「バナナを食べるときの所要時間」は何という?~『 #翻訳できない世界のことば 』を読む~
1.まえおき
皆さんは、一言で「バナナを食べるときの所要時間」という意味の言葉、ご存じですか?私は知りませんでした。この単語は、東南アジアのマレー語にあるそうです。
長く、更新をお休みしておりました。その間、時間をかけて読了した本のことを取り上げます。
その中で、今回は、一言に置き換えて他の言語で表現できない「世界のことば」を集めた次の作品について、レビューいたします↓
2.『翻訳できない世界のことば』を読む
2―1.置き換えられなさそうな言葉
さっそく、内容紹介をしていきましょう!
冒頭の「バナナを食べるときの所要時間」は、“pisang zapra”(ピサンザプラ)。マレー語(MLAY)名詞であり、私が新刊書を紹介するポータルサイトか何かで、本書の広告記事を読んだ際、笑ってしまった原因の言葉です。
笑ってしまったのには、理由があります。
日本で売られているバナナの産地は、東南アジアだと有名なのはフィリピン!マレーシアといえば、個人的には、独特の臭いで知られる実に棘つきの果物ドリアンのイメージが強く、バナナに関する独特の言葉があると言われたことが意外でした。そういえば、熱帯地域で採れる果物は、だいたい、マレーシアにあると現地の友人が言っていたのを思い出し、バナナに関する言葉があっても不思議ではないと考え直しました。
さて、本書のピサンザプラに関する説明を見てみましょう。
これは人によって、またバナナによってもちがいます。
ただ、一般にだいたい2分くらいとされています。
マレーの民話では、人食い鬼は、
昼間はバナナの木に隠れているそうです。
(本書p.22~23)
説明を読みながら、日本だと昔話や民話レベルで馴染みの深い果物を考えると、まず『桃太郎』の桃がひとつ。枠を食べ物に拡大すると、『おむすびころり』に出てくるものでは、おむすび・おにぎり・握り飯あたりでしょうか?“pisang zapra”には、そうしたマレー語を話す人たちにとってバナナが親しまれきた背景が見えてくるようです。
この本は、ピサンザブラをはじめ、一言では到底、ほかの言語に訳せない言葉がたくさん登場します。たとえば、ノルウェー語の“pålegg”(ポーレッグ)。説明はこんな感じ。
この言葉は、炭水化物の万能選手、つまり「パン」にのせたりはさんだりして食べるものをなんでもさします。
そう考えると、ノルウェー語は、(サンドイッチに関しては)かなり曖昧で、同時に寛大だと思います。
チーズ、肉、ピーナツ・バター、レタス、なんでもpåleggなのですから。
(本書p.6~7)
しいて日本語に直訳するなら、具やトッピングといったところでしょうか?そして、パンにはさむ物に寛大だというなら、「ノルウェーの人たちは日本の「焼きそばパン」の焼きそばもポーレッグと言うのかな?」などと、想像しながら、楽しく読みました。
2―2.日本語にありそうな言葉も
ページをめくっていると、読者の言語圏に近い漢学で使われてそうな言葉も、発見できそうです。韓国語の“눈치”(ヌンチ)とは、「他人の気持ちをひそかにくみとる、こまやかなのころづかい。」だそうで、日本語にするなら「空気を読む」の「空気」がそれに当たりそう。
ほかにも日本から遠く離れたヨーロッパ地域の言語では、
・ウェールズ語の“glas wen”(グラスウェン):「直訳すると、「青いほほえみ」。皮肉で嘲笑うようなほほえみのこと」
…日本語の「冷笑」が近い感じ?
・ドイツ語の“Warmduscher”(ヴァルムドシャー):「冷たい、または熱いシャワーをさけて、ぬるいシャワーをあびる人。「」少々弱虫で、自分の領域から決して出ようとしない人」を言う。」
…日本語の「ぬるま湯につかる」人が近い感じ?
がありました。
実際、それぞれの言葉に関して、使っている方々に聞いてみないと感覚は、尋ね方を色々と工夫して質問しないと、私には把握しづらいかもしれません。とはいえ、本書を読んだ範囲で、ウェールズ語とドイツ語には、上記のような印象を抱きました。
探してみると、ひょっとしたら、こういった言葉は発見されるかもしれません。
3.まとめ
本書の内容紹介、および感想は以上です。そのほか、私が惹かれたこの本の特徴は、原作者のサンダースさんが本領を発揮し、イラストを使って様々な言語のオンリーワンな言葉を説明していること。
マレー語のピサンザプラでは、右ページの言葉のイメージを伝えるところで、時計を囲むように複数のバナナが置かれるイラスト。バナナは、皮が剥かれているもの、半分くらいまで剥かれているもの、剥かれていないものがあります。人やバナナによって、ピサンザプラが違うことが具体的に分かるイラストレーションでした。
ちなみに、巻末にある著者紹介によると、サンダースさんは、フリーのイラストレーター。これまで、イギリスやスイス、モロッコなど、世界各地に住んだことがあるとのこと。ページを進めると、稀少言語の言葉もあって、著者の収集能力に驚かされます。
サンダースさんは、世界の言葉に関する著書を他にも出されいます。日本語に翻訳されているものは、こちら↓
タイトルからして、またまた、マニアックなことわざが入ってそうな雰囲気。
今回、紹介した本。実は、知ってる院生さんが就職で日本を離れることになり、その時にプレゼントしたものです。ガチガチの言語学の学術書ではない内容で、絵本に近い判型と装丁ということで、選びました。日本語からは、「積ん読」や「ボケッと」の言葉が本書に収録されていて、持っていると現代日本の言語(の感覚)を伝えるのによいのでは?と考えた次第です。
そんな感じで、『翻訳できない世界のことば』のレビュー、おしまい!
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