仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「無給」ポスドクや博士研究員とその周辺システムの「ふわっ」とした話~主に人文・社会系の場合~

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<本記事は画像イメージほど「ふわっ」はとしておりません>

1.はじめに

次の更新記事のテーマは、いわゆる「ポスドク問題」でした:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

上の拙記事に引きました「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ | 大学ジャーナルオンライン」のポスドクの就労に関する「【科学技術・学術政策研究所】「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」の公表について」の調査結果PDFに対して、ネット上では次の2つのグラフを見られたのか、「所属機関と雇用関係になく、無給のポスドクがいる!」という声を上げられた方がい、ちらほら、らっしゃるようでした。

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調査結果は事実で、日本には研究機関を中心に、無給ポスドクや博士研究員という「肩書き」や「身分」の人たちが存在するのです。

 

彼らは、【2017.7.27_18追記】研究者の研究資金の使い方に対する「締め付け」:前編~ガクシンの特別研究員(DC・PD)の場合とその制度について~ でも触れた、ガクシンの特別研究員や、【ニュース】「名大、博士学生をフルタイム雇用−年俸300万円」(日刊工業新聞)と博士院生の非正規雇用の話 で紹介した特別制度による博士学生兼研究員とは異なり、給与をもらったり、国の予算から申請通過すると出される科学研究費が支給されたりする資格を持ちません。

 

それでは、無給のポスドクや博士研究員とは、一体、どのような資格を持ち、立場であるのでしょうか。現在、私が知り得る範囲の大まかな情報をもとに、これらの身分や肩書に近い「○○(研究)員」も含めて、大まかに「ふわっ」と書いていきます。

 

 

2.「無給」ポスドクや博士研究員について

 2-1.制度について

簡単に言いますと、この「無給」ポスドクや博士研究員の方々は、博士号取得後、就職口がなくて、新たな所属先を得られなかったり、研究員として仕事をしていた勤務先との契約終了後、失業中、次の所属先が見つかるまでの間に研究をするための資格を確保したり、所属先を失ってしまって、研究に必要なリソースにアクセスできなくなった場合、不便さをカバーするための対策として、「無給」ポスドクや博士研究員になっていることが一部の方にはあります。

 

大雑把な話になりますが、「無給」ポスドク博士研究員は、出身大学院やその関連する研究所等に籍を置かせてもらうことです。特典としては、例えば、研究室に本棚と机を貸し与えられたり、研究機関の資料管理施設や大学図書館の利用者カードが発行されて、研究に必要な資料を入館して閲覧、貸借、複写したり、そういった研究に必要なたリソースの提供があります。

 

特に、図書資料を扱うことの多い人文・社会系の博士号取得者は、研究資料にアクセスできないことが死活問題となりやすいでしょう。そういった背景もあってか、「無給」ポスドクや博士研究員の方々は、人文・社会系の分野の方が私の周囲には多いです。一部、理系研究者で「無給」ポスドクや博士研究員をされている方々には、建築学の一部(建築史や都市計画)、都市工学、地球科学等の文書や地図、図面を扱う人がいらっしゃるようです。

 

近い「身分」や「肩書」として、「客員研究員」や「市民研究員」といったものがあります。私が所属する学術団体の客員研究員の方によれば、団体の本部の研究室に本棚と机は貸し出されませんが、資料室の図書資料を閲覧できる権利が付与されているそうです。

 

また、大きなメリットとしては、学会発表や投稿論文に所属先や肩書を記入できることだそうです。とりあえず、自分が「研究者」だという書き手の安心感が得られ、研究業務が大いに進むモチベーションにもなるんだとか。

 

 2-2.なり方

なり方については、出身大学院やその関連する研究所等に、「無給」のポスドクや博士研究員に相当する身分を申請する制度がないか、調べた上で、必要書類をそろえて、申し込みます。私の出身大学院やその周辺の大学では、「研修員」が該当します。受け入れ教員の許可を事前に得、書類に判子と署名をもらって、申し込み書、場合によっては選抜があるため、審査書類を添えて出すことがあるようでした。また、別の大学院では、研修員になるには、いくつか条件があって、その大学院の部局に所属していたことがあったこと等、様々です。

 

 例えば、ネット検索で出てきましたが、東京大学大学院の人文社会系研究科の「研究員」になるには、

本研究科には、本研究科博士課程に在籍したことがある博士学位取得者を対象とする研究員制度があります。
本研究員には、科学研究費補助金の応募資格が認められます。詳細については指導教員に相談してください。

人文社会系研究科研究員について - 東京大学文学部・大学院人文社会系研究科

 と書かれていました。

 

旧帝大系の無給だった博士研究員の方によれば、大学や大学院によっては、上記の特典を得るために、月々数万円を所属費用として納めなければならないところもあるとのこと。「無給」どころか、逆にお金を払わないといけないところもあるようです。

 

 2-3.研究機関によって科研費等の応募資格、研究奨励金が付与される場合あり 

メリットの一つになるかもしれませんが、2-2に引いた東大院の人文社会系研究科の研究員のケースのように、科研費や研究機関内の各種研究資金の応募資格が認められることがあるようです。

 

また、関西学院大学の「研究支援制度 (研究奨励金など大学院学生・研究員のサポート制度)」のページを読むと、

研究員・研修員制度
本学では博士課程後期課程を修了または標準年限以上在学し退学後に、研究活動を継続してサポートし、大学院における研究活動を活性化させるために次のような制度があります。
また、専門職学位課程を修了後、資格試験合格をめざし、勉学を継続する人のために、専門職大学院研修員の制度を設けています。

 

大学院奨励研究員制度
 本学大学院博士課程後期課程に2年以上在学もしくは標準年限以上在学後退学し、博士課程後期課程入学後5年以内の者で、1年(最長2年)以内に博士学位論文を提出する見込みのある者を対象にした制度です。

【支給期間】 1年
【支給額】   月額25万円
【支給人数】 文系研究科で年間5名以内

HOME|関西学院大学大学院 HOME|研究支援制度 (研究奨励金など大学院学生・研究員のサポート制度)

と書かれていました。上記の「大学院奨励研究員制度」に応募できそうな有資格者としては、このページの下の方に出てくる、「大学院研究員」と「研究科研究員」が想定されているようです。どちらの研究員とも、年額1万円が研究料として必要であり、金額的なハードルは、私の知っている「研修員」制度よりは低めではあります。

大学院研究員制度
 本学大学院博士課程後期課程に標準年限以上在学し退学した後、学位論文作成のために引き続き研究指導を受けることを希望する者を対象に「大学院研究員制度」があります。資格は、博士課程後期課程進学後6年以内の者で、年額10,000円(1学期につき5,000円)の研究料が必要です。
 ※願書、研究計画書等は、「学生・教職員情報システムWebサービス」-「掲示板」-「パブリックフォルダ」-「関西学院大学掲示板」-「41.教務機構事務部からのお知らせ」-「02 大学院」からダウンロード可能です。
研究科研究員制度
 本学において課程博士の学位を取得後、本務となる職に就くまでの一定期間図書館等の研究諸施設を利用し研究の継続を希望する者を対象とした制度。学位取得後約4年間認められ年間10,000円(1学期につき5,000円)の研究料が必要です。
 ※願書等は、「学生・教職員情報システムWebサービス」-「掲示板」-「パブリックフォルダ」-「関西学院大学掲示板」-「41.教務機構事務部からのお知らせ」-「02 大学院」からダウンロード可能です。

(HOME|関西学院大学大学院 HOME|研究支援制度 (研究奨励金など大学院学生・研究員のサポート制度))

 

Twitterでキャッチしたところでは、島根県立大学の北東アジア研究センターの市民研究員があります。この大学の市民研究員のなり方などの詳細は、市民研究員制度の概要|島根県立大学 浜田キャンパスを見て頂くとして、市民研究員は「大学院生との共同研究」の制度に応募し、「共同研究事業採択課題」に採用されると、「センターから研究助成金を交付し」て、その共同研究を支援するとのことです。その目的と背景は、

市民研究員と大学院生との共同研究
 大学院生との共同研究とは、本学大学院北東アジア開発研究科の大学院生が、北東アジア地域研究センター(NEARセンター)市民研究員の方々及び教員との研究チームを作り、普段の大学院教育では得難い北東アジア地域 、開発研究に対する「市民の目・興味」に触れ、市民研究員とともに 日本を含めた近隣の北東アジア地域調査に出かけ、また関連の研究を行っている研究者との研究会を開くなどを通じて、新鮮な知的刺激を受けて研究者として成長してもらおうという取り組みです。

共同研究事業採択課題|島根県立大学 浜田キャンパス

というものでした。大学院生の成長が目的であり、博士号取得者の市民研究員がいて、自分がやろうとしている研究テーマを院生に気に入ってもらわなければ、共同研究に応募すること自体が難しそうです。

 

 2-4.研究生や研修生との違い

よく「無給」のポスドクや博士研究員と似た制度として存在し、博士号取得したての私は、「研修員と比較して、どっちがメリットがあるんだろう?」と選択に悩んだものがあります。それが、偶に本ブログの記事に登場していた研究生や研修生です。

 

ざっくり言うと、研究生や研修生は、「見習い院生」です。大学院等の正規の学生ではないものの、それに準じる身分として位置づけられています。研究生として大学に在籍すると、図書館の利用ができたり、単位履修はできないものの、授業を聴講できたり、研究に必要な最低限の制度やサービスを利用することができるようになります。大学によってその名称はさまざまで、研究生や研修生という名前は、その一つです。

 

「見習い院生」ということで、基本的には大学院の修士課程、博士課程に進学を希望する人が、受け入れ教員を探してアポイントメントをとり、許可が下りて、必要書類が審査を通過すると研究生・研修生となることができます。

研究生・研修生になっている人は、私の周りでは、出身大学院の修士課程→別の博士課程の大学院に外部進学しようとする人が、博士課程の受験勉強や受け入れ教員の課題クリアを目指して研究論文を執筆するなど、博士課程入学試験の準備をしている人がいました。私の同期になった人は、他大学から文理総合系大学院の修士課程の受験を目指しており、かつて、修士課程の試験に落ち、院試浪人(院浪)経験者でした*1

 

そういった背景があって、研究生・研修生は基本的に博士号取得者は申し込みをしないようです。また、履歴書の学歴・職歴の欄に書く際のことを考えると、博士号取得者の場合、研究生・研修生よりも、博士研究員や研修員と書いたほうが経歴上、通りがいいようですので、博士研究員や研修員を選択するべきだと、先輩の助教先生に教えて頂きました。

 

博士号取得者にとっては、経歴上は博士研究員や研修員を選ぶべきですが、注意点がひとつ。所属する研究機関によって、「無給」の博士研究員や研修員には、ガクシンの特別研究員と同様、副業に制限がかかることがあります。先の助教先生は、研修員になろうとしたところ、「アルバイトは週8時間以内」という制限があったので、泣く泣く、研究生を選択し、大学や高等専門学校の非常勤講師をしつつ、就職活動をつづけたそうです。ちなみに、助教先生の大学院では、研修生も研修員も、月々に支払うお金の額は、3万円で同額だったそうです。

 

 

3.最後に

以上、「「無給」ポスドクや博士研究員とその周辺システムの「ふわっ」とした話」でした。もし、学会の全国大会やシンポジウムなどで、博士研究員や研修員、○○研究員といった肩書の方を見かけたら、本記事で書いたような「大人の事情」が潜んでいると頭を働かせて頂けたら、幸いです。また、懇親会等でそのあたり、ご本人からお話が飛んでこない限り、人によっては質問をしてほしくない方もいらっしゃるかもしれませんので、合わせて、お知らせしておきます。

 

なかには、元は無給の博士研究員だったけれども、科研費を申請できる資格を得て、応募した結果、研究資金を手にしたよ!とか、共同研究で資金をゲットして研究プロジェクトの論文集を出版することになったんだぜ!とか、いろいろとご活躍をなさっておられる方々もいらっしゃるようです。今、ほぼ無職で、療養中の自分としては、羨望のまなざしだけでなく、そういった方々には、希望の光も向けるようになりたいです。

 

ポスドク問題に関しては、引き続き、キャッチしていく予定です。それでは、今回はこのあたりで、失礼致します。

 

おしまい。

 

*1: 余談ですが、私も学部と大学院修士・博士課程とで所属した大学法人が異なります。が、どちらの大学も公共交通機関を使えば、ギリギリ通って、院の入門向けの学部授業にもぐりこめたので、潜ったり、ついでに後の指導教員やボス先生のストーカーをしたりして、受験勉強は真面目にやりました。合格を頂き、拾って頂いたおかげで、院浪せずに済みました

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