仲見満月の研究室

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雑誌図書館の新たな挑戦~「苦境の大宅壮一文庫、クラウドファンディングで資金募集」(朝日新聞)ほか~

<本記事の内容>

1.雑誌の図書館、クラウドファンディングに乗り出す

大学図書館が契約しているオンラインデータベースを使ったことのある方には、聞いたことがあるかもしれない、大宅壮一文庫(ちなみに、公益財団法人)。ここが財政難になっていると報道されて、暫く経ちます*1。今回、朝日新聞デジタルの記事によると、当文庫がクラウドファンディングでの運営資金集めに乗り出したようです:

www.asahi.com

 

苦境の大宅壮一文庫クラウドファンディングで資金募集

塩原賢 2017年5月18日19時21分 

 

 運営難が続く雑誌専門の図書館「大宅壮一文庫」(東京都世田谷区)が18日、クラウドファンディング(CF)で運営資金の募集を始めた。ネットの普及や出版市場の縮小に伴い利用者が減少。積み立てを切り崩して運営していた。 

 

 CF最大手のサイト「レディーフォー」(https://readyfor.jp/projects/oya-bunko別ウインドウで開きます)で6月30日まで受け付ける。目標額は500万円だが、下回った場合は全額返金する。3千~10万円までの5段階の出資額に応じて、入館料が無料になったり、書庫を自由に閲覧できたりといった特典を「購入」する方式。

 

 同文庫は評論家・大宅壮一氏(1900~70年)の遺志により、氏のコレクションを元に71年に開館。現在の蔵書は約78万冊で、明治、大正期の創刊号などもある。マスコミ関係者の利用が多く、2015年度は延べ約8万7千人が利用した。昨年度は約500万円の赤字を見込む。

 

 鳥山輝専務理事(69)は「ノンフィクションや出版文化を支えてきた。CFを通して、存在意義を理解してもらいたい」と話す。(塩原賢)

 

(苦境の大宅壮一文庫、クラウドファンディングで資金募集:朝日新聞デジタル)

 

お恥ずかしながら、私は学部時代にレポートで使ったのは大衆雑誌よりも新聞を使うケースが多く、文庫の存在については「雑誌専門の図書館」だと知っていたものの、蔵書主の大宅壮一のことは全く知らないに等しかったです。

 

いろいろと大宅壮一 - Wikipediaを読んだところ、1900年生まれで大阪出身の記者であり、日中戦争では1927年の南京攻略戦に同行し、太平洋戦争中の1941年には海軍宣伝班としてジャワ作戦に配属されたり、戦中は従軍ジャーナリストをしていたようです。晩年には、中華人民共和国文化大革命を見聞したこともあるようで、日本国外にも目を向けていたようです。

 

1967年1月に「大宅壮一東京マスコミ塾」を開いたほか、没年の1970年に彼の名を冠した「大宅壮一ノンフィクション賞」が発足。第32回には、写真家・ノンフィクション作家の星野博美が『転がる香港に苔は生えない』で大賞を受賞しました。

 

「恐妻」や「口コミ」といった、今でも使われる言葉を生み出した。そんなジャーナリストだった彼が生前に集めた雑誌を中心に約20万冊を収蔵しているのが、件の大宅壮一文庫です。朝日新聞の報道では、「現在の蔵書は約78万冊」ということで、約4倍に蔵書が増えています。「明治、大正期の創刊号などもあ」り、「マスコミ関係者の利用が多く、2015年度は延べ約8万7千人が利用」。「昨年度は約500万円の赤字を見込む」ということで、公益財団法人の当文庫も「お金を下さい!」とクラウドファンディングに乗り出したとのことでした↓

 

readyfor.jp

 

ちなみに上のページによると、「大宅壮一は『実録・天皇記』や大宅版・大正史を企図した『炎は流れる』といった作品のため、たくさんの資料を収集しました。取材に出かけた先でも古書店を巡り、鉄道便で大量のダンボール箱が自宅へ届きました」ということで、歴史に関わる著作も成していたことが分かります。

 

次の項では、上記のクラウドファンディングのページを中心に、当文庫の蔵書や利用できるサービスを紹介し、この文庫が置かれている状況とリターン等について取り上げ、他の図書館のクラウドファンディングにも応用できるか、少し考えてみたいと思います。

 

f:id:nakami_midsuki:20170521105945j:plain

 

 

2.大宅壮一文庫の蔵書や利用できるサービス

大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生した雑誌の図書館(雑誌の図書館 大宅壮一文庫事務局 鴨志田浩) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)によると、当文庫では次のような雑誌が収蔵されているようです。

  • 所蔵する雑誌で一番古いものは、1875(明治8)年の「會館雑誌」:これは華族会館が発行所となっており、「天覧議事記」や「天覧講義記」といった記事が掲載されている
  • 日本で最初の雑誌として発行された「西洋雑誌」:1867(慶応3)年にこの雑誌が発行されてから今年で150年が経ち、明治、大正、昭和、平成それぞれの時代を「創刊号」から体験することができる

 

当ページでは、雑誌広告の楽しみ方も紹介されています。

「ライオン歯磨(現:ライオン株式会社)」や「松屋呉服店(現:株式会社 松屋)」等の雑誌広告を実際に見ることができますし、「アンノン族」を生み出した国鉄(現:JR各社)の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン、また航空会社や繊維メーカーのキャンペーンガールの移り変わりを眺めることもできるでしょう。

大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生した雑誌の図書館(雑誌の図書館 大宅壮一文庫事務局 鴨志田浩) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)

 

このような様々な雑誌を大宅壮一文庫で利用するにあたって、来館して閲覧することに加え、利用できるサービスでは、次のようなものがあります。

  • 独自の「大宅式分類法」という索引システム

  …図書館分類法とは異なり、身近な言葉(キーワード)から手早く資料に辿り着くことを重視した索引体系。現在では雑誌記事索引データベース 「Web OYA-bunko」として国内外で利用されている

  …“人物情報”では、政治家や芸能人、著名アスリートをはじめ、アカデミズム出身でない人物やベンチャービジネスの経営者、それも「雅子妃」や「秋篠宮佳子」といった皇族からアニメ監督「新海誠」プロデューサー「川村元気」、ロボット製作者の「石黒浩」「高橋智隆」まで、一般雑誌ならではの情報が調べられる模様

 

このほか、 公式サイトの公益財団法人大宅壮一文庫を読むと、「コピーを希望される記事の雑誌名・発行日が明確な場合は「代引き宅配便」」である「資料配送サービス」、「最新の雑誌記事索引データや、記事コピーをファクシミリで」送る「ファクシミリ・サービス」等もされているようです。

 

 

3.この雑誌図書館が置かれている状況と雑誌記事の魅力

この文庫が置かれている現状は、まず、クラウドファンディングのページの「インターネットにはない、時代を超えて雑文を手にする喜びを」の段落で、次のように書かれています。

 

近年、インターネットから簡単に情報にアクセスできる時代となり、文庫自体の利用者が減少し、従来通りの運営を続けていくことが難しくなっています。データベース利用者を除く直接利用者はピーク時に比べ半分近くに減っています。

無限とも思える情報が詰まったネット世界には、求める情報にピンポイントでたどり着けますが、その分、周辺情報への関心が薄れてしまいます。雑誌をめくると、興味ある記事とは別のページに近い情報があったり、興味から好奇心に膨らんでいくことができると思っています。

大宅壮一は、雑誌の魅力をこう語りました。
「雑誌に掲載されるものは部分的なものである。従ってまとまりに欠ける。一部ではこれを雑文といってケイベツする。しかし生活の合間に読むこれらの文章に、われわれは案外大きな影響を受けているのである。それは新聞同様に読み捨て去られるものかもしれない。しかし現代の社会生活の上に、雑文や“軽評論”の類は、図書館や書斎でホコリを浴びている古典や学者の大論文よりも、はるかに大きな役割をしめているのだ」

 

大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生した雑誌の図書館(雑誌の図書館 大宅壮一文庫事務局 鴨志田浩) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)

 

書かれていることは、私が学術論文のオンライン検索のサービスが進む中、図書館司書課程の授業で言われていたことと同じです。「無限とも思える情報が詰まったネット世界には、求める情報にピンポイントでたどり着けますが、その分、周辺情報への関心が薄れてしまいます」という部分が、そうです。探していた論文や記事の前後のタイトルの内容を読むことで、求めていたメインの部分の理解が深まることは、よくありました。それは、学術領域の論文だろうと、ジャーナリズム寄りの評論だろうと、変わらないのではないでしょうか。

 

続いて、この文庫だからこそ、伝えられる雑誌の魅力や利点を記録しておこうと思います。

 

時代を切り取り、多角的な視点を持たせてくれる雑誌を守る

 

雑誌記事は新聞記事やテレビニュースより速報性に劣りますが、入念な後追い取材が可能という利点もあります。また一冊の書籍を構成する重厚長大なテーマやそれを書き上げるまでの著者の労力よりも、軽いフットワークで身近な話題をいくつでも取り上げることができます。同じ事件を異なる視点から追った記事が同時に掲載されることも珍しくありません。短い字数でアプローチの異なる情報を数多く収集することが可能なのです。

われわれは「雑誌の図書館 大宅壮一文庫」とその所蔵する雑誌資料にはまだまだ発掘し切れていない価値と、未来に向けて活動を続けていく使命があると信じています。どうか一緒に「雑誌の図書館 大宅壮一文庫」を守っていってください。

 

(大宅壮一文庫を存続させたい。日本で最初に誕生した雑誌の図書館(雑誌の図書館 大宅壮一文庫事務局 鴨志田浩) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー))

 

そう!雑誌記事の「入念な後追い取材が可能という利点」、および「一冊の書籍を構成する重厚長大なテーマやそれを書き上げるまでの著者の労力よりも、軽いフットワークで身近な話題をいくつでも取り上げることができ」るところは、私が本ブログで目指しているところでもあります。特に、2017年の4月は、速報性も重視しつつ、ある程度、調べをして自分の見解も練り込み、長めの文章を書いていました。身近なキャッチした上で、新聞やネットニュースにはない情報を調べ、自分の経験も踏まえて書くブログ記事は、私が心がけていることでもあるんです。ときたま、本のレビューを記事に入れているのも、文献情報を調べていることの証左にしております

(まあ、ここはオンラインマガジンではありませんが・・・)

 

 

4.資金の使い道とリターン

クラウドファンディングで集めた資金の使い道、および支援のコースごとのリターンをここでは紹介致します。

 

まず、資金の使い道について、

  • 事務局職員の給与
  • 施設・備品の補修や購入
  • 今年度改修作業を行なっております雑誌記事索引データベースシステムの改修費、維持運営費

といった文庫の維持管理のあたる人件費、雑誌や施設の維持・管理・改修に使われるそうです。「特に雑誌資料の出納や複写、索引作成にあたる職員は必要最低限の人数で頑張っておりますが、収益の減少は給与を直撃するだけに深刻です」とのこと。ここは、

【2017.4.8更新】図書館の司書関係の職と人文・社会学系分野の教育のこと~「私が司書を辞めた理由を吐き出す」(Htelabo::AnonymousDiaryより)~ - 仲見満月の研究室

【目次】「死後の人文学者の蔵書問題」まとめ - 仲見満月の研究室の各記事、それからTwitterで私がうるさく言うのと、同じです。


加えて、インターネット利用者の増加する昨今の事情として、「来館者数と雑誌記事索引データベース 「Web OYA-bunko」の利用者が逆転し、実際の来館よりも様々な場所からのアクセスが増えました」とのこと。「しかし、大宅壮一文庫として、そのものの場所、見学いただいた方が圧倒されるほどの78万冊を超える雑誌を保存する場所として残していくためにも、皆さまからの温かいご支援をお待ちしています」と、職員の方は仰っておられます。

実はクラウドファンディングのページにはあまり触れられていなかったようですが、究極的には紙媒体で情報を維持する強さって、あるんですよ。実際、災害があって、停電になった時、私はPCのバッテリーが尽きてしまったことがありネット回線も渋滞状態で混んでしまい、テレビも見られない。そういう時、やっぱり、デジタルじゃなくて紙媒体で情報が読めることの強さを知りました。特に、台風被害が多い地域だと停電はおきやすいですし、回線の重たさは先の震災を含む複数回の地震で体験しました。そういうときは、新聞や雑誌を買いにコンビニに行っています。保存性に関しては、最近の日本の紙は質がよく、適切な管理や保存をすれば、けっこう残ると思っています。

(十数年前まで使われていた酸性紙に変わり、戦後は中性紙が主流という説あり)

 

そういった観点から、私は場所として大宅壮一文庫を残すことは、大いに意味があると考えています。

 

さっそく、サポートしたい方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?ここでは、支援コースとリターンをご紹介いたします。スペースの関係上、画像にてお送り致します。

 

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支援タイプのクラウドファンディングを毎度、見て思うのですが、どうして3000円コースからしか、ないのでしょうか?チャージタイプのアマゾン1500円からできるので、同じ金額からのコースを設けてほしかったです。

 

さて、1万円コースより上では、リターンに1ヶ月~1年の間で入館料無料の特典がついています。この文庫があるのは、東京都世田谷区ということで、仕事や研究等で過去の雑誌を読む必要があり、東京都と近くの県にお住まいの方、泊りがけで一定期間ほど関東に来られる方は、大宅壮一文庫を利用したい場合には、非常に助かるリターンではないでしょうか。

 

元のページを見ると、All or Nothing方式(締切まで目標金額に達しなかったら、支援金全額を返金するタイプ)だったのですが、5月21日の時点で目標金額プラス32万6000円ということで、達成されました。目標額500万円は、朝日新聞の記事の最後に書かれた昨年度の赤字と同じ金額です。締切は、6月30日であと40日あります。図書館には、継続した支援が必要であり、今年度の分もいかがでしょうか?

 

 

5.結び~図書館のクラウドファンディングについて~

以上、大宅壮一文庫クラウドファンディングをお伝えしました。このクラウドファンディングは、実はこの文庫を運営している団体が公益財団法人であり、図書館法における図書館から外れること点があったことがあったらしく、それが運営資金を集められることに繋がったのではないかと考えました。

 

Twitter上で見かけましたし、図書館司書の授業でも習いますが、一応、図書館法上、地方公共団体の公立図書館は、「入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」*2ため、無料でないといけません。しかし、大宅壮一文庫の資金の使い道にもありましたが、公共図書館にも人件費はかかります。私は指定管理者制度と図書館法とその周辺をまとめて変えるするなどして、司書に適切な賃金を払えるようにして、利用者への利用サービスの向上を支持する派です。が、Twitter上では法律の範囲内で何とかしようとするほうが現状、よいのでは?というご意見を頂いたことがありました。

 

法律を変更せずに、何とかしようとすると、【2017.4.29_1330追記】続・死後の人文学者の蔵書問題~「「先生の学問体系失った」 桑原武夫氏蔵書、無断廃棄」(京都新聞)を中心に~ - 仲見満月の研究室のむすび、および今回の大宅壮一文庫でもあったクラウドファンディングを使って運営資金を集める方法があります。

公立図書館の場合は、クラウドファンディングを始める前、自治体の議員に働きかけて条例の整備を進める。同時並行で、指定管理者制度で非正規の図書館職員を派遣している指定管理者の企業、およびNPO団体等に運営資金を渡す代わりに、集めた人たちの提案を支援者へのリターンも含め、指定管理者が受け入れ、使用の会計報告もさせる。具体的には、こういった計画的な活動が必要だと考えました。

 

 ちょっと、特殊な事情の京都市図書館の場合は、【2017.4.28_2325追記】死後の人文学者の蔵書問題~「桑原武夫蔵書 遺族に無断で1万冊廃棄 京都市が謝罪」(毎日新聞より)から考える~ - 仲見満月の研究室で書いたように、「財団法人京都市社会教育振興財団」が市図書館を管理・運営しています。なので、クラウドファンディング京都市図書館を支援しようとすれば、京都市の条例に従って、この財団と交渉して協力を取り付け、集まった運営資金を活用していくことになりるでしょう。

なお、京都市図書館と「財団法人京都市社会教育振興財団」の設立には、40年近くの歴史があります。財団と市図書館の設置は、実業家の市民からの寄付が大きく貢献しており、私の理解ではこの財団は、京都市の公的な財団と見てほぼよいと考えております。それゆえ、昨今話題の所謂TSUTAYA図書館とは全く経緯が異なることを、この場で書かせて頂きました。

 

いろいろと補足して長くなりましたが、もし地方の公立図書館の財政難のところがあれば、大宅壮一文庫クラウドファンディングの取り組みをご参考にしてみてはいかがでしょうか?おしまい。

 

 

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