仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

【ニュース】「日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか」(nippon.com)~解決策は限りのある研究資金をバランスよく配分・投入する決定ができる人の存在~

<本記事の内容>

1.はじめに

読者の皆様、読んでくださって、ありがとうございます。今月12日、中の人の私が仲見満月と名乗り始めたこと、および本ブログを開設して、1周年になります。何か、企画をやりたいなぁ、と思いながらプライベートでは、やり残した学術論文や一応のお仕事があり、なかなか、思うようなことができていない毎日です。

 

黙っていても時間は過ぎるわけですが、先月22日に公開された次のニュースについて、はてなブックマークが付き、私にまで届きました。次の日本の科学研究の力の低下を取り上げたニュース記事です: 

www.nippon.com

 

この問題については、直近の記事では、【 #大学・大学院 #ニュース】「地方大学の強化「明治以来の改革に着手する」」(朝日新聞)、「被引用多い論文数、国別10位に後退」(日経新聞) - 仲見満月の研究室の後半の日経新聞のニュース記事を中心に、コメントを入れて、自分の味方を示してみました。

 

今回のnippon.comのニュース記事では、本記事で取り上げてきたニュース記事に対し、はっきりとした数字を示しながら、「地盤沈下」している日本の現状が危険であると訴えています。そこで、本記事ではnippon.comのニュース記事をセクションごとに区切って本記事のこれまで書いてきたことと新たなコメントをはさみつつ、果たして、日本の科学研究の地盤沈下は止められるのか、考えていきます。 

 

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2.「日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか」(nippon.com)について見ていく

 2-1.セクション1:減少をたどる日本発科学論文

まず、セクション1「減少をたどる日本発科学論文」を見ましょう。

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか

仲野 徹


[2017.05.25]


「日本の科学研究は過去10年で失速」と報じた英科学誌「ネイチャー」の3月の特集は、若手研究者たちの厳しい現状を浮き彫りにした。先端科学研究に携わる筆者が、大学の研究体制の構造的問題を指摘する。

 

減少をたどる日本発科学論文

日本の科学にとって憂うべきレポートが、最近、英科学誌「ネイチャー」(3月23日号) に掲載された。過去10年間に日本の科学は失速し、他国に遅れをとっている、という内容である。わが国のニュースではそろって「衝撃的」と報道されていたが、当事者、特に大学で研究に従事している人たちにとっては、日頃からの懸念が裏付けされたにすぎない。


「Nature Index 2017 Japan」と題されたそのレポートの骨子は、複数のデータベースに基づいて日本からの論文発表の経年変化を他国と比較したものだ。また、なぜそのような状況に至ってしまったのかについて考察している。その内容を簡単に紹介しながら、国立大学法人において生命科学を研究する一人として、現場における経験と実感からの解説を加えてみたい。


主として用いられているデータベースは、「Web of Science(WOS)」「Scopus」、および「Nature Index」だ。WOS、Scopusは世界の数万におよぶ科学雑誌に掲載された論文、Nature Indexが自然科学各分野でトップジャーナルとして選定された68誌に掲載された論文についての動向を示す。


まず前者を見ると、2005年~15年までの10年間で、日本からの論文はほぼすべての分野において横ばいから減少の傾向だということが分かる。横ばいならそれほど悪くないのではと思うかもしれないが、それは違う。この期間に世界全体では論文数が80%増加したのに対して、日本からの論文は14%にとどまっている。一方のNature Indexでは、12年から16年までの4年間に日本の論文数が8.3%低下しているのに対し、英国は17.3%、中国に至っては50%近い増加を見せている。世界的に論文数が増加する中で、日本の相対的な地位は着実に低下している。

 

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

 

ずっと言われてきたけれど、このニュース記事の言うとおり、「最近、英科学誌「ネイチャー」(3月23日号) に掲載された。過去10年間に日本の科学は失速し、他国に遅れをとっている、という内容」は、「当事者、特に大学で研究に従事している人たちにとっては、日頃からの懸念が裏付けされたにすぎない」というのは、本当でしょう。

 

「Nature Index 2017 Japan」と題されたそのレポートの骨子は、複数のデータベースに基づいて日本からの論文発表の経年変化を他国と比較したもの」の結果を見ると、分かる事実は、次の2点です。

  • 2005年~15年までの10年間で、日本からの論文はほぼすべての分野において横ばいから減少の傾向だということ
  • この期間に世界全体では論文数が80%増加したのに対して、日本からの論文は14%にとどまっていること

つまり、日本だけが科学研究の論文数が相対的に減ってきているという事実が見えるんです。国ごとに比較したデータを出す一方のNature Indexによると、

  • 12年から16年までの4年間に日本の論文数が8.3%低下しているのに対し、英国は17.3%、中国に至っては50%近い増加を見せている
  • 世界的に論文数が増加する中で、日本の相対的な地位は着実に低下している

という数字を示し、はっきりと論文数の数において、この十数年の間に「日本の相対的な地位は着実に低下している」ことを、我々に突きつけています。こういった数字によるデータを見せられると、いくらエクセルやプログラミング等の数学的なものがだめな私でさえ、「うちの国、ヤバいどころか、もう限界まで危険に突っ込んでるじゃん」と認識せざるを得ませんでした。

 

 2-2.セクション2:「ポスドク」苦境で博士課程進学者が減少

 ニュース記事の続きを見ていきましょう。

ポスドク」苦境で博士課程進学者が減少

日本において、論文業績に関わる最大の組織は国立大学法人である。その「基盤的経費」である運営費交付金は、2004年に一斉に実施された独立法人化以降、ほぼ毎年1%ずつ引き下げられている。科学技術予算に関しては01年からほぼ横ばいであるが、これも他国はどこも増額しているのだから、相対的には減っていると見なすべきだ。


このような予算の減額が、日本の科学レベル低下の最大要因ではないかと指摘されている。運営費交付金の減額が続けば、どの大学も常勤ポストを減らさざるを得ない。大学によっては教員数の25%削減を掲げているところもある。


90年代に、国は民間への優秀な人材の供給を目的とする「ポストドクター等1万人支援計画」を推進したが、企業での受け入れは思うように進まなかった。意図に反して、多くの人材がアカデミアへの残留を希望したのだ。しかし、常勤ポストが減少しているのだから当然、不安定な非常勤職にとどまらざるを得ない。こういった状況を間近に見てのことであろう、大学院博士課程への進学者数が03年から減少し続けている。


研究は自転車走行のようなところがある。このままでは、どの国立大学も走るために必要な「エネルギー」が減っていくだろう。いったん失速すると、元のスピードに戻すのに相当な労力を要する。やがては「ハンガーノック」状態—エネルギーが枯渇して動くこともできない状態—に陥ってしまう。


そうなる前に、根本的な対策を講じなければならない。いや、ひょっとすると日本の科学はすでにハンガーノック寸前なのに、疲弊による思考停止が進み、そのことに気付くことすらできていないのかもしれない。最悪の状況になってようやくまた走り出しても、他国に追いつくためには相当なエネルギーを補給しなければならない。それどころか、キャッチアップすることができない可能性もある。

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

 

まず、この国の「論文業績に関わる最大の組織は国立大学法人」の「「基盤的経費」である運営費交付金は、2004年に一斉に実施された独立法人化以降、ほぼ毎年1%ずつ引き下げられている」事実は、2017年までの13年間に換算すると、けっこうな割合になってくるでしょう。数式が立てれないので、具体的な数字の算出はしませんが、「運営費交付金の減額が続けば、どの大学も常勤ポストを減らさざるを得ない。大学によっては教員数の25%削減を掲げているところもある」のは、ちらほら、ネットニュースでも聞きます。

その中でも、大きく報道されたのは、昨年9月、石渡さんも書かれた北海道大学の教授205人の大規模リストラでしょう:

news.yahoo.co.jp

 

nippon.comのニュース記事では、このような予算の減額が、日本の科学レベル低下の最大要因ではないかと指摘されている」と筆者が書かれていますが、これに私は頷かざるを得ません。加えて、日本の科学技術予算に関しては01年からほぼ横ばいであるが、これも他国はどこも増額しているのだから、相対的には減っていると見なすべきだ」とされ、日本の首脳が緊縮財政の方針をとっているからといって、科学研究の分野をカットしすぎじゃないかと苦々しく感じました。

 

大学・大学院といった研究機関では、「常勤ポストを減らさざるを得ない」ためnippon.comのニュース記事が伝えるように、「「ポストドクター等1万人支援計画」を推進した」が、「企業での受け入れは思うように進まなかった」とのこと。「意図に反して、多くの人材がアカデミアへの残留を希望した」という背景には、大学・大学院は研究環境が整っているといった理由も考えられます。が、【2017.5.23_0135追記】発達障害と院生・院卒者や研究者についての私見~「東大生の4人に1人は「アスペルガー症候群」 元東大院生のツイートに現役も「マジだと思う」(J-CASTニュース)ほか~ - 仲見満月の研究室で書いたように、研究機関のほうが発達障害傾向を持つ人にとって、以後ごちが良いという部分もあるかと思われるけれど、ここでは掘り下げません。

 

しかし、着実に大学・大学院に入ってくる国のお金は減り、ニュース記事が言うように「常勤ポストが減少しているのだから当然、不安定な非常勤職にとどまらざるを得ない」のです。続・博士卒のアカデミックポスト就職の現実~「ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる」(河北新報オンラインより)を起点に~ - 仲見満月の研究室で書いたように、任期付き研究職員のタイプのポスドクとして、勤務先を数か月単位で変えている「流動研究員」は、今回のニュースで指摘されるように「不安定な非常勤職にとどまらざるを得ない」ことになります。

 

それ故に、「大学院博士課程への進学者数が03年から減少し続けている」のは当たり前といえば、当たり前ですね。現役の理系修士課程院生の方も、次の記事で大学を含む研究機関に職を得る形で「残る」リスクを、しっかりと書かれておられます:

piano-go.com

 

ニュース記事に戻りましょう。ニュースでは、「このままでは、どの国立大学も走るために必要な「エネルギー」が減っていくだろう。(中略)やがては「ハンガーノック」状態—エネルギーが枯渇して動くこともできない状態—に陥ってしまう」と指摘していますが、残念ながら研究職を目指さず、修士課程を出たら民間を目指す理系院生も多数いることから、既に日本の国立大学はエネルギーを受け取るほどの基盤も破壊されているのではないでしょうか。 

 

2-3.セクション3:研究の芽を摘む偏った資金投下

 第3セクションは、資金投入の場所に偏りがあるというポイントです。

研究の芽を摘む偏った資金投下

政府は「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI:World Premier International Center Initiative)」や、iPS細胞研究をはじめとする再生医学など特定の分野には重点的に資金投下を行っている。しかし、研究費の総額がほとんど増えていないのだから、特定分野のみに多額の資金を投入すれば、他へしわ寄せがいかざるを得ない。そのせいで遂行できなくなった研究が数多くあるはずだ。将来重要性を増す研究の芽がつぶされた可能性もある。


2016年ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典先生の例を挙げるまでもなく、研究とはどのように発展するのか予見不能性をはらんでいる。イノベーションの雄であるグーグルやアップルは、大企業からのスピンアウトではなく、住宅の「ガレージ」での研究・開発から起業したのだ。これらのことを考えると、現時点において最先端である分野、すでに相当額の研究費が投下済みの分野、あるいは特定の有名研究者への偏った投資が果たして正しいものなのか。過度にも思える選択と集中について、データに基づいた費用対効果の厳密な検証が必要である。


ネイチャー誌の記事ではもう一点、日本の若手研究者は研究室主催者(PI: principal investigator)になる意欲が低いことが問題点として指摘されている。若手研究者が自立して自由な発想で活躍することがイノベーティブな研究には重要なのだから、これも深刻な問題だ。


大先生が率いる研究室に所属して、研究費のことや運営を気にせずに研究に専念できたら苦労は少ない。「寄らば大樹の陰」という日本人的なメンタリティーがあるのかもしれない。しかし、おそらくそれだけではない。若い間に独立しても、かなり厳しい現実が待ち受けている。それが大きな抑止力になっているのではないだろうか。


死活問題は研究費である。欧米では通常、独立時にかなりのスタートアップ資金が用意される。残念ながら今の国立大学法人の体力では、一部を除いて十分なスタートアップ資金を準備することができない。また、「基盤的経費」(研究開発に関わる基本的な活動を支える運営交付金など)だけでは研究できないので、「競争的資金」(研究機関や研究者から研究課題を公募し、第三者による審査を経て優れた課題に配分される研究資金)の獲得が必須だ。しかし、ジュニアレベルのPIが自由な発想でのびやかに研究できるような研究費の制度はほとんど存在しない。

 (日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

 

日本政府は国債に手を出さないといけないほど、お金がない、または科学研究に資金を出すのを渋っているらいしきことは、【 #大学・大学院 #ニュース】「地方大学の強化「明治以来の改革に着手する」」(朝日新聞)、「被引用多い論文数、国別10位に後退」(日経新聞) - 仲見満月の研究室3.「被引用多い論文数国別10位に後退科技白書で指摘」(日経新聞)の後半で指摘したとおりです。渋った資金ですが、それでも「政府は「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI:World Premier International Center Initiative)」や、iPS細胞研究をはじめとする再生医学など特定の分野には重点的に資金投下を行っている」とのことですが、研究費の総額が減っているわけだから、偏った予算の投入と言わざるを得ません。

 

 

例えば、iPS細胞研究を支える他の生命科学分野の研究に対しての資金がなければ、いずれは、iPS細胞研究のほうにもしわ寄せとして、研究停滞の状況が出てくるおそれがありそうです。

 

それから、「ネイチャー誌の記事ではもう一点、日本の若手研究者は研究室主催者(PI: principal investigator)になる意欲が低いことが問題点として指摘されている」という問題は、後述されているように、研究者として独立するには、資金不足の懸念があるのは否めません。「死活問題は研究費である。欧米では通常、独立時にかなりのスタートアップ資金が用意される。残念ながら今の国立大学法人の体力では、一部を除いて十分なスタートアップ資金を準備することができない」わけです。国のほうは、「資金を渋る国は、「内閣は大学に外部から何らかの方法で、研究費を持ってこないといけない方向にしようとしている模様」」ですが、産学連携にも限界はあるわけで…。

 

要するに、日本の科学研究においては、潤沢な資金とそれをどの分野にもバランスよく配分・投入する決定ができる人が、首脳にいれば現状はもっとマシにはなりそうです。

 

 2-4.セクション4:文科省支援の任期付き採用制度も不振

続いての問題は、「【ニュース】香港科技大移籍予定の経済学者や産学官共同研究の文科省等によるファクトブックの話題 - 仲見満月の研究室」の「1.香港科技大移籍予定の若手経済学者の話(withnews.jp)」の川口康平氏の移籍で話題となった、テニュアトラックの話題です。

 

文科省支援の任期付き採用制度も不振

若手研究者の独立をサポートする制度のひとつとして「テニュアトラック制度」がある。任期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積ませ、順調にいけば、任期終了後に終身雇用へと移行させる制度だ。米国などでは広く取り入れられている。わが国でも広く導入すべきだと文部科学省が推奨しているのだが、あまり進んでいない。


筆者が勤める大阪大学では文科省の支援を受けて、2008年度からテニュアトラック制度大阪大学生命科学研究独立アプレンティスプログラム(Osaka University Life Science Young Independent Researcher Support Program)」を5年間にわたって運営した。その責任者を務めた経験から言うと、正直なところ、現状ではテニュアトラック制度を大々的に導入するのは難しいと思わざるを得なかった。若手を積極的に登用するための制度設計、テニュア審査の難しさ、テニュア枠ではない大多数の教員の意識改革、スタートアップを含む十分な資金投下など、解決すべき問題が山積しているからだ。


ネイチャー誌の記事が出て1カ月後の4月、科学技術政策に関する司令塔機能を担う「総合科学技術・イノベーション会議」(内閣府)が、科学技術分野の年度当初予算について3年間で9千億円の増額を目指す方針を発表した。ただし「既存の補助金が交付されている農業や建築など他分野でも、新しい情報技術と組み合わせれば『実証実験になる』として、科学技術関連の予算に算入することにした」(朝日新聞) と報道されているので、科学研究費本体がどの程度増えるのかは不透明だ。

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

 

テニュアトラック制度」とは、ニュース記事にもあるように、「任期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積ませ、順調にいけば、任期終了後に終身雇用へと移行させる制度」です。一橋大学から香港科技大に今秋、移籍予定の川口氏も、移籍前と後とも変わらず、テニュアトラックのポストだそうで、一定の任期中に成果を上げたら、終身雇用に切り替わることが予定されているそうですね。

 

ニュース記事の筆者・仲野徹さんの勤務先でもテニュアトラック制度を5年間、運営したそうですが、

  •  若手を積極的に登用するための制度設計
  • テニュア審査の難しさ
  • テニュア枠ではない大多数の教員の意識改革
  • スタートアップを含む十分な資金投下

といった「解決すべき問題が山積」しており、仲野さんは「正直なところ、現状ではテニュアトラック制度を大々的に導入するのは難しいと思わざるを得なかった」とのことでした。もともとテニュアトラック制度は海外の研究機関で実施されていたものであり、現場の意識改革から取り組んでいこうとすると、即効性に欠けるでしょう。

 

他にも、内閣府があれこれ、取り組んでいるようですが、私には効果について疑問符鹿浮かびません。

 

2-5.セクション5: 研究費だけではない高い壁

いよいよ、最後のセクション5です。このセクションでは、「問題は、お金に因むものだけではありませんよ」というお話のようです。

 

 研究費だけではない高い壁

生命科学の分野では特に著しいのだが、各分野での研究手法は急速に進歩している。例えば、「次世代シークエンサー」(DNA の塩基配列を超高速で読み取る装置)を用いた網羅的な解析や、高度な光学機器を用いた分析などが必要になり、これらの研究を行うために要する研究費が顕著に増大している。そうした高度な研究から、日本の多くの研究室は取り残されつつある。


だが、危機的状況に陥っている日本の科学を立て直すために、研究費の増額は必要条件ではあっても、決して十分条件ではない。大学のシステムを、そして大学教員の意識を大改革することなしに、上昇基調へと転じるのは困難だ。


文科省はいくつものプログラムを立ち上げ、大学にさまざまな制度改革を促そうとしている。大学側はそうしたプログラムに応募して資金を得るものの、言葉は悪いが、“食い逃げ” のような状況も見受けられる。前述のテニュアトラック制度一つを取ってもわかるように、抜本的な制度改革の壁は相当に高い。


具体的には、縦割りの講座システムや教育・研究・事務業務の非効率的な配分に見られる硬直化した運営システムなど、大学組織にはいくつもの根深い問題がある。その背景には、社会全体の人事流動性労働生産性の低さなどの根底にある日本人のメンタリティーが複雑に絡み合っていると思われる。このままでは、大学での研究が機能しなくなるほど事態は深刻だ。それが杞憂(きゆう)かどうかは、10年も待たずに分かる時が来るだろう。


(2017年5月22日 記)

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

 

仲野さんのいる生命科学の世界では、日進月歩以上のスピードで研究が進んでおり、高度なことに取り組もうとすれば、「要する研究費が顕著に増大している」し、「そうした高度な研究から、日本の多くの研究室は取り残されつつある」わけです。ここ数か月の間に私がキャッチした生物学に関する次のニュース:

wired.jp

news.mynavi.jp

の2つでは、情報学ほか、他分野の協力がなければ不可能だったテーマだと考えられました。別分野との溝を埋めるには、互いの研究者同士の交流やスキルアップは必須であり、そこまで計算に入れると、確かに研究資金は膨大になっていくでしょうね。

 

日本の科学研究の地盤沈下について、仲野さんは資金だけでなく、大学のシステムをと大学教員の意識を大改革する必要性を説かれておられます。実際の日本の研究業界の親玉でもある文科省は、「いくつものプログラムを立ち上げ、大学にさまざまな制度改革を促そうとしている」けれど、私には「空回り」しかしていないように見えるし、仲野さんのご指摘どおり「言葉は悪いが、“食い逃げ” のような状況も見受けられる」大学があるのは、もっともだと思います。

 

抜本的な改革の必要性を唱えられると同時に、その壁の高さも鋭く書かれておられました。改革の中身については、次の第3項で取り上げます。

 

 

3.最後に

セクション5の最後のまとめの部分で、仲野さんは、

具体的には、縦割りの講座システムや教育・研究・事務業務の非効率的な配分に見られる硬直化した運営システムなど、大学組織にはいくつもの根深い問題がある。その背景には、社会全体の人事流動性労働生産性の低さなどの根底にある日本人のメンタリティーが複雑に絡み合っていると思われる。このままでは、大学での研究が機能しなくなるほど事態は深刻だ。それが杞憂(きゆう)かどうかは、10年も待たずに分かる時が来るだろう。

 

日本の科学研究—地盤沈下は止められるのか | nippon.com

ということを書かれておられます。細かい事項はよく大学・大学院のシステムに対する批判で言われることなので、ここでは「根底にある日本人のメンタリティーが複雑に絡み合っている」部分について、コメント致します。

 

根底にあることは、「社会全体の人事流動性労働生産性の低さなど」というのは、要は民間会社や自治体や国家の各種役所、工場や飲食店など、日本全体の仕事現場と一緒で、

といった「働き方改革」とも重なってくる課題ではないでしょうか。ご指摘はもっともなんですが、これって、解決がいちばん難しいところだと思われます。おそらく、数十年かけながら、少しずつ、人間の意識を変えていくしか、解決はしないと思います。

 

それより現時点でできることは、「日本の科学研究において、資金をどの分野にもバランスよく配分・投入する決定ができる人を、国の政治家のトップに据えること」でしょう。加えて、その場しのぎのプログラムばかり打ち出す、「文句あるか省」を、思い切って解体してしまい、今よりも小回りがきくサイズの省にしてしまうことでしょう。なお、後者については次の記事の後半のほうで詳しく書いております:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回の仲野さんのニュースを読んで意識したのは、何かをしようとする際には、資金をきちんと考えて配分できる適切な判断ができる人材が必要だということでした。

 

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