仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

映画『プラダを着た悪魔』~法科大学院を選ばずにジャーナリストを目指したが故にファッション界に入った先に手にしたものとは?~

<本記事の内容>

1.刑事司法、ジャーナリズムは米国の「就職に最も役立たない修士号ワースト10」に入っている?!

「就職に最も役立たない修士号ワースト10」とは、以前に 次の記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

で取り上げた「就職に最も役立つ/役立たない修士号」ベスト&ワースト10 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)の後半のランキングを指します。このランキングでは、

『Forbes』が、「人気の高い45の修士号に関して実施している「キャリアの中間評価データ」を調査」、各修士号に関連する仕事について、「米労働統計局による推定雇用増加率も考慮に入れてランキングを作成」したそうです。具体的にランキングから分かることは、学位取得者にとって「どの分野が(有形・無形を問わず)最高の条件を保証するのか」ということです。

 

記事を読んでいくと、各修士号に関係する職の雇用増加数に言及されており、まさに、職に就いて収入を得て生活していくために役立つ/役立たない、という観点からのみ、ドライにデータが算出されていることが伺えます。純粋に「就職するには持っておいたほうが有利な修士号はどれか」と知りたい人にとっては、信頼できるランキングでしょう。

(【2017.3.26追記】アメリカでの就職と修士号~「就職に最も役立つ/役立たない修士号」ベストandワースト10 ~ - 仲見満月の研究室)

という実利にかなった視点から算出されていました。

 

実際のランキングは、次のようになっていて、 1位に刑事司法、5位にジャーナリズムが来ています。

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(ランキング出典:http://forbesjapan.com/articles/detail/13256/2/1/1

 

この2つの分野は、日本だと、ふた昔前くらいは厳しい競争を勝ち抜けば、ハードな仕事だけど、文系のなかでは比較的何とか食べていけいていた職種に結びついていたらしいです。しかし、それから時は流れ、弁護士あまりや司法関係の職の公務員人気、出版界の不況が言われて久しくなった昨今、就職するだけで志望者は、私の周囲では精いっぱいな状態となっていると聞くようになりました。

 

今回、紹介するのは、日本では司法職の進路の一つとなってい法科大学院の道を選ばず、大卒で報道の世界を志望しながら、ひょんなことから興味のなかったファッション出版界の鬼編集長のアシスタントになってしまった、多忙な女性の一年を描いた次の映画『プラダを着た悪魔』です:

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2.映画『プラダを着た悪魔』に見る法科大学院の道を選ばなかった主人公の奮闘

 2-1.作品の内容 

物語は、名門ノースウェスタン大学を卒業しtがジャーナリスト志望者・アンドレア・サックス(通称アンディ)は、就職活動で田舎から大都会・ニューヨークにやって来て、ある出版社で面接を受けることになりました。出版社の人事から言い渡されたのは、車関係の雑誌部門、もしくは世界的なファッション雑誌『ランウェイ』の編集部のどちらかで働く道。『ランウェイ』の面接を受けに編集部を訪れたアンディは、アシスタントやスタッフたちが出社前から恐れ、またファッション業界に絶大な力を持つ鬼編集長ミランダ・プリーストリーの「賭け」により、面接後、第二アシスタントとして採用されました。

 

世界中が憧れる花形のファッション雑誌で職を得たアンディでしたが、実は、コートやバッグの片付け、コーヒーの購入と運搬から、自分の娘たちの宿題の手伝いや姉妹が欲しがる出版前の『ハリー・ポッター』本の続編の手配まで、自分と家族の身の回りの世話を押しつけて、アシスタントを振り回す、トンデモナイ上司でした。第一アシスタントのエムに支えらえながら雑務に追われるアンディは、ミランダに仕事の遅さに加え、服のダサさやメイクの地味さを手厳しく指摘され、心が折れてしまう。弱音を吐いた先のスタイリストらしきスタッフのネイトに服のコーディネイトを、メイクスタッフに自分の引き立て方を教わったアンディは、ミランダの無理難題をこなしながら、自身をつけて『ランウェイ』編集部のアシスタントとして、成長してゆきます。

 

ミランダから重要な仕事を頼まれる度に、仕事の忙しさで恋人のナイジェル(シェフ志望)とのすれ違いや、友人のリリーやダグとの溝が広がっていくアンディは、華やかな世界とミランダ寄りの考えに染まっていきます。そんな中、パリ出張という一大イベントの準備で、ミランダは同行スタッフに第一アシスタントのエムではなく、アンディを選びました。パリ出張のファッションイベントのために体調を崩してまでダイエットをしていたたエムの役を奪い、更にナイジェルと別れてまで、アンディはミランダのパリ出張に同行します。旅先では、借りのある作家とのロマンスや、先輩ネイトミランダの推薦による昇進の予定に浸りながら、『ランウェイ』の編集長をミランダが解任されそうになったと聞き、アンディはミランダの元に走ります。

 

そろった二人が向かったのは、パーティ-。そこでは、あるアーティストによるブランドの成長によって、ビジネス的なパートナーを発表するという場所です。そのパートナーの職はネイトの予定でしたが、発表されたのは別の人物の名前。実は、ミランダは会長に裏で手を回し、別の人物をパートナー職に据える代わりに自分の編集長解任を回避させたのでした。自分の保身のために、部下の約束を破るミランダのやり方に、アンディは、アシスタントを辞めることを決めます。パリの街角にある噴水の傍で、ミランダからのコールを無視したアンディは、仕事用の携帯電話を池に投げ入れたのでした。

 

ニューヨークに戻り、アンディは転職活動を始めます。服装もメイクも、『ランウェイ』に働き出す前のダサくて地味なものに戻りましたが、傍には、元彼のナイジェルの姿があり、どうやら復縁する雰囲気。ある報道会社で面接を取りつけたアンディは、その会社に試験を受けに向かいます。採用担当者は、ジャーナリスト志望だった応募者がどうして『ランウェイ』編集部に勤務し、一年で辞めてしまったのか、アンディに質問します。アンディは「向いてなかったんです」と回答。すると、担当者はミランダからの連絡が入っているのに、アンディを雇わないわけにはいかないと言いました。かくしてアンディは夢のジャーナリストとして採用されたのでした。

 

ここで、映画のストーリーは終わります。

 

 2-2.主人公の『ランウェイ』編集部での奮闘とラストについて

序盤のミランダの面接、それからニューヨークのファッションイベントの会場で出会った著名な作家とのやり取りでは、アンディが

  • どうやら名門のノースウェスタン大学の卒業生であること
  • 大学新聞や執筆の活動で受賞経験があるらしきこと

が窺えます。加えて、アシスタントとして働き出しての週末、ニューヨークにやって来た、娘を心配する父親の言葉から、アンディは、スタンフォード大学法科大学院を断って、大卒でジャーナリスト志望者になったことが分かります。

 

アンディの通っていたノースウェスタン大学のWikipediaの説明は、「アメリカ合衆国イリノイ州、シカゴ郊外のエバンストンにキャンパスを構える名門私立大学」となっています。主人公の優秀さはそれだけでなく、彼女の父親の「スタンフォード大学法科大学院を断って」という一言から、どうやらこの法科大学院に入学できる資格が発生していたらしきことが臭っていました。

 

スタンフォード大学と言えば、アメリカ合衆国カリフォルニア州スタンフォードに本部を置く私立大学であり、各種の大学ランキングで非常に高い評価を得ているようで、世界的にも名門中の名門大学*1。アップル創業者のスティーブ・ジョブズがスピーチを行ったとこでもあります。そういった大学の法科大学院に入学できる資格があったということは、作中でのアンディは、インテリ秀才タイプの地味な女性として描かれていたと思われます。

 

先のランキングで見たように、修士号を取得したとしても、刑法司法、それからジャーナリズムは、就職に役に立たない分野のものとしてトップ5に挙がっていました。作品の公開は2000年代前半であり、先のランキングが発表された2010年代後半から10年近く経ってはいます。しかし、アメリカでの就職を考えると、どちらの分野の修士号も取得せず、アンディのようにストレートに大卒の資格で、出版社の報道部や、報道会社での就職を目指したほうが早い段階でやりたい仕事ができたのでしょう。

 

「お勉強」のできる秀才タイプのアンディに対し、彼女を第二アシスタントに雇ったミランダは、リムジンでのお迎えは当たり前、スタッフを振り回す横暴ぶりを発揮しながら、 アンディのダサさにファッションの知識で圧倒。『ランウェイ』の仕事はきちんとこなし、パーティーの様子ではセレブたちと交流して人脈を持つといった、ファッション界の大物ぶりが窺えます。単なる暴君ではなく、教養とそれを仕事にうまく昇華させる賢さは、アンディと違った頭の良さとして描かれています。

ただし、性格は我がまま、そして人遣いの粗さからか、パリ出張中のアンディとの打ち合わせでは、夫との離婚成立となったこと。今回の離婚が子どもたちを悲しませるのではないか、と弱気さを見せるなど、仕事のところどころで、ワーキングマザーとしての一面が描かれています。

終盤で、ミランダが部下のネイトに対して昇進させる約束を反故にし、別の人物を据える代わりに、出版社の会長に自分の解任を辞めさせるように取引をしたところは、保身や仕事に対する自信・プライドの面が強く出て見えます。しかし、その一方では、部下を裏切ってでも自分が失職しないようにしないと、子どもたちだけでなく、現『ランウェイ』のスタッフたちをも守れなかったのかもしれません。

(このあたりは、私の妄想です)

 

我がままな鬼編集長の影響力を垣間見たアンディは、彼女なりに仕事を覚え、ミランダの色に染まっていき、今までの恋人や友人たちを失いながらも、売り込み先の作家に気に入られたこともあって、仕事が順調に進み、ジャーナリストの夢に向かって邁進します。結局、ネイトを裏切ったミランダのやり方に、アシスタントを辞めた主人公でしたが、アンディは報道会社での就職がミランダの力で決まったのでした。

 

映画全体として、私が思ったことは、 「ファッションに興味のないインテリ秀才の主人公が、鬼編集長のもとでファッションセンスや仕事の力を高めて認められたり、自分を気に入って言い寄ってくる作家の人脈的な恩恵を受けたりしながらも、最終的には自分の譲れない考えを貫いたことで、志望していたジャーナリストの職を手に入れた」というサクセスストーリーでした。読み取ったのは、「結局は自分らしさを曲げると、大切なものを失う」というものではなく、「希望の職を得るためには、回り道になってもある程度は入った業界で努力して認められる必要はあるが、絶対に譲れないラインのところは絶対に譲ってはいけない」という仕事の教訓を教えてくれるように感じました。

 

 

3.最後に

アンディは最後に夢だったジャーナリストになれていますが、現実の、しかも現在の日本ではアンディのように努力したとしても、希望の職種で自分の思い描いたような仕事ができるほどラッキーな人は、スプーンひと匙で掬え量にも満たないでしょう。特に、本記事で繰り返し、厳しい現実を取り上げてきた職業研究者の世界を目指す人にとっては、私が得た教訓を送りたいと思いました。

 

アンディのように回り道をして入った業界で自分を認めさせたからといって、最終的に夢の職に就けるとは限らないし、就けたとしても、思い描いたような仕事をすることができないかもしれない。だったら、せめて回り道をしている時でも、入った世界に染まってしまうほど、自分なりにその時の仕事を楽しむ。そういう方向に気持ちを向けることは、研究者志望の人たちが息をするのさえ苦しい2010年代後半のこの社会で、少しでも呼吸しやすくするためにできる工夫なのではないでしょうか。

 

ところで、ミランダにはモデルになった人物が存在することは、ご存知でしょうか? 以前、メトロポリタン美術館の年一回、5月第一月曜日に催される服飾部門のイベント「メットガラ」を追った映画の記事をかきましたが、そのパーティーの主催者である米版『ヴォーグ』の編集長、かつ同美術館の理事でもあるアナ・ウィンターです: 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

プラダを着た悪魔』の原作小説の著者は、ミランダのモデルがアナ・ウィンターであることを否定しているようです。

 

 

しかし、映画『メットガラ』の作中では、メットガラに関するインタビューなのに、「映画『プラダを着た悪魔』の鬼編集長が、あなたを題材にしたキャラクターだとされている件について、どう思われますか?」とアナが質問されて、たじろぐ場面もありました。一方、映画『プラダを着た悪魔』の中盤では、アシスタントのエムとアンディーを連れて、ミランダが向かったパーティーが、その描写からメットガラらしきところだと分かるシーンがありました。このあたり、映画『メットガラ』と映画『プラダを着た悪魔』の両方を見比べてみると、面白いかもしれません。

 

 

また、原作小説については最近、次の続編が発売されました。日本語版は、ハヤカワNV文庫で2巻に分冊で出ています。先に挙げた原作の続きとして、映画版とは異なったアンディとミランダのその後が描かれているようです: 

 

原作者のワイズバーガーは、 デビュー作である『プラダを着た悪魔』に続き、次のような転職した女性の職業小説も執筆しているようです:

 

 気になる方は、原作小説と合わせて読んでみてはいかがでしょうか?

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