【レビュー】『学問のしくみ事典』(日本実業出版社)の紹介と中国史学+少し文学の部分を補足してみる
<今回の内容>
1.はじめに
今年度に入ってから、大学関係のニュースでは、スポーツ関係の不祥事や、セクシュアル・ハラスメントを元院生に行った事件が起こり、大分県では論文の登用問題が報道されたり、他にも他にも、この6月まで色々と耐えながら、過ごしていました…。すみません、あまりにも精神状態が悪かったため、ニュースについてブログで取り上げることをお休みさせて頂いております。
今週半ばから、サッカーのロシア・ワールドカップの試合を見て、ストレスを緩和しながら、資格取得に関する勉強をしておりました。「こういう時は、勉強したい分野に関する 本を読むのだ!」というツイートを見かけて、テキストを開いて情報を整理していますが、ときどき、よく分からない用語が出てきて、頭がこんがらがってしまい、黒いインクをぶちまけたような状態になってしまいます。
最近は、思うところあって、社会学とその関連の本を読んでいて、事典のようなものを欲していました。探している中で、様々な学問分野の研究者やアーティスト、作品をざっくりとしたチャートにまとめた本がありましたので、本記事で紹介させて頂きます:
2.『学問のしくみ事典』(日本実業出版社)の紹介
本書表紙には「あらゆる「学」の歴史とつながりがわかる」という言葉、帯びには「好奇心を刺激する36の「知」の世界」と書いてあります。内容はそのとおりで、人文科学・社会科学・自然科学・文化芸術の上位分野1つにつき8~10の下位の学問分野のセクションを設けて、その歴史や各論とその提唱者、活躍した研究者や著者、アーティスト、作品等をまとめて紹介しています。
現在、私が勉強している社会科学の分野、それからチラ見した人文科学については、例えば、欧米の近代における社会学の学派同士の関係や、古代ギリシャの各哲学の流れ、近代歴史学の枝分かれした様子など、それぞれが整理されてチャートになっていました。その横に、重要だと思われる人物や思想、理論等を縦書にして、説明が加えられています。分かりやすいといえば確かにそうなんですが、ところどころ、高校社会科の政治・経済や倫理の教科書に出てくる人物の名前が抜けていました…。ぱっと気づいたところでは、ハンナ・アーレンの名前が出てこない!(少なくとも、索引にはなかった)
ちょっと覗いてみた文化芸術のところには、下位分野に文学、建築学、音楽、美術、映画、写真ほかが設けられていて、その分類に関しては「ん?」と疑問に感じるところはありました。ちょっと齧ったことのある建築学は、ヨーロッパでは美術系の分野に分類されていることがありますし、日本の芸術系大学にも学科が置かれていることがありますし、文学についても人文科学に入れられるだけでなく、文芸としてコースが芸術術系大学に設置されていることを聞いたことがありますので、不思議ではありません。
建築学だと、バウハウスやル・コルビジェ、ルイス・カーン、近代日本建築では見学したことのある建築物の設計者の名前が載っていました。
全体的に通してみると、日本の近代は一部であるものの、アジアの思想や文学、史学史や史学論の部分が項目すら、出てきません。中国史学で司馬遷や班固は登場しますが、たぶん外せないはずの清朝の考証学者たち、日本人研究者だと内藤湖南や宮崎市定がないよ!日本史学だと、学部の史学論の授業で出てきたはずの網野善彦や丸山眞男が何故か、索引になかったです(※今は取り上げられるのかは別として、私の頃は授業に出てきました)。文学に関しては、中国文学がない!日本に関しては、近代文学の夏目漱石等は出てきますが、前近代の文学は取り上げられていませんでした。
もちろん、私が見落とした部分は少なくないかもしれません。そうであったとしても、取り上げられている分野、各論には偏りがあるのは、否めません。本書のレビューを見ると、その点を指摘している方はいらっしゃり、実用書として割り切って使うべきだと感想を寄せられている人もおられました。
3.中国史学+少し文学の部分を補足してみる
中国の前近代の研究で、歴史学を齧る程度ではありましたが、本書で中国学の関係が抜けているのは、あまりにも肩を落としてしまいました。ここで、自分なりに補足で読むのによさそうな本をピックアップし、簡単に紹介したいと思います。中国の思想体系や古典文学については色々と複雑です。そのため、自分が論文を書くのに勉強した古典文学の一部を小説中心に触れさせて頂くこと、ご寛恕ください。
(日本史については、専門ではないため、割愛させて頂きます)
まずは、中国史の全般的な入門書としては、こちらです:
前時代の研究史や基本的な文献を紹介した、スタンダードな入門書です。詳しい内容は、「中国史研究をする人へのスタンダードな入門書~礪波護・岸本美緒・杉山正明編『中国歴史研究入門』~ - 仲見満月の研究室」をご覧ください。出版年が2005年と13年ほど前ですので、最新の各時代ごとの研究動向は読者が自分で追う必要があります。なお、古代の先秦から前漢については、佐藤信弥『中国古代史研究の最前線』(星海社新書)で最新の研究状況を一部、補うことができるでしょう。
中国史の全体的な流れと、時代ごとの比較的新しい説を反映した概説を読みたい方や、大学で中国史学のコースに進学希望・された生徒・学生には、次の昭和堂の本が定評があり、コンパクトにまとまっているようです。ちなみに、私は前進の2009年版を使っていました:
中国文学の近世から近代については、明代以降の出版史を含めて、ざっとこちらを読むと分かります:
それから、中国古典文献の扱い関する本では、私がよいと思ったもの、研究者の方が書評されていたものを、挙げておきます。史学も古典文学もひっくるめて、漢籍を扱う人にとっては、初学者の学部生には授業で物足りないかと感じたらい、自習によいかもしれません。
まず、私が読んだものではこちら。白帝社アジア選書に入っており、ちょっと上級者向けな感じで、古いところがきになりますが:
知の座標―中国目録学 (白帝社アジア史選書)
先月、発売されたもの。研究者の書評を読み、ピックアップしました。足りないところをおさえた上で、参考書に使う方法がよいかと。私が読んでみたい1冊です:
※もう1冊は、昨年4月に発売された次の本。読書メーターのほうでは、お一人、評価。もし、読まれた方がいらっしゃいましたら、感想をお聞かせ下さい。有り難いです:
4.最後に
『学問のしくみ事典』(日本実業出版社)を取り上げた後、足りない中国史学+古典小説の部分を中心に思ったより入門書を入れてしまい、補足が長くなってしまいました。申し訳ございません…。
中国学に限らず、アジアの思想、文学や歴史学については、「アジア遊学」のシリーズで様々な特集が毎号設定され、専門の研究者の研究成果を読むことができます。卒論や修論のテーマを探すのにも向く本があるかもしれません。
個人的には、2010年代半ばに、『紅楼夢』や『封神演義』、『金瓶梅』といった中国古典小説の新しい日本語訳の本が出ており、読まないと研究再開がしづらくなってきております。ここに挙げたもので、未読のものについては、私自身もまた手に取って読んでみたいと考えています。
おしまい。