仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

研究者向けライフハック書として #借金玉『 #発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読む('18.12.23、16時台にnote出張編のリンク追加)

<まずはライフハックの本として読んでみた>

1.はじめに

この研究室ブログや外部の投稿記事では、執筆者の私の院生時代の経験を振り返ってみて、大学院には「いろんな方向に発達障害の傾向を持っていた方々」がいることについて、触れてきました。主な記事は、次の3つです。

上記の記事において、私の主観をもとに申し上げたのは、明確な医学的な根拠はありませんが、未診断だけどその傾向に自覚のある「隠れ発達障害」っぽい人(※執筆者の私)や、自覚はないけれど「隠れ発達障害」っぽい人たちが、結構いるのではないか?ということが1つ。そうした方々のいた私の旧所属先で過ごした日々や苦い体験をもとに、「隠れ発達障害」の人たちが「生きやすい」ようにすることを意識した技術的な事柄を交えたのがテーマとして1つ、ありました。

 

今回は、後者の「生きやすい」ようにすることの延長線で、次の本をライフハックの実用書として読んでいく回です↓ 

 

 『発達障害 の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(以下、本書または『すごい仕事術』)を短く説明するなら、ある青年が「社会性」を獲得する中で身につけた(生活や)仕事に関する技術(≒ライフハック)の記録である、といったところでしょうか。

デジタル大辞泉』は「社会性」の語について

  1. 集団を作って生活しようとする、人間の根本的性質。
  2. 他人との関係など、社会生活を重視する性格。また、社会生活を営む素質・能力。「社会性のない人」
  3. 広く社会に通じる性質。社会生活に関連する度合い。「社会性の強い文学」

(参照:社会性(しゃかいせい)とは - コトバンク、’18.12.18取得)

と定義していました。本書の内容に照らせば、「社会性」の定義は上記の2に該当し、「社会生活を他者と送るための(能)力」だといえるでしょう。

 

さて、発達障害者とはどんな人たちなのか?本記事では、『すごい仕事術』冒頭の「発達障害について」の説明に、先の「社会性」の定義に加えると、「社会生活を他者と送るための(能)力について、「発達の凹凸が大き」くて、大なり小なりの困りごとを抱えている者」と、まとめさせて頂きます。重要なのは発達障害者と一口にいっても、「一人一人症状や困りごとが」違い、「得意なこと、苦手なことがそれぞれ全く違う」ということです*1。 しかも、人間のCPUに当たる脳(とその発達)について、発達障害者はそうじゃなに人に比べると凹凸があるせいか、困りごとが起こるらしい、と。

 

一方、発達障害でないことを指す語として使われるものに「定型発達」、発達障害者と対になる概念として「定型発達者」なる語があります*2

 

著者の借金玉さんは、30代の男性。彼は今までの人生において、コミュニケーションに難を抱えるせいで人間関係が破綻したり、生活では不摂生が甚だしいと形容できるものでした。仕事でもプライベートでも、苦しみの極致にいかれたようです。本書およびそのベースとなった彼のブログ『発達障害就労日誌』には、新卒入社したところを退職後、自分の会社を起こし、傾けて潰してしまった話が登場します。その結果、彼は借金をこさえてしまいました*3。本書は、三十路を前にして、酸いも苦いも経験した著者が、生存のために試行錯誤を繰り返して編み出した「発達障害者のためのライフハック」を伝授した本です。

 

今回、『すごい仕事術』を本ブログで紹介するの背景には、以下のような私の考えがあります。先述の「隠れ発達障害」っぽい人たちが研究者中心の限られた範囲の社会≒「象牙の塔」から、就職や転職を機に出て、新しい社会の生活を始めることで、隠れていた「社会性にまつわる問題」が顕在化してしまうことがあると私は憶測しています。そうしたケースには、新しい環境で問題が出ると、職や信頼、人間関係を失って、生きていくのが困難を抱える人がいるでしょう。そうした人たちは、助けを求めること自体のハードルが高く、手を差し伸べた人と関係を築くのが難しい場合が予想されます。

 

また、昨今の日本では、減っていく大学・大学院の研究職において、産学連携や助成財団などの外部から資金を取って来る力が求められているように思います。その一方、民間企業や自治体の役所・役場などには院卒者の採用枠を開くところが、じわじわ増えていることもある様子。詰まるところ、「隠れ発達障害」っぽい人たちの研究者は、「象牙の塔」の外の「社会生活」をうまくやっていく「社会性」がこれまで以上に求められるようになった、ということです。実際、院生時代の私は、外の出版社や団体とやり取りをしていた経験上、社会性を身にるけることは生きていくのに有益であるのを実感し、スキルを身につけようとました*4

 

今回は、かつて研究者中心の狭い社会にいた「隠れ発達障害」っぽい私の目線で『すごい仕事術』をライフハック実用書としてレビューし、必要なら補足をしていく。レビューを通じて、少しでも困っているそれっぽい人たちの問題が解消できれば、幸いです。そういった人でなくても、例えば仕事の効率化に悩む方、自宅での論文執筆が捗らない人にも、応用できるハックが詰まっているのが本書です。目次を見て、見たいところだけ飛んで読んで頂けたらと思います(本記事は、久しぶりに1万字を超える長さのブログ記事でもあるので...)。

 

なお、本書は借金玉さん独特の観察視点や考察が面白く、元人文学系の私は読み物として楽しみました。ここらへんについては、文化論をテーマに別記事を立ててお話したいと考えています。

 

非常に長い前置きになりましたが、さっそく第1章から順番に本書を見ていきましょう! 

 

 

2.ハイフハック実用書として『すごい仕事術』を読む:前編(第1~3章) 

本項と次の第3項では、長くなるため、便宜的に

  • 本項の前編:第1~3章(仕事や生活習慣のスキルにおける工夫)
  • 第3項の後編:4~5章(酒や薬との付き合い方、「うつの底」の抜け方)

の2つに分けて、各章で気になる部分を取り合えて見ていきます。それでは、第1章のスキルの話から!

 

 第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ【仕事】

著者の基本的なスタンスは、発達障害者にとって、能力的に不可能なことは努力でどうしようもないことだと割り切って、道具や方法を工夫してカバーするというものです。その方針が最も出ているのが、序盤の仕事に関するライフハックです。

 

  ・「Hack01 「かばんぶっこみ」こそが最強の戦略である」

 仕事やプライベートのショッピングなど、目的や用途ごとに荷物を組んで、鞄に詰めていると、よく道具をなくしてしまう。そんなことがADHDの傾向を持つ方には、いらっしゃるんじゃないでしょうか。著者は、1つの鞄に必要なものは全部ぶっこみ、仕事でも、プライベートでもこなしてしまえ!の考えのもと、「ひらくPCバッグ」を勧めます。その条件は、口が大きく開き、中には小分け収納ポケットのある、自立する横広の「一覧性」に優れたものであること。紹介されているのは、黒いPCバッグで主に男性向けっぽい(p.41~47)。

 

最近、よく見かけるバッグでは、開き幅が広い金属口のリュックサックが流行しています。こういうものとか、私も使っています↓

 

入れた物が見つかりやすく、使い勝手が良くて、とても助かります。ただ、縦に長いので内容物を一覧するには向いていません。中高の学生鞄や、リクルートバッグのように、横長のもので、黒や紺色のものが流行してほしいもの。たとえば、OLさんが背負ってても、スタイリッシュなデザインのものがあれば、売れると思います。

 

  ・「Hack05 さらば片づけ地獄!「本質ボックス」と「神棚ハック」」

神棚式「聖別」法(p.74あたり)は、何が何でもなくしてはダメなものは、ごちゃごちゃした場所にクリーンな区画を設け、そこを定位置にして置いておく方法です。これは、育った家の本物の神棚を使って、私もやってました。お家によっては、自宅の天井の近いところに設けてあり、お社の両隣に榊がお供えしてある場所です。第1章を読んだだけで、知らないうちに実践しているライフハックはあったんだな、と気づきました。本書を読んで、著者に肯定してもらった気持ちになり、元気になれるかも。 

 

  ・「Hack06 「クリーンスペース」が頭の混乱を消してくれる」

全ての情報を集約し、一覧化できるようにするのは、PC作業でも同じ。そのために、PCはツー・モニターで全部の作業を見られるようにするのがポイント(p.78~79)です。著者は、オフィスソフト・Excelのファイルがシートのまとまった「ブック」になっているのが、一覧性に欠けいるとダメ出しされていました。

 

私自身の研究活動を振り返ると、たとえば論文原稿の執筆では「一覧で見られない資料はコピーしたり、印刷したりして、机の上に置き、PCモニタと合わせて一度に見られるようにする」ことをしていました。PDFの文献でも、一台のノートPCではウィンドウの切り替えだと一覧できずに不便なため、紙にプリントアウトするか、別のタブレットPCに表示して、メインのノートPCの横に置いて作業します。借金玉さんのやり方に似た工夫かもしれません。 

 

  ・「Hack07 「手をつけられない」を5秒で解決する「儀式」」

「机の前に腰かけ、腕をスライドすることで雑然とした机の上の物を落とし、一時的に机上を何もないクリーンな状態にせよ!新しい作業をしやすくなるから」というのがこのライフハックです(p.85~86)。挿画担当のmakomoさんの解説図を見た瞬間、笑ってしまいました。元人文・社会学系の私は、「研究室の机でやったら、隣の人の物まで落としてしまうし、物が壊れるのは嫌です。落ちたものを片付けるときに「混ぜるな危険」の文献や道具の仕分けで手間取るよ!」の言葉が思い浮かぶよ。そうはいっても、作業スタートには有効な方法であるのも、事実。

 

そこで、1つ提案です。こうしたら、スッキリさせる時に机の下に落とした物が壊れなくても、よいのでは?という方法について。

  1. 机の上に何かを敷き、その敷物・シート(テーブルクロスでも可)の上に道具を置く。
  2. 家事や仕事をするときは、敷物の端を持ち上げ、風呂敷のように卓上の道具を包んで、どこかに運んで、テーブルの上をスッキリさせる。
  3. タスク終業後、包んだ敷物ごと、机の上に戻して並べ直す。

敷物の代わりに、お盆やトレーも使えますね。このアイディアは、大学の授業で行った実習先の中国・広州の食堂で見かけたことから、思いつきました。広州のその食堂では、食べ終わって客が席を立つと、店員が食器を食卓にのせたっま、テーブルクロスの端を包むように持ち上げて包み、調理場へ持ち去って片付ける。一緒にいた韓国から来た学生の気づきでは、湯飲みや碗、お皿にひびが入っていた。私が見ると、食器は厚みがあって、ちょっと落とす・ぶつける程度では壊れないで使い続けられるタフなものだった様子。

 

つまり、このライフハック実行には、 「ちょっと落とす・ぶつける程度では壊れないで使い続けられるタフ」な道具を机上に置けばよい、ということでしょうか。

 

  ・「Hack08 記憶力がヤバい僕の「人の顔と名前」の覚え方」

会社に入ったばかりの時に社員の方、あるいは取引先の方のことを覚えるのに、頂いた名刺に特徴的なニックネームを考えて書き、覚えるやり方は有効な方法です(p.92~93)。この仕事術については、成人ばかりの職場では実践してみたいところ。もし、うっかりニックネームで相手を呼んでしまっても、借金玉の意図としては、さん名前を覚えられなくて呼べないよりはマシかもしれません。

 

例えば、実行したい人が小中高、高専で授業を受け持つ学校教員(教諭)だったら、どうでしょうか。同僚の先生方のことを覚えるのはいいとして、児童・生徒・学生について、1クラス30~40人台の人の顔と名前を覚えるのにも有効であっても、私は別の問題が出てくるのが不安で実行できない思います。バグの多い脳みそを持つ私は、覚える目的で付けたニックネームを、授業中に教え子本人に大勢の前で言ってしまわない自信はありません。不注意で渾名を言ってしまうと、呼ばれた方を傷つけたり、嫌がらせやいじめのきかっけを作ってしまう危険があります。

 

ただでさえ、私の脳みそはバグだらけであり、頭に思い浮かべた言葉をそのまま、音声で人に伝えることが難しい。そういった問題に気づいて、ニックネームや渾名を使った方法は、使わないようにしています。逆に、同様の脳みそバグのせいかは不明ですが、自分が名前を間違えられても、よほどのことでなければ、イライラしないように心がけています。そういうわけで、この方法は職場やそ相手を考えて使うべきではないでしょうか。 

 

 第2章 全ての会社は「部族」である【人間関係】

ここに書いてあることは、民間企業やお役所、大学院など関係なく、身につけておいたほうが仕事をスムーズに運べることは、私も認めます。ただし、昨今の職場によってはカラーが違ったり、社員や職員のプライベートや意思をを尊重したりするところも出てきているようです。必要なところは、取り入れてやってみてください。コミュニケーションの技術では、特に、

  ・「Hack15 部族の通過儀礼「雑談」は、ひたすら同意をリピートせよ」&「Hack16 共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげること」

の部分は、具体的に世間話や相槌の打ち方の事例が出ていて、参考になります(p.132~p.146あたり)。 

 

工夫が必要になってくるのは、真剣な相談が話し手にある場合でしょう。私の周りの人たちは、「軽い世間話や愚痴を聞いてほしいだけなのか、真面目に解決策が欲しくて話したいのか。仲見の場合、どっちのカテゴリーの話題か分からないことがある。だから話す前に、仲見にとってはどちらのカテゴリーの話なのか、言えるなら言ってほしい。カテゴリーを明確にしてもらえると、聞き手も対応しやすいから」と言います。プライベートや、信頼関係ができている職場であれば、はっきりとこのあたりを伝え合ったほうがいい時もありそうです。 

 

  ・「Hack17 今すぐ「茶番センサー」を止めろ」

「茶番センサー」の存在は、仕事モードで「オフ」にはできても、職場の飲み会から帰宅した後、ためたストレスでどっと疲れが出て、寝込んでしまう人もいるでしょう。私自身、飲み会で話したり、余興に参加すしたりするは好きですが、お酌や大料理の取り分け気づかいが苦手で、帰宅後と翌日に動けなくなるくらい、疲れることがありました。大変であれば、別の本で、相手に深いな思いをさせない「やんわりとした断り方」を調べ、やってみるのも方法かと思います。

 

なお、より詳しい全体の話は、別記事の「文化論」をテーマにして、第2章を取り上げる予定です。 

 

 第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ【生活習慣】

1~2章が職場に関することであったのに対し、この章は職場と自宅の領域にさしかかる生活習慣がテーマに移っていきます。生活習慣でも、基本的かつ人間が生きる上で外せない生活リズム、それから睡眠の問題が第3章の頭で取り上げられていました。後半は、出勤前の身支度についての話です。 

 

  ・「発達障害式「生活習慣」の原則 「普通に捕獲されてはいけない」

発達障害者の中にいるであろう、生活リズムが一般に言われる規則正しい7~8時間の睡眠に合わない人について、それに当てはまる著者はこう言っています。 

これは多くの発達障害を持つ人から聞いて得た思いなのですが、例えば一日何時間寝る、6時に起きて23時に寝るといった規則正しい生活というのは、「規則正しいリズムを持った人」のリズムであり、僕のような不定形の生活リズムを持った人も存在するし、また発達障害者の中にはかなりの比率でそのような人が存在するのではないかと思います。

 

 少し俗説に乗っかった話をしますが、ADHDは狩猟採取民の生活様式を受け継いでいる、みたいな話があります。この説の信憑性は疑わしいですが、それでも獲物を求めて追跡して何日も動き続けるハンターの睡眠は、必然的に不定型なものだったと思うのです。人類の中にはそういう生活を思考してきた者も、一定数いるのではないでしょうか。

(本書のp.157~158)

少し調べたら、この「俗説」は、実際に研究されていることが分かりました。次のカラパイアの記事によれば、借金玉さんのいう「規則正しい生活リズムを持つ人」は、定住して「時間をかけて作物を育てる」タイプの人のようです。それに対し、発達障害者には狩猟採集に向いていることが示唆されており、詳細はカラパイアの記事に説明を譲ります: 

karapaia.com「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」: カラパイア、2015.1.25付)

 

金玉さんの本書のライフハックは、能力的に不可能なことは道具や方法でカバーする方針です。そのため、生活習慣についても、 

自分を知り、「普通」でなくとも、自分にとって最も生産性を出せる生活リズムを作る。「普通」の強迫観念にとらわれないこと(本書のp.157)

を「宣言」されていました。

 

このことは、不眠に悩んでいた漫画家の葛西りいち*5さんも、主治医に言われたそう。不定型の生活リズムの人(や不眠の人)は、この第3章の頭にある「Hack18 「眠れない」あなたがやるべき たったひとつのこと」を読んでみてください。 

 

  ・「Hack20 身だしなみは「リカバリー」を重視せよ」

出勤や登校前に、ワイシャツやジャケット、筆記用具や名刺入れ、ハンカチなどが見当たらず、出発準備に手間取ってしまう人へのライフハックです。簡単にまとめると、「それぞれの衣類や道具を20セットほど用意して、自宅の玄関(の壁)、職場の机の引き出し、バッグの中などに分散して複数ずつ入れておく」ことで、手間と不安を解消できるという内容。ちなみに、この技術は院生や研究者にも有効で、私は実践、周囲の先輩方も近いことをされていました。その実践方法、および化粧や職場でのファッション等の社会的に女性が求められるライフハックについては、次の拙記事で書いております。補足的にリンクを貼りました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

「泊まる時の化粧品やスーツを含む衣類等の話~院生部屋に置いていくと便利な物~('18.11.7、16時台の更新) 」、仲見満月の研究室

 

 

3.ライフハック実用書として『すごい仕事術』を読む:後編(第4~5章) 

第2項の前編は、主に仕事や生活の道具や方法の工夫についてのライフハック紹介でした。後編の第4~5章は、 酒や薬との付き合い方、「うつの底」の抜け方について。ブログだと、「健康・メンタルヘルス」のカテゴリータグの付いた記事と関係がありそうな内容です。

 

 第4章 厄介な友、「薬・酒」とどう付き合うか【依存】

発達障害の人には日常生活を送るため、第3章で出てきた不眠の薬を服用して生活リズムを調整したり、コンサータストラテラといった薬を飲み、注意欠如や過集中といったものをコントロールしたりしている人がいます。用法・容量を守れば、薬は困った特性を抱える人にとって、困りごとを軽くしてくれる心強い味方になるでしょう。しかし、使い方を誤ってしまい、依存状態になってしまう人が出てくるのは、薬が「厄介な友」と形容されるが故です。 

 

また、第4章の後半の飲酒とその文化の話は、私には秀逸でした。酒は酩酊物質と海外ではみなされ、酒がドラッグ等と同列に捉えられている実情と、それを囲む「文化」に関する考察が主軸になっています。その文化性が失われ、飲酒行為がアルコール中毒を引き起こした時、当事者が「壊れて失われるもの」に至る説明は、「文化論」として分析が細かく、読み物として楽しめました。特に、著者と学生時代からの文学仲間の体験談に、飲酒の文化を見出してまとめる第4章の閉め方には、注目です!このあたりは別記事の文化論編で詳しく触れたいところ。ライフハックとしてみると、著者の指摘は、お酒が好きな人にとって、「呑まれない」上手な酒との付き合い方を教えてくれるでしょう。

 

ここでは、主に薬に関するライフハックの感想とコメントをしていきます。

 

  ・「Hack22 薬の飲み忘れと紛失をゼロにするすごい「仕組み」」

透明の整理ケースに薬をフィルムやシートごと入れて、仕分けする方法の紹介です。この時、取扱説明書もセットで入れる。100円均一だと、「ピルケース」の名前で売っているものではなく、手芸用の材料を分けて入れられる整理用の透明プラスチックケースが、私はおすすめ。1種類の薬につき1つのケースを使い、取説もセットで入れておくと、利便性が高そうです。出がけ先、職場で「薬を持ってくるの、忘れた!」という場合の備えには、複数のケースに薬を小分けして、常備する方法が紹介されていました。職場の引き出しにも、仕事鞄の中にも、小分けした薬を入れる。

 

薬の飲み忘れを防ぐやり方として、借金玉さんスマホのアラームを次のように活用してます。

  1. 巨大な音のする目覚まし時計とスマホのアラームをセットし、音がしたら薬を飲む
  2. スマホのほうは、時間になれば画面上に「服薬」と文字が出て教えてくれるように設定

1回セットしたらスマホが存在する限り、毎日鳴るように設定できるので、著者イチオシの方法なんだとか。私の周りで、服薬する時に同じ方法を実践中んの人もいます。

 

ちなみに、このアラーム式の服薬方法は、時計つきでメーカーの皆さんに商品化してほしいそうですよ。借金玉さんのご意見をもとに、私が作画してみました。よろしければ、商品化をご検討ください(デザイン料のご相談、私のほうでお待ちしてます)↓

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(画像:「アラーム機能付きの自動給薬機を使う借金玉さんのパペットのイメージ」)

 

そうそう、注意は処方された薬を受け取った日にも必要だとのことです。帰り道で薬を不注意でなくさないため、病院に行き、処方された時は寄り道をせず、自宅に直帰するのも、大切!出される薬には、扱いを誤ったり、乱用されたりすると、命にかかわるケースがあって、二度と処方してもらえないものがあります。服用コンプライアンスは厳守!ということも、しっかりと書かれていました。 

 

  ・「Hack23&24」コンサータストラテラを飲んでみた感想 

巻末の解説担当者の精神科医の熊代亨さんによると、「治療薬についての知識や経験談(中略)”は”医学的にまずいことは書いてありません。」ということ。借金玉さんは、処方薬は上手に付き合うために、仕事のパフォーマンスが上がるといったメリット、きつい副作用等のデメリットについても、率直に書かれていました。読者には今後、生きていく上で服用する可能性がある人であれば、読んでおいて損はないでしょう。

 

 第5章 僕が「うつの底」から抜け出した方法【生存】

いよいよ最後の第5章。発達障害者には、社会生活を営む上で得た問題によって、精神疾患を抱える人も少なくないといいます。著者は、双極性障害やうつの状態になったことがあるそう。いわゆる「二次障害」がそれに当たります。

 

この章では、極限まで精神の状態がまいる前、いくつかの段階に分け、休む方法を説明しています。休むことが苦手で、生きることと働くことが密接な関係にあるような人は、非常に実践的で役立つ内容が詰まっているでしょう。 

 

  ・「Hack27 ビジネスホテルで「外ごもり」しよう」

第1章の作業机のライフハックと同様、休むことにもスッキリした空間の重要性が説かれています。自宅に何もない部屋を作れない人なら、1泊の料金を出して心を休めるなら、安いもんだという話です。

 

たまに、私は何かの行事やきっかけにつけて、外泊したい!とかられる時があります。読めば読むほど、モーレツに実行したくなる方法でした。このハックを読むと、ゴミゴミした日常を離れて、オフに意識を持っていくため、現地の人との交流のない、海に砂浜のスッキリしたリゾートがあるんだと妙に納得しました。

 

具体的に著者が推す外ごもり場所は、国外ならタイのリゾート。ネット環境が整っているからだそうです。なお、借金玉さん曰く、旅行会社には疲れた人向けに観光やイベントのないパックで、「エアチケットやホテルの予約はお任せ!パスポート、現金、スマホに着の身着のままで、空港まで来たらオッケイ!」のサービスが欲しいとのこと。同世代の働きマンたちや、忙しいけれど頭や身体が動かない時の自分を振り返ると、たしかに需要はありそうな旅行パックではあります。 

 

  ・「Hack29 うつの底で、命を救う「魔法瓶」」

うつ状態にあると、手足が鉛のように重たいと感じられ、布団からも出られないことがあるといいます。私もそういう時があり、朝に冷蔵庫を開けてパンと牛乳を取り出し、盛り付けて食べるところまで、いかないことが実際にありました。つい17日の話です。そんな時、このライフハックを次のように実践するとよい方法がありました。

   ・甘くて温かい紅茶を魔法瓶に作って入れておく 

   ・とても苦しい時、紅茶を一口ほど飲む 

   ・できたら、準備したカロリーメイトを一緒に食べる(紅茶で湿らせると齧りやすい) 

 

2018年の最終月に入り、実際に私は寝床から起き上がれなかった時があって、前の晩、枕元に紅茶とカロリーメイトを置き、翌朝、飲み食いして心身を動けるようにしました。うまくいかないこともありでしょうけれど、とりあえず、動けるように心身のスイッチを入れられると、何とか動いて踏ん張れる時もあるでしょう。

 

 

だいたいの『すごい仕事術』のレビューは、以上です。全体を通じての所感は、第4項にて。

 

 

4.まとめ~人生というゲームのボーナスステージを生きること~('18.12.21、21時台に文化論編のリンク追加)

本書の第1・3・4章の仕事や生活上のテクニックは、忙しく、スピーディーな日常を送っている研究者にも、おおむね有用なものが多かったように感じました。院生時代、研究室の自分用の机が書類や書きかけの論文原稿の束、コピーした文献で埋まりがちだった私には、もっと早く知りたかった工夫だらけです。また、研究現場で心身が不調で弱ったり、研究がスランプに陥っている人には、第4・5章に載っていることが参考になるかもしれません。

 

全体の所感はこんな感じ。本書は著者にとってやりやすい「仕事術」ではあるものの、解説担当の精神科医・熊代亨さんが仰るとおり、必ずしも、ほかの発達障害者にすぐ実践できるものでない場合はあるでしょう。その意見には私も同意いたします。作業机をサッパリさせる方法は、そのまま取り入れるなら、タフで壊れにくい文房具や食器を選ぶ必要を感じたのも、正直なところです。それゆえ、本記事では仲見に合った工夫を具体的に補足で書いてみました。

 

 

そうそう、第1章のノートでのアイディア出し、ブレーンストーミングのところでは、著者が『すごい仕事術』の中心に据えるテーマが出てくるんですが、それが生存です。次のキーワードが「やっていきましょう」。この2つ、発達障害者のなかには生きづらさにもがき苦しみ、「生きていたくない」、「生きていられない」という人が実際にいるから、だからこそ、私には切実な言葉に思われました。

 

発達障害っぽい自覚のある方のツイートや、借金玉さんの本書を読むと、特性から来る不摂生や不健康、あるいは不注意で、自分は30歳まで生きられてなさそう…。そういう言葉が共通しているように感じます。私も、様々な自分の言動が原因で人間関係が新たに破綻したり、自暴自棄による不健康を含めた傷病を抱えたりして、生きられないと思っていました。 深刻な困りごとが断続的に起こると、「あと何十年も、自分は生きて居たくない」という思いに至ることも少なくありませんでした。

 

20代半ばまで生きると、「もう十分、自分の人生に満足したから、あと何十年も生きなくていいや!」という考えになりました。三十路を過ぎてからは「成人するまでの人生というゲームのクリア後のボーナスステージ、長すぎる!何を短期的なゴールに、生きようか。素材集めしたらいいの?それとも更なるレベル上げ?」という感じ。実際に私がしたのは、文献を集めて吟味して博士論文の執筆・提出と、運よく博士号を頂いたことによる「学歴コンプ」でしょうか。ポケモンの原作ゲームでいうと、ポケモンリーグを勝ち抜いて殿堂入り(修士)になり、ポケモン図鑑を完成させてタマムシシティで証書をもらった人(博士)になったイメージです。

  

ドクターになった後も、人生は長いです。ポケモン図鑑を完成させたらしきレッドも、シンオウ地方リーグチャンピオンで考古学者のシロナさんも、ポケモンの原作シリーズにはずっとNPC(ノン・プレイアブル・キャラクター)で出演が続いています。自分の人生の主人公ばかりやって辛いなら、これからは、他者の人生のNPCをやってみてもいいかな?と考えを少し変えててはどうだろうか、と。

 

誰かのためであっても、借金玉さんの希望である生存をして、一緒に「やっていきましょう!」と考えたら、面白いこともでてくるかもしれません。

 

ここまで長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。次回は著者の発見した「儀式」的な意味を持たせることなど、文化論の本として『すごい仕事術』を見ていく予定です。

  

今回は、おしまい。

 

==('18.12.23、16時台に文化論編、note出張編のリンク追加↓)===============

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*1:著者である借金玉(”僕”)さんによる説明をご参照ください↓

とりあえず、この本ではADHDASDという障害を念頭に書かれています(中略)。
 一応、ADHDは注意欠如・多動症。ざっくりした説明をしますと、「不注意」「多動性」「衝動性」という問題があるとされております。
 例えば、僕は「行列に並ぶ」とか落ち着いて考える」ということが大変苦手です。ケアレスミスは、「どうしてそんなところを間違えられるの?」と驚かれるくらい得意です。映画を1本じっと見続けるのは不可能に近く、未だに克服できていません。(中略)なくし物は名人戦に出られるくらいの腕前と自負しております。
 また衝動性も強く、「言うべきではないことを衝動的に言ってしまう」「やるべきではないことを脈絡なくやってしまう」は、かなり強いです。スケジューリングや整理整頓などは破滅的で、人生は常に追い立てられるような有様でした。
 そういうわけで、文句なしのADHDと診断され、薬を処方されています。「注意欠如・多動症」の名前どおりの問題は確かに僕には全てあります。
 今度はASDという概念についてです。こちらも専門的に説明するとこの本1冊で足りないくらいの量になりますが、「自閉症スペクトラム症」と訳されています。自閉症アスペルガー症候群、広汎性発達障害などを包括する概念なので、かなり広いカテゴリーです。
 概して、社会的な、つまりは人との関わりが難しい障害とされています。いわゆる「空気が読めない」に象徴される問題ですね。コミュニケーションに難があります。
 また、感覚敏感や逆に鈍麻、あるいは独特のこだわりを持つ行動をする人が多いとされています。好き嫌いが極端、自分のルールやルーティンにこだわり変更がdきない。他者の気持ちを察すること、すなわち共感性が低いなどの特徴もあるとされています。
 僕の診断はADHDですが、周囲の発達障害諸氏に言わせると「おまえはADHDも強いがASDはもっと強い」と言われます。(中略)
 お医者さんに言わせると「大体みんな混ざっている」とのことです。(中略)発達障害者の大半は、ADHD的症状とASD的症状が混在しています。(中略)
 
 ASDは言葉が苦手、表現が苦手と言いますが、僕は言語表現が得意ですし、実際文章の特異なASD、喋りの得意なASDというのも結構います。(中略)
 発達障害の厄介な点は、「一人一人症状や困りごとが違う」ということです。得意なこと、苦手なことがそれぞれ全く違うのです。「発達」の「障害」、すなわち「発達の凹凸が大きい人」なのだと思います。

(本書p.6~8)

*2:本書に関連して「定型発達」のことを調べたところ、九州看護福祉大学の水間宗幸さんが2006年に発表した論考では、

注1)「定型発達」という用語は、近年の発達臨床心理、特別支援教育領域などにおいて使用されているものである。「発達障害」と対概念として、「非発達障害=健常児・者」の意味で用いられる。
([研究ノート]「 成人期に発達障害を告知されたケースのライフステージからの検討  語りと手記から社会性の獲得を考える」、『九州看護福祉大学紀要』第 8号1巻,p. 83-92, 2006.3、九州看護福祉大学学術機関リポジトリよりPDFファイル閲覧可)

と説明されていました。

*3:その状態のご自身を「借金王」に喩えようとしたが、王だと大げさなので「借金玉」にした話が出てきます:大人の発達障害者・借金玉が伝授する、社会を生き抜く"意識低い系"ライフハック!「適当、素晴らしいじゃないですか」 - 社会 - ニュース|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]。なお、ご本人によると本書の出た2018年5月、彼はどこかの不動産会社で営業マンになっていたとのこと。

*4:たとえば、こういった文書の書き方について「高校生から社会人、ポスドク、会社員、フリーランスの人も必見!手紙、メールから諸々のビジネス契約書を書く・読むの本まとめ 」(仲見満月の研究室

*5:実録やエッセイ漫画を中心に発表されている漫画家です。著書に『ねむりの処方箋 不眠症&パニック症候群でもう6年』 (バンブーエッセイセレクション)あります。

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