仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

レポ「 #明石市立天文科学館 で藤村シシン講演会とヘラクレス冒険劇を楽しむ」~ アルゴー船をめぐる星座論争 in #古代ギリシャプラネタリウム ~【 #FGO 関係】

<主に藤村シシン講演会「ヘルクレスをめぐる古代ギリシャの星座論争」の前編>

1.まえがき~明石市立天文科学館の星座イベントに行ってきたレポ~

2019年6月にスマホ向けゲーム『Fate/Grand Order』(以下、FGO)に医神アスクレピオスが実装されて以来、私はマイペースに古代ギリシャとその神話の本やイベントの情報をチェックするようになりました。昨年10月末には、FGOで好きな医神の父神アポロンと神託のことを学びに、古代ギリシャギリシャ神話研究家の藤村シシン先生のNHK講座に行ったことがあります。その時のことは、

の2記事にまとめました。ぜひ、ご覧ください。

 

機会があれば、また藤村シシン先生の喋る講座やイベントに行きたいと考えていたものの、自分の体力的な問題に加え、2019~2020年の12~1月は忙しくてスケジュールが合いません。絶叫しかけていたところ、2020年の年始に

明石市立天文科学館のナイトミュージアムというイベントやります!藤村シシン先生をお呼びして星座のお話をしていただき、ヘラクレスの冒険が演劇として上演されます」

という情報をキャッチしました↓

www.am12.jp

ナイトミュージアム「古代ギリシャ・プラネタリウム」|ナイトミュージアム|各種催し物のご案内|明石市立天文科学館

  • 開催日時:2020.2.8㈯、18:30開始
  • 会場:明石市立天文科学館

 

申込みをした後、振り返りますに、2019年はFate作品群の原点となる「stay night」が15周年を迎えたで年、その作品に登場するヘラクレスは今でも根強い人気を持っています。同じ年の12月、FGOでは2部5章でギリシャ神話を題材にした世界が舞台のストーリーが配信されました。Fateシリーズは好きだけど、星座やギリシャ神話の話で自分は知らないことが多く、今回のイベントで様々なことを吸収したいと思いました。

 

当日、電車の乗る方向を間違え、パニックがちに明石市立天文科学館にたどり着いた会場ホールでは、藤村シシン先生のお話が始まる直前。講演会の題目は、「ヘルクレスをめぐる古代ギリシャの星座論争」です。この講演は、

  • アルゴー船をめぐる星座論争
  • ヘラクレスをめぐる星座論争

の主に2つのパートに分かれていました。本記事では、前編として主に旧アルゴ座の話をテーマに、プラネタリウムの暗闇で取ったメモ情報をもとに、私が補足も加えながら

講演会の内容を振り返ってみようと思います。

 

最初におことわりとして、本記事はFGOなどのFate作品群に馴染みのある方に向けたものということもあり、基本的に登場する人物名はFateシリーズでの呼称に沿わせて頂きます。例えば、ヘラクレスの名前は、イベントチラシではヘルクレスと表記されていますが、Fateシリーズではヘラクレスと呼称されるため、本記事および続編の記事では「ヘラクレス」と呼ぶことに致しました。Fate作品群に登場しない人物については、原則として高校世界史Bの教科書に出てくる呼称を使うことに致します。ただし、講演や劇のタイトルにおける表記は、そのままとさせて頂きます。

 

前置きはここまでにして、そろそろ、本編に参りましょう。

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(画像:明石市立天文科学館、仲見満月の撮影)

 

 

2.アルゴー船をめぐる星座論争~藤村シシン講演会の前編~

 2-1.全体の導入部

話の冒頭で、「水瓶座や蟹座といった星座には、ギリシ神話でパッとしない感じの星座が多い」ところから始まりました。蟹座にまつわ物語は、ヘラクレスの冒頭劇で少し出てくるのですか、講演会の時点でそのあたりを知らなかった私は、「え?全部の星座について、何かしら立派なエピソードがあるわけじゃないの?」と少し驚きます。東アジアであう織姫と彦星のような物語は、星座についても当然あるものだと信じていたから。

 

シシン先生のお話は、続きます。古代ギリシャでは科学の思考が発達しており、そりと神話・歴史が結びき、および科学・神話・歴史の 間の話を今回は語ってゆくことにしよう、と。

 

 2―2.「アルゴ座の船は半分しかないのか?」問題

古代ギリシャでは、太陽神ヘリオスが戦車(チャリオット?)を駆って、西へ向かうと一日が終わるそうです(週休なし)。我々のいた会場ホールは暗くなっていき、私の取った記録では、ドーム型の天井には、旧アルゴー船の星座が映し出されました。この旧アルゴ座は現在、

の4つになっています。船を丸ごと表した規模では、さすがに大きすぎたと判断され、4つの星座に分けられたんだとか。

 

この船にまつわるお話には、「アルゴー船の冒険」があります。黄金の羊の毛皮を求めて、船長イアソン、ヘラクレスをはじめ50人を超える英雄たちがおりなす旅の大冒険物語で、藤村先生曰く「古代ギリシャONE PIECE」です。

 

旧アルゴ座は、全体的には下の画像のような感じです↓

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(画像の出典:「アルゴ‐ざ【アルゴ座】」デジタル大辞泉アルゴ座(アルゴざ)とは - コトバンク

 

星座のアルゴー船が表される場合、だいたいの絵は、船のお尻の部分しかないタイプで、船の半分しかないことが多い様子。ほ座やりゅうこつ座に当たる船の頭の部分は、木や雲で隠されるという謎が存在します。この謎に対する答えは、主に3つの説が唱えられてきました。

  • ①アルゴー船は建造中であり、完成していない状態を表したもの
  • ②冒険譚「アルゴナウティカ」の中で、おし合い岩(スーパーマリオドッスンみたいな存在)の間を船が通り抜けようとした際、船体が欠けたことを表現したもの
  • ③船が沈没した姿で、船乗りたちへの警告を表したもの

 

船体が半分しかない謎について考えるには、星座の歴史を知ることが重要であると、藤村先生は話します。リクライニングシートを倒し、観客が夜空を移した天井を見ると、現在まで伝わる星座の簡単な歴史が記されていました。

 

そう、ギリシャで神話ができる以前から、星座が存在していたのです!メソポタミアのほうで作られた星座は、上向きの矢印に当たる時期にフェニキア人が海を渡り、ギリシャに星座が伝えられたんだとか。古代ギリシャでは星座と神話がたくさん作られ、それから更に年月が経ち、プトレマイオス(別名トレミー*1 が星座を現在の48種に整理しました。

 

シシン先生は以上の星座の歴史を頭の隅に置くように告げ、今度は、おうし座(牡牛座)とおひつじ(牡羊座)の話を始めました。

 

 2―3.牡牛座と牡羊座の話~ずれる春分の問題~

古代ギリシャでは1年の始まりは春であり、時が経てば天文学では春分がずれていくことが知られておりました。そのずれは、2000年で30度ずつで、春分もずれるわけで、これは古代ギリシャの人々に困った事態を引き起こします。

 

古い時代、牡牛座♉️に春分が重なっておりました。牡牛座はギリシャ神話の偉大な神ゼウス自身が変身した姿*2。春の始まり、すなわち一年はゼウスの神話を持つ牡牛座からスタートしていたんです。

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(画像:牡牛座、12星座/牡牛座・双子座・蟹座イラスト - No: 1559554/無料イラストなら「イラストAC」

 

紀元前150年頃、春分がずれてしまいます。ずれだ先は、牡羊座♈️でした。この羊は黄金の毛を持ち、不死の存在。地上で人を助けて星座に引き上げられましたが、キラキラ度はイマイチで地味です。「黄金の毛を持つのに、何故この羊はキラキラしないのか?」ということについて、古代ギリシャの人々は理由づけをしました。

 

ギリシャ神話によると、黄金の毛皮を持つ羊は、生け贄に捧げられる双子の兄妹(ボイティア王アタマスの子たち)を助けるため、ゼウスが遣わしたものとされています。羊は兄妹を乗せて逃げますが、その途上で妹は海に落ちて死亡。兄は逃亡先のコルキスで(神に遣わされた)羊を贄として神に捧げ、黄金の毛皮はコルキス王に贈りました*3。ちなみに、この毛皮を求める冒険譚がアルゴー船の物語です。

 

つまり、この羊は、天上に上がる前に地上で毛皮を人間にあげてしまい、丸裸で天にやって来たから、キラキラしていないのだ、と。羊の徳はともかく、地味(で丸裸)な牡羊座春分が重なってしまい、1年のスタートを切る星座になりました。古代ギリシャの人々は、何とか牡羊座をせようとして、ゼウスとこじつけるような手段に出ます。

 

古代ギリシャ人が、地味な牡牛座をトップにした経緯は、次のようなものでした。

  • 牡羊座の近くに三角座があった
  • 牡羊座を目立たせるために、三角座を文字のΔ(デルタ)として扱い、ゼウスを表すものとした
  • ③イニシャルD(ディー)だから、ゼウスの羊として、牡羊座は星座のトップにふさわしい!という理屈を作った

 

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(画像:さんかく座(三角座)と牡羊座、仲見満月が描いたもの)

 

少し説明をすると、

  • Δ(デルタ)=D(ディー)
  • B.C.800~500頃のゼウスの表記は″DZEUS″(″デウス″と発音)だった

という文字や言語の歴史的な事情があって、牡羊座は輝くようなストーリーを付けられました。

(その後、三角座は特に注目されることはなくなったそうですが…)

 

以上の牡牛座♉️と牡羊座♈️の話をまとめると、

  • 星座も歴史の中で変化してゆく
  • 星そのものは変化せず、神話と人々の考えは変わっていく

の2つが小結の言葉として出てきます。

 

なお、現在、春分魚座あたりにあるとか。この星座は有名ではないそうで…。

 

 2―4.再び「アルゴ座の船は半分しかないのか?」問題

さて、牡羊座の話が終わると、もう一度、アルゴ座の問題に話が戻ります。シシン先生は、観客に問いかけました。「なぜ、船のお尻部分しかないのか?」という問いを考え直し、「そもそも、なぜ、我々は星座のアルゴー船の姿が半分しかないと思わされているのか?」というクエスチョンを立てるべきではないか、と。そして、古代ギリシャ人はどう考えていたのか?アルゴー船は未完全なのか?

 

ここで少し、星座の歴史を振り返れば、古代ギリシャ人は、メソポタミアバビロニアから星座を輸入しました。両者(の文化)を繋いだのは、フェニキア人らしく、彼らが乗っていた船は、次のようなイメージのものだったそうです。

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(イラスト:フェニキア人の船のイメージ。プラネタリウで見た朧気な記憶をもとに、仲見満月が描いたもの)

 

上の絵に示したように、フェニキア人の乗っていた船の頭は、垂直かそれに近い形をしていたそうです。つまり、星座の作られたメソポタミアの時代の船は、このような形で完成したものであった、と。時代が下ると、船の形は変化し、古代ギリシャ人は、星座のできた頃のフェニキア人が乗っていた船を知ることがなく、それ故「アルゴ座の船は半分しかない」と認識してしまった。

藤村シシン先生曰く、「なぜ、船のお尻部分しかないのか?」という問いに対して、歴史学からの解答は、以上のような説明ができるものということでした。

 

 2―5.小結

藤村先生の講演会の前半では、旧アルゴ座の「船は半分しかないのか?」というクエスチョンをめぐる論争について。聞いていた私がまとめると、

  • 星座を作った人たちと、輸入した星座に付ける神話を作った人たちは違う
  • 星座を作り出したメソポタミアバビロニアと、それを輸入して神話を作った古代ギリシャとでは、歴史的に時代の差が大きい
  • 旧アルゴ座の作られた時代の船はフェニキア人の乗っていた船の頭が垂直のフォルムのものであり、それが旧アルゴ座のモデルとなった。
  • 時代が下り、船の形が変わった後、モデルの船の形を知らない後世の人々が「なぜ、あの船は尻の部分しかないのか?」と疑問に感じ、論争が起こった

といった歴史的な流れになるでしょうか。

 

歴史学を含む人文系の学術分野では、アルゴー船の星座論争のような例は、他にもあるようです。私が大学時代に授業で聞いた話では、先人が使っていた道具や技術が伝わっま土地で、後世の人々には使い方や由来が分からなくなることがあり、新たな用法や物語(神話や伝説)が作られることもあるんだとか。

 

例えば、現代日本では埴輪は造られた時代に宗教的な意味を持ち、儀式上、重要な役割を持ってていものもたると言われます。それに対して、私の高校時代の日本史の先生は「種類によるけど、円筒形のものなんかは、古墳の土留めの用途でしか使われなかったたんじゃないかな?」と仰ってました。アルゴー号の星座論争は、そうした歴史を経て伝わる物や技術と物語の発生を考える上で、非常に面白かったです。

 

 

3.前半の結び

講演会の前半に当たる「アルゴー船をめぐる星座論争」は、だいたい、以上のような内容でした。もとは、プラネタリウムの暗いホール内で、リクライニングシートに身を倒し、単行本型の分厚いメモ帳に手書きした文章がもとです。実際に藤村先生がお話しされていたこととズレたり、食い違ってたりする箇所もあるかもしれません。何かお気づきのことがあれば、メールフォームや匿名のメッセージでご指摘いただけると幸いです:

marshmallow-qa.com

仲見満月にマシュマロを投げる | マシュマロ

 

そうそう、旧アルゴ座については後日、Twitterで見かけたニュース情報で、表記はありませんが、アルゴー船として復元された船の頭のほうが垂直っぽい感じだったことが分かりました。一応、ここにも載せておきますね↓

www.afpbb.com

ギリシャ神話の冒険船、「アルゴ号」を再現 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

 

アルゴー船の冒険譚が気になる方には、次の2冊を挙げときます。

ギリシア神話 (偕成社文庫3043)

ギリシア神話 (偕成社文庫3043)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1977/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
アルゴナウティカ (西洋古典叢書)

アルゴナウティカ (西洋古典叢書)

 

偕成社文庫の児童書に収録されたほうは、訳者が『ギリシアローマ神話辞典』の著者で、注や解説が専門的で面白そうでした(仲見は読みかけ)。『アルゴナウティカ』のほうは、出版されていて1年ほど経つ本で、絶版じゃない日本語で読める学術的な翻訳書では、現在、アルゴナウティカでは日本で唯一のものなんじゃないでしょうか?

 

前半はこのくらいで、おしまいにします。続きは、後半のヘラクレスをめぐる星座論争編で:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

レポ「 #明石市立天文科学館 で藤村シシン講演会とヘラクレス冒険劇を楽しむ」~主にヘラクレスをめぐる星座論争 in #古代ギリシャプラネタリウム ~【 #FGO 関係】 - 仲見満月の研究室

 

 

 

 

*1:プトレマイオスは「2世紀ごろのギリシャの天文・地理学者」。天文学書たる「「アルマゲスト」を著し、天動説を完成。また緯度・経度を用いた地図を作り、数学・音楽などの研究も行った」人物で、生没年は未詳。参照:「プトレマイオス(Klaudios Ptolemaios)」デジタル大辞泉プトレマイオスとは - コトバンク。藤村先生の情報では、この人の名前は「戦い好きな男、喧嘩っ早い男」の意味があるんだとか。

*2:ギリシャ神話では、ゼウスがエウロペ(人間の王女、ほかニンフの説あり)に恋をし、彼女に近づくため牡牛に化けた逸話がある。参照:おうし座 - Wikipediaの「神話」の項目。

*3:参照:おひつじ座 - Wikipediaの「神話」の項目。

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