仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

少し怖くて、不思議な”中華商場”での日々~呉明益『歩道橋の魔術師』を読む~

以前、ツイキャスで朗読を行い、途中から黙読を続け、半年以上かけ手読み終えたのが、本書です。台湾の高度成長期、商業ビルに住居のついた施設「中華商場」を舞台にした、ノスタルジックな雰囲気の連作短編集。そこに店を構え、家族と暮らした子供たちを、ビルを繋ぐ歩道橋に奇術を持って魅了し、唆すような言動をする魔術師の男との関わりをターニングポイントに、語られる10のストーリーがおさめられています。

 

 

各短編は、成人した子供たちが振り返り、語る体裁をとったり、ある話は魔術師の男が都市伝説的な存在として描かれ、またある物語では、魔術師は語り手の親友で、商場に暮らす子の願いを聞き入れたのか、「神隠し」の状態にし(「九十九階」)、別のストーリーでは男について、ほぼ触れられないこともある展開になるなど、あくまで主役は中華商場で成長期を過ごした子供たちとなっています。 

 

 

本作を一冊の連作短編集と私が評したのには理由があります。それは、魔術師の存在に加えて、独立した短編がひとつの大きな小説作品として、成立する構成になっているというもの。物語が収束していくような感じで。

 

例えば、終盤の「光は流れる水のように」に登場する少年のアカは、語り手である幼馴染と商場で過ごし、やがてアメリカにわたり、ハリウッド映画の大作を手がけ、世界を股にかける模型製作者となりました。アカが台湾に帰ってきた時には、既に商場は解体された後で、彼はかつて暮らした建物群を模型で再現することに着手します。その途中で、製作者は病死となり、幼馴染は、アカの妻カーロの案内で、未完成の模型「中華商場」を眺め、そこで各短編に登場したビルの棟に説明を加えていく、と。ここで、一度、『歩道橋の魔術師』の全体をまとめるようなシーンが挿入されている、ということになります。

 

最後の「レインツリーの魔術師」は、著者が語り手となり、かつて、中華商場で過ごした日々をもとに、この短編集を書く立場となり、ストーリーが進みます。ラオリーなる人物を思い浮かべるものの、執筆の進まない著者は、カンボジアに渡り、アンコールワットを目指しました。現地でレインツリーに導かれるように、著者はその近くで小人を操る痩せた男に出会い、息を呑みます。読者はここで、その男に中華商場にいた魔術師の男を重ねるのではないでしょうか。それはカンボジアを旅する作中の著者も同じような様子。その男は英語を解さず、会話の成立しないまま、著者はそこを離れ、帰国します。台湾に戻ってから、著者は改めて中華商場の思い出を友人たちに尋ね回り、それらの「記憶」に、自分の思い出を足して編むように、小説を書き始めました。

この「レインツリーの魔術師」は、本書の短編の一作でありながら、同時に著者による「あとがき」ともとれる構成で、なかなか、面白い書き方がされていると、私は感じました。

 

さて、実際の著者である呉明益氏は、どのような人物なのでしょうか。詳細は、訳者によるあとがきを見て頂くと、その正体が判明します。呉明益氏は、博士号持ちで台湾の国立東華大学で教鞭を執る中国文学者である一方、数作品のエッセイや小説を手がけている現役の作家。彼も中華商場で暮らしたことのある少年だったようで、その当時、現地に掲げられた看板のメーカー名、ブランドの名称が解説されています。読む者に懐かしさを感じさせるが、しかし、訳者が言うように「この連作小説はただの懐古趣味的なジュブナイルではな」く、語り手は大人の視点です。

 

とはいえ、日本の読者としては、子供たちが学校や放課後の公園で囁き合うような、「石獅子は覚えている」ほか、怪談めいた怖さを含む作品があって、そこは『世にも奇妙な物語』と似たような空気を感じずにはいられませんでした。こうした雰囲気や、人々の不思議なものへの感覚は、単純には比べられませんが、日本も台湾も変わらないんじゃないかと思います。訳者あとがきを読みかけで、呉明益氏が台湾の現代文学のなかで、どのような評価や位置付けかは分かりません。ですが、その情報がなくても、物語に浸ることは十分できます。

 

読む前、読了後の楽しみとしては、実際に中華商場のあった、台北の西門町から台北駅までのエリアをなぞるように歩いてみたら、よいかもしれません。台北に旅行する機会があれば、中華商場の規模を確かめるのも、ある意味、「聖地巡礼」であり、私もやってみたいと思いました。

 

おしまい。

 

 

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