仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

アカハラ防止を大学教員の仕事環境や雇用状態から考える~「東京学芸大教授、アカハラで諭旨解雇 就職活動の妨害も」(朝日新聞デジタル)ほか~

<今回の内容>

1.衝撃的なニュースでした~はじめに~

Twitterを通じて、存在を知ったニュースでした。最初は、時事通信のオンライン記事で読み、頭を抱えるようにして、ブラウザをそっと閉じました:

東京学芸大、50代教授を諭旨解雇=複数学生にアカハラ:時事ドットコム

 

それでも、記録しておかないと。本ブログでも、名古屋大や鳥取大のケースをはじめとして、就職活動を妨害された学部生や院生のケースは、アカハラとして、紹介してきました。今回のアカハラのニュースについても、改めて他紙の記事を読みました:

www.asahi.com

 

時事通信朝日新聞が伝えるところでは、学部生のいたゼミを担当していた大学教授なのでしょう。朝日新聞では、「複数の学生に、不適切で悪質な言動をするアカデミック・ハラスメントをしていたと発表し」、しかも「一部の学生は精神疾患で通院していた」ほど、ダメージを受けた学生もいたとのこと。

 

本記事では、時事通信朝日新聞の両方のオンラインニュースを読み、何が起こったのか、確認した上で、教授の置かれた仕事環境がどのようなものであり、どうして、このようなハラスメントが起こってしまったのか。考えます。

 

f:id:nakami_midsuki:20170914190253j:image

 

 

2.時事通信朝日新聞の両記事から分かること

  2-1.時事通信の内容

最初に、時事通信のオンラインニュースを読んでみましょう。

 

東京学芸大、50代教授を諭旨解雇=複数学生にアカハラ

 東京学芸大は12日、50代の男性教授が学生に悪質で不適切な言動を繰り返すアカデミックハラスメントを行ったと発表した。複数の学生が精神疾患を発症し、卒業後の就労にも多大な支障が生じたといい、8月30日付で諭旨解雇の懲戒処分にした。教授は今月11日付で辞職した。

 同大によると、教授は2014年3~10月、学生に就職の内々定を出した企業に取り消させるため連絡を取ろうとしたほか、内々定先の企業の採用責任者に学生の情報を話し、学生や卒業生らを登録したメーリングリストを使って学生に不安を与えるメールを送った。
 また、学生に研究室の仕事を優先させるため、1時間以内に予定されているインターンシップの打ち合わせをキャンセルするよう命じたと受け取れるメールを送るなどした。教授は事実関係をおおむね認めているという。
 東京学芸大は「心よりおわび申し上げる。再発防止と信頼回復に努める」としている。(2017/09/12-17:50)

(東京学芸大、50代教授を諭旨解雇=複数学生にアカハラ:時事ドットコム)

加害者の教授は、今年8月30日の時点で、諭旨解雇の懲戒処分を受け、今月11日付けで辞職しました。東京学芸大の伝えるところでは、加害者教授は、2014年3~10月の間、

  • 学生に就職の内々定を出した企業に取り消させるため連絡を取ろうとした
  • 内々定先の企業の採用責任者に学生の情報を話す
  • 学生や卒業生らを登録したメーリングリストを使って学生に不安を与えるメールを送った
  • 学生に研究室の仕事を優先させるため、1時間以内に予定されているインターンシップの打ち合わせをキャンセルするよう命じたと受け取れるメールを送るなどした

という、多くは、学生の就職活動と就業を妨害する行為を行ています。注目すべきは、4つ目の行為で、研究室の仕事をその学生の代わりにできる教職員は配置されていなかったのでしょうか。教育学部で起こった案件ですので、修士課程の部局から予算を引っ張ってくる、あるいは教授の自腹で*1院生をティーチング・アシスタント(TA)として、代行作業をさせることはできなかったのでしょうか。

 

あるいは、教授自身が「教育指導」として、「就職活動に含まれるインタ―ンシップの打ち合わせやインターンシップ自体も、研究室の仕事を含む学業がこなせて、はじめて行ってよい」という考え方をしていたのでしょうか*2

 

 2-2.朝日新聞の内容と東京学芸大の対処法について

続いて、朝日新聞の内容を見ていきましょう。

東京学芸大教授、アカハラで諭旨解雇 就職活動の妨害も

2017年9月12日23時7分

 

 東京学芸大は12日、教育学部の50代男性教授が複数の学生に、不適切で悪質な言動をするアカデミック・ハラスメントをしていたと発表した。一部の学生は精神疾患で通院していたという。同大は諭旨解雇の懲戒処分とし、男性教授は11日付で辞職した。

 

 同大によると、教授は2014年3~10月、研究室に所属する学生の就職の内々定を取り消す方法を大学側に尋ね、内々定先の企業に連絡を取ろうとした。また、研究室にいなかったことを批判し、学生らが登録するメーリングリストで「留年してください」などと送ったこともあった。男性教授はおおむね認め「悪気があってやったわけではない」と話しているという。

 

 複数の学生が、卒業した15年3月に学内の窓口に訴えて問題が発覚した。同大は「事実確認、処分内容の検討に時間がかかった」と説明している。

 (東京学芸大教授、アカハラで諭旨解雇 就職活動の妨害も:朝日新聞デジタル)

時事通信のニュース内容と比較して、新たに詳細が分かった部分がありました。次の部分です。

  ・学生に就職の内々定の取消し行動

   …研究室の学生の就職の内々定を取り消す方を大学側に尋ね、企業に連絡を試みた
  ・学生や卒業生らを登録したメーリングリストを使った行為

        …研究室にいなかったことを批判、「留年してください」等とのメールもあった

これらの行為について、「男性教授はおおむね認め「悪気があってやったわけではない」と話しているという」とのことから、大学教員として教育指導の一貫と認識し、実行した可能性があります。

 

ハラスメント行為の事実は、 「卒業した15年3月に学内の窓口に訴えて問題が発覚した」ということから、留年をさせると脅されたと思い、学生たちは非常に怯えたいたことが窺えます。それでも、きちんと学内の窓口に訴えがなされました。事実確認や時間はかかりましたが、今回、報じられたように、東京学芸大は加害者認定した教授を諭旨解雇の懲戒処分にすることができたのでしょう。

 

今回の案件で、学生たちがどこに相談したのか、東京学芸大のサイトを検索したところ、次のページが見つかりました:

www.u-gakugei.ac.jp

上段のメニューには、「相談」「予防と対策」といった、ハラスメントに遭ったのでは?と感じた学生がどのような行動をとればよいか、調べられるリンクボタンがありました(中央のアイコンも同じ項目)。さらに、スクロールで下へ行くと、見えにくいですが最下段にメニューがあり、その左はじに「キャンパスライフガイドライン」というリンクがありました。ここを押すと、「東京学芸大学 キャンパスライフガイドライン ‐ 人権が尊重されるために ‐」という、ハラスメント案件が起こった際、対応するための規定が記載されたPDF文書に行くことができます。

 

おそらくですが、今回の複数の学生が受けた、教授によるアカハラ行為について、このガイドラインに沿って、調査や事実確認がなされ、最終的に加害者認定された教授に諭旨解雇の処分が下されたのでしょう。

 

 

3.アカハラ背景には教育指導が出来ない教員のストレスもあったのでは? 

 今回、精神疾患で通院が必要なほど、心身にダメージを受けた学生がいたことについて、

  • 留年させられること
  • 苦労して勝ち取った内々定を取り消されること

この2つを学生にちらつかせることは、学生が卒業後に主食した職場で働き、経済的に自立して生きていく手段と場所を奪うと言う意味で、「教授」という職位の権力を使った大きいな暴力行為であったと、私は捉えています。

 

その一方で、私は少ない情報から、この加害者認定された教授について、きちんと教育学部の研究室で学生に対し、自分がイメージとして持っている教育指導が行える環境が整えられていたのか。そのことについて、東京学芸大学の側に疑問を持っております。

 

 具体的には、2-1の内容とも重なりますが、

  • 研究室の仕事をその学生の代わりにできる教職員は配置されていなかったのでしょうか
  • 教育学部で起こった案件であり、修士課程の部局から予算を引っ張ってくる、あるいは教授の自腹で院生をティーチング・アシスタントとして、代行作業をさせることはできなかったのか。

そして、研究室いないことを批判していたということから、もう一つ、

  • 学生の就職活動と授業やゼミのコマ、研究室にいるべき時間帯が重なることで、教授が思うように教育指導を行うことができなくなっており、そのことが教授にとって、仕事上のフラストレーションと化していなかったのか。

ということを疑問に思いました。

 

2-1と重なる部分は、大学や大学院の部局制度や予算の都合、教授の個人的な経済力にかかるところが大きいので、そこに問題があったなら、東京学芸大学のほうで改善できる範囲で業務の改善努力をして頂かなければ、どうしようもありません。

 

それよりも、大きな問題なのが、学生の就職活動にかける時間が増え、教授が自分がしたいような研究に関する教育指導をできずにおり、仕事上、ストレスがたまって、学生に対し、内々定の取り消しや留年させることをちらつかせる、といった「横暴な」ハラスメント行為を引き出してしまったのではないか、という可能性があることです。見方を変えれば、「もっと学生にちゃんとした教育をしたいのに、それが就活や卒業のせいで、できない」と無意識のうちに、教育熱心な気持ちに由来するストレスを大学教員がため込んでしまうということ。

 

 

十数年前の私のお話をしましょう。当時、学部生で3~4年次の十数人の学生が所属するゼミで、4年次学部生のゼミ委員を私はしていました。 この東洋学の某ゼミは、9割が国家・地方公務員試験や教員採用試験、民間企業の採用試験などを受験して、卒業後は新卒社会人として働き始めることを目標にする就活組の人たちでした。残り1割も、他大学の院や付属の専門学校に進学を目指す私や友人のような「進学組」と、「とにかく、このゼミを早く脱出したい!」という人たちばかりだったように思います。

 

毎年、インターンシップ説明会のあった5~6月、就活が解禁の10~12月になるとですね、ゼミの出席率が3~5割くらいになってました。先輩、後輩と関係なく、毎年、しようがなかったことでした。が、出席者が最低3~4人だったこともあって、さすがに、ゼミ委員の私は、ピリピリする任期付きの特任講師の先生に、数少ない出席者の前で嫌味を言われました。ある時は、レジュメの刷り上がりが人数分足りないまま発表を始めた学生に対して、その先生は「ゼミへの基本的な取り組み姿勢がなっとらん!」とこっぴどく叱ったり、またある時、所属するゼミ生で、持病があったらしく、トイレに行く感覚短い時期が、ゼミのある時期と重なっていた学生がいました。彼に対して、専制は「君、若いのに、僕みたいに頻尿になったらアカンよ」と苦笑いして言ったり…。

ゼミ生のやる気が上記シーズンは特に少なかったことが、原因の発表準備や無断欠席は、学生側に非があるので、先生がイライラして学生を叱るのは当然です。が、学生の病気に因む生理現象に対して、苦笑いしながら、からかう言動をとることは、それこそ、今、思い返せばアカハラでしたし、大学教員としては言ってはいけないことでした。

 

そんな雰囲気の悪いゼミに、私はおりました。その当時は、ゼミ委員だったこともあり、また教職で教育実習に行く準備があったりして、ゼミの運営に暗雲が漂っていたことに心が砕かれそうになったこともありました。十数年たった現在では、その先生と当時の彼の置かれた立場に、同情をせざるを得ません…。

 

実は、ゼミの先生が「擦れ気味」だったのは、任期つき講師であったことと無関係ではなかったでしょう。テニュアのように一定期間を過ぎたら、常勤講師にレベルアップし、正規雇用の枠に入れるタイプの雇用形態ではなく、その先生は、任期が来たら、また数年単位で契約更新をする契約社員のような、不安定な立場の大学教員でした。

バリバリの文系畑の方でしたから、修士号は持っていても、博士号は未取得。当時、既に博士号が無ければ、正規の大学教員のポストになれない時代になっておりましたので、博士学位論文をまとめようと、必死になっておられたのでしょう。掲載論文をガンガンと出され、よくゼミの時に学生に配っていらっしゃいました。

 

 

4.大学教員が学生の進路妨害アカハラをしないために~まとめ~

その先生が博士号をその後、取得されて准教授や教授に昇進されたのかは、私は知りません。ただ、今回の東京学芸大のアカハラ案件と、自分がいた学部ゼミの担当講師の言動について、共通して言えることは、大学教員が少しでも教育指導したいと思っていても、就活のせいで学生の多くが授業やゼミを休みがちになることで、「教育指導ができない」というストレスを教員側がためてしまう恐れがあることです。そのストレスは、最悪、東京学芸大の男性教授のように、学生の進路を妨害するハラスメント行為につながることになったとしても、不思議ではありません。

 

もし、教育熱心な大学教員がいたとして、現在の就活システムのせいでフラストレーションをためるメカニズムになっているなら、今回のような学生の進路を妨害するタイプのハラスメントは、今後も発生するでしょう。このような場合は、就活システムを変えつつ、学生側も大学教員のほうに、こまめに卒業研究の進捗を報告し、可能な範囲で研究室に顔を出すなど、報告・連絡・相談の頻度を上げる方法が有効だと思われます。

 

研究のほうで、人手と資金が足りないなら部局から予算を引っ張ってきて、または教授の自腹で、他から人を雇うこと。しんどくても、研究助成金の書類を書いて、Y先輩のように10件近く出せば、1つくらいは採択されるんじゃないでしょうか。

ところで、ハラスメント行為の背後には、したい指導ができないほか、私のいた学部ゼミの任期付き講師のように、不安定な雇用状態にある大学教員の抱える焦燥感や焦りから来る精神的ダメージが無関係ではないと思われます。最近のツイッターで見かけた、ちょっと怖い話では、ある地方の助教先生が自分の落ちた公募求人に受かった人の名前を調べ、ひたすら一冊のノートに名前を書き続けるという、漫画『デスノート』のような様相を呈してきているというものがツイートにありました。こういったストレスフルな大学教員の先生方の雇用問題を解決していくことだって、めぐりめぐって、学生をアカハラから守ることになります。

 

今回の案件に関して、解決策をいくつか出しました。就活のシステムとか、職業研究者の公募採用とか、社会構造から変えていかないと、根本的なアカハラ防止にはならないと私は考えています。今後の私の課題としては、より人間関係の側面からアカハラの構造を理解することが重要ではないか。

 

読者の方から贈っていただいたのに、積読状態になっていて申し訳ないと思いながら、めくる本のリンクを貼って、本記事を閉めさせて頂くことに致します

積読のままで、本当に、ごめんなさい…):

 

アカデミック・ハラスメントの社会学―学生の問題経験と「領域交差」実践 

posted with ヨメレバ

  

ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。

 

*1:実際に、部局の研究予算がとれない場合、大学教員のポケットマネーからTAの給与が出るケースがあるようです。

*2:神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんは、ご著書の『街場の大学論』か何かで、学生の就職活動について、このような考えをお持ちだったことを書かれておられました。

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