仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【ニュース】「名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円」(日刊工業新聞)と博士院生の非正規雇用の話

皆さま、梅雨のシーズン、いかがお過ごしでしょうか?今週の終わりに、次のような博士院生に関する名古屋大学の取り組みニュースを見つけました:

www.nikkan.co.jp

 

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ちょくちょく、コメントを入れつつ、ニュースを見ていきたいと思います。

 

名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円

(2017/6/22 05:00)

 名古屋大学は産学共同研究に参加する博士課程の学生を、年俸約300万円でフルタイム雇用する新制度を始めた。博士研究と共同研究のテーマがほぼ同一の特に優れた学生に対し、共同研究費の一部から給与を支給する。学生でありながら社会人として位置付けることで、企業ニーズの高い守秘義務や研究進捗(しんちょく)管理も進むと期待されそうだ。

 

 この「研究員(学生)制度」は産学共同研究費を原資に、大学側が博士課程後期の学生をフルタイムの契約社員として雇用する仕組み。対象プロジェクトの限定はない。第1号は文部科学省の支援事業「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」(OPERA)の中で、数人を対象に実施した。

名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円 | 科学技術・大学 ニュース | 日刊工業新聞 電子版

うーむ、「年俸300万円でフルタイム雇用」される博士課程の院生は、「産学共同研究」に参加する人たち限定なようですね。しかも、「博士研究と共同研究のテーマがほぼ同一の特に優れた学生に対し、共同研究費の一部から給与を支給する」ということ。後に続くのは、「学生でありながら社会人として位置付けることで、企業ニーズの高い守秘義務や研究進捗(しんちょく)管理も進むと期待されそうだ」という思惑が見えています。私個人としては、それなら、企業がパトロンになって、学生として名古屋大学に博士院生に研究能力を育成してもらってから、そのまま、企業に採用し、それから社員教育をしたほうが、博士院生のほうも、じっくり研究に集中できて、よいと思います。

 

実は、博士課程の時、自分の所属している大学院部局とは別の学内の研究所で、私はパートとアルバイトの間くらいの身分で、非正規の契約雇用職員として働いていたことがありました。研究所では、中国語の手書き文字をドキュメントファイルに起こしていく、大学教員の先生方が研究費で買った中国語の本の書誌リストを作成する、学会の全国大会の案案内の紙を三つ折りにして封筒に入れる等、専門的なものから単なる作業まで、いろんな雑用をしました。

中国語のタイピングの高速化、読み書き能力や、ビジネスマナーの一部を覚え、確かに研究や、その後のフリーター業務でも役立ちました。ですが、その仕事を抱えながら、博士論文のもとになる投稿論文を書く作業を並行して進めるのは、並大抵のことではありません。D2くらいから、別の大学院に非常勤講師として授業をしにに行っていたスーパー博士院生・先輩のYさんでさえ、ひいひい、言っていましたから。

 

続きを読んでいきましょう。

 

 

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 博士学生支援で一般的なリサーチアシスタント(RA)制度は、学業優先が前提であり、単価や時間はさまざまだ。名古屋大の標準では時給1500円、最大週20時間のため、多くて年150万円程度だった。

 

 しかし講義の受講がなく共同研究が博士研究と重なるケースなら、裁量労働制の研究者と見なせると判断。新制度では年俸288万円(月額24万円)に設定した。

 

名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円 | 科学技術・大学 ニュース | 日刊工業新聞 電子版

ちなみに、私のやっていた研究所の契約雇用職員は、ニュース記事に出て来るRAとは、また別のタイプの雇用形態で、月3~4万円、年間で50万に届かず。年末の親戚の集まりで報告したら、親戚の院卒者の人たちに苦笑いされました。そうは言っても、そのお金で研究に必要な入門書や、中国語の専門書はけっこうな冊数を買えました。博士論文が書けたのも、この契約雇用職員の給与で本を買うお金を得たからだと考えています。

研究所のほうの上司には、雇用申請をしていただいたほか、修論や博論のアドバイスも頂き、不義理をしてしまっておりますが、今もその方のいる研究所の方角には、足を向けて眠れませんね。

 

ちなみに、私が博士課程に進んでからは研究室でとれた予算の関係か、私にエクセルを教えてくれたベテランの留学生の先輩だけが、ボス先生のもとでRAやっていました。この留学生の先輩が、年収いくらだったかは、わかりません。

 

 名古屋大学の場合、「名古屋大の標準では時給1500円、最大週20時間のため、多くて年150万円程度だった」とのこと。私の研究所の勤務は、週8時間以内くらいでしたから、額が多い分、業務も長時間にわたっているということなんでしょう。

 「しかし講義の受講がなく共同研究が博士研究と重なるケースなら…」と言っていますけど、理系のプロジェクトだって、ゼミ発表や中間報告くらいは必要でしょう。いくら「フルタイムの契約社員として雇用する仕組み」とはいえ、お金の額と研究のために学ぶ時間を天秤にかけるくらい、産学連携に参加する博士院生にはストレスがかかりそうです。

 

 学生は両親らの扶養家族から外れ、社会保険に加入し、奨学金の受給資格喪失の可能性があることに注意がいる。

 

 博士学生はこれまで、産学共同研究に関わっても雇用関係がないため、守秘義務など責任や研究管理があいまいなままだった。学会発表の段階で企業が内容の公表に難色を示し、博士号取得が遅れるといった懸念もあった。今回は教員の指導を受けながらも、博士研究員(ポスドク)と同じく一人前の研究者と扱われることになる。

 

名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円 | 科学技術・大学 ニュース | 日刊工業新聞 電子版

そうそう、両親、兄弟姉妹、配偶者等の扶養家族から外れ、社会保険に加入するとか、返済型・給付制の奨学金の受給資格との兼ね合いも、きちんと整合性を事務の人たちに確認しないといけないんですよね。このあたり、私は研究所の契約雇用職員やっていた時は、年間支給額が小さくて、扶養家族を外れなくて済み、問題はなかったです。

 

ここまで、名古屋大学の産学連携で博士院生を雇用する件について、厳しく書いてきましたが、 「守秘義務など責任や研究管理があいまいなままだった」点がきちんと社員として指導され、最低限でもビジネス的な部分における教育の機会を得られるのは、悪くないかなとは思います。「学会発表の段階で企業が内容の公表に難色を示し、博士号取得が遅れるといった懸念もあった」という面があるのであれば、研究テーマや分野によっては、博士課程の時に然るべき指導を受けつつ、「博士研究員(ポスドク)と同じく一人前の研究者と扱われることになる」というのも、いちがいに悪いとは言えないかもしれません。

 

そうは言っても、名古屋大学のこの取り組みは始まったばかりのようですので、続報があれば、またこのブログで取り上げたいです。

 

おしまい。

 

 

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