仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系のなかみ博士が研究業界の問題を幅広く考えるブログ。

異国の暮らしで、徐々に夫婦になっていく~漫画版『 #北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 』1巻( #PASH! コミックス)を応援する~

今週のお題「読書の秋」

 

0.はじめに

漫画も読書の対象である!と考えている執筆管理人の仲見です。ちょうど、今週のお題に合わせて、季節的にもぴったり!そんな一冊を紹介したいと思います↓

 

スローライフ」とはいうものの、否、そうだからこその極寒の土地での暮らし。森では動物を狩り、屠って食し、あるいは草花の蜜を集めて料理とし、狩った獣や木材を加工して工芸品を売る。「サフィーリ」と呼ばれるリツの一族は、そのように自然と共に生きてきました。

 

実は、ジークと出会う以前、彼には意気投合した女性がいました。その女性は、彼の故郷プル・カンガスの村に向かったものの、生活が思い描いていたものと違ったのか、リツとの婚約破棄をして去って行ったのです。そういった背景を知らない人々の集まる夜会では、リツが詳細を言わないこともあってか、彼に軽薄な印象を抱く人たちがいるようです。そこへ軍人の正装で、雄々しい佇まいのジークリンデが現れ、その美しさは夜会の女性達だけでなく、リツの心を射抜くことになりました。

 

そこで思わず、リツは大勢の前で結婚を申し込んでしまいます。そこで彼を警戒する女性とひと悶着が起きかけましたが、それをジークがとりなしました。ジークリンデは落ち着いて話をするため、自分の客室へリツハルドを案内します。

 

ジークと向かい合って腰かけたリツ。灰色の瞳の美しさに一目ぼれをして、一声、かけるのを通り越し、ジークリンデにプロポーズをしてしまったことを悔やみます。一呼吸をおいて、彼は話し始めました。領地でずっと続く自給自足に近い生活に、自分は生きる意味を見失いかけることもあり、孤独を噛みしめることもあったこと。その生活に付いてきてくれた女性もいたが、合わなかったのか、別れることになったこと。もし、自分が伴侶を持つなら、貴族女性らしき礼儀は要らないということ。

 

リツハルドの告白に対し、ジークリンデは自分の所属した軍隊生活での半生を語りました。軍人の家系に生まれた彼女は、13歳の時に軍属となり、31歳になって戦争が終わる今まで、ずっと軍一筋で生きてきたこと。平和な世になり、これからの己の生き方が分からず、それを見つける目的で結婚相手を探しに、夜会へやってきたこと。

 

半生を話し終えたジークは、リツにある提案をします。自分の新たな生き方を、その「辺境の国」でなら見つけられるかもしれない。ただ、自分は妻としての振る舞い方は分からないし、お互いの好みや考えもあるだろうから、正式は結婚をするまで1年の「お試し時期」を設けようではないか?と。

 

それを聞いた辺境伯爵は、「契約結婚」として提案を受け入れます。そうして、二人は雪の積もる季節、リツハルドの治める極寒の土へと出発しました。途中で、レヴォントレット伯爵家の使用人である異国の地出身の少女ミルポロンが登場し、トナカイのソリで移動することに。移動の過程で、リツが長い三つ編みをしている理由が古来の信仰によるものであることが語られます。また、立ち寄ったお店で自分たちに冷たい老人の態度から、異国人に土地の人々には厳しい人がいることなど、少しずつ、領地の事情が明かされていく、と。

 

移動の途上で、リツハルドはジークリンデを労りながら、辺境での厳しい生活の説明を重ねます。例えば、寒い時期には、

  • 凍傷にかかって足を無くした人がいる
  • 朝、元気に出かけたきり 低体温で亡くなった人もいる

ほど、これから暮らす地域は危険で、過酷な場所だと。不安になって引き返そうとしたリツに、ジークは、嫁ぐいでくるにあたってした覚悟の意を改めて伝えます。そうしているうちに、ソリはプル・カンガスに到着。ミルポロンの父親が出迎えました。こうして、北欧の辺境伯爵と、「紅蓮の鷲」の異名を持った新妻の新生活が始まるのでした。

 

 

2.本書についての感想や作品世界の背景に関するコメント

原作は、文芸作品の投稿サイ『小説家になろう!』に投稿された同名の小説です。作品自体はフィクションではありますが、作中で二人が

  • ベリージュースを飲む
  • トナカイの引くソリで移動する
  • 極夜(カーモスとも呼ばれる*1)に合わせた生活をしている

といったことをしているのと、作品タイトルからリツハルドが北欧の辺境伯爵であることが窺え、読者の住む現実世界の北欧が想定されている地域だと思われます。さらに細かくみると、極夜のある北欧といえば、具体的には、フィンランドラップランドあたりでしょう。ちなみに、ユーラシア大陸の極東で、ラップランドと北緯のところは、ロシアならカムチャツカ半島(日本の北海道の北東にある千島列島が伸びた先にあたり)の付け根くらいでしょう。

 

生活道具と見ると、

  • スマホやPC、我々に馴染みの深いエアコンや電子レンジといった家電が登場しないこと
  • 使っている武器や軍の装備、生活用品にたくさんの瓶が見えること

から、作中の時代は19世紀くらいが想定されていそうです。ちなみに、

  • 通信手段は、2巻に収録されると思われるお話から手紙
  • 遠路の移動手段は船

があると、それぞれ、分かります。

 

リツハルドの持つ辺境伯爵の称号は、我々のいる現実世界だと、前近代にヨーロッパの君主(主に皇帝とか王)などが貴族に領土と共に与えた称号のひとつ「辺境伯」が近いと思われます。ここでは、「与える側が、辺境を守備させる名目で貴族に領土を任せる時に授ける爵位」という程度に理解しておいてください。主要人物の名前から考えると、おそらく、リツハルドの祖先はドイツ系の主君に、称号と領地を与えられたのではないでしょうか。なお、ざっくりしたヨーロッパの爵位だと、上から

  1. 大公(爵)
  2. 公爵
  3. 侯爵
  4. 伯爵
  5. 子爵
  6. 男爵

となります。伯爵は真ん中くらいでしょうか。実際は、国や地域ごとに複雑です。

 

作品の舞台が近現代ということも含めると、彼自身の性格もあるでしょうが、リツハルドが自称「貧乏貴族」というのも、不思議ではありません。作品が進むと、先代の辺境伯爵夫妻が

  • 「もっと、暖かい土地がいい」と宣って、20歳前後の息子に領地の管理をおしつける形で、村を出て旅に行ってしまったこと
  • 村を出て、はや10年近くになること
  • 異国の地からミルポロンの家族を使用人として連れてきたらしきこと

が窺えます。リツのご両親は、少しフリーダムな性格の人たちだな、と私は感じました。こういったことは、19世紀あたりの時代背景を考えると、まあ、理解はできなくはないです...。

 

さて、ジークのほうのお話をしましょう。彼女の名前は、ジークリンデ・フォン・ヴァッティンです。ジークリンデという名前は、北欧の伝説や、ゲルマン神話などに出てくる女性に付いていることあります。名前からして、どうやら彼女はドイツ系の出身だと推測がつきました。続いて、名前の「ジークリンデ」と姓の「ヴァッティン」を繋ぐ「フォン」について調べてみましょう。この「フォン」とは前置詞であり、

近代では新たに叙爵を受けたり、ユンカー、騎士(リッター)、領主(ヘル)などの準貴族に列せられた者が、元々の姓に「フォン」を冠して名乗るようになる例もある(例:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)。この場合は、出身地を指す意味合いは含まれない。爵位を持たない準貴族の場合は、「フォン」そのものが階級を表す一種の称号となる。

 (フォン (前置詞) - Wikipedia

ということと、作中で「ヴァッティン家は有名な軍人一族だ」という情報が出てきて、だいたい、ジークの出身階級が分かります。中国風にいえば郷紳で、イギリスだとジェントリくらいの出身でしょうか。ちなみに、ある程度の身分ある女性が軍隊で活躍し出すのは、現実世界だと、第二次世界大戦くらい。例えば、今のエリザベス女王(二世)が王女時代、トラックの整備兵として英国陸軍の後方支援をしていたという話は、最近、有名になりました。それに比べて、ジークリンデは一等兵の時から演習に出、村にやって来てからは、狩猟の時に銃を撃つ姿勢をリツに伝授していることから、軍人時代に実践経験が豊富だったことをにおわせます。

 

そんな二人が、日々の自給自足で、素朴ながらなしっかりと領内の住民たちと交流を重ね、時に助け、助けられながら、暮らしていくのが本作です。最初は、見た目が優男で、周囲の「誤解」もあって軟派な感じのするリツハルドです。が、自分の村に連れてきた新妻にひとつひとつ説明するだけでなく、時に「文字に書いた方が伝えやすいこともあるだろうから」と、土地の記録と一緒に交換日記を渡したり、人柄が誠実であることが徐々に判明します。ジークリンデは、元軍人で腕っぷしが強く、口調も堅い感じですが、積極的に力仕事で住民をサポートして人間関係を築いたり、突進してくるイノシシを撃とうとしたり、様々なスキルの高さを積極的に生かしていきます。

 

本記事を書くのに、何度もパラパラ捲ってみると、リツハルドは誠実で気遣いのできる人である一方、頭よりも行動が感情で動いていることがある上、鈍感で天然なところがあると感じました。夜会で一目ぼれし、ジークにいきなり結婚を申し込むところは、まさにそれが出ている場面で、そりゃ、軟派に思われても仕方ないかな、と。ジークリンデはジークリンデで、「貴族の妻の務めとはなんぞや?」と社会的な己の役割を考える一方で、「もっと、美容に気をつけたい」と美容液に使うことがある樹液を欲しがったり、真面目で可愛らしいところがあります。そこらへん、キャラクター的な魅力ですね。

 

本書のキーワードには、「お試し結婚」や「契約結婚」が挙げられ、つまり、恋愛よりも生活のほうが先で、それでうまくいったら、正式な婚姻関係を結ぶタイプが本作の結婚です。「夫婦もの」ので、

  • 現実世界の19世紀あたり、同時代のユーラシアが舞台のフィクション
  • 妻が年上で頼りになるし、何より腕っぷしが強い!

という共通点で、先行する漫画作品には

 

のシリーズがあります。そのジャンルでは有名な『乙嫁語り』は、メインのカルルク&アミル夫妻の話と、学者のスミスとその一行が西を目指して旅をする途上で様々な民族のお嫁さん方と出会う話を、いったり来たりする展開をする内容です。

 

アミルと、本作のジークの新妻を比べると、二人とも夫の出身部族や地域の中での生活に慣れつつ、夫との絆を深めていくところは共通しています。その一方で、異なるのは、本作のジークは自分の新しい生き方を模索する目的があるという点です。夫のリツハルドのほうも、ジークが領地での生活になじめず、契約した1年が経たないうちに、彼女が出て行ってしまったらどうしようかと不安になる夢を見てしまい、その実、ジークは出て行こうと思えば村を出て行けます。

 

こうした作品の魅力は、大自然のなかで、動物を仕留めたり、木材を利用して道具を作ったりと、衣食住のなかで男女が徐々に惹かれ合い、恋をし、夫婦になっていくところにあるでしょう。いろいろとストーリー展開上にあって、(長兄たちとの付き合いは続いているけど)出身部族には帰れない状態のアミルに対し、ジークリンデは自分でリツとの生活を決定でき、それを尊重もされていることで、本作には『乙嫁語り』とは違った意味で緊張感が漂っています。読者は、厳しい暮らしのなか、契約結婚を前提としたリツハルドとジークリンデが、果たして正式な婚姻関係を結ぶのか、ドキドキしながら読み進めることになるでしょう。

 

という感じで、長々とコメントをしてきましたが、感想をまとめると、こんな感じ。

リツとジークが徐々に信頼関係を築き、時にハプニングが起きて、くっついていく過程を見られるのは、いいぞ!

 

最初は、自分の研究していた分野で、生活文化や信仰を知りたいと思って読み始めました。トナカイの狩猟や、白樺を利用した工芸品の加工、たくさん出てくる料理の作り方や味etc...と、リツたちの日常生活に関する解説と情報量は、凄まじい!北欧あたりの生活を知りたい方には、フィクションではあるものの、そういった文化紹介を追うだけでも楽しめると思います。巻末には、キャラクターのプロフィールと合わせて、リツハルドのお屋敷の図解、トナカイやソリを引く犬たちの説明がイラスト付きで、にぎやか。参考文献リストはありませんが、狩猟や銃の監修者として小堀ダイスケさんの情報が挙がっていました。もっと知りたい方は、小堀さんの関連ご著書を探してみてもよさそうです。

 

そうそう、巻末に書き下ろしの「何か」があります。知りたい方は、買って読んでみてください。

 

 

3.最後に 

本作と私が出会ったのは、Pixivコミックでした:

comic.pixiv.net

 

今回、紹介した漫画版を大きめの書店で買いました。ジュンク堂丸善紀伊国屋三省堂の大きめの店舗だと、新刊コーナーに2~7冊くらい、置いてある店舗もあるかと。

この漫画版が面白く、全4巻の原作小説を読もうと、Amazonやhontoなどのオンライン書店、まちの大きめの書店で検索しました、しかしどこにもない!*2図書館の蔵書検索では、原作小説が人気の模様で、貸出中。下の画像は1巻↓

 

 原作1巻は宝島文庫でも出ていたようです:

 

 

 

この漫画版は、Pixivコミックに出張版として最初のほうのお話が掲載され、本連載は次のコミックPASH!のサイトで最新作が掲載されているようです(2018.11.17現在、第13話まで公開):

北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし | コミックPASH! | 無料で読める漫画サイト

 

本作は原作小説の在庫が僅少らしきことに加え、最近のWebコミックで聞く話では、漫画版は1巻の売上が少ないと、連載自体が打ち切りになってしまう恐れがあります *3)。そして、紙書籍のほうが電子書籍より売れると、連載が続きやすいように感じられます。原作小説が手に入りにくいこともあって、私は漫画版の連載が続くことを願っています。

 

もし、本作をお読みになった方がおられましたら、

  • コミック1巻の奥付に、漫画版を描かれた白樺鹿夜さんへ送るお便りの宛先
  • Pixivのアカウントをお持ちの方は、ログインするとPixivコミックの各作品のメイン画像下に現れる「編集部へ感想を送る」欄(※私は先にこっちでお便り)

を利用して、感想やコメントを送って頂けたらと思います。難しい場合は、とりあえずですが、

方法も、あります。そうして応援して頂き、連載が続けば、著者の方々だけでなく、読みたい私も助かるので、有り難いです。

 

あと、憶測ですが、図書館で原作小説を借りた方で、編集部宛てにお便りを出し、それが増えると、ひょっとしたら、増刷されるかもしれません*4

 

ということで、以上、漫画版『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 』1巻のレビューと、応援の記事でした。おしまい。

 

<原作者の本で、仲見が気になる著作>

 

<作画者の本で、気になる著作>

 

 

 

<関連のある本ブログの他の記事> 

最近の「研究と食べ物」という暮らしに関わるテーマ記事です:

naka3-3dsuki.hatenablog.com 

 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

研究者と結婚のテーマ記事まとめ:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

 

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*1:「南北の極圏で、一日中太陽の昇らない状態が続く現象。南極で5月末から、北極では11月末から、それぞれ約1か月半続く。」(出典:デジタル大辞泉極夜(キョクヤ)とは - コトバンク

*2:原作者の江本マシメサさんによると、なかなか在庫がないようです。

*3:原作者の江本さんも、危惧されていることのようです。詳しくは、こちら:http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/264357/blogkey/2155543/

*4:Web連載版も魅力的で面白いですが、原作小説の書籍版には書籍版で収録されているお話や、解説もあると思いますんで、やっぱり、紙の本は紙の本で読みたいです。私も借りられたら、無理のない範囲で、お便りをしたいところ...。

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