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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

【2017.4.8更新】図書館の司書関係の職と人文・社会学系分野の教育のこと~「私が司書を辞めた理由を吐き出す」(Htelabo::AnonymousDiaryより)~

4月3日の晩、はてなのポータルの「はてなブックマーク」の「学び」カテゴリーを見ていたところ、「とうとう、はてブに上がってくるまで、図書館の司書関係の労働問題の話題が迫って来たか」と、軽く衝撃が走りました。毎度、おなじみの「ますだ」記事↓

anond.hatelabo.jp

 

今回は、ますだ記事をとおして、図書館の司書関係の職と人文学の教育について、少し、考えてみましょう。

 

f:id:nakami_midsuki:20170404044438j:plain

 

<本記事の内容>

1.「私が司書を辞めた理由を吐き出す」に見える司書の姿

上のますだ記事を読むと、7年ほど勤めた「学校で、司書として働いた」女性が、その仕事を辞めた時のことを回想し、退職した理由を書いたものです。ますだ記事の筆者によると、その学校に勤務していた時の司書である彼女に対する待遇は、「給料は最後の一年の毎月の手取りはフルタイムで働いて8万9千円ぐらい」。なお、ここ10年以内の話だそうです。

 

年収としては、もっと多かったはずですが、所得税や保険料が天引きされます。公立の小中高の学校に勤務する非正規の図書館司書は、この日本のご時世、手取りの給与が10万円切っても不思議ではありません。図書館司書の資格を学部・大学院で取得し、求人票をハローワークで検索した際、実際に私が見た給与もこれぐらいだったと記憶しています。

自治体に図書館の司書関係職員を派遣している企業が間に入ることが、ここ十年近く当たり前となっていて、自治体から企業を通じて派遣の図書館司書に給与が支払われる時には、各種の天引きも含めて、少なくなっています。ちなみに、指定管理者制度ができ、市民に安価で効率的なサービスを提供する目的で、公立図書館が図書館業務専門の会社等を通じて、派遣職員を手配してもらうことが一般的となりました。各大学においても、私立、そして国公立は法人化にともない、公立図書館と同じように、派遣職員を受け入れているようです。

 

さて、ますだ記事の筆者が耐えらず、「ああもう無理だわ、と思ったのは」、「保護者から給料が高いんじゃないかと全体の場で指摘されたときだった」とのこと。先の待遇と保護者の指摘が起こる背景について、ますだ記事の筆者は次のように推測しています。

そうか。保険やら何やらで差っ引かれて手取りがこれだけしかなくて、給料は上がる気配は全くないから、これから先もどんどん少なくなっていく状況だっていうのにこの人は高いと思っているのか。
もちろん、私の手取りが少なくなっていくなんてことをその人が知っているはずもない。

(私が司書を辞めた理由を吐き出す)

筆者の推測箇所を読んでいて、「やっぱり、生徒の保護者、ひょっとしたら公立図書館の利用者も似た意識を持っているかもしれない」と、悲しくなりました。そして、この学校を運営している自治体、あるいは学校法人(私立学校の場合)は、予算がないか、図書館司書を軽視しているだなと、意識が伝わってきます。

 

保護者の指摘を受けた事務員に来年は厳しいかもしれない、と言われた筆者は、その年一年だけの勤務をしたら退職することを決意。最後に校長に退職の決意を話した後、非常に驚かれたが、彼女は何とか「次の人を募集してくれと伝えた」。そして、

後任が決まり、引き継ぎをしたのは4月1日。契約は3月31日までだったが。その日の給料は一切もらっていない。代わりに、校長からの謝罪の言葉はあった。
引き継ぎを1日かけてやっていたところ、そんなにかかるとは思わなかったそうだ。
学校の事務作業と、図書室兼務で司書の資格持ってても未経験なんだから2、3時間程度で終わるわけないじゃん。馬鹿じゃない?こいつと思いつつ、他の教員の前での謝罪だったので、ちょっとだけは気分が上がった。

(私が司書を辞めた理由を吐き出す)

ということが退職決定後、後任に来引き継ぐ際に起こった。引き継ぎ日の4月1日は契約終了後の日で、給与は出ないし、「何で、引き継ぎに1日もかかるの? 数時間程度で終わるんじゃないの?」と校長に思われているだろうことを、筆者は察しています。

 

何とも、校長の学校図書館にいる司書への認識と扱いが軽く、教職員よりも下に見ている可能性すら、私は感じました。その印象があながち、的を外していないものだというのは、退職後に時間がだいぶ経ち、ますだ記事を執筆している彼女は、最後のほうで書いた文章によります。

ふと思うのは、お金がないお金がないというなら、無理矢理人を配置するべきではないだろうと。
だって、それで生活する人はいるんだからね。そういう仕事を選ぶお前が悪いという意見もあるだろうけど。司書はそういう風に言われがちなので、ちょっと辛いところかな・・・

(私が司書を辞めた理由を吐き出す)

お金がない、お金があっても図書館司書に給与は出したくない。図書館司書って、そんなに重要で重たい仕事ではないでしょう?…そういう風に校長、保護者、そして学校を運営する立場の人たちに思われているようで、歯がゆいですね。

 

悲しいかな、図書館の職員に対するこういった認識は、世間の一般人にとって、けっこう当たり前のことだというのは、私が司書の資格課程を履修していた時、図書館学の各授業で様々な先生方からお聞きしていました。悔しいですけれど、これが現実だと言い聞かせ、大学院を出た後の就職活動で求人票を検索し、ハローワークの職員と相談しました。ハローワークとは別で、自治体や私立学校協会の臨時講師に登録していたところから、何件かの非常勤講師のお話をいただき、結局、私は非常勤講師に行くことに決めたのです。

 

より詳しい図書館司書と「官製貧困」とも言われる問題については、次のネット記事が分かりやすいと思います。

toyokeizai.net

 

 

2.図書館の司書関係の資格にも種類がある

さて、一口に司書といっても、その資格には種類があります。主に2種類あって、

 ①図書館司書資格(要修得単位数は26単位)

 ②学校図書館司書教諭(同単位数は10単位)

です。①は、公立図書館、求人があれば小中高の学校図書館大学図書館等に勤務するのに「望ましい」、あるいは「必要」と求人票に書かれているところがあります。②のほうは、教員免許状に上記要修得単位を上乗せして取れる資格であり、主に小中高の学校図書館(図書室)で働ける資格です。大雑把な私のイメージでは、②よりも、①のほうが応募できる職場の幅は多い感じです。

 

①と②の資格が取れる教育課程やコースを置いているのは、人文・社会学系の学部・大学院が主だと思われます。①のほうは、図書館に受け入れた本を分類する方法、図書館のサービスや運営・経営論、来館者が知りたい情報にアクセスできるように事典や新聞、専門書等の図書館資料を駆使してお手伝いするレファレンス業務などの各種授業があります。②のほうは、学校のおいて児童・生徒への読書を通じた人間性豊かな教育方法、それから学校図書館ならではの資料の構成とそれらを使っての指導法等を授業で学びます。

 

①にしても②にしても、資格を本気で取得しようとすると、かなり大変です。例えば、①を取得しようとした場合、実践的な授業が多いから労力を割く必要があります。図書館情報サービス演習では、レファレンス課題を出され、実際に大学図書館の資料を使い、課題にある設問に沿って、情報にたどり着き、その情報だけでなく、たどり着くまでのツールと経緯を全部、レポートに書かないといけない。しかも、毎週、レファレンス課題は出されます。一方、図書館運営・経営論の授業では、講義を受けた後、自分でどれか図書館を選び、調査に行って選んだ図書館の特徴と課題を見つけ出し、改善案のピックアップまで、レポートにまとめないといけませんでした。

②のほうについても、基礎資格の教員免許を取得した上で、講義を受けた後、授業ごとに、例えば「夏休みの読書感想文の推薦図書の冊子作成」、「学校での調べ学習の際に事典類やシリーズ本の使い方を説明した教材の作成」(ざっくり言うとパスファインダー)を前期・後期で授業につき3回くらい、レポートにして提出しないといけません。

 

取得したとしも、先のますだ記事にあるように、給与が低く、おまけに業務内容が多いわりに軽くみられがちな傾向があるため、勤務しているうち、苦しくなる人もいます。大学時代に叩きこまれる技術には、けっこう、専門的かつ実践的なものが含まれています。例えば、大学の図書館や資料室では、受け入れた資料に番号を付け、検索システムに書誌情報を登録する業務があります。司書は立派な専門職です↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

ですが、いかんせん、ますだ記事のコメントにあるように、

その保護者の司書に対する印象ってのもそういうことでしょ

大して何にもすることもないラク~な仕事なんだろそれで給料もらえるだけでありがたいと思えよったくよー!
くらいの印象なんだろ

(私が司書を辞めた理由を吐き出す)

という印象を①や②として勤務している人に対し、抱いている人がいるのは、事実です。やりがいはあっても、低い給与と軽くみられる自分の立ち場に、耐えられなくなる人も出てくるでしょう。実際、私だったら耐えられなくなっていたでしょう。ぶっちゃけ、公立図書館に自治体職員が赴任した時、①の資格がなくても勤務はできる仕組みになっています。図書館学の専門家じゃなくても、いいという現実があり、必要なら通信教育や短期間の図書館実習で①の資格が取れてしまう制度があるんです!そりゃ、図書館の司書職の人たちが軽視されても、おかしくないです。

 

さて、本好きの文系学部生・院生には、①と②は取得するのが人気の資格であり、私が次のogetterまとめを読んだ限り、特に①は受講生がある程度、多いと思われます。

togetter.com

 

与太話として、①と②が人気のある資格ということは、その図書館学関係の授業を教える大学教員のポストもあるわけで、文系分野では珍しく、特に図書館情報学の専攻をする院生は、他の文系分野に比べると、生計は経ちそうなんだって↓

d.hatena.ne.jp

 

ただ、実際に人文科学系の学部で大学教員をされており、このtogetterでツイートされている大橋崇行さん*1のお話では、上に述べたような状況から、軽い気持ちで取ろうとしないほうがいいと指摘されています。どうしても取得するなら、国語科、私としては社会科や英語科の教員免許に上乗せする形で②のほうを取った方が、取得にかかる負担は①よりも少ないと考えていますし、実際に学校に赴任後、分掌業務や部活動の顧問をする際、便利なことがあるかと思いました。

 

関連する求人として、次の国立国会図書館の職員、国立大学法人の図書の職員が挙げられます。

 ・採用情報|国立国会図書館―National Diet Library

 ・一般社団法人 国立大学協会 <国立大学協会の情報>国立大学法人等職員をめざす方へ(各地方の国立大学法人等のページへ行くと詳細あり)

日本の国立国会図書館の職員になるには、私の大学院時代の時には、特に司書資格は受験資格に含まれていませんでした。あと、国立大学法人等職員統一採用試験には、事務系の中に図書の枠があります。それぞれ、必要な資格は、細かなところが変更されていることがありますので、チェックしてみてはいかがでしょうか?

(筆記試験の教養科目部分は、公務員や教員採用試験と近いところがある模様…)

 

 

3.司書関係の職と人文・社会学系分野の教育について

さて、司書を進路希望する学生さんへ - Togetterまとめでツイートなさっている大橋崇行さんは、日本近代文学の山田美妙の研究で博士号を取得されています。近代日本文学者である彼のツイート、それから私が図書館司書の課程を履修していた経験上、人文・社会学系の受講生には、かなりの数の修士課程以上の院生がいました。要は、ある程度、文献資料の扱いが必要であり、その技術に長けた図書館司書が養成される傾向があると考えられます。

 

技術を持った図書館司書は、どの時代のどういった物事に対してどんなことを調べようとしたら、どんな方法でどこを調べたらいいのか?という調査方法にある程度、当たりを付けられる力が磨かれています。加えて、資料を使った講義の組み立て方もしやすくなるため、教育関係のフリーターをしていた時、かなり助かりました*2。特に②の資格を持っていると、小中高の児童・生徒の発達段階に合わせた選書スキルがあるため、より教材研究をする上で強みがとなりそうです。

 

こうした選書の勘というのは、本を扱う上で、やはり人文・社会学系の知識は必要となってきますし、また、地方自治体では地域史や文化に関する資料を扱ったり、海外の友好都市と関連した資料を必要とする来館者に向けた選書がをしたりする時、役立つと言えます。例えば、私は地方出身なんですが、中学生の時、公立図書館で中国史の学術書を手に取ったことが、東アジアに関心を持つきっかけとなり、10代で自治体の派遣事業を通じて中国と韓国を訪問し、それが、博士課程に進む遠因となりました。

 

自分の体験をもとに説明するのは説得力が欠けるかもしれませんが、もし、地元の図書館に中国史の学術書が入っていなければ、近隣地域に対して現在ほど知識を持ち、ある程度、中国語や韓国語を話し、東アジア出身の留学生や観光客と気軽に会話をすることもなかったでしょう。近年の海外からの観光客の増加に対しても、日本の観光地で起こる外国人観光客のトラブルをニュースで聞くたび、だいぶ冷たい見方をしていたかもしれません。海外への関心を開き、現在、こうしたブログを書き、様々な方々とブログを通じて交流ができているのは、地元の図書館が出会った中国史の本から始まったと言っても過言ではありません。

 

海外への私の関心を開き、異文化との接触時に抵抗を感じること割とが少なく、在日外国人の多い地域に行っても、困っている外国人がいたら道や交通の案内をできているのは、今の私には非常に助かっています。極端に言うと、人文・社会学系分野の選書は、私にとって、異文化圏の人と接触した時、トラブルを起こさずに対応するという意味において、役に立つと思いました。そして、異文化を知るということは、すなわち、自分の属していた文化圏のことを知り、やより生きやすく、快適に暮らしていくということです(だいたい、こういうことです:"在異郷知我事"ということ~NHK「関口知宏の中国鉄道大紀行」を起点として~ - 仲見満月の研究室))。ひいては、学校教育における人文・社会学系の教育は、人との意思疎通を含めて、我々の生活の助けとなるんです。

 

以上のような人文学の価値については、次の記事でも書きましたいし、追記した読者の方の情報によると、社会(科)学系の分野を含めて、私が上に述べた意義は、文科省認識していています:第三章 人文学及び社会科学の役割・機能:文部科学省

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

4.まとめ

そんなわけで、人文・社会学系の院卒の図書館司書は、我々の生活をよりスムーズに、そして快適にするために、必要だといえます。ところがギッチョン、日本における図書館の司書関係の職は地位が低く、専門職と到底認められていないと思われます。大学だけでなく、国から出された教育関係の予算について、地方自治体は学校の図書購入費用には回さない傾向があり、また、公立図書館や大学図書館の図書購入費用も減ってきていると言われています。

 

つまり、国と地方自治体は、教育に予算を回そうとしていない傾向と解釈できるんです。このままだと、人文・社会学系の教育が縮小してゆき、その指導者たちも十分な教育を児童・生徒に行えなくなってくるでしょう。教材として活用できる本だって、減っていくでしょうし、これらの分野に興味を持った児童・生徒がいたとしても、学校教員や司書自身が本を手に取れなくなってしまうと、教え子の関心に合わせたガイドが難しくなると考えらえらます。児童・生徒には、成長してく中で視野が狭くなって、精神的に余裕がな生活を送る人も出てくるでしょう。

 

詰まるところ、学校教育の現場、その延長線上の社会教育の観点から、図書館の司書関係の職の雇用問題(主に待遇面)、それと関連した人文・社会学系分野の教育について、その価値を意識し、自治体や学校法人、国、そして社会に訴えていかなければならないと私は考えました。本記事のお話は、ここで、おしまいです。

 

 

5.「大学で学芸員や図書館司書の授業やるのやめませんか?」(2017.4.8追記)

人文科学で生計が立てられる、という夢を見せてはいけないため、学芸員や図書館司書の養成はやめましょう、ということを提案する「ますだ記事」です↓

anond.hatelabo.jp

博士後期課程に進んでも人並みの人生も幸福も手に入る そう、図書館情報学ならね - かたつむりは電子図書館の夢をみるかで、職業研究者として図書館学に携わる人たちの存在を考えると、私は複雑な気持ちになりました。

 

 

6.余談:在野研究と公立図書館・大学図書館の予算削減、その他

在野で一応、研究している私が今回の記事を書いていて、気が付いたのは、このままだと、公立図書館も、大学図書館でも図書購入の予算が減っていき、在野での研究がしにくくなる可能性が出てくることです。というか、既に地方にいる在野研究者は、その問題に直面しているかもしれません。【追記】人文学の「価値」を「正面から問うこと」の一連の議論について - 仲見満月の研究室に書いた、人文学で生計を立てる職業研究者の消滅は、その分野の学術書を求める人たちがいなくなり、また書く人も減るわけですから、在野研究者にも少なからず、影響すると思われます。

 

日本全国で、「図書館の本を買うお金を減らせ!」、「無料の貸本屋である図書館は、出版・書店業界を圧迫している」といった批判があるのは、私も知っております。一応、説明をしておくと、図書館は貸出冊数の多い本を実績として挙げ、予算をたくさんとってきて、その予算の一部で学術書や辞典類、来館者からリクエストのある貸出の少なそうな本を買っている裏事情があるそうです(小耳にはさんだ情報)。

 

裏の事情を知っている私としては、複雑な思いを抱えております。よい解決策って、ないでしょうかね。と、図書館司書課程を履修していた時に、レポート執筆で読んだ本を読み返しています↓

 

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