ゼミ生は #Metoo としてもいい「ハラスメント」とその背景~「結婚相手探しを卒論指導条件に 弘前大教員、学生へ文書」(北海道新聞ほか)~
<今回の内容>
1.はじめに
もっと、「異なる言い聞かせ方があったのではないんでしょうか?」。そう、私が言いたくなるニュースを本日、Twitterで見かけました:
より詳しいニュース記事は、河北新報にも挙がってました:
今の時期、卒論や修論のことで頭がいっぱい!真摯で必死に執筆している学生たちにとって、将来を左右するのに加えて、それ以上にショックなニュースだと感じました。また、河北新報を読むと、問題の男性教員が女子学生に対して、セクハラともとれる行動に出ていたことも伺えました。その行動は、昨今、セクシュアル・ハラスメントを中心に、告発が相次いでいる"Metoo"に繋がるもので、"Ustoo"と表現できるものではないかと感じ、今回、取り上げることに致しました。
今月は、国立大の非正規教職員をめぐるニュースをまとめようとしていました。が、上記の事情により、今回は様々なハラスメントの要素を抱えている弘前大学の元人文社会科学部の元男性教員が起こした問題について、取り上げさせて頂きます。
2.弘前大学で発覚し元男性教員によるゼミ生へのハラスメント案件
2-1.この案件概要~北海道新聞および河北新報を中心に~
まず、今回の案件について、より早く報知した北海道新聞のオンライン版の記事を取り上げて、見てみます。有料記事でしたので、読めるところまでで、引用致します。
結婚相手探しを卒論指導条件に 弘前大教員、学生へ文書
12/25 16:29
弘前大(青森県弘前市)は25日、卒業論文を指導する条件として自らの結婚相手候補を探すよう求める趣旨の文書を学生に配るなど「教育者としての良識を著しく欠いた行為」があったとして、人文社会科学部の30代の男性教員を停職3カ月の懲戒処分にしたと発表した。処分は15日付で、教員は同日、依願退職した。
弘前大によると、教員は昨年10月、担当のゼミを受講していた4年生の男女8人に、卒論指導の条件を列挙した文書を配布。その中に教員の「課題解決」と記し、普段から学生に話していた「結婚相手の紹介」と分かる項目が含まれていた。
北海道新聞の報道から分かることは、弘前大・人文社会科学部の(元)教員の問題の言動について、
- 「教員は昨年10月、担当のゼミを受講していた4年生の男女8人に、卒論指導の条件を列挙した文書を配布」し、その中には「教員の「課題解決」と記し、普段から学生に話していた「結婚相手の紹介」と分かる項目が含まれていたこと
- 「卒業論文を指導する条件として自らの結婚相手候補を探すよう求めて」いたこと
の2つです。これらの言動に対し、「弘前大(青森県弘前市)は25日」、その教員委に「「教育者としての良識を著しく欠いた行為」があったとして、人文社会科学部の30代の男性教員を停職3カ月の懲戒処分にしたと発表」。更に、「処分は15日付で、教員は同日、依願退職した」とされています。
北海道新聞のオンライン版で無料で読める範囲では、卒論指導の代わりに、教員のプライベートな「結婚相手を探す」条件を出すということで、これは上の立場の大学教員が下の立場の学生に從わせる意図があると窺えます。当然、パワー・ハラスメント、怒った場所が大学ですので、キャンパス・ハラスメントやアカデミック・ハラスメントにも含まれる言動です。
この教員からハラスメントを受けたゼミ生たちは、昨年10月に4年生だったそうで、問題は2016年の秋には少なくとも既に起こっていた、と言えます。更に、河北新報の報道では、懲戒処分を下され、既に今月15日付で依願退職した元教員は、パワハラに加えて、セクシュアル・ハラスメントに該当すると第三者に判断されてもおかしくない言動をとっていたようです。
弘前大、30代男性教員を停職 卒論指導で服従を強要「お前たちにも惨めな思いをさせる」
自らの指示に従うことなどを卒業論文の指導の条件にしたとして、弘前大は25日、人文社会科学部の30代の男性教員を停職3カ月の懲戒処分にしたと発表した。処分は15日付。教員は同日、辞職した。
同大によると、教員は昨年10月上旬、担当するゼミに所属する学生8人に「9月の合宿で(学生らが構ってくれず)惨めな思いをした。お前たちにも惨めな思いをさせる」と発言し、卒論の指導を受けるための条件を文書で配布。(1)アルバイトを辞める(2)成績評価前の春合宿の懇親会に徹夜で付き合う(3)教員の結婚相手探しに協力する-などが記載されていた。
ゼミ生が同年10月、別の教員に相談して発覚。その後の調査で、女子学生2人を自宅で指導したり、特定の女子学生を頻繁に食事に誘うなどしていたことも判明した。教員は「(条件を)実行するとは思っていなかった」と話したという。
2017年12月26日火曜日
(弘前大、30代男性教員を停職 卒論指導で服従を強要「お前たちにも惨めな思いをさせる」 | 河北新報オンラインニュース)
河北新報によると、より詳しいことが掲載されており、処分を受けた大学教員は、
- 人文社会科学部の30代の男性教員
- 大学側に停職3カ月の懲戒処分にされた
ということが、最初に分かります。さて、気になるのはニュース記事タイトルの「卒論指導で服従を強要「お前たちにも惨めな思いをさせる」」という、卒論指導の条件に出した「服従」の内容です。男性教員は、北海道新聞で挙がっていた「結婚相手を探す」ことのほかに、以下のことをゼミ生に強要していたと河北新報は伝えています。
- (1)アルバイトを辞める
- (2)成績評価前の春合宿の懇親会に徹夜で付き合う
アルバイトを辞めさせることは、卒論に集中させるといった意図もあるのでしょうが、それを強要すれば、大学自体に通えなくなる学生にとって、心をねじ切られる思いがするでしょう。また、「成績評価前の春合宿の懇親会に徹夜で付き合う」ことは、暗に「この懇親会に夜通し付き合わなければ、卒業を認めない」という脅迫が見えます。まぎれもなく、パワー・ハラスメントでしょう。
また、ニュース記事の最後に、「教員は「(条件を)実行するとは思っていなかった」と話した」とされています。しかし、「ゼミ生が同年10月、別の教員に相談して発覚」後、調査で、セクシュアル・ハラスメントに該当すると判断されても不自然ではない、言動を男性教員がとっていたことが判明しました:
- 女子学生2人を自宅で指導
- 特定の女子学生を頻繁に食事に誘うなど
女子学生が2人とはいえ、自宅に呼んで指導したり、特定の女子学生と食事をしようと声をかけたり、といった行為は、私にとって、今月17日、話題となった作家のはあちゅう(本名・伊藤春香)さんが電通勤務時代、先輩に当たる岸勇希氏にされたと告発したハラスメントの内容を彷彿とさせるものがありました:
2-2.元電通社員の岸氏に対するセクハラ告発と弘前大学の案件との比較
弘前大学の男性教員のハラスメント言動との比較で、私が近いと感じた例は、岸氏にBuzzFeed News編集部が投げた質問のなかにあった、「交際関係にない男性社員が相手の意に反して、女性社員を自宅に呼び出すことは問題行為であるという認識はあったか」という部分が挙げられます。はあちゅうさんがBuzzFeed Newsの取材に述べたところでは、
「深夜に『俺の家にこれから来い』とも言われました。当時、私は田町に住んでおり、彼の自宅は浜松町だったので、歩ける距離にありました。突然電話がかかってきて、どこで何をしていようと、寝ていても『今から来られないのか』と言われました。『寝ていました』と言うと、行かないでも許してくれることもありましたが、翌日、『お前はこの会社には向いていない。CDC(岸氏が所属していた部署)にきたら深夜対応も当たり前だぞ』と言われました」
ということが、岸氏との間であったこと。編集部の書くところでは、
呼び出される時間はまちまちだったという。夜10時のときもあれば、深夜1時のときも。岸氏が眠る朝方まで帰ることも許されず、月に1〜2回の頻度で自宅に誘われた。深夜だけに友人を連れて行くわけにもいかず、家に行くときは毎回1人だったという。
だそうです。岸氏の自宅にはあちゅうさんが呼び出されたという部分は、弘前大の男性教員が、「女子学生2人を自宅で指導」したことと、状況が似ているのではなかったかと感じました。
加えて、岸氏は、仕事の相談に乗る代わりに、次のように他の女性を連れてくるような、要求をしたそうです。
「本社に異動した頃、岸さんから『今すぐ飲みの場所に来い。手ぶらで来るな。可愛い女も一緒に連れてこい。お前みたいな利用価値のない人間には人の紹介くらいしかやれることはない』などと言われるようになりました」
(中略)
岸氏からのハラスメントから逃れたいと思ったはあちゅうさんは、岸氏の要求通り数名の友人を紹介した。「お前どうしてあんなしょうもない女紹介するんだよ。自分が何のために俺と知り合ったかなんもわかってないじゃないか。俺の偉大さちゃんと説明したの?」などと言われたこともあったという。
はあちゅうさんは当時、紹介した友人たちに対し、「今は心から申し訳ないと思っています」と話す。
上記のシチュエイションは、名目上、一応、仕事に付いて指導する、相談に乗る代わりに、おそらく、取引先の大生社員への接待や交際等といった、「女性」を性的な意味で紹介することを求め、会社の異性の後輩が従わざるを得なかった、ということではないでしょうか。弘前大の男性教員の場合は、男子学生にも向けていますが、卒論指導の条件に、自分の「結婚相手を探すこと」を提示していますから、はあちゅうさんのいうことにしたがえば、岸氏の要求と近いところに、弘前大の男性教員の要求も重なっていたと、私は考えました。
はあちゅうさんの告発は、以前の彼女の仕事や、SNS上における男性に対する(ご本人や関係者の方の雰囲気では)「いじり」言動について、はあちゅう氏自身が特定の層の男性に対し、セクハラをしているという指摘が方々で挙がっています。が、とりあえず、本記事では、告発者の以前の言動と、告発内容の中のはあちゅうさんにとっての「事実」は、切り離して扱わせて頂きます。
このような、私の思考の経緯に沿えば、今回の弘前大・人文社会科学部の男性教員が卒論指導の条件として提示したことの一部、および、女子学生の一部に対して行ったことは、はあちゅうさんが岸氏にされたという告発内容との類似があると言えます。よって、第三者から見て、男性教員はパワハラだけでなく、セクハラも行っていたと判断されても不自然ではない、と思われるのです。
なお、河北新報では、男性教員が「女子学生2人を自宅で指導したり、特定の女子学生を頻繁に食事に誘うなどしていた」と伝えており、他にも女子学生に対して、問題のある行動をとっていたことが窺えます。問題のあるその他の行動については、
合宿では徹夜で懇親せよ…アカハラで教員処分 弘前大:朝日新聞デジタル
で知ることができます。挙げていくと、男性教員は、
- 女子学生らを学内で深夜まで指導した
- ゼミの特定の女子学生らと車で県外へ日帰りの調査旅行をした
とのことでした。
男性教員が条件の要求を実行する意志がなかったとしても、要求を提示した時点でゼミ生にとっては、十分な脅しとなり得ます。それ故、要求提示の時点で、ハラスメントは成立しているといってよいでしょう。
なお、朝日新聞デジタルによると、「ゼミ生8人は申し立て後、他のゼミに移り今年春に卒業した」と伝えられています。ひとまず、要求されたゼミ生は逃げ切り、卒業できたみたいですね。
3.男性教員が卒論指導の条件を提示した動機に関して~問題の背景~
男性教員の言動は、パワハラ、セクハラに該当すると私は各オンライン記事の内容から、述べてきました。それでは、どのような動機で男性教員は問題の言動をとったのでしょうか。
まず、河北新報を再読すると、男性教員がゼミ生に「相手にされていなかったことへの仕返し」の意図があったことが窺えます:
同大によると、教員は昨年10月上旬、担当するゼミに所属する学生8人に「9月の合宿で(学生らが構ってくれず)惨めな思いをした。お前たちにも惨めな思いをさせる」と発言し、卒論の指導を受けるための条件を文書で配布。
(弘前大、30代男性教員を停職 卒論指導で服従を強要「お前たちにも惨めな思いをさせる」 | 河北新報オンラインニュース)
合宿が同じ専攻やコースのゼミとの合同だったのか、この男性教員のゼミのメンバーだけだったのか、河北新報の記事からは不明です。ただ、その後の男性教員の問題行動からすると、学生たちは「うちのゼミの先生、関わりたくない…」と一種の「ヤバさ」を感じ取って、敢えて距離を取って接していた可能性がゼロではないでしょう。
もし、合宿で自尊心を傷つけられたこととは別に、男性教員が昨年10月に、ゼミで「卒論に向けた授業で、ゼミでプレゼンの日に無断欠席したり、草稿代わりのレポートを提出しなかったりした人には、卒論が提出されても、授業としての卒業研究の単位を認めません。よって、卒論を通すことはできません」と、冷静に単位認定の学則に従って、指導発言していたら、いかがでしょうか。昨今、就職活動が厳しかったとして、少なくとも、卒論指導の代わりに、結婚相手を探すことや、アルバイトの禁止を条件に出すよりは、真っ当な内容の言葉だと思われませんでしょうか。
実は、昨今の大学や大学教員を取り巻く多忙さ、就活やアルバイトに多忙な学生との没コミュニケーションに加え、先の電通をはじめとする広告業界にあったと一部でされている「悪習慣」と似た、上からの「無茶な要求」に下の者は従い、研究ポストを得てサバイバルしてきた大学教員の文化が重なり、今回の弘前大学での案件は起こってしまったと考えられます。
アカデミック・ハラスメントの背景については、以前、2つのエントリ記事で取り上げました:
①昨今の大学(の学生)や大学教員を取り巻く多忙さや環境による、先生の精神的余裕のなさとストレス:
②上からの「無茶な要求」に下の者は従い、研究ポストを得てサバイバルしてきた大学教員の「悪習慣」の連鎖:
問題の背景に関しては、①と②のエントリ記事をお読みいただけたらと思います。ゼミ生にハラスメント言動をしてしまった弘前大の男性教員は、ひょっとしたら、雑務に忙殺され、学生と没コミュニケーション気味になり、これまで生き抜いてきた大学社会の「悪習慣」も重なって、問題行動をとってしまったのかもしれません。男性教員の行動は当然、許されるものではありませんが、大学の先生だって、血の通った人間です。
ひとつ、歯車がかみ合わなくなったことで、機械の調子が悪くなるように、日本の大学教員には、ふとした意思疎通の齟齬で、学生に強く当たりたくなってしまう瞬間はあるのではないでしょうか。その状況が、研究教育機関でのハラスメントを引き起こす可能性は、一体、どのくらいあるんでしょうか。
4.最後に
現在、卒論や修論に取り組む学生の皆さんが、本記事を読むと、大きな不安を抱えてしまうことになるかもしれません。もし、そういう人が実際おられたら、次のようなことに気をつけてみてはいかがでしょうか。
もし、教育熱心な大学教員がいたとして、現在の就活システムのせいでフラストレーションをためるメカニズムになっているなら、今回のような学生の進路を妨害するタイプのハラスメントは、今後も発生するでしょう。
このような場合は、就活システムを変えつつ、学生側も大学教員のほうに、こまめに卒業研究の進捗を報告し、可能な範囲で研究室に顔を出すなど、報告・連絡・相談の頻度を上げる方法が有効だと思われます。
(アカハラ防止を大学教員の仕事環境や雇用状態から考える~「東京学芸大教授、アカハラで諭旨解雇 就職活動の妨害も」(朝日新聞デジタル)ほか~ - 仲見満月の研究室)
弘前大の男性教員は、「学生に惨めな思いをさせたかった」と動機を語り、また一部の女子学生らを自宅に呼ぶ・食事に誘うといった方法は、どちらも社会的に非常に問題のある言動でした。しかし、その気持ちの裏には、「どうしたら、自分を相手にしない学生に卒論を書かせることができるか?」という、大学教員として切実な思いが隠れていたのかもしれません。
だからこそ、最低限の報告・連絡・相談は、学生側から大学教員へ伝えるべきことは、伝えるようにするのが、ハラスメントを未然に防ぐ策のひとつだと、私は考えました。
また今回のニュースを受けて、①・②のエントリ記事に書いてきたことに加えて、学生だけでなく、大学の教職員に対するメンタル面でのケアが、今の日本の大学業界には必要になってきていると感じました。繰り返しますが、大学の先生だって、一人の人間です。よほど心身がタフな人だって、しっかり授業をしたくて質問を投げても、学生に無視されたり、卒論ゼミで無断欠席されたりしては、心を病む人も出てくるでしょう。
今回は、弘前大学の案件を入口に、昨今の”Metoo"の問題と絡めながら、大学でのハラスメントについて、掘り下げました。男性教員の言動は、決して許されるものではありませんし、第三者が見ればパワハラ、セクハラと判断されても仕方ないでしょう。ですが、その背景にある大学業界の状況についても、目を向けて頂きたいと思い、まとめを致しました。
おしまい。