仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「正史」入門者向け『十八史略』や 明治書院「 #新釈漢文大系 」他で漢文に慣れる~続・ #古文 や #漢文 をもう一度~

<学部生向けに漢文に慣れるための参考書案内>

1.はじめに

もう7月!幼稚園から高校までは、今月には夏休みに入り、前後期制の大学・大学院では期末の試験・レポート三昧の時期です。また、前期卒業・修了を目指す学生にとっては、学位論文のラストスパートで忙しい時期ではないでしょうか。

 

先月末、私のフォローしている方々の間で、突如として「漢文を読めるようになるには、どうしたらよいのか?その方法について」というテーマで、Twitterのタイムラインが少々、盛り上がっていたようです。

一応、私も以下のツイートをしました:

 

Twitterで話していらっしゃる方々は、大学の学部生が対象のように感じられました。私自身は、中国史寄りの文章ばかり大学時代に読んで「正史」で卒論を書いた後、院では口語の古典文学作品を読んでおり、漢詩や唐宋期に広まった”詞(ツー)は、あまり縁がありません。高校で世界史の授業を担当していた時は、生徒の開いた国語古典科目の教科書に項羽と劉邦の楚漢戦争の話が出ていたのを覚えています。

 

そういうわけで、本記事では、「大学の授業で、再び漢文を読まないといけなくなった」学部生に向けて、『史記』や『漢書』、『三国志』等の「正史」寄りの文章や、割と簡潔な説話タイプの文章が載った漢文の参考書を取り上げ、紹介していきたいと思います。入門者向けではありますが、上級者向けの漢籍を講読授業で読んでいた時、私が担当の先生に教えて頂いた参考書も合わせて掲載しますので、読者の方はご自身の興味・関心。レベルに応じて、選んでご活用ください。

 

 

2.高校漢文でも出てきた『十八史略』~「正史」入門者向け~

今の高校国語の教科書は分かりませんが、私とそのプラマイ2歳差くらいの方なら、国語総合の教科書で目にした覚えがあるのではないでしょうか。私自身が高校時代に授業で読んだエピソードでは、「先従隗始」(まず かいより はじめよ)や、「鶏鳴狗盗」があったと思います。

 

この『十八史略』とは、中国元代の曽先之による、通俗(一説に子どもが対象者)の歴史書です。『史記』以下の十七史に、宋代の史書を加え、要約や編年体的な編集を加えて、まとめられたものとされたいます。「先従隗始」は『戦国策』、「鶏鳴狗盗」は『史記』といったように、「諸子百家」の故事成語にまつわる含まれており、とっつきやすさは魅力のひとつでしょう。

 

タイトルに入っている「十八史」とは、「正史」のうち、『史記』から『新五代史』までに『宋史』を加えたものを指し、カバーする時代は2000年を超えています*1。もとになった「正史」の文章よりは簡潔ですが、ひとまず、講読授業や卒業論文で『宋史』までの「正史」を読まなければならなくなった時、助けになるかも。

(ならないかもしれませんが…)。

 

現代日本語訳だけ読みたい方には、コンパクトな抄訳が、出ているようです:

 

 

 

現代日本語訳をする段階で、「なんじゃ、こりゃ?」という正体不明の語句が出てきたら、まずは、大修館書店の『大漢和辞典』で調べて注釈を付けてみて下さい。語句の区切れが分かるようなら、固有名詞にも対応している、別売りの「語彙索引」の巻が便利です。大学図書館公共図書館にもありますが、大学院の博士課程に行ってもお世話になるとか、部屋にスペースがあるとかなら、買ってもいいかもしれません。

(私の持っていた縮刷版でさえ、重くて、かさばるため、おすすめはしませんが):

 

大漢和辞典 全15巻セット 別巻『語彙索引』付

 

上記のやり方で「正史」を読むのが難しいという方には、次の『世説新語』のところで取り上げる明治書院の「新釈漢文大系」他の各出版社の漢文参考書、KADOKAWAのビギナーズ・クラシックスの文庫で「中国の古典シリーズ」があります(有名なエピソードを中心に掲載した入門書シリーズ、「読み下し、原文、解説」の書式らしい)。:

 

上級者向けの人には、自力で現代日本語訳まで完成させた後、チェックに参考書や翻訳本を使うのも手でしょう。ちょっと古い本が多いので、最新の研究を反映した日本語訳ではないので、そのあたりは授業で確認してみて下さい。

 

個人的には、ちくま学芸文庫の『史記』、それから珍しい『漢書』が好きです。写真は日本語訳の最終巻ですが、本紀、世家もあります:

 

 

三国志』も出ていました:


正史 三国志 全8巻セット (ちくま学芸文庫)

あくまで、『十八史略』は「正史」の内容を簡潔にまとめたものですので、実際に「正史」の各書を現代語訳する時は、白文を書き写すのに、文字の移動や段落の抜けにご注意して、お読みください。授業に出る前には、できるだけ、該当する参考書でチェックすると、歴史のほうの漢文のスタイルに慣れると考えました。

 

なお、『後漢書』に関しては、ハードカバーの参考書があるので、次の明治書院の漢文参考書のところで、合わせて取り上げます。

 

 

 3.しっかりやるなら、明治書院「新釈漢文大系」他のハードカバー~三国志の豪傑や「参謀役」たちの『世説新語』ほか~

「もっと、漢籍の成立を知りたい」、「注釈を読みながら、勉強したい」という人には、ハードカバーの全集シリーズ参考書をおすすめ致します。平凡社ほか、様々な出版社から出ていますが、私は「原典全文・訓読・訳・注で構成。索引も完備」の明治書院の「新釈漢文大系」を推します:

www.meijishoin.co.jp

 

昭和35年に出た『論語』から、順不同に出て、今年5月の109巻『白氏文集 十三』で、全120巻・別巻1巻がそろいました。実は、高校の図書室には国語漢文に出やすい一部のタイトルが入れられていることがあり、その有用性に気がついた後、高校の授業に余談で紹介したことがありました。

 

大学生になってから知ったことですが、新釈漢文大系をコンパクトにし、持ち運びに特化した「新書漢文大系」というものがあります。150ページ程度で、薄いものではありますが、院試対策で使うのには便利でした:

 

取り上げた『世説新語』は、中国後漢末から東晋末期の学者・文人・芸術家・僧侶の言行や逸話を集めたものです。六朝・宋の劉義慶が編纂しました。全3巻。「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」には、

 

単なる逸話集ではなく,その編名からもわかるように,当時盛んであった人物批評を中心にして編集されている点で特色があり,正史の伝記を補う重要な資料である。世間の評判 (世説) を取入れているので,当時の口語を知る貴重な文献でもある。

世説新語(せせつしんご)とは - コトバンク

と書かれています。高校国語の問題集や、大学入試の模試で出題されることも多く、また、「三国志の「正史」には出てこないけど、これは『演義』には出てくる人物のネタ元では?」といったエピソードも、探すと出てくるでしょう。興味のある方は、平凡社東洋文庫シリーズでも出ているので、そちらを読んでみてはいかがでしょうか。

 

 

世説新語』に出てくる一部の人物が生きた後漢時代については、ややこしい成立とされる『後漢書』が「正史」としてあります。 ある講読授業の史料に惹かれていた『後漢書』の一節の解釈に悩んでいたところ、担当者の先生がお薦めして下さった参考書がありましたので、挙げておきます:

 

漢書〈第10冊〉列伝(8) 巻七十五〜巻八十

 

 

魏晋南北朝の時代の思想が専門とされる、吉川忠夫氏の訓と注が付いたハードカバーの本です。こなれた感じの現代日本語訳は、たしか、付いていなかったと思いますので、返り点を付けて書き下した後、自分の書き下し文と本書の訓読を比べて、答え合わせや現代日本語訳を考える、といった使い方をしたほうが、よいかもしれません。

 

(※他の『後漢書』の本には、次のものが出ているようです。私自身、読んだことがないため、参考に挙げておきますが、お読みになった方がいらっしゃいましたら、感想をお聞かせ頂けますと、有り難いです↓

 

全19冊。後漢の研究をされている渡邉義浩氏が主編をされています。出版元のページはこちら:

全譯 後漢書 全19冊 - 株式会社汲古書院 古典・学術図書出版」)

 

 

4.最後に全体的な注意、および「白文テキスト」の便利なDBの紹介

以上、自分の高校時代から学部卒業くらいまでを振り返って、とっつきやすい文庫の抄訳から、上級者向けに使えそうな参考書まで、ざっと紹介していきました。今回、紹介した本の全体的な注意点として、同じ『史記』や『世説新語』の参考書であっても、使われている底本が異なれば文字の移動や脱落が内容に影響していることがあります。そのあたり、講読授業で慎重になるように言われる先生がいらっしゃるかと存じます。どういった点に注意して使うべきかは、各授業の担当者の方に質問してみてください。

 

ところで、講読授業にしても、読書会にしても、卒論を書くにしても、漢字だらけの「白文」(原文)のテキストをワープロソフトでタイピング入力するのは、けっこう、疲れませんか?私は配られた標点本(ひょうてんぼん、句読点をつけたテキストの本)を見ながら、一文字ずつ、IMEの手書き入力をして講読レジュメを作っていったところ、授業で段落抜けを起こしたことが発覚し、固まっていたことがあります。そういう授業の回の後、担当者の先生が教えてくださった便利な漢籍データベースがありましたので、リンクを貼っておきます↓

 

新漢籍全文」:

台湾の中央研究院(国立の研究所に相当)・歴史語言研究所が運営・管理している、漢籍のDBです。「正史」の底本については、私が学部生の頃は、中華書局の標点本の噂があったと思いますが、今は分かりません…。

 

使い方の説明をしますと、まず、上記リンク先のトップページには、繁体字中国語と英語で説明があります。それを読んだ後、

  1. ”免費使用”のボタンを押してDBに入る
  2. 使いたい漢籍の種類を”【全庫瀏覽】”から選んで漢籍項目の左の「+」ボタンで展開
  3. 下位のメニューから、探している項やタイトルを選んで、その左の「+」ボタンで展開 

していくと、見つかります。中国の漢籍特有の「四部分類」が頭に入っていないと、使いづらいと思います。四部分類に馴染みのない人は、「【レビュー】『学問のしくみ事典』(日本実業出版社)の紹介と中国史学+少し文学の部分を補足してみる」で紹介した、中国古典文献の入門書を読みつつ、使ってみて慣れてみて下さい。

 

例えば、『史記』の始皇本紀を探す時は、DBに「入庫」した後、

  1. ”【全庫瀏覽】”から選んで漢籍項目の左の「+」ボタンで”史”を展開
  2. 下位メニューの”正史”を「+」ボタンで展開
  3. 史記”→”本紀 凡十二卷”→”卷六 秦始皇本紀第六”→”始皇元年至十年”
  4. ”始皇元年至十年”をクリック

すると、画面の右側に横書きの「白文テキスト」が出てきます。

 

”史”を展開後、”正史”の下の”編年”を押したら、何故か”朝鮮王朝實錄”が下位項目に出てきたので、非常に驚きました。

 

お伝えしたいことは、以上で終わりです。用法と量をご注意の上、先生方、先輩方に質問をしつつ、お使い頂けたらと思います。

 

一旦、おしまい。

 

 

5.本記事と関係の深いブログ記事

 5-1.中国の歴史研究および古典小説関連

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

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*1:以上の説明部分について、参照したのはこちら:「十八史略(じゅうはっしりゃく)とは - コトバンク

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