仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

書き手も読み手も論文で最初は「序論」を重視しよう~「科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順」(Gigazine)

<本記事の内容>

1. はじめに

進まない論文直しをお休みし、就職活動の書類を書いておりました。そろそろ、論文作業に戻ろうとしていたところ、次の記事を見つけました: 

gigazine.net

 

このニュース記事は、2017年06月29日に公開されたもので、

科学に関するニュースを正しく理解するためには、ニュースの元となった科学論文をダイレクトに読む必要があります。科学的な知識や素養がない一般人が、どのように科学論文を読むべきなのかについて、現役の科学者が11の手順を解説しています。

Impact of Social Sciences – How to read and understand a scientific paper: a guide for non-scientists

http://blogs.lse.ac.uk/impactofsocialsciences/2016/05/09/how-to-read-and-understand-a-scientific-paper-a-guide-for-non-scientists/

 

インディアナ大学で遺伝学と生物人類学の博士号を取得し、カンザス大学人類学部の准教授を務めるジェニファー・ラフ博士は、科学を間違って伝えるニュースは人々に与える影響力が大きいため避けなければならないと考えています。

(科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

といいう、いわゆる「ニセ科学」を伝えるニュースを割ける目的で、科学論文の読み方の訓練を積む方法をラフ博士が提示し、その方法を簡潔に紹介したものです。

 

科学を間違って伝えるニュース」を避けるための第一歩としては

科学に関するニュースは、研究の要約やまとめですが、事実を正しくとらえられていない可能性が排除できないため、科学のニュースを正しく理解するためには、ソースとなった論文を読むことが最良の方法だとのこと。

 (科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

と伝えられていました。論文の書き手としては、発表した論文を丸ごと使って、新たな知見に対する既存の領域における意味付けについて筋道を立てて説明しているわけですから、読者には要約やまとめを読んだわけでは、書き手の意図したように伝わらないのは、当たり前です。

 

ラフ博士は、こうも仰います。

ただし、科学論文を読むという作業は、ブログや新聞で科学に関する記事を読むのとはまったく異なるプロセスであり、忍耐を求められる作業です。本来は科学者が大学院で学ぶスキルが求められる「論文の読み方」を素人が身につけるには、何よりも「忍耐」と「実践」が不可欠だとラフ博士は述べています。苦行のような科学論文の読解ですが、忍耐強く実践し続け経験を積むほどに、読めるペースは速くなるとのこと。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

この主張と、ニュース記事に記されている「本来は科学者が大学院で学ぶスキルが求められる「論文の読み方」」 をベースにしたものであり、このニュース記事についた、はてなブックマークを読むと、確かに一般の読者向けの訓練には少し遠いと感じられました。とはいえ、逆に言えば、研究初心者かつ大学院生になりたての人たちが身につければ、有用な論文の読み方のスキルと捉えることもできます。

 

そこで、今回は本ニュース記事で紹介されている「論文の読み方」を通じて、研究初心者で、読み手としてのプロセス、および書き手としてプロセス上で何を重視して書けばよいのか、ちょっと考えてみようと思いました。

 

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2.ジェニファー・ラフ博士の「正しく科学論文を読むために必要な11の手順」

 2-0.「大前提」

論文を読み始める前に、著者と所属する研究機関を書き留めることをラフ博士はオススメしています。そして、論文が掲載されている科学誌に注意を払うことも求めています。これらは、論文の信頼性に影響を与えるものなので、読み始める前の準備行為としてしておくべき事柄です。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

そうか、やはり所属先は大切なんですね。文理総合系の大学院に行っていた者としては、研究機関の名前や研究室の名前は、一致していないことがあるんですよね。なので、読む方におすすめなのは、論文の著者の経歴を調べた上で、その論文を読んでほしいと思いました。

 

また、論文を読み進める間、理解していないすべての語句を書き留めることもラフ博士は要求します。この作業が苦行であることは明らかですが、ラフ博士によると「語句の理解なしに論文の理解なし」とのこと。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

分からない用語を書き留めておいて、調べることは研究初心者には必須です。論文の文脈上、特殊な言葉が出てくると分からないことも多増えてきます。そういう時は、チンプンカンプンな言葉を書き留めておいてから、後で調べるといいかもしれません。

 

 2-1.「Intoduction(導入)」セクションから読み、「Abstract(要約)」セクションは読まない

 個人的には、タイトルに入れたように、ここが書き手にも、読み手にも重要だと認識しました

科学論文にはその研究の概要を示した「abstract(要約)」が必ず付けられています。abstractは研究内容を手短にまとめており、これを見ればおおよその研究成果が分かるものです。このため、一般人のほとんどは「abstractしか読まない」ことになりがちですが、ラフ博士はabstractは最後に読むべきと述べています。

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abstractには筆者(研究者)の結果への考察が含まれており、ここには少なからずバイアスがかかっているものだとのこと。あくまで事実をベースにすべき科学研究では、abstractを読むのは最後であるべきです。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

abstractには筆者(研究者)の結果への考察が含まれており、ここには少なからずバイアスがかかっているもの」というのは、図書館学の授業を受けていて、レファレンスサービスの注意点として挙がっていました。査読に通り、ジャーナルに掲載されたとしても、著者のバイアスがかかったところは、論文を読み進める上で、ゆがみをもたらすと。

 

それよりも、「Intoduction(導入)」セクションを読む大切さに、私は同意します。何度か弊ブログで登場している『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)』の「第6章 学術論文を書く」の「序論(イントロダクション、Intoduction)」では、

序論を読むと、大事な研究か、どうでもよい研究かがわかってしまう。論文のうち、ななめ読みされたり、読みとばされたりせずに、普通に読んでもらえる確率が高いのが、この序論の部分だろう。この部分は、書き手にとって、もっとも手ごわい部分だと言える。

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)』p.103

と、序論セクションの重要性が指摘されており、書き手としては、先行研究としてきちんと読者に読まれるか、そうでないかの分かれ道となるでしょう。

 

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 2-2.序論の内容と書き手・読み手が意識すべきこと

それでは、序論にどういったことを書けばよいのか、あるいは、読み手はどういったポイントに注力し、読んでどういったことをすればよいのか、もとのニュース記事を引用していきます。

◆02:「大きな疑問」をはっきりさせる
論文を読むときに頭に置いておくべきことは、「この論文は何について書かれたものなのか?」ではなく、「(この研究が)解決しようと試みている『疑問』とは何なのか?」だとラフ博士は述べています。このことを念頭に置くことで、なぜこの研究が行われたのかに焦点を当てることができ、証拠を注意深く見ることができるとのこと。

◆03:研究の背景を5行以内でまとめる
大きな疑問を抱いた後は、研究の背景を5行以内という簡潔な内容にまとめる作業をするべきだとラフ博士は考えています。読者としての立場で研究背景を要約することによって、研究の文脈について考えられるようになるとのこと。ラフ博士は、研究について正しく理解するためには、研究がなぜ行われたのかを説明できる必要があると考えています。

◆04:具体的な疑問を特定する
手順3までで大きな問題について明確させた上で、研究者が論文で答えようとしている疑問が何かを考えるべきです。この疑問は1つであることもあれば複数あることもあります。いずれにせよ、筆者の回答しようとしている問いを、すべて紙の上に書き出すことをラフ博士は推奨しています。仮に、著者が帰無仮説を立てているならば、それを明確にする必要があります。

◆05:アプローチを特定する
次に、具体的な疑問に答えるために、筆者が何をしようとしているのかを特定する必要があります。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

以上、5つの内容について、クリアになるように書き手が整理して書けば、その論文をダウンロードし、印刷して読もうとしてページをめくる人に、読む価値があることを締め出ます。読み手のほうは、ラフ博士が示した手順で論文のコアなポイントを解きほぐす作業を行い、読み進めればいいんです。

 

学術論文を書く上では、序論の冒頭にその論文全体の概観を簡潔にまとめた文章や段落を置くと、親切だと思います。そのあたりは、『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)』の「第6章 学術論文を書く」の「序論(イントロダクション、Intoduction)」に詳しく書かれているので、そちらをご参照ください。

 

 2-3.論文の中身を読み進めていく

研究初心者にとっては、重要な序論を過ぎたら、あとはニュース記事が書いているように、読み手が手順を進めれば、先行研究の内容がだいぶ頭にはいりやすくなります。

 

◆06:各実験の関連図を書き、筆者が採った方法を図示する
ラフ博士は、実験などの研究アプローチの関連性を図示することを推奨しています。理解を完全にするためには、必要十分なほど詳しい内容を書き込むのがオススメだとのこと。細かな実験内容まで書き込む必要はありませんが、基本的なメソッドについて他人に説明できるレベルになるまでは、手順7の「結果」に進む準備がまだできていないとのこと。 

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

具体的な図の書き方は、もとのニュース記事にラフ博士が行ったものが写真付きで載っています。そちらをご覧ください。

 

◆07:「Result(結果)」セクションを読む
良質な論文では、結果の大部分が図表でまとめられていることがあります。この図表には特に注意を払うべきだとのこと。「significant」や「non-significant」という文言には統計的な意味があることや、グラフのエラーバーの意味を理解しておく必要があるとラフ博士は述べています。また、信頼区間のないグラフは要注意であり、サンプルサイズがどれくらいであるかも実験の信頼性を推し量る上で重要になるとのこと。

◆08:「結果」がテーマとなる疑問に答えているかを考える
「研究結果がどのような意味を持つのか?」や、手順4で特定した「研究テーマとなる疑問に対して、研究の結果が正しく答えているか?」について、読者自身が考えることが重要だとラフ博士は述べています。

もちろん、筆者の解釈を読んでから自身の考えを変更するのは全然構わないとのこと。しかし、他人の見解を読む前に、まず自分で結果から得られる意味を考えることは非常に良いことだとラフ博士は指摘しています。

 ◆09:「Conclusion(結論)」「Discussion(議論)」「Interpretation(解釈)」のセクションを読む
筆者が結果をどのように解釈しているのかを検証し、それに同意できるかを考えます。筆者は「研究の『弱点』を明確にしているか?」「見逃していることはないか?」「代替的な解釈は不可能か?」を検討すべきだとのこと。ラフ博士は、決して研究者に間違いがないと仮定してはいけないと述べています。

◆10:要約を読む
ここまでの作業を終えて初めてabstract(要約)を読みます。論文で述べている内容と要約が一致しているかをチェックします。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

結果、およびそれについての議論と解釈を丁寧に読み砕くことで、その研究の手薄なところ、反論できる余地があるか、といった部分を見つけることができます。要は、研究初心者が自分で査読論文を書いていく上で、ヒントになるポイントを見つけられる作業であると言っていいでしょう。そのやり方が、上記のラフ博士の述べておられる工程です。

 

◆11:他の研究者は論文について何を言っているか?
論文をすべて読み終えた後で忘れてはいけない作業として、「他の研究者がその論文に対してどのような評価を下しているか?」を調べることが大切だとのこと。この時点では「Google検索」は解禁されるとのこと。手順10までを守っていれば、Google検索で表示される他の研究者の見解に対してさえ、批判的に見つめる準備が整うはずだとラフ博士は述べています。

 科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

研究初心者が先行研究に対する「穴」を見つける上で、最終手段が上記の「他の研究者は論文について何を言っているか?」 です。他の読者や研究者からのツッコミ、批判がないか、調べることで、読んでいる論文を取り巻く分野のカルチャーが見えてきて、自分で論文を書く時、リジェクトされないための予防線を張る下地を作ることができるでしょう。

 

 

3.まとめ

いかがだったでしょうか。元のニュース記事では、読み手が「ニセ科学」のニュースを割けるため、正しく科学論文を読み解くための手順を解いていました。それに対し、私は研究初心者に向けて、先行研究をどう読み、自分が投稿論文を書く時の糧とするか、そういった視点から、コメントを入れました。振り返ってみても、やはり序論は書き手にとっても、読み手にとっても、読み進める初期の段階で重要だということは、再度、申し上げさせて頂きます。

 

最後に、ニュース記事から研究初心者、それから私を含めた学術論文の投稿をする研究者に向けた一言を置いて、おしまいに致します。

 

ラフ博士による「一般人がいかに科学論文を読むべきか?」の11の手順は、もちろんその研究分野についての科学的知識を持たない一般人にとって有用なのは間違いありませんが、裏を返せば「研究者は、第三者が読みやすいような論文を書くにはどうするべきか?」というヒントを与える内容にもなっていそうです。

科学者が一般人に教える「どのように科学論文は読むべきなのか」の11手順 - GIGAZINE

 

 

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