【ニュース】「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(日刊工業新聞)
<国立大学法人の上に枠ができた>
1.はじめに
東大、京大、東北大の3つの旧帝大系国立大学が、「指定国立大学法人」というものに選ばれた。そのニュースについて、私はしばらく様子を見ており、取り上げるタイミングをはかっておりました。最近、日刊工業新聞のオンラインニュースのほうで、詳細な解説をしている記事が出ました:
「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(ニューススイッチ、日刊工業新聞)
今回は、知っているようで、翌わからない「指定国立大学法人」とは何か、他の国立大学法人とはどのようなことができるのか、国の狙いは何か。日刊工業新聞のオンラインニュースを中心に、見ていきたいと思います。
2.「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(日刊工業新聞)を読んで知る指定国立大学法人
2-1.国立大学法人の上に枠を作って特別扱いすること
オンラインニュースは、まず、日本の国立大学法人の状況を全体的に伝えた上で、指定国立大学法人の枠が作られたことを説明しています。
2017年09月22日
世界での競争力が問われる「指定国立大」
規制緩和で自由・自律経営が求められる科学技術部 論説委員
山本 佳世子
■明確に別扱い
国内には86の国立大学があり、これまで基本は同列の扱いだった。だが、トップ層を明確に別扱いする新制度が2017年度に始まった。
文部科学省は各大学の産学連携などの実績数値で判断した上で「指定国立大学」を指定した。第1陣は東京大学、京都大学、東北大学だ。これらの大学は経営の自由度が増すとともに、世界トップ大学との比較で成果を問われる。もはや、86校を同列と見なす大学関係者はいない。
国内に86も国立大学があることに驚きますが、その中から「トップ層を明確に別扱いする新制度が2017年度に始まった」ということで、その新制度が指定国立大学法人です。「第1陣は東京大学、京都大学、東北大学」ということは、これからも第2陣として、新たな国立大学がこの枠に選ばれる可能性は有り得るということでしょうか?
さて、指定国立大学法人に選ばれるメリットは、何でしょうか?ひとつは、「経営の自由度が増す」こと。その代わりに、「世界トップ大学との比較で成果を問われる」、いや、今までと同じように、問われ続けることになったと言ってもいいかもしれません。
指定国立大学法人の枠に選ばれた京大では、さっそく、次のような動きを撮り始めています。
京大は大学の成果を活用する事業会社の設立をいち早く決めた。企業が抱える課題に対し、研究者が専門性を生かしてコンサルティングをしたり、企業人向けに研修したりする子会社を、18年度に立ち上げる。阿曽沼慎司理事は「文科省が補助金事業ではなく、指定国立大という新制度を打ち出した以上、この仕組みを活用すべきだと考えた」と、規制緩和を生かす意識を強調する。
国立大の大半が子会社を持たない中で、京大は技術移転機関、ベンチャーキャピタルと合わせ、産学連携で子会社を三つ持つことになる。ほかの大学にはできない相乗効果で成果を引き出す一歩を踏み出した。
規制緩和によって、企業でなければ入っていけなかった分野に、ガンガンと子会社を設立して、入っていくのを目指している模様です。京大の知人院生によれば、 吉田の本部キャンパスのどこかに、「京大ベンチャーラボ」とかいう名前の京大初のベンチャー企業を支援する部署が以前からあったそうです。おそらく、そこを拠点に子会社を育て江いたのではないでしょうか。だからこそ、「京大は技術移転機関、ベンチャーキャピタルと合わせ、産学連携で子会社を三つ持つことになる。ほかの大学にはできない相乗効果で成果を引き出す一歩を踏み出した」と、ニュース執筆者は判断したのかもしれません。
2-2.「投資を解禁」し、できるようになった
子会社を持つことになったのに加え、指定国立大学法人は投資を解禁されました。これは、大きなことです。
■投資を解禁
「相次ぐ国立大の規制緩和は、東大の要望が次々、実現した結果だ」。東大執行部の1人はここ半年ほどの政府、文科省の動きをこう説明する。
4月に大学所有の土地・建物の貸し付けと、寄付金原資に限った投資信託、外貨預金、社債や外国債の購入が解禁された。財テク原資の範囲は、土地貸付料や特許料の収入に広がる見込みだ。8月には大学発ベンチャーの株式の長期保有が可能になり、多額の上場益を狙える環境が整備された。
東大はこの規制緩和を背景に、抜本的な人事システムの改革に乗り出す。21年度までに任期付き雇用の若手研究者300人を任期なしに転換する方針だ。
任期なし雇用の若手研究者は06年度から10年間で520人減った。任期付き雇用の研究者は任期中に成果を出すことが迫られ、研究が小粒になる傾向にあった。
投資解禁の背景を読むと、国立大学のトップの東大が「ああしてくれ、こうしてくれ」としつこく、国にはたらきかけた結果、「(今年)4月に大学所有の土地・建物の貸し付けと、寄付金原資に限った投資信託、外貨預金、社債や外国債の購入が解禁」されました。財テク原資には、「土地貸付料や特許料の収入に広がる見込み」があり、それをもとに東大発のベンチャーの株式を長く保有することができるようにもなります。こうして、着々とビジネス的な環境を整えていくことを、東大執行部は目論んでいるようです。
後半については、「東大は(中略)21年度までに任期付き雇用の若手研究者300人を任期なしに転換する方針」ですが、有期雇用の若手研究者を任期無しに転換することは、以前、次の拙記事で詳しく取り上げました:
こちらの話題については、リンクした拙記事をお読みいただくとして、その一方で、嗣のような雇用問題が唐代には起こっていました:
東大における教職員の雇用問題は、指定国立大学法人に選ばれて以降も、目が離せません。
2-3.この制度の狙いは、雇用原資を大学自ら稼がせること
この雇用問題について、実は国立大学法人の発足から続いている、ひとつの行政側の考えた見え隠れしています。つまり、「教職員の給与は各大学で稼いでくださいね」ということ。今回の指定国立大学法人は、そのメッセージについて、実行しやすくするための規制緩和だったと、ニュース記事の執筆者は書いておられます。
■雇用原資稼ぐ
雇用の原資は外部研究費の間接経費、産学連携関連、規制緩和による資産運用などで稼ぐ。一つ一つは年により変動するが、収入源が多ければ全体の振幅は抑えられる。「東大ならスケールメリットを生かせる」(小関敏彦理事)ともくろむ。
国立大学法人化後も長く続いた政府の規制が緩和されるのは、運営費交付金に頼らぬ“大学経営”を後押しするためだ。優れた大学とは自己資金獲得を含め経営力にたけ、それにより研究・教育のレベルを高められる大学―。そんな新たな定義が浸透し始めている。
もう、行政がオブラートに包めなくなったメッセージについて、ニュース執筆者は、
「運営費交付金に頼らぬ“大学経営”を後押しするためだ。優れた大学とは自己資金獲得を含め経営力にたけ、それにより研究・教育のレベルを高められる大学」であると、はっきりと書いています。
「「東大ならスケールメリットを生かせる」(小関敏彦理事)ともくろむ」と、ある意味、お金に対して生臭く、別の面から見ると、それくらい多く抱えている被雇用者の生活が東大執行部の方針にかかっているというのでしょうか。東大ほどではないものの、京大も全国規模で研究所や試験場などを抱えているようなので、スケールメリットは生かせると見てよいでしょう。
3.最後に
さて、指定国立大学法人というものは、国や文科省が「運営費交付金に頼らぬ“大学経営”を後押しするため」に、「優れた大学とは自己資金獲得を含め経営力にたけ、それにより研究・教育のレベルを高められる大学」として、東大・京大・東北大学の3大学を第1陣に採択したという事情が分かりました。
日刊工業新聞の今回のオンラインニュースでは、どうも東北大学のことが触れられていないところに、私は不安を感じました。ニュース執筆者の山本さん曰く、
この記事のファシリテーター
今夏、指定国立大の選にもれた大学の残念がりようは予想以上だ。
3校目に東北大が入ったことで「うちもかなりがんばったプランだったのだが」と悔しがる。
東大の若手支援策は、通常の大学でも仕組みとしては可能だが、財源捻出と併せて実行は難しい。
指定国立大は、他大学を強力に刺激する“厳選選抜校”といえそうだ。
つまり、東北大が選ばれたのは、「他大学を強力に刺激する“厳選選抜校”」の枠としての大学だった、と読むこともできるということでしょう。そうすると、第2陣には他の旧帝大系、旧師範大学系の大学などが切磋琢磨して、滑り込んでくる熾烈な競争が待っているのかもしれません。
何はともあれ、山本さんが指摘するように「東大の若手支援策は、通常の大学でも仕組みとしては可能だが、財源捻出と併せて実行は難しい」と、トップでさえ、このような指定国立大学法人です。まずは、第1陣の3大学にスタートダッシュで、教職員の方々には教務の面から支えて頂き、転ばないように気をつけてほしいと思います。