仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

『人文学は人生の岐路に立ったときに真価を発揮する』のその先へ~文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く」( withnews、ウィズニュース)~

<今回の内容>

1.はじめに

そろそろ、卒論生や修論生で前期卒業を目指す方々は、それぞれ卒論と修論の提出間近の時期でしょうか。無事、合格できれば、9月中に卒業式や修了式に出席できるスケジュールになるのだと思います。

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今週の頭、阪大の文学部長、文学研究科長を兼ねる金水敏さんの式辞が話題となっていました。この式辞は、阪大の文学部の新卒の四大卒、文学研究科の修士卒として、大学を出ていき、社会人になる方々に、向けたものだとニュース記事でされています:

withnews.jp

 

今回は、金水さんの式辞に関するインタビューを取り上げ、紹介致します。

 

2.「文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く」( withnews、ウィズニュース)について

金水さんの式辞の主旨として、もし、新卒の学生たちが人生の岐路に立った時、文学部長の仰った式辞の次の内容は、他学部で学んだことの「効用」を述べたうえで、次のようにおっしゃいました。

(前略)文学部で学んだ事柄は、職業訓練ではなく、また生命や生活の利便性、社会の維持・管理と直接結びつく物ではない、ということです」とした上で、こう述べます。

 

"「しかし、文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときではないか、と私は考えます」


 「今のこのおめでたい席ではふさわしくない話題かもしれませんが、人生には様々な苦難が必ずやってきます」


 「恋人にふられたとき、仕事に行き詰まったとき、親と意見が合わなかったとき、配偶者と不和になったとき、自分の子供が言うことを聞かなかったとき、親しい人々と死別したとき、長く単調な老後を迎えたとき、自らの死に直面したとき、等々です」


 「その時、文学部で学んだ事柄が、その問題に考える手がかりをきっと与えてくれます。しかも簡単な答えは与えてくれません。ただ、これらの問題を考えている間は、その問題を対象化し、客観的に捉えることができる。それは、その問題から自由でいられる、ということでもあるのです。これは、人間に与えられた究極の自由である、という言い方もできるでしょう」


 「人間が人間として自由であるためには、直面した問題について考え抜くしかない。その考える手がかりを与えてくれるのが、文学部で学ぶさまざまな学問であったというわけです」”

文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く - withnews(ウィズニュース)

 

卒業生が社会に出てから、結婚、妊娠・出産、育児、そして仕事での昇進や転勤による単身赴任や引っ越し、また子どもの成長にともなう親としての向き合い方、両親や義実家の方々の介護等、ライフステージで様々な問題に直面したとします。この式辞は、目の前の問題をどう分解し、解決していくか、学生時代に得たその思考のシステムが本領を発揮するということを気づかせてくれる内容だと、私は理解しました。


ここで少し、インタビューしたwithnewsの記者とのやり取りを紹介します。

 

――ツイッターで話題になったことについては
 「正直、当惑しています。なんで今頃、と感じましたが、それだけ人文学の行く末を案じ、応援して下さる方が多いんだなと理解し、うれしく思っています」


(中略)
――これから文学部で学びたいという学生や、現在学んでいる学生、かつて学んでいた人へメッセージを
 「卒業した方には分かっていただけるのではないかと思うのですが、文学部で学んだことがらは、いつの時代にも変わらない価値を持ち続けます。多くの方に『いい選択だった』と思っていただけると信じています」


 ――「これは言っておきたい」という点があれば
 「人文系の学部はもちろんですが、大学自体が岐路に立っています。大学関係者は、不十分ながら、大学が持っている『大事なもの』を少しでも残していこう、受け継いでいってもらおうと努力しています。ひとりでも多くのみなさまに、そんな努力を知っていただき、応援していただけたらと願っています」

文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く - withnews(ウィズニュース)

 
金水さんは、文学部や文学研究科を含む、人文系の学部、それから大学院で学び、研究したことにより獲得したものは、いつの時代もにおいて価値を失わないことについて、繰り返しおっしゃっておられます。


式辞で述べたことだけでなく、インタビューでは、きちんと「人文系の学部はもちろんですが、大学自体が岐路に立って」おり、おそらく日本の大学全体を想定して、

大学関係者は、不十分ながら、大学が持っている『大事なもの』を少しでも残していこう、受け継いでいってもらおうと努力しています。ひとりでも多くのみなさまに、そんな努力を知っていただき、応援していただけたらと願っています」

文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く - withnews(ウィズニュース)

とニュースの取材だからこそ、大学に今居る教職員の方々が危機感を持っておられることを、必死に、しっかりと伝えようとなさって、お答えになったのだと思います。

 

 

3.最後に


様々な方々が、人文学系の部局を含めた大学・システムや制度の在り方について、もがき、苦しみながら、取り組んでいらっしゃること、私もブログに書いたこと、これから書こうとしている情報をキャッチして、存じ上げております。


今回 阪大の 金水先生のニュース記事を拝読して、私は人文系の大学院で博士院生が研究したこと、研究によって得た思考システムや調査方法等の実践的なスキルに、もっと注目した人材活用の方向を提案できたら、と思いました。


文学部等で学び、文学研究科で研究する人文系の学問は、人生の岐路に立った時だけでなく、その学問自体を学びたいという人を増やしていくこと。つまり、人文系の学問を学び、人生の難問に答えを出すための手段に触れてみたい、手にしたいと希望する層を増やし 、そのことが人文系の博士院生や博士号取得者の活躍できる場所を広げていくことに繋げられたら…。


そのように、 改めて考えました。大学や大学院の外での学究の場、および人文系の博士院生や博士号取得者の活躍できる場所については、以前に次の記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

の中の「3.現在進行形で進む民間の学究場所」で少し触れました。お読みいただけたら、幸いです。

 

最後に、この記事で取り上げたニュースについて、記録として転載させていただきます。どうか、ご理解下さい。

 

 

文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く 

若松 真平 withnews編集部

【ネットの話題、ファクトチェック】

 「文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときではないか、と私は考えます」。今年3月、大阪大学の文学部長が卒業セレモニーで述べた式辞が、ツイッターで話題になっています。世間からの「文学部って何の役に立つの?」という声に対する考えを語ったものです。どんな思いが込められているのか? 話を聞きました。

式辞の内容は

大阪大学文学部長で、大学院文学研究科長も務める金水敏さん。話題になっているのは、今年3月に開かれた文学部・文学研究科の卒業・修了セレモニーでの式辞です。

 「みなさま、本日はご卒業・修了まことにおめでとうございます」と始まり、ここ数年間の文学部・文学研究科をめぐる社会の動向について、「人文学への風当たりが一段と厳しさを増した時期であったとみることが出来るでしょう」とふり返ります。

 「税金を投入する国立大学では、イノベーションにつながる理系に重点を置き、文系は私学に任せるべき」といった意見が出たことなどを挙げながら、「文学部で学ぶ哲学・史学・文学・芸術学等の学問を学ぶことの意義は、どのように答えたらよいのでしょうか」と問いかけます。

 「医学部」「工学部」「法学部」「経済学部」などの実例を挙げた上で、「先に挙げた学部よりはるかに少なそうです。つまり、文学部で学んだ事柄は、職業訓練ではなく、また生命や生活の利便性、社会の維持・管理と直接結びつく物ではない、ということです」とした上で、こう述べます。

「しかし、文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときではないか、と私は考えます」

 「今のこのおめでたい席ではふさわしくない話題かもしれませんが、人生には様々な苦難が必ずやってきます」

 「恋人にふられたとき、仕事に行き詰まったとき、親と意見が合わなかったとき、配偶者と不和になったとき、自分の子供が言うことを聞かなかったとき、親しい人々と死別したとき、長く単調な老後を迎えたとき、自らの死に直面したとき、等々です」

 「その時、文学部で学んだ事柄が、その問題に考える手がかりをきっと与えてくれます。しかも簡単な答えは与えてくれません。ただ、これらの問題を考えている間は、その問題を対象化し、客観的に捉えることができる。それは、その問題から自由でいられる、ということでもあるのです。これは、人間に与えられた究極の自由である、という言い方もできるでしょう」

 「人間が人間として自由であるためには、直面した問題について考え抜くしかない。その考える手がかりを与えてくれるのが、文学部で学ぶさまざまな学問であったというわけです」

 

文学部長に聞きました

 

 今月17日、「人文学類を出た身としてはとても響くものがあるので幾度となく読んでしまう」という文言とともに、金水さんのブログで公開されていた式辞全文がツイッターに投稿されました。

 

 すると「すごく心に響くものがある」「名文やなぁ」「なんとなく入った文学部の娘に読むのを勧めたい」といったコメントが寄せられ、いいねが1万4千を超えています。

 

 この式辞にどんな思いを込めたのか? 金水さんに話を聞きました。

 

 ――このテーマを選んだきっかけは

 「『人文学は人生の岐路に立ったときに真価を発揮する』という考えは以前から持っていて、2016年の大阪大学文学部案内の巻頭言にも書きました。特に人文系に対する風当たりが強い昨今、卒業していく学生さんたちに、『きみたちが学んできた学問にはこんな力があるんだよ』と伝えて、世の中に対し少しでも顔を上げて生きていっていただけたらという思いでこのテーマを選びました」

 

 ――表現で工夫した点は

 「できるだけ難しい言葉は使わずに、耳で聞いてすっと理解できるようにとは考えました」

 

 ――金水さんご自身の体験との関係は

 「肉体的・精神的につらい状態にあるときに、考えることがつらさを和らげてくれるという実感は何度か経験しました」

 

 

「それ以上でもそれ以下でもありません」

 

――式当日の反響は

 「卒業生の皆さんは静かに聞いていて下さいましたが、特段の変わった反応はなかったです」

 

 ――ツイッターで話題になったことについては

 「正直、当惑しています。なんで今頃、と感じましたが、それだけ人文学の行く末を案じ、応援して下さる方が多いんだなと理解し、うれしく思っています」

 

 「スピーチ自体は、今読むと、いろいろ言葉足らずの、稚拙な表現もあるし、考えの至らないところもあるし、さほどオリジナリティーがあるわけでもないありきたりのスピーチです。卒業式のその場の皆さんに向けたことばであり、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 ――これから文学部で学びたいという学生や、現在学んでいる学生、かつて学んでいた人へメッセージを

 「卒業した方には分かっていただけるのではないかと思うのですが、文学部で学んだことがらは、いつの時代にも変わらない価値を持ち続けます。多くの方に『いい選択だった』と思っていただけると信じています」

 

 ――「これは言っておきたい」という点があれば

 「人文系の学部はもちろんですが、大学自体が岐路に立っています。大学関係者は、不十分ながら、大学が持っている『大事なもの』を少しでも残していこう、受け継いでいってもらおうと努力しています。ひとりでも多くのみなさまに、そんな努力を知っていただき、応援していただけたらと願っています」

 

文学部って何の役に立つの? 阪大学部長の式辞が話題に 思いを聞く - withnews(ウィズニュース)) 

 

実は、金水敏さんは日本語の研究者であり、ライトノベルに関する評論:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

の「2.第3章キャラクター論」の役割語の分析で、ご研究が引かれていたのを思い出しました。個人的な興味があったので、面白そうなご著書を挙げておきます。

 

 

 

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