読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

よく知られていない学芸員の話 その3+α:博物館の理系学芸員や科学館等の職員のお仕事

<今回は理系の博物館等のお仕事紹介です>

1.はじめに

本記事は、次の2件の記事の続編に当たります。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

その1では、学芸員に対する山本大臣の不適切な発言とネットでの反応の経緯等をまとめ、その2では発言を受けて人文・社会学系の学芸員の仕事となり方について、扱いました。

 

発端はその1で取り上げた山本大臣の発言で、その後、他の記事を書きながら、発言に対する様々な反応を調べていました。次のような反応が現場ではあったようです。朝日新聞の記事をリンクしておきます。

学芸員はがん? 大臣発言が波紋、問われる役割:朝日新聞デジタル

 

一方、各学会では、例えば、全日本博物館学会にはトップページに発言に対する声明がPDFで出されていました。また、次の日本生態学会の声明のニュース記事を見つけました:

www.asahi.com

 短い記事ですので、記録のためにも全文転載させて頂きます。

学芸員は重要」日本生態学会が声明 「がん」発言受け

2017年4月21日16時41分

日本生態学会(可知直毅会長)は、ネット上に「博物館とそれを支える学芸員の重要性を改めて確認します」という声明を出した。

「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相


 山本幸三・地方創生相が16日に「がんは学芸員」と発言したことがきっかけ。文化系の学芸員を念頭に置いた発言だったが、同学会の会員約4千人には博物館や動物園、水族館などの学芸員約200人も含まれ「役割が理解されていない」と危機感が広がった。

 声明は、19日に学会のホームページに掲載し、ツイッターでも配信。学芸員や研究員などの博物館職員について「日本の博物館は、国際的に高い評価を受けていますが、それは博物館職員の日々たゆまぬ努力の結果です」などと訴えている。

 学芸員は科学的に貴重な資料の収集や展示のほか、教育・普及活動も担う存在だ。「がん」発言後に学会で議論したが「社会に十分認知されていない」という声が多かったという。可知会長は「学会員にも世の中の理解や支援が重要だと再認識してほしい」と話している。(小堀龍之)

 (「学芸員は重要」日本生態学会が声明 「がん」発言受け:朝日新聞デジタル)

この朝日新聞のニュース記事によると、山本大臣の発言は「文化系の学芸員を念頭に置いた」ものとされていますが、日本生態学会の「会員約4千人には博物館や動物園、水族館などの学芸員約200人も含まれ「役割が理解されていない」と危機感が広がった」ことが報じられています。日本生態学会の声明は同学会のサイトにPDFで出ているので、全文をご確認いただけたらと思います。

 

一応、本ブログでは文系の研究分野をメインとしていますが、朝日新聞のニュース記事を読み、理系の施設の学芸員や博物館職員の仕事の重要性を実感しました。実は、

【ニュース】researchmap登録者の新しい区分に図書館司書・学芸員ほか色々と検討開始 - 仲見満月の研究室のtogetterまとめにも、「 学芸員のような職務内容だが職名を学芸員としていない職場が、自然公園関係などに多い」というツイートを私が拾い、その2で紹介した人文・社会学系の学芸員と同様に、理系の施設には様々な仕事で関わっている人たちがいると気になっていました。

 

そこで、今回は「よく知られていない学芸員の話 その3+α」と題して、博物館の理系学芸員、科学館等で職員をされている方々のお仕事を一部、紹介させて頂くことにしました。取り上げるのは、那須野が原博物館の学芸員・多和田潤治さん、日本科学未来館勤務の岡野麻衣子さんのお二人です。なお、水族館や自然公園、動物園や植物園等、扱えない施設につきましては、機会があれば追って紹介したいと考えております。ご了承ください。

 

f:id:nakami_midsuki:20170426160406j:plain

(イメージ画像:上野の国立科学博物館)

 

 

2.那須野が原博物館の理系学芸員・多和田潤治さんの場合

その2でもお世話になりました、次の読売新聞のニュース記事に、理系学芸員の方のお仕事が分かりやすく書かれていました。紹介させて頂きます。

www.yomiuri.co.jp

 

栃木県那須塩原市にある那須野が原博物館。就職活動で3つの博物館を含む採用試験に挑戦し、他の会社の内定を断って、この施設の前身である西那須野町郷土資料館に決めたのが、学芸員・多和田潤治さんです。読売新聞のニュース記事によると、

生き物と博物館が大好きで、中学生の頃から学芸員になりたいと思っていました。趣味は博物館巡り。大学生時代は1年に約70館は行きました。

学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

ということですから、私が学芸員課程の見学授業や実習で行った施設を大きく上回っています。博物館マニアと言っても、いいのではないでしょうか。なお、那須野が原博物館のサイトを見ると、民俗の臨時学芸員の募集があり、どうやら地域の文化と自然の両方を扱う文理の職員がいる施設のようです。

 

さて、生き物が好きな多和田さんは、大学ではイネ科の植物の遺伝子研究をしていました。しかし、この植物は標本にすると劣化するため、学芸員として働き出してからは、子どもたちに好まれ、展示にすると映える昆虫の研究に転向したようです。

イネ科の植物の話が出たので、ついでに書いておくと、考古学が専門の人には、理系出身の人が一定数います。遺跡から出てくる植物の遺物を調べ、その土地に住んでいた住民の食生活を明らかにしたり、集団墓地に当たると埋葬されている人骨を調べ、その時代の生物学的な人種の系統を分析したり(自然人類学に近い分野)、それと同時に文化的な方面の研究にも携わる研究者が出て来るんですね。逆に、もともと文学部出身で考古学に入って来た人のなかには、エジプト考古学者の吉村作治先生が工学の博士号をお持ちのように、理系のほうに入っていく人もいるようです。

 

話をもとに戻しましょう。多和田さんが主に研究している昆虫は「オサムシ」。あの漫画の神様・手塚治虫ペンネームの由来になった昆虫です。オサムシ」は、「環境指標性生物」(種によって生息環境が細かく分かれていているため)として、注目を集めています。多和田さんは、オサムシの調査をとおして植生や環境の変化の証明を目指し、また、この地域に住む生物に思いをはせてもらいながら、自然を守ることを視野にいれておられるとのことでした。

 

その2では、学芸員は広範囲の仕事を担うことがあるため、「雑芸員」とも言われることをお話ししました。それは多和田さんのような理系学芸員も同じようです。多和田さんは、

専門外の動物や化石の展示のため一から勉強し、研究者を探して指導もしてもらいます。他にも仕事はたくさん。広報担当としてホームページ更新や広報誌への原稿執筆があり、展示の際には入札にも関わります。体験講座の運営や学芸員を目指す学生の指導もしています。

と仰っておられるように、学芸員の行うことが多い企画・展示と入札から、「それって、営業や広報の別の職員がするんじゃないの?」と言われそうな広報関係の業務、社会教育としての博物館の役割である教育普及の仕事、学芸員を目指す後身の育成をしています。そんなわけで、「自分の専門は後回しになることが多いです」とのこと。

 

「雑芸員」とはいえ、「表の仕事はやはり展示」で、「3年前」の2012年の企画展「塩原の自然」では、いろいろと「趣向を凝らしたつもりだったのですが、来館者数は伸びませんでした」と、反省。多和田さん曰く「見せたい、知ってもらいたいことと、お客さんが求めることが乖離かいりしていた」ことに気がつかれたそうです。

 

「虫仕事は何でも」されているらしき多和田さん。学芸員として経験を積む中で、

専門性が高すぎたり、淡々としていたりするとつまらない。ただ標本を並べるのではなく、生き生きしているように見せる工夫をしたり、日本地図上に並べて分布をわかりやすくするとか、昆虫の生態や特徴が一目でわかる展示を目指しています。見栄えのする展示は来館の動機になります。来館者に寄り添って、楽しみながら学べる展示を心がけていきたいです。

学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

と、専門性を高くしつつ、来館者の人たちの目線で楽しみ学べる博物館を目標に、お仕事をされているようでした。

 

 

3.日本科学未来館勤務の岡野麻衣子さんの場合

多和田さんは生物学のご出身の理系学芸員でしたが、次に紹介するのは、東京お台場にある日本科学未来館の職員をされている岡野麻衣子さんです。学芸員とはまた異なる岡野さんの経歴や仕事内容について、何度か本ブログで紹介している「理系人生カタログ」をもとに、見ていきましょう。

日本科学未来館とは、「宇宙飛行士の毛利衛さんが館長であることでも有名」な施設であり、「ここで科学を伝える仕事をしている」のが岡野さん。未来館のオープンは、2001年で、岡野さんが北里大学大学院医療系研究科博士課程(四年制)の3年生の時でした。テレビの紹介で、毛利さんとロボットのアシモが握手するのを見て岡野さんは感動し、ちょうど、就活を考えていたところ、新聞で未来館の職員募集を発見しました。博士4年の時に未来館での仕事が始まるというタイミングで、博士論文のラストスパート開始時期であり、「非常に教授に怒られた」岡野さんは、

  • 土日の非常勤で土日メインで勤務すること
  • 研究には絶対に支障をきたさないこと

の条件を出して説得し、「インタープリターと呼ばれる解説員」として非常勤で勤務を始めます。実は、文理の分野を問わず、院生時代にアルバイトや非常勤で勤務していた施設に大学院を出た後、そのまま、就職するケースがあります。岡野さんは生命科学を先行されていて、医師でないほうの医学博士号を持っていて、理系とはいえ、分野的に就職が少なくなってきてると言われる生命科学の人でした。もし、未来館の非常勤をしていなかったら、安定した就職先に就けていなかったかもしれません。博士院生の皆さん、研究も大切ですが、就職に繋がりそうなアルバイトや非常勤の勤務先も大事にしましょう。

 

 3-1.インタープリターのお仕事

さて、もとは自然公園等で解説業務を行うことから、派生して科学博物館の解説員にも使われるようになったインタープリターという仕事。例えば、未来館では見学に来る児童・生徒や一般の人向けに、宇宙工学や天文学、それらを支える物理学等の解説を装置模型の前で行うことが主な業務のようです。岡野さんの教授は、

「海外では科研費のを申請する時にマンガを描くんだ。マンガのようにどれだけわかりやすく説得するかが重要なんだ。それでないと自分達の実験費はとれないんだ」

(本書の『理系なお姉さんは苦手ですか?』p.59)

というほど、門外漢にも分かるように説明しなさい、という姿勢の人だったそうです。岡野さんは、未来館でのインタープリターの仕事で、科学の現場を社会に伝えようとしますが、最初は、なかなか大変だったよう。展示物の解説では、「いかに一般の人にわかりやすく説明できるかが重要」ということで、逆に生命科学出身者の素人だからこそ、未来館の解説をしやすいのでは?と気がつきます。また、言葉の定義によるイメージを来館者が必要としていることを発見。

 

分かりやすい説明だけでは、お客さんは聞いてくれない。「インタープリターは高飛車だと」言われ、どうやら、来館者に「知ってて当然でしょう?」という目線で話している印象を与えていることにも気がつきました。お客さんとの対話を繰り返す中で、装置の開発者の好きな食べ物を説明し(小柴昌俊氏はアイスクリームが好きとか)、人物から入ってもらう解説術を身につけます。

 

 3-2.学校や教育機関と連携した教育普及と理科教育のお仕事

様々な努力を積んでインタプリタ―、フロア解説員の経て、岡野さんが携わったのは、未来館が取り組んでいる「学校や教育機関と連携した活動モデルの開発と普及活動」の仕事で、2008年まで携わっていたようです。文科省は、「学校が郊外と連携することを推進しているけれど、先生はどこで何をすれば良いかわからない」ため、未来館の利用を検討してもらったとのこと。具体的な取り組みとしては、子どもたちにワークシートを書かせますが、それは一行でも答えが成り立つような質問の作りをしたものを準備し、設問の答えを繋げると、プレゼンができるような内容のものでした。プレゼンのあとは、聞いていた人たちが良い点をあげるようにして、褒めるように持っていくと、非常に良い雰囲気のまま帰っていき、こうして生徒を変えていき、ひいては先生たちを変えていこうとしたそうです。

 

他にも、学校への訪問講義や視察を通じて、理科の実験でマッチが擦れなかったり、金網の表裏を知らなかったりする先生に遭遇し、とにかく、先生たちを変えていく必要性を痛感されたようです。著者の内田氏の指摘では、小学校教員は文系出身者が多いようで、中高の教科担当制と異なり、全科目を一人で担当しないといけない事情から、どうしても苦手な理科の実験など、小学校で理科教育が危ういような場面もあったと思われます。

中高の視察では、生徒の学力や表現力のレベルは高いものの、自分の将来について考える時間を与えたほうがいいのではないか?ということを感じたそうです。こうした生徒達には、自分の立場を与えられるだけでなく、自分で立場を明確にし、納得した上で進めていく教育で、例えば、訓練としてディベートがいいんじゃないかと答えていらっしゃいました。

 

 3-3.岡野麻衣子さんのお仕事まとめ

インタープリター→フロア解説員→学校や教育機関と連携した教育普及と理科教育のお仕事を経た岡野さんは、次に未来館の運営業務をされておられます。理系大学院で博士号の取得を目指しつつ、非常勤で始めた科学館勤務ですが、大学院を出た後は解説員の業務をされ、その後は教育普及や理科教育のお仕事をされています。先の多和田さん理系学芸員のお仕事に比べると、岡野さんが携わってきたお仕事は、その2で紹介した「6ー3.東京都現代美術館の学芸員の仕事」で取り上げた、教育普及係やガイドスタッフといった少し異なる部門の仕事だと言えそうです。

 

日本科学未来館のその他のお仕事を調べていたところ、スタッフとして、インタープリターや教育普及の担当者と別で、展示や企画を担当する学芸員がいるようです↓

mikata.shingaku.mynavi.jp

 

 

4.まとめ

 以上、那須野が原博物館の学芸員・多和田潤治さん、日本科学未来館勤務の岡野麻衣子さんのお二人のお仕事を紹介いたしました。人文・社会学系の学芸員と比較すると、学芸員の仕事内容の枠組みの基本は、変わらないようですが、扱う分野や研究対象によって、細かな業務は変わってくるのではないでしょうか?

 

今回は、理系施設の現場で、学芸員の仕事とは、少し異なる日本未来館の岡野さんの携わって来たお仕事を取り上げました。特に、未来館では学芸員と、それ以外の解説や教育普及の業務はわかれていることが分かりました。おそらく、人文・社会学系の美術館や博物館でも、大きな施設では学芸員とそれ以外の仕事区分が明確に分かれていると思われます。

 

本記事で取り上げた博物館の理系学芸員や科学館等の職員のお仕事は、ごく一部です。日本、それから世界には、もっと多様な仕事が存在するでしょう。これからも、研究業界や大学院生との関連で、美術館や博物館、科学館等のお仕事を紹介していけたらと、考えております。ここで一旦、「よく知られていない学芸員の話」シリーズを区切ります。お読みいただき、ありがとうございました。

 

 

<関連記事>

naka3-3dsuki.hatenablog.com

naka3-3dsuki.hatenablog.com

↓いいね!だったら、ポチッとお願いします。

にほんブログ村 大学生日記ブログ 博士課程大学院生へ
にほんブログ村