仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

脱出された「黒いラボ」の大学運営視点での「それから」を考える~「ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス」(リケジョゆうきの活動記)~('18.10.7、リンク切れ確認)

<脱出記の「されたほう」の「それから」>

1.近況報告と今回の話

皆さま、湿気の多いこの頃、いかがお過ごしでしょうか?私はここ2日ほど、学術論文の字数削減と書式調整が大詰めで、27日は精神より身体の疲労感が凄まじかったです。一応、見て頂いている方から、私の担当箇所は全体的にOKが出たので、一息つきたいところです。

 

さて、今回の話題はアカハラとブラック研究室の話題で、やり方次第では実効性に富んだ記事を取り上げます。フォロワーのリケジョゆうきさんの「ブラックラボ脱出記」とも言うべき、学生たちの知恵と時機をフルに活用した実例とアドバイスが非常に役立ちそうです:

「「ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス」(リケジョゆうきの活動記)~('18.10.7、リンク切れ確認済み)

piano-go.com

 

ひととおり、拝読しました。脱出記としては、学生に対して「出られてよかったね~。ひとまず、めでたし、めでたし」と思いました。が、視点を変えてみると、大学側がハラスメントやブラック研究室を放置したままになる可能性があり、【2017.3.25追記】不正や捏造が起こる場所はアカハラの現場と似ている~「学生を追い詰める「ブラック研究室」の実態」(ニューススイッチより)~ - 仲見満月の研究室で指摘したように、残った環境は不正や捏造、次のハラスメントの起こる場所になりかねません。

 

そこで本記事では、学生によって脱出された「ブラック研究室」=「黒いラボ」のその後について、不正や捏造、次のハラスメントの現場とならないようにするには、どうしたらよいのか。上記の「脱出記」の事例とアドバイスをもとに、考えてみます。

 

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2.「ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス」と脱出された「黒いラボ」の「それから」対策

ここでは、「脱出記」を簡単に紹介しながら、脱出された「黒いラボ」が不正や捏造、新たなハラスメントの温床にならないため、「それから」の対策を考えていきます。

 

 2-1.「院試で抜け出す(学部生のみ有効)」パターン

 筆者のリケジョゆうきさんによると、「王道かつ正攻法。教授の人格がある程度まともであれば、丸く収まる可能性が高い」のが、このケースだそうです。実例を見てましょう。

私の知り合いは、学部のときの成績が悪くて泣く泣くブラック研究室所属になったものの、必死で院試勉強して、無事抜け出しました。

 

その後、卒論発表の直前まで指導教員に発表の邪魔をされており、卒業できるか危うかったのです。ですが、なんとか自分で作った資料で卒論を乗り越えて無事卒業し、同じ学科の研究室に所属することができました。

 

これはわりとラッキーな例です。

 

このときの指導教員が若くてそこまで権力がなかったことと、そのときの学科長&受け入れ先の教授が穏健派だったこと、事前に周囲にある程度「やばい」という噂が流れていたこと、などが主な勝因でしょう。

ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス | リケジョゆうきの活動記録

必死に勉強して、他大学の院に脱出できたパターンは、いいほうだと私も思います。これはですね、見出しに書いているとおり、学部→修士課程の進学のみで、有効な策です。修士課程→博士課程の場合、大学院の研究室や指導教員の変更をする際の注意~旧指導教員の推薦状提出の件~ - 仲見満月の研究室で詳しく書いたように、修士課程の研究室の旧指導教員に推薦状を執筆してもらわないと、博士課程を受験できない大学院があるそうです。

 

加えて、

  • 指導教員に権力がなく、学科長や受け入れ先の先生が穏健派で何とかなった
  • 事前に周囲にある程度「やばい」という情報があった

といったことが重なって、脱出できたのは筆者のご指摘どおりです。きっと、脱出をしようと努力していた学生の進路について、周囲も学部の指導教員に黙っていたのでしょう。

逆に言えば、

  • 指導教員がある程度、権力を持っていた
  • 事前に周囲もある程度、気がついていたけれど、学内の先生方、学生たちも、みんな、どうにもできなかった

というケースは、私の近所のV先生による社会人の博士院生Mさんへのハラスメントでした(指導教員による学生の放置および指導の放棄・拒否によるアカハラ - 仲見満月の研究室院生の頃に目にした「ハラスメント」を当時の周りの大学教員に尋ねるという「愚行」を阻止された話 - 仲見満月の研究室

 

また、Twitterで拾った事例では、学部生が他大学の院に脱出しようということが指導教員にばれてしまい、その指導教員が力を持っていたこともあって、卒論を不合格にされたり、保留にされたケースがあるそうです。拙記事の「書籍『ハラスメントの事件対応の手引き』の読書メモ」と関連情報まとめ - 仲見満月の研究室の「教員→学生」のハラスメント事例では、修士課程の就活で指導教員の推薦書類が必要なのに、指導教員の気が変わったのか、推薦書類の作成を拒否したケースが報道されたことを紹介しました。

似たケースでTwitterで見かけたものでは、内定を得た修士院生の進路調査票に指導教員が認印を押すのを拒否し、修士院生たちに内定辞退を迫って、博士課程で自分の研究室へ進学させた、という私が信じられないと思ったものでした。

 

学部→修士課程、修士課程→博士課程、または就職で脱出しようとした際、バレて指導教員に邪魔をされた時は、「書籍『ハラスメントの事件対応の手引き』の読書メモ」と関連情報まとめ - 仲見満月の研究室でまとめたように、ハラスメントに当たる教員の言動を録音、筆記記録に事細かに残し、それを複数のデータに複製しておくこと(やり方は、続・アカハラ相談をする時のポイント+「レコーダーでの録音のやり方~アカハラ対策として~」について - 仲見満月の研究室参照)。合わせて、各大学の教職員の就業規則を手に入れて読んでおき、全学の人権委員会や相談窓口に言って、証拠を掲げて、指導教員の言動が大学組織の就業規則に違反するハラスメントであると訴えること。

 

これだけのことができれば、「黒いラボ」を被害に遭った学生が脱出したとしても、大学の部局より大きな部署にハラスメントの報告が届く可能性が高くなります。実際、「書籍『ハラスメントの事件対応の手引き』の読書メモ」と関連情報まとめ - 仲見満月の研究室で、就職に必要な書類作成を拒否した鳥取大の工学研究科の教授には、ハラスメントがあって2年後ですが、豊島学長が公の場に出て報告をしたように、処分が下りました。

 

「黒いラボ」を変えるには、被害を受けている学生が証拠を集めて、大学組織の上の方に届くよう、こっそり報告をしてから脱出するのが、このケースでは必要だと思いました。

 

 2-2. 「学内のハラスメント相談室に相談し、研究室を移動」するパターン

筆者が言うように、このパターンでは「ハラスメント相談室がしっかりしている必要があります」とのこと。先の2-1で示したように、やはり確たる証拠に加えて、信頼できる相談室かどうか、見極められることが重要そうです。なお、相談室の見極め方については、水無月さんのツイートまとめをもとにした「アカハラ相談をする時のポイント~学内のハラスメント相談室に持ち込んだ際に注意したこと~」(togetterまとめ)の補足 - 仲見満月の研究室をご参照ください。

 

ちなみに、証拠集めの重要性については、

これは相談室の職員さんが言っていたのですが、「ある程度、一定以上の期間でアカハラを続けており、このままだと明らかに学生の害になるという事実がないと、教員への警告だけで終わる可能性が非常に高い」そうです。

成功した知り合いは、半年以上の映像と録音、研究室配属当初からのすべてのアカハラメール(印刷したら厚さが約1.5mmになったそうです)をすべて提出したので、「研究室を移るべき」という判断がなされたのだと思います。

 (ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス | リケジョゆうきの活動記録

とはっきりと示しておられました。

 

さて、メインの研究室を移ることについて、「「研究室を移る代わりに事実を公にしない」ということを約束した、というのも大きいかもしれません。」という指摘も見逃せません。まあ大学側としては、先の鳥取大の教授のアカハラ処分の件のように外部に処分が出ることは珍しいほど、出さないようにしているのでしょう。

「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jpで書いた日大の獣医学科の野上貞雄教授の研究室において、今まで自殺者が2名出た「事件」で大学側が遺族の調査してほしいという訴えに対し、「黙殺」するような姿勢をとっているほどですから、ハラスメントによる不祥事は大学によっては、外に漏らすと、大きなスキャンダルになることとして、警戒されているのでしょう。

「なので、「黙っているならこっそり移動させてやる」といった提案がなされたのでしょう。」という交渉が、相談室に訴えた学生が証拠を示し、交渉に出て認められたのは、「黒いラボ」脱出の上で大きい勝因となったと思われます。

 

さて、しっかりしたハラスメント相談室であれば、鳥取大のケースのように、大学の上の統括している部署に学生の訴えを報告するでしょう。「黒いラボ」を新たな温床にしないためには、ここで大学の全体を統括している部署には、証拠が明確であり、ハラスメントの事実が複数回に及ぶと判断されれば、調査委員会が立ち上げて調べ上げ、その研究室を再編するくらいはして欲しいと思いました。人員を入れ替えたり、新たな教職員を配置したりすることで、ハラスメントをしていた教職員の言動をある程度、制御できる可能性があるからです。

そもそも、大学院によっては「隠れ発達障害」らしき人が多いところがあり、続・大学院は「隠れ発達障害者の沼」だった 発達障害と研究者の不思議な関係~その先へ行くための対策と本紹介~ - 仲見満月の研究室にも書いたように、自分の言動が発達障害の傾向の特性ゆえだと気づかず、そのコミュニケーションのやり方が他者にとってストレスを与えたり、脅威となったりすることに気づいていない人もいると思われます。人員の入れ替えや研究室の組織再編は、組織内の人間同士のパワーバランスを変えつつ、ハラスメントの言動をしてきた人物が気が付いていない場合、それが他者にはハラスメントに当たるということを気づかせる、または警告する人物を配置することで、アカハラ防止に繋げる側面もあるのです。

 

 2-3.「学科長に直談判し、研究室を移動」というパターン

先の鳥取大に近いケースとして、始まっていますが、ハラスメントにあった修士院生の行動力が勝因となった事例です。

 

直談判という名の、やぶれかぶれの脅しが成功した例です。正直、運が良かったのかもしれません。

 

就活も終わって一息ついた修士2年生が、「このままでは卒業させられない、就職先には僕から連絡を入れておくから」と言われて自暴自棄になり、学科長の居室にアポ無しで行って「就職できないならこの場で死んでやる!!」と喚いたという嘘みたいな話です。

 

その時点では証拠はゼロだったのですが、学科長がわりといい人&学内出世のタイミングで問題を起こしたくない時期だったらしく、話を聞いてもらうことができたそうです。また、その後に複数人の証言があったこともあり、めでたく研究室を移動できました。まあ、直談判から移動まで半年かかったけどね。その先輩は必死に修論書いて卒業し、無事に就職しました。

 (ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス | リケジョゆうきの活動記録

就活が終わって、ほっとした時に「「このままでは卒業させられない、就職先には僕から連絡を入れておくから」と言われて」しまえば、私だって自暴自棄になります。ただ、大学教員側からすると、昨今は修士院生が就活に忙しく、ゼミが開けないぼやきをTwitterでされている方もおられますから、私は複雑な気持ちになりました…。

 

自暴自棄になった修士院生は、おそらく指導教員よりも立場が上の学科長で、性格がいい人で、割と出世欲のあるタイプの人だったからこそ、タイミング的に耳を傾けてくれたのかもしれません。これが出世欲がなく、イヤイヤ学科長やってた先生なら、スルーしていたかもしれません。

実は、研究大好きな大学教員が集まっている組織の場合、しょうがなく誰も会議で責任者の立候補がいないと、イヤイヤ学科長や学長を引き受けることもあるようなんですね。私の知っている某学会の副会長先生は、イヤイヤ、ある短期大学のトップにならざるを得なくなりましたが、任期半ばで「判子押すだけの仕事だと思ってたのに、書類や挨拶わまりが多くて、好きな研究できないし、我慢ならないよ~!」と辞表を出して短大を退職。非正規の教授職ながらオファーしてきた大学の一教員として転職してしまったことがありました。

そういった研究するための環境が欲しくて大学教員をやっている先生には、ある程度、責任感はあるのできちんと仕事はこなしてから退職されますので、直談判の修士院生がやって来たら、スピーディーに研究室を移れるように手配するか、黙殺したまま退職するか…。私には、わかりません。

 

リケジョゆうきさんによると、半年かかったものの、何とかその修士院生は研究室を移れました。そして、やっぱり「研究室を移る代わりに事実を公にしない」ということは、約束させられたようですね。やはり、そこがポイントなようです。

 

 2-4.「脱出に成功した事例の共通点」について

以上のように、3つの事例を見ていましたが、リケジョゆうきさんは脱出成功の共通点について、以下のようにまとめられています。

  • 目的(脱出すること)を見失わなかった
  • 落とし所を見つけた
  • 周り助けがあった

ということです 。

 (ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス | リケジョゆうきの活動記録

 

目的を見失わなかった、というのはともかく、落としどころを見つけるのと、周りの助けがあった点は、幸運だったとしか、言いようがないです。様々なアカハラ記事で書いてきましたが、大学や大学院の部局内はムラ社会であり、先生同士の人間関係が微妙だったり、なかには学部長や学長よりも学会のほうで権力を持っている大学教員もいたりするらしいです。そういった厄介な大学教員に出会ってしまい、その研究室に配属されてハラスメントを受けると、助けたくとも、周囲が手を差し伸べることさえ、できなくなることがあるんです。

 

しかも日本のアカデミック制度では、以前、【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~ - 仲見満月の研究室で書いたように、書類上、指導教員の認可がなければ、指導を受ける学生は休学も退学もすることができない仕組みとなっているところが多いのです。

 

そういうわけで、ハラスメントを受けているな、と気づいた時点で、学生は証拠集めを開始して、まずは「ブラック研究室」を脱出する算段を密かにとっておくのがベストでしょう。

 

 

3.まとめ~脱出された「黒いラボ」の「それから」~

 学生は脱出してよし!ただし、脱出された「黒いラボ」を抱える大学組織のほうは、ハラスメント防止のために対策をとらなければなりません。前提として、リケジョゆうきさんが指摘するように、ハラスメント相談室、それから大学や大学院が組織として、ハラスメント対策に真摯に取り組むよう、しっかりしていることが条件です。

 

次点として、ハラスメント相談室は学生の証拠と訴えを大学上層の担当部署に上げて、ハラスメントをした教職員に処分を下して、「我が大学は、ハラスメント対策に力を入れているクリーンなところです」と内外にアピールすること。そうしないと、受験生がハラスメントを嫌って、受験に来なくなりますよ。

 

3つめは、問題のあった研究室の人員の入れ替えや再編で、人間関係に変化を加え、ハラスメントをする人物の言動が他者にハラスメントとならないように、抑え込むこと。

 

マスコミにハラスメントの事実が漏れる・漏れない以前に、とにかく、証拠を集められて、訴えがあって被害者が脱出したとしても、以上3つのことは対処しないと、ブラック研究室を中心に、次の問題が起こるでしょう。きちんと、取り組んでほしいものです。

 

 

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