仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

研究者の研究資金の使い方に対する「締め付け」:後編~大学教員の場合と民間の助成金が下りたケースetc~

主に職業研究者の研究資金の使い方に対する厳格化について、前回は日本学術振興会の特別研究員のパターンを紹介いたしました: 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回は、大学教員のパターンを中心に、ご紹介致します。 

 

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<今回の内容:後編>

5.大学教員の場合

 5-1.「出張」と「遊び」の間の問題

私が大学院に入学する前の噂話です。社会学研究科に勤務されていた餅田先生(仮名)が、あるイベントの講演会に呼ばれ、講演会の二日後に当地である研究会に招待されたこともあり、泊りがけで地方へ行かれた時のお話です。餅田先生は退職間際の高齢な先生であり、補助役として研究室のメンバー、付き合いのある学会の研究者が同行していたそうです。

 

この出張から返って来た餅田先生は、研究科の会計係の職員に相談して、講演会や研究会の開催地にかかった交通費、宿泊費用等を事前にもらった科研費の予算から、余った分を精算し、余ったお金を返そうと考えておられたらしいです。その際、会計係の方は、

「講演会と研究会の間の日の計画が、事前に提出いただいた旅程には、「県立民俗資料館見学」と書かれていらっしゃいましたが、それはほんとうでしょうか?」

と疑問を言って、餅田先生に資料館の半券提出を促されました。餅田先生は半券をなくされていたそうで、代わりに資料館の予定日に実際、そこの売店で買った図録のレシートを提出されました。それにも拘わらず、会計係の方の追及するような質問は、終わりません。

実は、餅田先生に同行した人たちのなかに、「餅田先生の今回の地方行きは、「出張」というのは名目で、実際は「遊び」の日程の方が多かったのでは?」と会計係に言っていた人物がいたらしいのです。

 

結局のところ、餅田先生は定年直前くらいのその当時に、この出張に使った研究費は不正か否か、をきっかけに、社会学研究科を辞(めさせ)られたそうです。依願退職だったのか、処分による退職だったのかは、噂話では伝わってはおりません。

 

大変だったのは、餅田先生が実質的に会長をなさっておられた、小さな勉強グループといってもいい規模の学会でした。この学会では、ある哲学者の本を日本語に翻訳する定例会を行っており、その成果を出版しようとしていたそうです。が、餅田先生が大学を辞め(させ)られたことで、その出版事業がストップせざるを得なくなりました。

その翻訳本は、現在も出版されておりません。

 

餅田先生の件の真相はわかりません。ですが、不正を防止する目的で、「用務を遂行した証拠を出せ」というように研究資金を厳しく管理され、お金の使い道や個人行動が嫉妬心や悪事感情が絡んだして、よくないことも起こりうるかと。その一つが、いろんなことが透明なっていくことによって、発送の転換から生まれてくるような、独創的な研究がしにくくなり、停滞してしまう分野もあるのではないでしょうか。

 

つまり、グレーゾーンがなくなることにおける研究の不自由さがある、ということです。灰色の部分があることで、人の嫉妬による研究の阻害、個人個人を貶めようとする行為をおしとどめ、攻撃性をおさえることで、研究を妨げない効果はあるんじゃないでしょうか?このあたりのバランスのとり方は、非常にむずかしいでしょうけれどね。

 

  5-2.トラブル関係で仕事を辞めざるを得なくなった後の研究活動

別の大学教員のお話をします。これは、ボス先生の友人で、グラフィックデザインの授業を女子大学で教えておらえた方です。仮に、高枝先生と致しましょう。

 

高枝先生は、以前から勤務先の学部事務室会計課の研究資金に関する締めつけ、特に学園祭にゼミ展を出し物にする時にお金の使い方をめぐって、「大学・大学院側の不正じゃないの?」という疑いの言動を受けたそうです。その他、折り合いの悪い事務職員への不信感や、学内の人間関係の悪化に至るなど、小さなことが色々と重なり、勤め先の女子大学を定年前に辞表を出して、出奔されてしまったようでした。


その当時、うちのボス先生は学会でシンポジウム内で、高枝先生に講演をお願いしておられました。その打ち合わせを含めて、連絡をやり取りしていた連絡先が、高枝先生の所属していた女子大学のもので、さあ大変。辞めた直後は連絡先が分からなくなって、連絡役の研究員の方に、「まあ、高枝さんからの連絡を待つしかないよね」と仰り、ひと月、待ちました。


すると、高枝先生から新しい住所とメールアドレス等の連絡が送られてきたメールにかかれていました。メールによれば、ご本人は学会や学術雑誌等で、グラビアページのレイアウトや、くるみ表紙の本の装丁のお仕事を女子大で在職中からお持ちだったそうです。辞職後、グラフィックデザインの個人事務所を開業され、持っていた研究業界の顧客の人脈を頼りに、今はフリーランスでやっていることを報告されていました。

新しく作った個人事務所から連絡先が来て、学会の講演に向けて、研究員の方は連絡することになりました。

 

高枝先生のように、研究資金の使い方をめぐって、疑いの目を向けられたことをきっかけに大学を辞職されたような、例から言えることがあります。個人で食べていける優れた技能や人脈を持つ、あるいは、建築士、医師、薬剤師、学校教員尚の有資格者、且つ、その資格で生計が立てられる人であれば、大学に積もり積もった人間関係の悪化によって居づらくなり、大学教員を辞ても、何とか食べていける可能性が高いでしょう。


ただ、トラブルで辞職したことが噂になってれば、やはり、仕事はできない確率が高い。そのため、先に信用や名誉の回復を必要があれば法的な手段を取り、経済的基盤がととのって、生活が軌道にのせる。そのあとに、研究団体での仕事もリスタートできるかもしれません。実際に、そのような方がいらっしゃるのかは、不明ですが…。

 

そういうわけで、餅田先生のような人文・社会学系の研究者も、何か、副業または副業に転化できる資格や技能があれば、助かる時があると考えました。

 

また、前回お伝えしたように、ガクシンのDC・PDは、生活費である月々の研究奨励金、まとまった研究のお金(科研費)を除き、他の収入を得ることに制限があります。前回の粂田さんがPDから出世して、助教になってから、出前授業を頼んだことのある先生が懇親会の費用を出したように、食事をおごってあげる。それから、「ほしいものリスト」による支援、物品や食料を送る等で、支え合って生活基盤を作るところから、スタートしていく必要がありそうです。

 

そうなると、結局、ポケットマネーが最強な気がして、しようがありません。

 

 

 6.民間の助成財団への申請で、助成金が下りた場合

ここからは、民間の助成団体で研究資金が下りた場合の話です。そういったパターンでは、申請者の所属大学・大学院等に、研究資金を預けて管理してもらう、つまり、移管する必要があります。

 

助成団体からの研究資金を所属先に移管して、そこから物品購入を行う時に気を付けることは、次のルールです。


移管先の大学の研究費使用のローカルなルール>民間の助成団体の助成金規則など
         


例えば、助成金を申請した研究プロジェクトを手伝う院生やアルバイトの人に、飲み物やお菓子を買って、そのお金を助成金から計上して出したいと、申請者の大学教員が考えたとします。助成団体の規則上、OKだったとしても、移管先の大学で禁止されていれば、飲食物を助成金では買えません。


そういう時は、助成金による研究プロジェクトで働く院生や、アルバイトの人へのちょっとした飲み物やお菓子は大学教員や院生等の申請者の自腹、ポケットマネーから出ることがあります。もしくは、手伝う院生やバイトさんが自腹で飲み食いすることも、もちろん有り得えます。

 

こういった融通の利かなさが、大学教員のヒエラルキーと「名誉教授」や「栄誉教授」~「(今さら聞けない+)名誉教授 形式的な称号、給料はなし」(朝日新聞)~ - 仲見満月の研究室で書いたように、大学教員の実質的な給与が示されているものの5~7割だろとする根拠です。

 

 

7.まとめ

以上、2回にわたって、 研究者の研究資金の使い方に対する「締め付け」を見ていました。

 

監視の目、チェックするほうとチェックされる側。

システムも含めて、お互い疑心暗鬼にならず、嫉妬や猜疑心を持ったり、それによって特定の人を引きずりおろしたり、貶めたり、陥れたり、する今のような方向へ研究費の使い方や、研究者同士のあり方が一部あると聞きます。少しずつでも、それらが変わればいいと思います。


お互いがお互いを高め合い、協力し合える、協働できるくらいの余裕を持つ方向へ、トップの文科省を含めて変わっていってほしいと思いました。お金にも、時間にも、人出にも余裕をもたせるには、長いスパンで考えて実行しないといけないから、今の日本では難しいとは思います。私にできることは、こうした現状をお伝えすることだけです。

 

おしまい。

 

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