大学教員を募集したり、客員や特任の教員特別枠で一本釣り式の採用をしたりします。

なお、専門職大学院ほか、経済学・経営学や芸術系・スポーツ系の大学教員のなり方については、こちらを参照ください↓

大学教員 採用・人事のカラクリ (中公新書ラクレ)

大学教員 採用・人事のカラクリ (中公新書ラクレ)

 

  

本題のドイツの音楽大学では、

ドイツはそういったしがらみは一切なしで、募集をだして集められた候補者の中からオーディションによって選考されます。

 

まず応募してきた候補者の中から、誰をオーディションに招待するのかを教授たちが会議によって決めます。

大体の目安としては

・Aクラスのオーケストラの首席であること

・国際コンクールなどの受賞歴

・教育者としての実績

といった感じです。

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

とのことです。この求人を出して、集められた候補者の中から上記のような条件の水準で書類審査をするというのは、実は日本の一般的なの大学・大学院でも、教職員の求人を出して公募する際、基本的には同じだと言われています。 「Aクラスのオーケストラの主席であること」は、まさに技術が物を言う音楽という芸術分野の大学特有と言えそうです。

 

ちなみに、日本の一般的な大学・大学院の目安は、まず研究実績重視の求人だと、

 ・前提条件に査読論文や単著の学術書があること、

 ・次に国際的に水準の高い学術誌に一本以上の査読論文が掲載されていること、

 ・国内外で研究関係の受賞経験があること

の3つの条件があります。ここは、ドイツの音大と同じで、実力をはかる条件です。加えて、大学のグローバル化を掲げる日本では、

 ・海外に一定期間の留学または(研究関連での)就業経験があり、特定の外国語で

  不自由なく読み書きできて、その言語で授業が行えること

が挙がっているようです。教育重視の大学・大学院では、齋藤さんが挙げている「教育者としての実績」として、どこの教育機関で、何の教科でどのくらいの教育歴があるのか。そして、昨今では、海外実習で一ヶ月ほど、ゼミの学生を引率して受け入れ協定の大学の人たちともやっていけるか、という社交性や協調性、交渉力等を学歴・職歴で見られるそうです。

なお、日本のアカデミックポストへの応募や採用は、しがらみが強いと言われます。偉い先生の後輩、弟子筋などの人脈で研究職に引っ張ってもらうというのはあったと言われますが、ひと昔前の大学院重点化計画で急増した大学院生の数により、そういう人脈があり、かつ上記の条件を余裕で満たす優秀な人たちが何百と束になって、1つのポストに応募してくるので、やはり、しがらみ以前に実力がないとレースに参加できない現状はあるようです。

 

本題に戻ります。齋藤さんの説明では、ドイツの音大だと、応募者の中から、プロフィール選考で10人を選び、彼らに招待状を送ります。

はてなブックマークのコメントで、私は「実力高い音楽家を選定(し)て、求人出した大学から採用選抜試験の招待状を送るというのは、ある意味、日本の暗黙と言わ(れる)大学教員採用制度と似ています」と書きました。実は、日本のアカデミックポストの求人を出す場合、公募してくる人以外に、採用側から条件に合った研究者を選定して連絡し、声をかける形で、公募レースに参加させることはあるというのは、昔のボス先生が言っていました。応募者という分母を多くし、優秀な人材を多くした中で最適な人材を選出するということが、行われている。

のだめカンタービレ』でも、有名な音楽家同士の間で、オーケストラのオーディションの話題が出ている場面があったと思います。ひょっとしたら、ドイツの音大の公募に「しがらみ」はなかったとしても、その楽器の大家が演奏会などに出かけて、見つけた自分より若くて有望な音楽家に「どこどこの音大の教員公募が出ているよ」くらいの話はすること、あるのかもしれません(「推薦状が必要なら自分が書いてもよい」と言ってくることも、私の妄想ですがありそうです)。

 

 2-3.ここが違うドイツ音大「オーディションの審査員には現教授ははいれない」

いよいよ、齋藤さんのいる ヴュルツブルク音大のホルンの教授のオーディションが、やってきました。審査員は、(ヴュルツブルク音大の?

弦楽器・木管楽器金管楽器・打楽器から1~2名ずつの教授と、他大学のその楽器の教授が入ります。

 

今回でいうとマンハイムとフランクフルトの教授が来ました。

 

そして公平のために現教授は審査員にははいりません。

 

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

はい、ここも齋藤さんのこの記事へのはてなブックマークで「ただ、日本の場合、求人出した大学教員が審査員になりますが。」とコメントしました。日本の大学・大学院だと、博士論文の審査員は他大学や他の研究機関の研究者になってもらうことは可能です。しかし、求人を出して大学教員を募る場合、日本では審査員をするのは、求人を出した大学の現役教員が一般的でしょう。おそらく、他大学の教員を審査員に引っ張て来るなんていうのは、あり得ないのではないでしょうか。審査の公平性については、ドイツの音大の教授専攻のほうが高いと私も思います。

 

「オーディションの内容はソロとレッスン」で、ソロ45分の後、レッスンで学生を教えるというもののようです。日本の一般的な大学教員の採用試験で言うと、模擬授業の試験に当たるところでしょうか?大学の教員選考の模擬授業試験で、現役の学部生と院生を連れてきて、その指導を審査するというのは聞いたことがありません(密かにこういう審査をしている大学はあるのかもしれません)。が、斎藤さんの言うように、ドイツの音大では、ソロのあとに2人の学生をレッスンする審査で、

1人は学部の若い生徒で主にソロ曲

もう1人は大学院生の生徒でオーケストラスタディ(オーケストラの中でのソロなどの断片)

をやります。

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

「演奏の実力・レッスンの内容などを教授陣がみて判断」するそうですが、プロ同士の演奏者で、互いに張り詰めた空気の中、10人の審査員がいて、審査進むことが想像できます。私がレッスンを受ける学生なら、選ばれたくないです…。緊張のあまり、その場で食べた物を吐き戻してしまうかも。

 

私が面白いなと感じたのは、レッスンで教えるのが学部生、大学院生のどちらも指導対象になるということ。日本の一般的な大学では、教授で学部に着任しても、大学によっては最初は大学院の授業は担当せず、着任から一定期間を置いて、大学院の授業担当→院ゼミを持って院生の指導がスタートする、といったキャリアを教員に課しているところもあります。つまり、ドイツの音大のオーディションにおいて、学部生・院生の両方をレッスンする審査がありということは、音楽家としての高じ実力とともに、学部生と院生のどちらにも柔軟に教えられるという高い指導力が求められていると、言えるでしょう。

  

 2-4.どこまでも「公正なシステム」だけど、教員も一新するの?

齋藤さんによるドイツ音大での教授専攻を見てくると、公正と言えば公正です。そして、教授が新しく着任すると、

今の講師の先生たちは基本的に解雇です。

ということでクラスが本当に一新されることになります。

 

あまりレベルが高くなかったところも、教授が変われば今までは受験に来なかったような人材も集まったりして一気に変わります。

 

ドイツの場合、”どの音大が一番いい”というようなものはなく”この大学のこの楽器のこの教授のクラスがいい”という判断基準なんですね。

(ドイツの音大の教授は公開オーディションによって決められる より引用)

講師の先生たちは解雇されて、クラスが一新される…。『のだめカンタービレ』でも、あちこちで見覚えがありますが、本当に実力主義、かつ一人の音楽家の入れ替わりで、集まってくる人たちも変化するんですね。

 

日本でもアメリカでも、おそらくドイツでも研究重視の大学で、これやると一気に成果が下がりそうです*1理系でも、文系でも、積み上げるタイプの分野の大学には向かなさそうです。

 

こうした一つのクラス、講座での指導教職員の一新が可能なのは、音大という個人の背負う実力主義なところで成り立つ世界だからだと思いました。

 

 

3.ドイツ音大の教授選考に対する私の疑問~終わりにかえて~

公平性が高く、どこまでも音楽家個人の実力主義。それがドイツ音大の教授採用試験と選考に対して、私が抱いたイメージでした。ここで、疑問がいくつか沸いたので、最後に齋藤さんに質問をしたいと思います。

  1. ドイツ国立音大の教授には、Dr.やPh.D相当の音楽学特有の学位は必須なのか?:私が日本の学部で習ったニュージーランドの英語講師は、母国の芸術大学の修士課程で、アカデミックな修士号に相当するファインアートの学位を取得していました。そのことから、音大の教授で、楽器演奏の指導者にも、一応、博士号に相当する音楽学の学位が求められるケースがあるのか、それとも実力至上主義なのか。ありるいは、音楽学の学位が必要なのは、理論的に音楽学を研究している分野の教授だけなのか*2気になっています。
  2. ドイツの私立の音楽大学がある場合、同じような公正な教授選考になるのか?:そもそも、ドイツには私立の音楽大学があるのか、まったく知らないので、その有無を知りたいです。あるいは、音大相当の私立の音楽学校や高等専門学校みたいなところがあり、そういうところはどうなっているのか、知りたいです。
  3. 新任の教授着任で解雇された音大講師というのは、人材的流動性が高いのか?:これは、日本の博士学位持ち研究員、いわゆるポスドクが数か月から数年の有期雇用が当たり前という現状があるところから、疑問に思いました。ポスドクは、任期が切れる前に転職活動をして、次の勤務先に着任し、そこで任期が来たら、また転職で次の勤務先に内定がとれたら、そこで働く。そういう流動的な人材として、不安定なキャリアしかないポスドクの現状があり、解雇された音大講師のその後の雇用はどうなるんだろう?それとも、音大講師というのは、ドイツやEUでは流動的な人材として当たり前に認知されていて、解雇されたら実力で次の音大なり、オーケストラなり、就職先を見つけて動く。そういう流動性の高さが人材として音大講師は高いのか、疑問に思いました。

 

長くなってしまい、申し訳ありませんが、お答えいただけると大変助かります。ひょっとしたら、齋藤さんご自身の音楽家としてのキャリアのこととも関係あるかもしれませんし、ご自身のプライベートなところに踏み込んでしまっていたら、質問を換えさせて頂きます。

 

今回は、ここでお終いです。お付き合いいただき、ありがとうございました。 

*1:最近では、アメリカの新大統領就任に伴う人材制度の一環で、アメリカの国立の医療機関に勤めるアメリカ国籍の日本人研究者が、システム上、失業したらしい話を聞きました。鳥インフルエンザのワクチン開発のため、成果を上げていたアメリカ政府系研究員の方でした そういう無情的なところを思い出しました。

*2:のだめカンタービレ』で言うと、のだめの留学先のパリ音楽院の仲間・ルカの祖父が、たしか何かの演奏理論の学者で、音楽学の学位を持っていたのかもしれないと思いました。また、アメリカの場合、文芸分野の大学院では、修士課程で創作文芸の修士号を出すところもありそうです

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