仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

日本語教師を目指す人への本紹介②~蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語』シリーズ:前編~

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回は、上の記事の続きで、言語教育学の日本語分野で大学院を目指していた後輩たちに向けて書いた、読書案内です。シリーズ化された本でもあるので、前編・後編と2回にわたって、紹介をさせて頂きます。

 

 

(以下、2009年11月12日の記録)

 

次なる本はコレ↓

 

蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語』メディアファクトリー.2009年 

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「日本にある日本語学校で日本語で日本語を教える」日本語教師の海野凪子先生による、爆笑コミックエッセイ。

「おなら」や「しゃもじ」が、中世のギャル語起源にビックリ!(女官=今で言うセレブなお嬢さん方が使い出したらしい。)

 

あと、助数詞の話がおもしろいです。

 

日本語は生物か無生物かで使い分けますが、中国語は生物でも無生物でも、同じ助数詞で数えます。

例:犬の数え方

日本語:匹や頭

中国語:只(小動物を数える)、条(細長い棒状のものを数える:河や縄、蛇やトカゲなど)

 

各章末に、日本語教育能力検定の過去問からクイズがあるので、勉強にもなるよ!

 

日本で働く留学生アルバイターの事情や、留学生ならではのカルチャーショックも十人十色です。基本的に、留学生のキャラクターは、みんな濃い!

 

 

(以下、2016年9月22日の追記)

 

本書について、実は現在も所持していて、たまに取り出して読んではゲラゲラ、笑ってしまいます。そして、大学院時代、日本語について留学生に説明する時の教材として、研究室に置き、活用していました。

 

今回、上に紹介した1巻を読み直し、お諸しかったのは「漢字は難しい」のところ。アジアの中国文化圏の中国、韓国、ベトナムの人たちは、それぞれ、学習に苦労があるようです。

 ・中国:もとの漢字を簡略化した「簡体字」の使用。

     日本で使う常用漢字と差があって、ややこしい。

 ・ 韓国: 年代ごとにハングル+漢字か、ハングルのみの識字教育。

       特に若い世代はハングルのみの識字教育の人が多い。

      日本の常用漢字の学習は難しい。

 ・ベトナム:1945年まで漢字をもとにした「チュノム」という独特の文字を採用

                          →ローマ字をもとにした表記法がされる

       →日本語を学ぶ人は再び漢字を学習することになる。

ちなみに、台湾では日本の旧漢字に近い画数の多い「繁体字」が採用されており、日本語を勉強する時は、中国の簡体字使用者よりは負担は少ないようです。というのは本書による情報ですが、実際はどうなのか?今度、台湾人の友人に確認してみたいところ。

(*余談として、最近は中国と台湾の”両岸”交流が活発化したこともあるのか、台湾人の人で、中国の簡体字を読める人が増えてきているんだとか。)

 

好評だったらしく、シリーズ化されております。この前編では、もう一冊、2巻をレビューしていきますね。

 

蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語2』メディアファクトリー.2010年

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 前作で登場した個性豊かな外国人留学生が再登場。一人一人にスポットを当てつつ、ネイティブ日本人だって難しい尊敬語の使い方、形容詞の「嬉しい」と「楽しい」の具体的な違い、といったより細かく、マニアックな方向に突っ込んだ内容になっています。

 

再読していて、ためになったのは、次のコンテンツです。

 

●第二章 敬語は難しい?

 ネイティブ日本人にだって、使う時に苦労するのが敬語。そんな敬語について、この日本語学校では、まず尊敬語を3ステップに分けて指導します。

 ①お~になります:お食べになります

 ②受け身と同じ形:食べられる

 ③特別な形:召し上がる

この3ステップが終わると、ら抜き言葉について話が移ります。尊敬語と受け身形について、留学生にはややこしい動詞を取り上げ、一覧表に整理して解説。動詞によっては、尊敬語の形と受け身形が同じため、両者を区別するために、ら抜き言葉が誕生したという説明がなされていました。研究者によっては、ら抜き言葉の誕生は必然のものらしいです。ちなみに、この一覧表、留学生の先輩方が日本語でメールを書く時、敬語の使い方の説明に非常に役立ちました。

あと、敬語を勉強する意義について、中国人留学生が日本語上級者のイギリス人ビジネスマン・ジャックさんに質問するところは、笑ってしまいました。

 

*先日の報道では、昨年度、ら抜き言葉は初めて多数派になった、という調査結果が出ました↓

www.nikkei.com

 

 

●第三章 神社へ行こう

 日本語学校の行事で、広島県廿日市市宮島町の厳島神社へ遠足に向かった一行。神社にお参りするマナーから、鳥居と鴨居の違い、狛犬と獅子の見分け方など、雑学の面で読んでいて勉強になります。

 なお、後編では中国人留学生たちが、独身の海野凪子先生に縁結びの祈願をしようと絵馬に願い事を書くシーンがあります。これ、東アジアのジェンダー研究者・瀬地山角先生によれば、中国では皆婚意識が強いそう*1。どうやら学生たちに慕われている凪子先生には、中国人留学生たちは好意で「ご縁があるように」と考えて行動していたようです。

 

●第八章 点と丸 

思わず、「へえ~」と声を出してしまいました。平仮名やカタカナの左上に付く「゛」の濁点、「゜」の半濁点は、どういう歴史的な経緯で付けられるようになったのか、仮名の生まれた平安時代から、ポルトガル人宣教師がやって来るようになった戦国時代まで、分かりやすく書かれています。

もともと、「がぎぐげご」「ぱぴぷぺぽ」と発音すべきところでも、平安時代は紙に書く際、日本語の仮名には、濁点も半濁点も付けていなかったんだとか。「濁点が付かないなんて、ややこしい!」ということで、時代が下るにしたがい、仏典を読むときに僧侶が便宜上、文字の右上や左上に書いていた点が、濁音を意味するようになっていき、さらにそれを積極的に使って日本語を勉強したのがポルトガル人宣教師だったそうです。

 

以上のような調子で、日本語だけでなく、日本文化の定番といえるところまで、楽しみながら覚えられるストーリー構成となっています。

個人的にツボに入ったのは、第三章「クールジャパンに憧れて」のところ。日本で漫画の技術を学ぶ目的で、日本語学校に通うフランス人学生のルカ。海野凪子先生のクラスで学ぶ授業では、「写輪眼」が出てくるわ、章の最後にビジネスマンのジャックさんととる「カンチョ―」のポーズをするわ、某忍者漫画のファンには笑えるネタ満載となっております。

 

(*前編終わり。後編へ続く)

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