仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

こんな百人一首漫画が欲しかった!~杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。』シリーズ~

昨年末に整理していた記録の一つで、百人一首の背景物語とも言うべき作品のレビューが出てきましたので、こちらに公開致します。まだまだ暦の上では正月期間ですし、百人一首カルタをされるところも、あるかと思いますので、季節的にはちょうどいいかなと。

 

(以下、2011年3月の記録)

研究関連の資料を探しに大型書店をウロウロ。面陳用の棚に本書を発見!!真っピンクな題字に「!!」の気持ちを禁じえず、手にとって捲る。思いのほか、面白く、2週間近く悩んだ末、買いました↓

 

  

藤原定家が『小倉百人一首』を編むに至った経緯を、冒頭と末尾に置き、間に恋の和歌をセレクト。詠み人たちそれぞれの恋と詠まれた状況を巧みに絡め、エピソードとして展開しています。

 

セレクトされた詠み人は、互いに恋人から母、その息子と妻、詠み人と従兄、その孫というように人間関係の数珠繋ぎでエピソード同士が繋がり、漫画全体にまとまりを与えています。

 

本の構成は現代日本人の読者をターゲットしにており、「大ヒット御礼!!」のカバー文字を読むと、頷きたくなった。

 

頷きたくなるんですが、ピンクの題字が恥ずかしくて躊躇し、たじろいで買えない人もいそう・・・。あと、個人的には巻末の「超訳」は、もっと情緒豊かで上品に訳してほしかったです。この二点が引っかかりました。

 

一般向けのレビューは以上です。以下、マンガを描いていた者としての感想を書きました。 

 

〈カバー絵・漫画の技術あれこれ〉

カバーを剥したり、ページを眺めたりするうち、デジタルで処理しているなぁ~。と思いました。根拠は、

 

・着物の柄が規則正しく、彩色が明瞭であること。

・漫画の枠線の太さが均一で、四隅の角から線がはみ出さず、

 歪んでいないこと。

 

主に二点。もう少し、色の使い方や陰影のグラデーションに深みがあったら、画面に深みが出てきて引き込まれる読者もいるだろうに、もったいない!!

これだけデジタル処理でデッサンがしっかりしていて、描ける人なら手書きだと、どんな百人一首の世界を見せられるのか?

 

考えてしまうのですが、そうなると、画材費用はかかるし、紙は画材に合ったものを選ばないといけないしで、手間と費用を考えると、一冊1000円前後にコストを抑えられなくなります。そうなると、一般人は手が出なくなる。

 

 そのぶん、百人一首の漫画でありながら、上品過ぎず、

美麗すぎず、親しみやすい装丁になっています。つまり、手にとって気軽に楽しめる本だということ。

 

巻末の参考文献には、平安文様素材のCD-ROMや装束の作画資料も挙がっていて、自分で「こんな本を作りたい!」と思った人には勉強になる一冊です。

 

私も中国の古典文学作品で、こんな素晴らしい本、作ってみたいです。ぜひ、参考にさせてください、著者さん!

 

(2017年1月5日の追記)

なんと、フルカラー版も出ていました↓

 

この「うた恋いシリーズ」、好評だったようで、現在、番外編「うた変」シリーズも含めて、以下の続刊となっております。

 

<本編シリーズ>

 

小野小町在原業平の時代が舞台です。 1巻で高子との恋を引き裂かれた男のその後が、分かります。なお、導入部では紀貫之が登場します。

 

 

清少納言、それから藤原行成を中心に、一条天皇の后の座をめぐる政治的な争いをバックに、詠まれたものを通じて、ストーリーが展開されています。個人的には、1巻に出てくる藤原義孝くらいの真面目男子が好きなので、息子で潔癖くそ真面目な藤原行成は、正直、合いませんが、それもまた官僚として逸材だったのでしょう。

 

 

時は第2巻よりも、更に遡った時代。藤原氏が貴族として勢力を広げていく中で、消えていきそうになった小野氏、在原氏、紀氏たち。これまでの平安時代百人一首の物語に比べて、遣唐使に行ったきり、日本への帰国が叶わなかった日本人留学生が故郷に残してきて、亡くなったと聞いた恋人への思い、小野篁と異母妹に当たる女性の学問を通じた師弟的恋愛という伝説を下敷きに、語られる流刑に書された小野篁の一首。古代の荒々しさがあって、3巻までの洗練された平安時代とは異なって、これはこれで楽しめます。

 

 

<番外編「うた変」シリーズ>

 もとは、著者の杉田圭がセルフパロディ本として出した同人誌がもとになったもの。好評だったのか、その後、月刊漫画誌で4コマを中心に、本編シリーズの人物達の間を縫うようなエピソードが展開され、現在2巻まで刊行されています。 

 

 百人一首以外の和歌で、両想いの恋愛、片思いの恋など、様々な人間関係を表す和歌を集め、時には漫画を挿入し、紹介した1冊。紙書籍のほうには、有名人気声優による和歌読み上げのCDが付属しているので、そちらを楽しんでもよいでしょう。

 

そうそう、この「和歌撰」のラストには、鎌倉時代に「とはずがたり」を自叙伝的に記した女性・後深草院の二条と、主人で愛人の後深草院後深草院の弟・性助法親王とされる「有明の月」の3人の精神的に不健康な愛の関係は、読んでいてゾクゾクしました。

 

なお、「とはずがたり」については、『逃げるは恥だが役に立つ』の著者・海野つなみ氏による、コミックが出ています。ここの二条は「和歌撰」の二条ほどキツイようには描かれておらず、波乱万丈な人生に翻弄されたか弱い貴族の女性の一人として、登場します。興味を持たれた方は、手に取ってみて下さい。

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