仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

【ニュース】「工学系の教育課程「6年一貫制を」 文科省の有識者会議 」(日経新聞)~情報学の研究と文化人類学的な調査手続きに関する話 Part5~

<今回の内容>

1.はじめに

 シリーズPart5は、前回のPart4:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

これの「2ー2.研究倫理なんて習ってねーよHatelaboAnonymousDiarry」で取り上げた、

anond.hatelabo.jp

の「ますだ記事」の「ある種工学系って就職予備校」という、教育カリキュラムや教育課程のシステムににフォーカス致します。

 

その前に大学・大学院の工学系って、どんなカリキュラムや教育課程システムになっているか、Part4から抜き出します。

大学や理系の学部によっては、3~4年次に研究室配属となり、一度、卒論を書いて卒業はするけれど、人によっては学部から修士修了までの3~4年で一貫した課題を研究し、修士課程で就活を行い、修士論文を書いて大学院を出ていく、というのがカリキュラム上、ガチっと組まれている研究教育機関もあると聞いたことがありました。(中略)

 

工学系の情報学分野の教育の話に戻ると、がちっとカリキュラムが組まれているため、Part1で書いたように、文系の参与調査に関する授業を受講することができないと、私の知人のプログラマは言っていました。

(「文章フィルタリング研究」案件の大学院の現場とその周辺の話~情報学の研究と文化人類学的な調査手続きに関する話 Part4~ - 仲見満月の研究室

という感じで、とにかく、めっちゃ忙しい!課題や実験をこなすので、精いっぱいだと聞きました。

 

そんな工学系の学部や大学院に通う学生はどんな人たち化と言うと、「ますだ記事」によると、

現状工学系の院って「学部卒だと文系と肩を並べて就活する羽目になるのが嫌だから、修士を取って開発職として拾ってもらうか」という意識で進んでいる人も少なくない。院進学が「研究者になる」という意識ではなく「単純に学歴アップのために進学する」ような感じだ。

(研究倫理なんて習ってねーよ)

と言う感じで、一部の人は学部、大体は「修士課程で社会に出ようと思っている」人たちだそうです。

f:id:nakami_midsuki:20170531030815j:plain

 

今回、ネットの海を渡って、私のもとに届いたのは、工学系の大学院の「就職予備校」化を加速させるような、ニュースでした:

www.nikkei.com

  

 

2.「工学系の教育課程「6年一貫制を」 文科省有識者会議 」(日経新聞

短いので、記録の為にも、全文転載させて頂きます。

 

工学系の教育課程「6年一貫制を」 文科省有識者会議
2017/5/24 21:30

 

 文部科学省有識者会議は24日、会合を開き、工学部を中心とした大学の工学系教育の改善策についての提言を大筋でまとめた。学部の4年と大学院修士課程の2年で一体的なカリキュラムを組む学部・修士6年一貫制を導入するなど教育課程の柔軟化が柱で、文科省は本年度内に制度設計に向けた検討に着手する。

 

 これまでIT(情報技術)など変化の激しい産業分野で活躍できる人材育成の在り方を話し合ってきた会議は、現在の工学系教育が専門分野ごとに縦割りにされ、学生の成長を妨げる要因になっていると分析。

 

 6年一貫制として時間を十分確保することで、柔軟なカリキュラムを組むことができ、専門分野の深い知識を習得するとともに、他の分野の幅広い知識も持つ人材を育成できるとしている。

 

 6年一貫制を導入する場合、学部から修士課程に進む際に、卒業論文や大学院入試に代わる新たな進学条件を設けることも検討。従来通り、学部の4年、修士課程の2年、博士課程の3年という枠組みも残すほか、学部から博士課程まで合わせた9年一貫制も導入できるようにする。

 

 会合終了後、座長の小野寺正・KDDI会長は「6年一貫制も認めることで、学生がじっくり学べたり、自身のキャリアを考えたりできる利点がある」と述べた。〔共同〕

 

工学系の教育課程「6年一貫制を」 文科省の有識者会議 :日本経済新聞

 

実は、既に工学系の学部や院には、実質的に学部4年+修士2年の6年一貫制のような学科やコースがあります。それは、建築学。Part4でお話したとおり、最終的に一級建築士の資格を取得するために、学部・修士と6年一貫制の教育課程を歩む人が多いのです:

日本建築学会の会員の人の話では、工学系の建築学科は修士課程修了で二級建築士の受験資格を得、二級合格したら建築事務所で所定の年数ほど実務経験を積み、条件が満たされたら、一級建築士の受験をして、合格すると一級建築士の資格が得られると言ってました。

 (「文章フィルタリング研究」案件の大学院の現場とその周辺の話~情報学の研究と文化人類学的な調査手続きに関する話 Part4~ - 仲見満月の研究室)

 

建築学分野はもちろん、工学系の情報学分野も、技術実習や設計といった専門の授業が多く、カリキュラムはガチガチに組まれ、学部・修士の6年の教育課程は硬直化しているとと聞きます。

 

そういう現実を踏まえて、文科省有識者会議は24日の話し合いで、「工学部を中心とした大学の工学系教育の改善策について」、「学部の4年と大学院修士課程の2年で一体的なカリキュラムを組む学部・修士6年一貫制を導入するなど教育課程の柔軟化が柱で、文科省は本年度内に制度設計に向けた検討に着手する」という提言をまとめたとのこと。

 

学部・修士6年制のメリットとして、

  • 6年一貫制として時間を十分確保することで、柔軟なカリキュラムを組むことが可能
  • 専門分野の深い知識を習得するとともに、他の分野の幅広い知識も持つ人材を育成できること

といったことが挙がっています。また、「6年一貫制として時間を十分確保する」ために、「学部から修士課程に進む際に、卒業論文や大学院入試に代わる新たな進学条件を設けることも検討」し、更に、「学部から博士課程まで合わせた9年一貫制も導入できるようにする」と発表。

 

これまで、学生の知識や技術のレベルを担保する役割を果たしていた卒論や院試に代わる新たな進学条件を設けるとしていますが、既に2012年から文科省修士論文なしでも修士号が取得できる審査方法等の制度を打ち出しており*1、新たな業務の増える大学教員の方々の負担が心配です。それと同時に、進学条件次第では、院に進む学生の質が大幅に下がりそうで、心配ですね。

 

それ以上に、既に硬直化している工学系のカリキュラムは、6年一貫制を強化すると、かえって、ガチガチになっていき、余裕のなさが柔軟性を失っていくことにならないでしょうか。

 

加えて、工学部に進学した後、別の進路に進もうとして、学部までで卒業を希望する学生にとっては、6年一貫制が広まると、就職がしにくくなる可能性もあります。

 

ニュース記事によると「座長の小野寺正・KDDI会長は「6年一貫制も認めることで、学生がじっくり学べたり、自身のキャリアを考えたりできる利点がある」と言われたそうですが、そもそも、就活に修士の人は修士1年の後半から2年目の前半まで費やすわけです。そう考えると、企業の方でより柔軟な採用システムを作ってくれたほうが、学生のほうは、6年間みっちり、安心して研究に時間を費やし、知識と技術を身につけられると私は考えました。

 

 

3. まとめ

カリキュラムが硬直化し、他分野の知識や技術を身につけにくい工学系の大学・大学院に対して、6年一貫制で教育課程に柔軟性を出し、人材を育てようとしている文科省です。が、現場の大学教員の雑務を増やし、ますます、カリキュラムがガチガチとなっていき、懸念する「現在の工学系教育が専門分野ごとに縦割りにされ、学生の成長を妨げる」ことが進行するのではないだろうか、と思われます。

 

おそらく、工学系の大学や院は、これからもっと「就職予備校」化が加速するでしょう。そうなると、「工学系教育が専門分野ごとに縦割りにされ」て学生は狭い視野で研究をしなければならなくなり、多忙な大学教員は学生の持ってきた研究を細やかに確認・指導することが困難となっていくことが予想されます。結果、今回の「文章フィルタリング研究」案件のようなことが再び発生することは、否めません。

 

文科省有識者会議は、 工学系の大学や院が「就職予備校」と化していることを再認識し、硬直化するカリキュラムとせっとで、学生に時間を就活にこれ以上、割かせないようにするよう、採用する側の企業に積極的にはたらきかけることから、開始してはいかがでしょうか。合わせて、学部卒で別の進路を希望する学生にも、柔軟に対応できるような履修や就活の道についても、検討をお願い申し上げます。

 

以上、Part4の補足的な記事でした。

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