仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【ニュース】「東北大、博士課程に返還不要の奨学金 年60万円」(日本経済新聞 )

<本記事の内容>

1.はじめに

最近、返済型奨学金のことが何かと話題です。以前、弊ブログでは、返さなくていいタイプの給付型奨学金や、授業料免除、あるいは就職後にその企業で働くことを条件に在学中の支援を受けられる制度など、まとめました。こちらは学部生向け:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

上記とは別で、博士課程の支援に力を入れている私立大学の取り組みを扱ったことがありました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回は、国立大で旧帝大系のひとつ、東北大学が博士課程の院生を経済的支援する動きを取り上げます:

www.nikkei.com


f:id:nakami_midsuki:20180308003523j:image

 

 

2.「東北大、博士課程に返還不要の奨学金 年60万円」(日本経済新聞 )を読む

東北大学といえば、このオンラインニュースの最後にあるように、

東北大は17年6月、文部科学省から「指定国立大学」に指定され、人材育成などに注力している。これまでも、経済的に困窮する学部学生向けの給付型奨学金を拡充するなどしてきた。

(東北大、博士課程に返還不要の奨学金 年60万円 :日本経済新聞)

「指定国立大学法人」に選ばれました。その背景には、

国や文科省が「運営費交付金に頼らぬ“大学経営”を後押しするため」に、「優れた大学とは自己資金獲得を含め経営力にたけ、それにより研究・教育のレベルを高められる大学」として、東大・京大・東北大学の3大学を第1陣に採択したという事情が

(【ニュース】「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(日刊工業新聞) - 仲見満月の研究室)

ありました。そのために、東北大学を含む3つの大学に、

  • 子会社を持つこと
  • 投資すること

を国は認めました。そういった背景を含めて、日経新聞のオンラインニュースの最初のほうを読んでみましょう。

 

東北大、博士課程に返還不要の奨学金 年60万円 

 2018/3/6 22:00

 

 東北大学は6日、博士課程の学生を対象とした、返還不要の給付型奨学金を創設すると発表した。大学基金が財源で、給付額は1人当たり年間60万円。1学年あたり100人で計300人に給付する。東北大によると、国立大の同様の奨学金では最大規模。経済支援の充実で博士課程への進学率を高める。

 

 新たに創設するのは「東北大学グローバル萩博士学生奨学金」。2018年度から実施する。各研究科の優秀な学生を対象とする方針だ。近年、経済的事情や修了後の進路が不透明だとして進学をためらう学生が多く、東北大でも博士課程への進学者は減少傾向にあるという。今回の奨学金創設で進学を促したい考えだ。

(【ニュース】「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(日刊工業新聞) - 仲見満月の研究室)  

 東北大が設けようとしているのは、

  • 年60万円
  • 1学年あたり100人計300人に給付

するというもので、財源は 「大学基金」から出すそうです。国立大学の大学院博士課程は高いほうで年間50万円台のところがあります。年60万円といえば入学金等を除き、だいたい1年分の納付金に相当するでしょう。「近年、経済的事情や修了後の進路が不透明だとして進学をためらう学生」にとっては、博士課程への進学ハードルが多少は下がるかもしれません。東北大の公式サイト「東北大学基金 Tohoku University Fund」のニュース記事によれば、

この奨学金制度は、意欲と能力にあふれる優秀な学生が、本学の博士課程後期課程に進学し学術研究に専念できる環境を提供するとともに、日本の科学技術の発展に資する「創造と変革を先導する人材」の育成を目的に整備したもので、本年4月から実施します。

(東北大学独自の新たな人材育成の取組をスタート-東北大学基金

とありますから、他の大学院と同じく、博士課程への進学者の減っていた東北大としては、本気で優秀な後身の育成をしたいのでしょう。

 

なお、博士課程ではありませんが、東北大と同じ指定国立大学の京都大学は、   

・今年、企業からの寄付による奨学金を新設した

・同大OBの企業経営者らに呼びかけて寄付を募り、まず、7社の参加が決定

 …3月から学部生や大学院生を対象に21人を募集

・学部生は30万円の奨学金が給付される

・実は、ダイドードリンコは社長が京大OBで、社会貢献の一つとして参加

・卒業後に入社義務などはない

・京大は協力企業を広げ、規模を拡大したい考えだ。

(給付型奨学金や学生に対する経済的支援をする大学や企業・団体の取り組み~「800万円支給の大学、返済支援する企業…知っておくべき奨学金活用術」(週刊朝日)~ - 仲見満月の研究室)

という動きを以前、弊ブログでお伝えしました。京大の場合、ダイドードリンコをはじめ、「卒業生に大企業の経営者がいて寄付をお願いできると応じてくれるか、といった「お財布」がバックに控えている」大学であれば、寄付が集まりやすいと考えられます*1。また、「【ニュース】レゴブロックで京大院生が「核融合実験炉の精密な模型」の「建設に成功」(京都大学Newsより) 」で紹介しましたように、寄付を募る専門の部署を持った上で、更にどこからお金を集めてくるか、アイディアがあると給付型奨学金の枠を広げられるかもしれません。

 

今回の東北大は、先の東北大学基金 Tohoku University Fundというところを持っているのと、探せば卒業生に大企業の社長や役員の方が多数いらっしゃると思いますので、「東北大学グローバル萩博士学生奨学金」ほか、給付型奨学金を充実させられる可能性は大いにあると思われます。

 

 

3.最後に~有期雇用職員の雇止め問題と指定国立大学としての東北大~

東北大学基金 Tohoku University Fundを読むと、他にも給付型奨学金があるようですので、2018年の春から東北大学に進学する、または東北大への進学を希望している受験生の方は、こちらのサイトページを覗いてみて下さい。

 

ところで、東北大学は人材育成に力を入れてようとしている一方で、以下のような非正規の大学職員の雇用問題があるようです:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 同じ指定国立大学の東京大学は、無期雇用へ転換する動きがあると報道されていました。

 

一方、東北大は「非正規職員の有期雇用契約を5年を超えて更新できないよう規則を改めた問題」が持ち上がっていました。東北大は「財政上の問題」があるとして、「有期雇用の非正規職員は3759人(今年4月時点)。このうち講師や医師らを除き、約1千人が来年3月末に雇用期間が5年に達」する人たちに対し、上記の規則を設けていたと推測され、昨年11月末、「非正規職員を対象にした無期雇用の正職員への採用試験」の結果を発表していました。以上は次の朝日新聞デジタルのオンラインニュースによっています:

www.asahi.com

 

指定国立大学としては、東大、京大に比べて、やはり東北大は経済的な体力面で苦しいところがあるようです。「【ニュース】「世界での競争力が問われる「指定国立大」」(日刊工業新聞)」の終盤で書いたように、「東北大が選ばれたのは、「他大学を強力に刺激する“厳選選抜校”」の枠としての大学だった」(世界での競争力が問われる「指定国立大」)と指摘されていますから、実際、トップ2の国立大とは差があるのは否定できないでしょう。全国に研究所や関連施設を持つ東大、京大と比較すると、東北大学は、かなり規模が小さいと思われます。

 

院生時代、様々な手続きやバックアップで、大学職員の方にお世話になった者としては、職員を大切にできないところは、志望者に安心して通えないという気持ちが起こっても不思議ではありません。非正規雇用の問題は、何も東大や東北大に限った話ではないですが、優秀な博士課程の入学者を求めるなら、もう少し、東北大学には雇用問題にしっかり取り組んで頂きたいな、というのが私の思うところです。

 

最後に、全国の大学の給付型奨学金のインデックスとして使えそうな、本のリンクを貼って閉めさせて頂きます。1年と数か月前の発行ですが、当たりを付けるには参考になりそうです。

 

大学進学のための全国"給付型"奨学金データブック

 おしまい。

 

 

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