仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

現代日本のギャグ漫画や伝奇みたいな #今昔物語集 や #宇治拾遺物語 の話~ #古文 や #漢文 をもう一度~

<再読すると面白いエピソードいっぱい>

1.はじめに ~現代人の日常生活では接点の限られた「昔話」たち~ 

本ブログでは、Twitter上で話題になったことを取り上げて、記事に書くことが頻繁にあります。ブログ全体のテーマとして、文系院生・研究者のサポート目的で開設した経緯があり、また、私が研究で関わっていた東アジア地域の人文・社会学系の範囲で記事を執筆することが、目次を立てる程度にはありました。

 

2月20日の夜、Twitter上で話題になり、且つ東アジア地域の人文科系のことがタイムラインに流れて来たので、書かせて頂きます。その話題は簡単に言うと、大学受験や高校の古文や漢文は、ツイート主個人の経験上、大学、大学院、そして仕事を始めてから役に立った経験はなかった、という内容でした。このような見方については、以前、記事かきました。私がどう考えているかについては、 次の記事をご覧ください:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

少し時間が経って、そのツイートに向けたような、「古文や漢文といった古典科目は文化を維持(継承)するためにするものであり、個人単位では役に立たなくても、分かる話ですよね」(*仲見の解釈)、といったツイートを見かけました。続きには、宇治拾遺物語を読んで、生産性を大幅にアップさせるノウハウは得られるのか?といったことが書いてあり、私は多くの一般の人については、「たしかに、そうかもしれないなぁ」(*これも仲見の解釈)と思いました。

 

作品によるでしょうけれど*1、喩えるなら、宇治拾遺物語は児童向けに再構成されてない、おとぎ話集で、イメージとしては『本当は恐ろしいグリム童話』が近いでしょうか。より正確には説話集というジャンルで、この文学作品より先、平安末期に成立したとされる今昔物語集から、大きな影響を受けた鎌倉時代の成立とされています。この2つの説話集、実は重複している話もあるようです。

 
今昔物語と宇治拾遺物語に入っている話は、高校国語の古文の教科書、センター試験や大学受験の過去問に登場しています。振り返ると、知らないうちに接していた方が多いかもしれません。今回は、この2つの説話集を紹介いたします。

 

 

2.今昔物語集宇治拾遺物語~日本中世版『ポプ●ピピッ〇』?~

最初に、今昔物語と宇治拾遺物語の成立時期や内容等について、簡単にまとめて説明した後、収録されている説話を取り上げます。

 

 2-1.成立時期と内容等

 Wikipediaの各ページによると、まず、成立時期は、

  1. 今昔物語集:平安末期ごろ成立と見られる(詳しい時期は不明)
  2. 宇治拾遺物語:13世紀前半頃に成立

とされています。本記事では、大まかに日本の中世に成立したと捉え、話を進行させて頂きます。

 

どちらも編著者は不明ですが、内容や構成は次のようになっています。

 1.今昔物語集

天竺(インド)、震旦(中国)、本朝(日本)の三部で構成される。各部では先ず因果応報譚などの仏教説話が紹介され、そのあとに諸々の物話が続く体裁をとっている。

 

いくつかの例外を除いて、それぞれの物語はいずれも「今昔」(「今は昔」=「今となっては昔のことだが、」)という書き出しの句で始まり、「トナム語リ傳へタルトヤ」(「と、なむ語り伝えたるとや」=「〜と、このように語り伝えられているのだという」)という結びの句で終わる。

 

その他の特徴としては、よく似た物話を二篇(ときには三篇)続けて紹介する「二話一類様式」があげられる。

(今昔物語集 - Wikipedia)

 

 2.宇治拾遺物語

題名は、佚書『宇治大納言物語』(宇治大納言源隆国が編纂したとされる説話集、現存しない)から漏れた話題を拾い集めたもの、という意味である。(中略)

 

収録されている説話は、序文によれば、日本のみならず、天竺(インド)や大唐(中国)の三国を舞台とし、「あはれ」な話、「をかし」な話、「恐ろしき」話など多彩な説話を集めたものであると解説されている。ただ、オリジナルの説話は少なく、『今昔物語集』など先行する様々な説話集と共通する話が多い(説話の直接の出典には、『古事談』『十訓抄』『打聞集』などに類似の話が見られ、『今昔』との重出話にいたっては80余話もの数にのぼる)。

貴族から庶民まで、幅広い登場人物が描かれている。また、日常的な話題から滑稽談までと内容も幅広い。
芋粥」や「絵仏師良秀」は芥川龍之介の短編小説の題材に取り入れられている。

宇治拾遺物語』に収録された説話の内容は、大別すると次の三種に分けられる。

  • 仏教説話(破戒僧や高僧の話題、発心・往生談など)
  • 世俗説話(滑稽談、盗人や鳥獣の話、恋愛話など)
  • 民間伝承(「雀報恩の事」など)

民間伝承には、「わらしべ長者」や「雀の恩返し」、「こぶとりじいさん」などなじみ深い説話が収められている。仏教に関する説話も含むが、どちらかというと猥雑、ユーモラスな話題(比叡山の稚児が幼さゆえの場違いな発言で僧侶の失笑を買う、等)が多く、教訓や啓蒙の要素は薄い。信仰心を促すような価値観に拘束されておらず、自由な視点で説話が作られている。その意味において、中世説話集の中では特異な存在である。

(宇治拾遺物語 - Wikipedia)

 

私の高校時代の古文教員の言葉を借りれば、日本の説話は仏僧が人々に向けて話した説教話や教訓話であり、それを集めたのが説話集とのこと。上記のように、今昔物語集が後生の説話集に与えた影響が大きいらしく、宇治拾遺物語をはじめ、十訓抄などに収録されている話には今昔物語と共通する話が数十話あることが、確認されています。集められた説話には、日本だけでなく、学部時代に中国やインドの民話や神話を読んだ時、たしか、酷似したストーリーのものがいくつかありました。それなのに、不思議と違和感なく、今昔物語集宇治拾遺物語で雰囲気がまとまっていたように思います。

 

宇治拾遺物語Wikipediaの説明に、民間伝承には現代日本で一般的に「おとぎ話」、「昔話」と呼ばれるメジャーな話がある一方、現代語訳で読むと、エログロ、ナンセンス、そしてギャグのような話もけっこうあったように思います。高校時代、受験勉強の目的で、手に取った水木しげる作画の漫画版今昔物語集

 

には、艶笑的な話があって、10代後半の私は大きな衝撃を受けました。ほか、古文のセンター過去問や国語の夏休み帳の長文読解の仏教説話には、壮絶な行動に出た人の話があって、思い出しても、ゲフンゲフンとむせそうになります。さとりを開こうと、自ら死を選ぶまでの仏僧の逸話(*他の説話集かもしれません)、芥川龍之介が「地獄変」として翻案した「絵仏師良秀」(宇治拾遺物語)を思い出します。鬼や精霊のような人外が登場する不思議な話は、 現代の感覚ではファンタジーというより、伝奇ジャンルに属するといったほうがよい気がしています。

 

こうして色々と考えながら、最近、私の身近で流行している作品に似ているな、と考えていたら、特にナンセンスでギャグな話は、どこか『ポプ●ピピッ〇』を彷彿とさせるようです…。

 

  2-2.現代日本のギャグ漫画にありそうな話~今昔物語集検非違使忠明」~

どんな説話が『ポプ●ピピッ〇』を彷彿とさせるのか、ここであ一例として、今昔物語集検非違使忠明」を挙げます↓

manapedia.jp

 

検非違使とは、京都の治安維持と民政を所管した役職であり、初見は平安時代の弘仁7年(816年)とされています。現代日本でいうところの警視庁所属の警察官みたいな存在でしょうか。平安時代のこの役職は、オンラインゲーム『刀剣乱舞 ONLINE』の敵の「検非違使」のもとになっているようです。

 

この話は、京都の治安を守る検非違使の忠明が若いころ、都のごろつきと思われる京童部と遭遇した際のことが語られています。上記のマナペディアより、現代語訳を引用致します。

今となっては昔の話ですが、忠明という検非違使(けびいし)がいました。(忠明が)若い男であった頃、清水寺の橋殿で、京童部とけんかをしました。京童部が、刀を抜いて、忠明を閉じ込めて殺そうとしたので、忠明も刀を抜いて(清水寺の)本堂のほうへ逃げたところ、本堂の東の端に、京童部がたくさん立ち(忠明に)向かってきたので、そちらの方には逃げることができずに、蔀の下戸があったのを取って、脇にはさんで、前の谷へ飛びおりたところ、蔀の下戸に風が滞って、谷底に鳥がとまるように、そろそろと落ちていったので、そこから逃げ去りました。京童部は、谷を見下ろして、驚き呆れて立ち並んで見ていました。

 

忠明は、京童部が刀を抜いて立ち向かってきたときに、本堂の方に向いて、

「観音様、お助けください。」


と申し上げたので、もっぱらこれはそののおかげだと思いました。

(このように)忠明が語ったのを人から人へと伝え聞いて、このように語り伝えているということです。

今昔物語集『検非違使忠明』(今は昔、忠明といふ検非違使〜)わかりやすい現代語訳と解説 / 古文 by 走るメロス |マナペディア|

 

宇治拾遺物語にも、この説話は収録されており、一部、内容が異なるようですが、大筋でストーリー展開は同じようです。

 

検非違使の忠明が若いころ、ごろつきみたいなのに絡まれて、当時の清水寺の舞台の高さから、戸(格子のある障子の戸板みたいなものとイメージしてください)を脇にはさんで、「観音さま、助けて~」と唱えて、フワフワ落下。着地したら、スタスタと忠明は歩いて逃げた、というのが主な粗筋です。

 

検非違使忠明」は、高校時代、解説していた高校古文の先生も、「ありえない!」といった顔をしながら、授業を進めてたのを覚えています。原文では「京童部、谷を見下ろして、あさましがりてなむ立ち並みて見ける」とあって、京童部たちが口をあんぐり開けて、呆気に取られていたのは、現代日本人の私にとっても想像に難くありません。800~900年くらい前の説話の登場人物さえ、呆けており、現代人が読んでも笑える話になっています。「コントなの?ギャグ漫画の1ページなの?」って、思いませんか?

 

こんな、『ポプ●ピピッ〇』に出てきそうな話も、いっぱい集まっているのが、宇治拾今昔物語とか、宇治拾遺物語です。

 

 2-3.2つの説話集から古文や漢文について分かること、言えること

現代人の私にとっては、時にエログロ、時にナンセンスでシュール、はたまた、ホラーな今昔物語集宇治拾遺物語は、荒唐無稽な話が少なくありません。ですが、当時の人々の信仰や、世界をどう捉えていたとか、死生観みたいなのは、ぼんやり、つかめます。どんなことが笑いのツボだったとか、何を当時の人たちは怖がってたとか、そのあたりを想像すると、面白いです。

 

ただ、「検非違使忠明」のように、戸板みたいなものをパラシュートがわりに、清水の舞台の高さから飛び下りるといった説話は、骨折じゃ済まないと分かるレベルで、現代日本人のライフハックにはなりません…。そうは言っても、仕事で疲れた現代人が読んで、ゲラゲラ笑ったり、ゾクゾクしたりするうち、何百年と言う時空を超えて私たちの感情を揺さぶることを考えると、案外、人間の感覚ベースは変わらないことに、驚かされます。

 

説話をはじめとする古典作品には、現代日本の小説やアニメ、漫画、ゲーム等のメディア作品に登場する人物がいます。説話集ではありませんが、以前、「スキャンダラスな平安朝歴史物語~『大鏡』~ 」で取り上げた『大鏡』を高校の古文で読んだ時、花山天皇が出家させられるエピソードで、陰陽師式神を使って戸を開けるようなシーンがありました。

もし、陰陽師の存在が分かっていなければ、夢枕莫著『陰陽師』のシリーズは生まれず、その映像作品さえ作られなかったでしょう。ひいては、古文の授業で陰陽師の作品が取り上げられて認知度が上がってたからこそ、ピョンチャン冬季オリンピックで、男子フィギュアスケート羽生結弦選手が演目「SEIMEI」を踊り、感動を共有することができたのかもしれません。

 

さらに、羽生結弦選手の演技に、中国国営の中国中央テレビ(CCTV)の女性解説者は漢詩を贈るくらい、虜になったようです:

【平昌五輪】中国の羽生結弦ファンが懇願「北京五輪まで引退しないで!」 国営メディアの女性解説者は自作の漢詩で「羽生愛」アピール - 産経ニュース

漢詩について、日本語で解説している各オンラインニュースで読んだ私は、古文だけでなく、日本の学校教育で漢文が科目に入っているから、「こんなに美しく羽生選手を表現した漢詩を贈るほど、CCTVの解説者はこういう感覚だったんだ」と察せられる部分があるのではないかと考えました。

 

たしかに、古文や漢文の古典文学を読む授業で得たものは、職業研究者や学芸員などの専門的な仕事や、学校教員や塾講師などで古典を教えていない限り、個人の日常生活では役に立たないことが多いでしょう。しかし、古典の読み方という文化の共有対象を人間集団に広げれば、エモーショナルにいきいきとしたものを得られることが、あるのではないでしょうか。つまり、「古文や漢文の素養は、精神的な潤いや豊かさをもたらす」といってもよいかと。

 

 

3.終わりに

第2項の締めで、だいぶ話が飛躍しましたが、今回は今昔物語集宇治拾遺物語の紹介をしました。そして、「古典は教養以上に「必須」なことも~「日本よ、この期に及んで「古文・漢文」が必要だというのか」(はてな匿名ダイアリー)のこと~」とは異なっり、古文や漢文の素養があったら、精神的な潤いや豊かさが得られることを書いて、本記事の結びに致しました。

 

最後に、今昔物語集宇治拾遺物語が現代日本語で読める本をピックアップして、終わりにします。

 

 

1冊目は、三省堂の「新明解古典シリーズ」です↓

 

 

2冊目は、角川ソフィア文庫「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」 です↓

 

宇治拾遺物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)

  

日本の古典を読みやすい形で編集したシリーズです。角川文庫と同じ判型で、古典入門に特化したレーベルの角川ソフィア文庫に入っています。作品の舞台となった当時の土地や地域の地図、登場人物の相関図、年表などが付属。本文は、作品中、重要だったり、ストーリーのターニングポイントになったり、そういったエピソードや場面をセレクトされ、現代語訳と原文を並べる構成です。巻末には、編者の解説や参考文献が挙がっているので、もっと作品を知りたくなった人には、もってこいの入門書でしょう。

各作品ごとにカバーイラストや写真が内容にマッチしていて、表紙買いを誘うような装丁になっています。今昔物語集は、仏像が右上に立って脇にエキゾチックな動物が描かれ、宇治拾遺物語は、タイトル下にメラメラ燃え立つ炎が「絵仏師良秀」で家を焼く火に重なります。

 

どちらも、入門書としておすすめです。本記事で出てきた水木しげる版の漫画とともに、2つの説話集を再読し、笑ったり、ゾクゾクされたりしては、いかがでしょうか。

 

おしまい。

 

 

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*1:例えば、源氏物語光源氏や女君たちの歌のテクニックが、恋愛関係の発展や、人間関係を円滑にするといった意味で、役に立つことはあり得るでしょう。実際、源氏物語は戦国武将たちにとって、政治的な駆け引きを行うためのテキストとして読まれていたそうです:

乙女の日本史 文学編 (角川文庫)
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