仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

各地の「宦官」と古代エジプトの去勢ミイラの話~「古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実」(Forbes Japan)~

<今回の内容>

1.今週のお題「行ってみたい場所」

ということで、時々、利用させてもらっている、はてなブログの「今週のお題」です。

 

今までは中国を中心に、東アジアの生活文化を研究していました。そういうわけで、研究の一歩手前で行くなら、カイロのエジプト考古学博物館に、長寿のファラオとして知られる、ラムセス2世のミイラを見に行きたいですね。そして、様々な映画や漫画に出てくる、古代エジプトの死に関する葬礼やミイラにまつわる儀式について、現地で埋葬品を見てみたいと考えております。

 

そう思ったのは、最近のフォーブス・ジャパンのオンラインニュースで、「ロシアの研究チームが、紀元前1000年頃の古代エジプト人女性のものと見られていたミイラを分析した結果、遺体が女性ではなく去勢された男性のものであることが分かった」という、衝撃的な話題を聞いたからです:

forbesjapan.com

 

ニュースどおり、古代エジプトでは去勢された男性のミイラの話題は、ほとんど挙がらないことから、見つけられていないか、非常に珍しいタイプのミイラなのかもしれません。どちらにしろ、色々と興味深い話題でしたので、取り上げさせて頂きます。

 

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2.「古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実」(Forbes Japan)を読んで分かること

 2-1.漫画『天は赤い河のほとり』シリーズの「宦官」について

まず、個人的に知っていることとして、歴史をもとにしたフィクションの世界では、エジプトと交戦をし、世界初の講和条約を結び、ヒッタイト帝国を舞台にした、『天は赤い河のほとり』シリーズには、ヒッタイトには去勢をされた「宦官」として、上層階級に仕える人々が出てくるということです。

 

天は赤い河のほとり〔文庫〕 1 (小学館文庫 (しA-31)) 

:この作品中のエジプトは、おそらく、前ファラオの側室の子がファラオのツタンカーメンとして即位しえいることが家庭され、前ファラオの正妃で義母・ネフェルティティ(ツタンカーメンの異母姉妹で妻のアンケセナ―メンの母親)が年老いながら、エジプトの王太后として、エジプト王国を牛耳り続けようとしていた時代として、描かれています。ネフェルティティは、ヒッタイトのカイル皇子や主人公たちと敵対するナキア皇太后と結んで、暗躍していますが、去勢された男性がほとんど、出てこなかった気がします。その一方、ヒッタイトのナキア皇太后に仕える「宦官」的な人物が登場しています。*1
 
この作品がどれほど史実に基づいているかは不明ではありますが、少なくとも、古代オリエントヒッタイトには、去勢されて宮仕えしていた「宦官」はいたたものの、エジプトには実際、どれほどいたのか、ということは推し測ることはできません。 

 

 2-2.「古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実」(Forbes Japan)を読んで分かること 

前置きが長くなりましたが、それでは今回の去勢されたミイラのニュースを見ていきましょう。

2017/10/09 12:00
古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実
Kristina Killgrove

ロシアの研究チームが、紀元前1000年頃の古代エジプト人女性のものと見られていたミイラを分析した結果、遺体が女性ではなく去勢された男性のものであることが分かった。

10月3日の記者発表で研究チームはミイラのMRIスキャンの結果を報告した。

このミイラはロシアのエルミタージュ美術館に、1929年から保管されていたものだ。美術館はミイラを譲り受けた当時、これがアロンマ寺院の遺跡から出土したミイラで、Babatという名の女性歌手のものであると説明されていたという。しかし、その後、何らかの手違いでBabatのものとされたミイラが、別の男性のミイラと入れ代わってしまったようだ。

MRIスキャンを用い、美術館のスタッフとサンクトペテルブルク病院の医師らがミイラの内部を観察した。その結果、遺体が中年男性のものであることが分かり、彼らは非常に驚いたという。男性は身長約165-170 cmで、関節炎を患っていたようだが歯の健康状態は良好だったという。(古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン))

おい、ロシアの研究チームの前のエルミタージュ美術館よ、時代が時代だったとはいえ、「アロンマ寺院の遺跡から出土したミイラで、Babatという名の女性歌手のものであると説明されていた」ものが、実は入れ代わってしまいました、って、そういうことがあって、大丈夫だったのでしょうか。私の邪推では、女性歌手だと認識されていたのが、実は最初から去勢されていた男性だった可能性が高いかと。その後、「MRIスキャンを用い、美術館のスタッフとサンクトペテルブルク病院の医師らがミイラの内部を観察した」ということで、このミイラ研究の鍵は、エルミタージュ美術館が握っているようです。あと、関節炎を患っているミイラの話は、たまに聞きます。 

記者発表で明かされたのはごくわずかな事実だったが、その後のAFPの報道によると、男性は去勢されていたという。

ただし、去勢されたのが生前なのか死後なのかは不明だ。「男性が去勢されていた事に我々はとても驚いている。古代エジプトで去勢は一般的ではなかった。

これは非常に珍しいケースだ」と美術館の代表チームのAndrey Bolshakovは述べた。ただし、現在エジプトで進んでいる生体考古学者たちの研究が、この疑問を解明する手助けになる可能性もある。

昨年春に見つかった、2体の男性の人骨にも去勢された形跡が認められていた。

それが生前に行われたものであれ、死後に行われたものであれ、古代のエジプトで去勢が行われていたというのは興味深い発見だ。人骨を詳しく調査することにより、いずれ新たな事実が明らかになるだろう。(古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン))

 

施術が生前か死後かは不明なものの、とにかく、「古代エジプトで去勢は一般的ではなかった。これは非常に珍しいケースだ」ということは、美術館が指摘しています。ただし、「昨年春に見つかった、2体の男性の人骨にも去勢された形跡が認められていた」ということで、「現在エジプトで進んでいる生体考古学者たちの研究」によって、古代エジプトで男性に去勢が行われていた状況が詳しく分かる可能性が示されています。なお、オリエントより西の地域で、男性を去勢する理由については、

中世のローマでは声変わりを防ぐ目的で、去勢手術を受けたカストラートと呼ばれる男性歌手が存在していた。今後、エルミタージュ美術館から新たな発表がなされることを期待したい。編集=上田裕資(古代エジプトの新たな謎「去勢されたミイラ」が示す驚愕の事実 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン))

という、少年期の美しい声を維持する目的で、去勢された男性歌手がいたことがニュースで触れられています。 

 

 2-3.中国の宦官について

ヨーロッパやオリエントの去勢された男性について、ほとんど私は知りません。その代わり、東アジアの生活文化を研究していた関係で、「宦官」については史料や先行研究、中には時代劇や歴史漫画で出会う機会が多かったように思います。

 

簡単に触れておくと、中国の宦官とは、戦争で連れてこられた男性の捕虜や、罪人に去勢を行われていました。宦官は、そのなかでも宮仕えする役という立場にあり、後宮の后たちや宮女の世話をしたり、皇子たちの起居生活の世話をしたりする者から、「大監」と呼ばれる政権の重要な部門を握り、実質的な権力者になる物まで、様々でした。

 

罪人が去勢される刑罰には「宮刑」と呼ばれるものがあります。受刑者で有名な人物としては、『史記』の筆者・司馬遷が挙げられます。前漢武帝が、遠征先の匈奴の捕虜となった将軍・李陵(一節に漫画『キングダム』の李信の子孫)について激怒したところ、司馬遷が擁護するような発言をし、それが武帝の逆鱗に触れた結果、司馬遷宮刑に処せられました。そういう経緯があって、冷静になった武帝司馬遷に対し、後ろめたい気持ちが起こったところ、側近が新しい官職を司馬遷に設けて就任させたらどうか?ということになり、たしか、その役職が太史令とかいう名前だったと思います。ここらへんの経緯は、宮刑における去勢の施術方法を含めて、横山光輝版『史記』1巻に詳しいです:

 

史記 (1) (小学館文庫)

刑期を終えた司馬遷は、新たな役職に就き、複雑ながら不屈の思いで『史記』を完成させたとされています。ちなみに、『史記』のなかで、歴史上の人物に対して、司馬遷が評価する際などに「太史公曰」という句を入れるのは、宮刑後に武帝から賜った役職の名前が関係しているのかもしれません。

 

宦官は長い中国史上、皇帝の寵愛を受け、権力を握って国を混乱させる象徴と見なされることもあって、私のイメージでは、時代劇や漫画では、あまりよい扱いを受けていない印象があります。実際には、どうだったのかということについては、次の三田村先生のご著作をお読みください:

 

宦官 改版 側近政治の構造 (中公新書)[Kindle版]

三田村先生の本を読んだ後、人物ごとのエピソードを読みやすい形でまとめたのが、こちらです:

宦官とは、もともと雄の馬を去勢して、手懐ける目的で行われていたものを、人間にも転用したのではないか、ということを聞いたことがあります。諸説あって、実際のところは不明です。この宦官制度は朝鮮半島にも移入しました。韓国の時代劇ドラマを見ていると、朝鮮王朝の宮廷が舞台で、髭なしで年配の高官が出てくると、だいたい、「宦官かな?」と認識していました。面白いエピソードでは、朝鮮王朝の宦官は妻を娶ることができ、養子をとって跡継ぎにすることができる、というケースがある模様。中国の場合は、甥っ子や姪っ子をかわいがる高級宦官がフィクション作品に登場し、財産を継がせることが一部ではできたようです。

 

ここまで、男性を去勢する「宦官」のお話でしたが、実は、中国には女性を「去勢する」=乳房を切り取る等する刑罰があったようです。この刑罰に処された後、女性の囚人は身分をはく奪され、宮中の奥深くで穀物を臼にいれて「舂く」(つく)労役を課されるという条文が、刑法書に見られるとのこと。

 

さて、古代エジプトの女性にも、「去勢」に当たる施術はされていたんでしょうか。

 

 

3.最後に

以上、ロシアのエルミタージュ美術館古代エジプトのミイラが去勢された男性だったという発表から、古代オリエントのエジプトやヒッタイトの宦官、そして東アジアの宦官のお話を取り上げました。

 

男性を去勢して、役人にするという「宦官」のシステムは、不思議なことに日本には移入しませんでした。その理由についても諸説ありますが、日本は外から入ってきたものを現地に合うように「加工する」、あるいは必要な部分だけ取り入れて、他は排除する傾向があるのでは?「宦官」のシステムについても、同じことが言われるのではないか?という声がありますが、未だに私には判断ができません。

 

何はともあれ、性別関係なく、身体の大切なところを切り取るという刑罰は、精神的にも、肉体的にも、苦痛をともなうものであることは変わりないでしょう。今回、去勢が判明したエジプトのミイラが、刑罰による処置ではないことを願ってやみません。

(刑罰でなくとも、激痛だろうから、私は嫌です)

 

おしまい。

 

*1:ちなみに、本作自体は、現代からタイムスピップしてきた少女が、戦女神のイシュタルとして担ぎ上げられ、カイル皇子を助けながら、敵対するナキア皇太后を倒し、ヒッタイト帝国の皇妃になるまでの大河ドラマです:

天は赤い河のほとりfan book―イシュタル文書 (フラワーコミックススペシャル)

 

 

 

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