仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系のなかみ博士が研究業界の問題などを幅広く考えるブログ

高齢になってからの博士号取得とそのポイント~「立命館大:88歳女性研究員に博士号 国内最高齢」(毎日新聞)ほか~

<今回の内容>

1.長い前置き~博士号の種類と取得者の年齢について~

3月は学部の卒業式、大学院の修了式や学位授与式が集中するシーズンです。今月に入ってから、弊ブログでは連日、「学部「卒業」と大学院「修了」に関するアレコレ~卒業と修了の違いは?+「学位記」と式典の服装の話~ 」の記事が、よく読まれているようです。2017年度中に博士論文の審査が通って、博士号取得が決まった人にとっては、2018年3月の学位授与式に出席して学位記を受け取る人が多いのではないでしょうか?

 

自分が出席した授与式では、まだ20代から30代の人が大勢いた修士課程の修了式に比べて、博士号の授与式では自分と同年代の30歳前後の方から、私の父母世代と思われる方まで、幅広い年代の顔を見たのを覚えています。昨年1月末のトークイベントで、博士号取得の年齢について、話題にしたことを思い出しました。現在、日本の博士号に主に次の2種類があります。

  1. 課程博士(博士課程在籍中、または博士課程の単位取得か満期退学後3年以内に取得した博士号)
  2. 論文博士(1のような状態で博士課程の退学後、数十年かけて論文を書きため、ある程度まとまったら本にまとめて審査をパスし、取得した博士号)

 

昨今は文科省のはたらきかけもあってか、なるべく1の学位を研究教育機関で出す流れになってきているようです。在職のまま、あるいは退職後に大学院に進学し、課程博士を取得される方は私の身近にもいました。その一方で、日本では特に文系分野において、人生の集大成として本にまとめた研究論文をもとに、論文博士を取得する世代の研究者の方々も多くいらっしゃるようです。詳しくは、「大学院に行きたいと思ったら知るべき「初歩」のこと~大学院の進学システムと就活~ 」の「大学大学院生の在籍可能年数と文系院生の博士課程満期取得退学」以下に譲りますが、いずれにしても、現在、大学院の博士学位授与式の出席者には、中高年以上の方が珍しくありません。

 

学部時代に私がお世話になった博士課程の先輩には、退職後に進学して課程博士を授与された、60代後半の方がいらっしゃいました。その方と同じ世代の先生に私は、

「30代半ば、40代と年を重ねるごとに身体の衰えが顕著になって、執筆する集中力はなくなってくる。文献を読むにしても、老眼になれば虫眼鏡が手放せなくなるから、ノートは大きな文字で書いておいたほうがいいよ。物覚えは悪くなっていくし、足腰が弱ってしまえばフィールド調査に行けなくなる。若いうりに、研究をしておきなさい」

と言われてました。

 

そういうわけで、60代後半で博士学位取得というのは、博論を提出するのに期限があるにしても、当時の私にとっては、物凄いことに感じたのです。

 

今、改めて考えるに、博士号取得者の最高齢は何歳なのだろうか、という疑問が出てきます。日本国内の場合、仮定として、

  1. 取得に期限のある課程博士よりも論文博士の人
  2. 学位取得の慣習では理系よりは文系の人
  3. 実験やフィールドよりも文献を使った研究をしている人

のほうが、博士号取得の年齢は高めの傾向はありそうです。

 

ちょうど、国内最高齢の方の博士号取得のニュースが報じられました:

mainichi.jp

www.sankei.com

 

今回は、尾関清子さんの報をとおして、高齢になってから、何の種類と分野で博士号を取得し、そこにはどんなポイントがあるのか?少し考えてみたいと思います。

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2.国内最高齢の博士号取得者・尾関さんのこと

 2-1.毎日新聞の情報

尾関さんのことを報道したオンラインニュースは複数ありました。まず、毎日新聞のニュース記事をもとに、尾関さんの情報を整理いたします。

立命館大
88歳女性研究員に博士号 国内最高齢

 毎日新聞2018年3月24日 12時05分(最終更新 3月24日 14時09分)

  立命館大は24日、客員協力研究員の尾関清子さん(88)=名古屋市東区=に博士の学位を授与した。大学によると、国内最高齢の博士号授与になるという。大学院に入学はしていないが、縄文時代の布に関する論文を提出し、受理された。

 

(*取材を受ける尾関さんの様子について、中略) 

 

 尾関さんは名古屋市にあった東海学園女子短大の助教授を1995年まで務め、現在は名誉教授。縄文時代に編まれた布の研究に30年以上、取り組んできた。

 

 2015年4月からは立命館大の環太平洋文明研究センターの客員協力研究員として活動し、昨年9月、大学に論文を提出。布文化について実験に基づく解析を行い、研究分野の基礎を築いたことが評価された。(共同)

(立命館大:88歳女性研究員に博士号 国内最高齢 - 毎日新聞)

尾関さんについて、分かる情報は、

  • 1995年まで、東海学園女子短大の大学教員(助教授)で、退職後は名誉教授となり、 2015年4月に立命館大の環太平洋文明研究センターの客員協力研究員に就任
  • 研究テーマは縄文時代に編まれた布についてで、30年以上、取り組んできた
  • 2017年9月に博士論文を提出し、布文化について実験に基づく解析を行い、研究分野の基礎を築いたことが評価された

といったことです。もともと、短期大学の教員で客員研究員をしていたこと、研究歴が30年以上あることから、論文博士(文系分野)の取得が有力そうです。ただし、所属していた研究科や学府といった部局が毎日新聞の記事には書かれていないため、どの分野の博士号なのかは判断ができません。

 

 2-2.産経WESTの情報 

続いて、より詳しい産経WESTのオンラインニュースを読んでみましょう。1ページ目です。

2018.3.24 12:45

88歳尾関清子さん、遅咲きの博士号 縄文布の研究「認められた」 国内最高齢立命大で授与式

 

 30年以上にわたり、縄文時代の布について研究を続けてきた東海学園女子短大(現東海学園大)名誉教授の尾関清子さん(88)=名古屋市=が24日、立命館大京都市)で、文学博士の学位を授与された。立命館大によると、国内最高齢の博士号取得。「学位をいただくことは私の研究が認められる証しになる。うれしい」と遅咲きの博士は喜びを語った。

 

 16歳で終戦を迎えた尾関さんは、大学には進学せず、洋裁の専門学校に通った後は銀行員などとして働いていた。

 

 手芸好きが高じて、昭和39年に東海学園女子短大の家政科の助教授になり、生活文化史を研究。縄文布に出合ったのは、縄文時代のくしや土偶を調べていた62年のことだった。

 

 縄文布は、縄文時代に麻や木の皮の繊維を編んで作られたもので、土器を作る際などに使われていた。「最初は単純なものだと思っていたが、さまざまな編み方があり、どういう道具を使っているのか興味を持った」。以来、縄文布に魅了され、研究を続けてきた。

 

 持ち前の行動力で全国各地を訪れて縄文布を収集。耐久性を調べるため、縄文布で作った服を着て、竪穴式住居で学生らと3日間泊まり込んで生活したこともある。

88歳尾関清子さん、遅咲きの博士号 縄文布の研究「認められた」 国内最高齢、立命大で授与式(1/2ページ) - 産経WEST

 ここまででの情報より、

  1. 文学博士、つまり文学の分野で博士学位を取得したこと
  2. 洋裁の専門学校卒であり、社会人生活を経て、昭和39年に東海学園女子短大の家政科の助教授に就任
  3. 短大では、生活文化史を研究し、昭和62年に出会った縄文布の研究を開始
  4. 全国各地を訪れて縄文布を収集したり、竪穴式住居で学生らと3日間泊まり込んで生活したりした

といったことが新たに判明しました。洋裁の専門卒であり、手芸好きだったことから、女子短大の家政科の助教授に就任したのは、技術の指導者としての起用だったと考えられます。実際、修士号や博士号がなくても、専門職大学院では経営者が実務教員として、芸術系大学の技術指導員として業界で活躍するクリエイターや演奏者が雇用されています。 衣服や食物の生活に関わる学術分野では、知識に加えて、実技指導が実習授業を通じて行われると聞いたことがあり、尾関さんも技術が評価されて、指導者として大学教員に採用された可能性があります。 

 

そして、尾関さんは、文理の境界分野に位置し、私も属する生活文化史の研究者とのこと。縄文布の収集と、編まれ方や道具に興味を持ち、耐久性の実験で竪穴式住居に泊まりこんでいることから、広義で人文系分野の研究者といえるでしょう。ご経歴と文学博士の取得から、専門卒と大学教員のとしての実績が考慮され、修士課程と博士課程をとばして、立命館大学に博士学位の申請して、論文博士を取得したと推測いたしました。

 

さて、さらにオンラインニュースの先を見ていきましょう。

 学位の取得は全く考えていなかったが、平成24年にそれまでの研究をまとめた書籍「縄文の布-日本列島布文化の起源と特質」を出版。周囲から「誰も研究していない分野なので学位が取れる」と後押しされて博士号取得への挑戦を決め、立命館大で研究者が論文審査を経て取得できる論文博士制度を利用した。

 

 論文では、全国から収集した約830点の縄文布の製作技法や地域性を分析。弥生時代古墳時代の布が日本最古とする説もある中で、縄文布の起源や特質を解明し、「日本最古」と結論づける研究成果を発表した。「先行研究がないので、謎解きの連続。明けても暮れても研究に取り組みました」と振り返る。

 

 現在は、各地に足を運んで研究活動を続けるほか、縄文布を編む体験教室も開催している。「私がいなくなっても(他の人に布の)研究をしてもらえるよう、資料収集などを一生懸命やりたい」。米寿の博士の意欲は尽きない。

88歳尾関清子さん、遅咲きの博士号 縄文布の研究「認められた」 国内最高齢、立命大で授与式(2/2ページ) - 産経WEST

 新たな情報として、

 6.平成24年にそれまでの研究をまとめた書籍を出版

 7.立命館大で研究者が論文審査を経て取得できる論文博士制度を利用した

の2つがありました。ここで博士号の種類が論文博士だと確定します。論文の詳しい内容から、文系の中だと実験ありで理系に近く、フィールド調査があるなら、文学・人文学の部局だと文化人類学や考古学あたり専攻・専修ではないかと考えられます。調べていたら、尾関清子 - Wikipediaのページが見つかり、そこには「考古学者」と書かれていました。縄文布の研究を開始した時点で50代後半であり、あちこちに調査に行って体が鍛えられていた点を考慮しても、身体の衰えはあったでしょう。論文博士の制度を使ったとしても、尾関さん個人がアグレッシブでパワフルだったからこそ、米寿で学位が取得できたのかもしれません。

 

加えて、自分の死後、後進に研究を引き継ぎたいという意志があること、それから好奇心に満ちているといった性格が、研究も業務に含まれる大学教員合っていたと思われます。いろいろな意味で、研究者を続けるのに必要なものがそろっていたことから、卒寿を目前に、博士号取得が叶ったとも私は考えました。

 

 

3.高齢になってからの博士号取得とそのポイント、および研究継続に必要なもの

以上、オンラインニュース等で得た尾関さんの情報より、高齢になってから研究者が博士号を取得する人のポイントをまとめてみます。

 その1.博士号の種類:高齢になるほど課程博士より論文博士が取得しやすそう

 その2.博士号の分野:個人の性格、選んだ研究テーマによる

 その3.研究スタイル:実験やフィールドといった調査手法や資料はテーマや

     個人によって異なる模様

 

月並みの答えになりますが、高齢になるほど、論文博士が取得しやすそうではありますが、分野や研究スタイルについては、ケースバイケースだと思われました。より多くの事例を調べる必要がありますね。

 

今回、尾関さんのことを調べて、分かったことがひとつあります。それは、生涯現役で研究をするには、老いを気にしない、あるいは気にしない程度に動けるだけの健康な心身を持ち、好奇心にしたがって活動を続けることです。加えて、物を教えるのが好きであり、尾関さんのように、技術と指導力がともなっていれば、大学教員を退職後も、研究現場で若い世代とやっていけるのではないでしょうか。

 

多忙な大学教員が増え、若手研究者たちも少ない研究ポストをめぐって競争し、心身を病んでしまう、そんな現在の日本。研究継続は困難な状況において、尾関さんの姿は生涯現役の研究者としては、まさに理想といえるでしょう。これからも、ぜひ研究に取り組みながら、後進によい意味で影響を与えて続けて頂きたいと思っています。

 

おしまい。

 

 

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