中国の明清白話小説への誘い ~『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』~
白話小説版の『源氏物語』風俗小説!? 『金瓶梅』の記事で紹介した本書。
ぴったりした記事タイトルが見つからず、最後に「誘い(いざない)」と付けてみました。けれど、内容を振り返ってみて「誘いっていうレベルの話やないやん!」とツッコミを入れたくなりました。
学術的な内容レベルの話をすると、表紙カバー裏の本文解説にある通り「本格派入門書」です。だって、各作品ともに、版本から描写技術の解説まで、学術論文に引けそうなくらい、詳しいんですもん:
中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 (岩波新書 新赤版 1128)
タイトルを見た瞬間に思わず「?」を浮かべました。作品内容を考えた中国白話小説の区切り方だと、私としては下のようになります。
左3つは、英雄や豪傑、妖怪たちが大勢登場してくる語りものから生まれた白話小説。右3つは、1つの家庭および一族を中心に恋愛や日々の生活を丁寧に細かく描いた白話小説。
しかし、筆者が「三国志演義・西遊記/水滸伝・金瓶梅・紅楼夢」と区分するには、研究者としての根拠があったんです。本書の内容を簡単にすると右2つの関係は、下のようになります。
水滸伝 ―――――――― 金瓶梅 □□□□□□□□□□ 紅楼夢
① ②
※①:一部を下敷きに作品化、②:脱猥雑化・精緻化
「水滸伝→金瓶梅」は、いわゆるスピンオフ。「金瓶梅→紅楼夢」は、作品中の金銭や衣服の描写が羅列されている形式から、1つ1つの品物が手間暇かけて作られた過程を記述したことに「脱猥雑化」があるそうです(※私の解釈です)。次に、「精緻化」についてですが、『紅楼夢』は
「大貴族」賈家を舞台に、少女崇拝者である中心人物の少年、賈宝玉と、林黛玉をはじめとする美しい少女たちがくりひろげる夢のような世界をきめこまやかに描きあげるとともに、周囲の大人たちの醜悪な世界をも綿密に描き出す
というところに見られます。『紅楼夢』のストーリー構成には近代フランス文学の作品と通じる技法もあると指摘されています。そのあたりは、本書をお読みください。
中国文学史の流れや語り物から白話小説への変化など、それだけで読者は満腹。なのに、欧米の近代文学知識まで話の中に入れ込んであって、もはや「大学文学部の専門科目レベルじゃん」と言いたくなります。さすが、中国文学の大御所の一人である筆者です。
詰まるところ、院生やってる私としては、ちょうどいいレベルの白話小説入門書でした。この勢いで上巻も読んでしまいたいのですが、もう一冊、新書で『金瓶梅』の手引書を見つけました。研究の進行上、手引書のほうを先に読了することになるかもしれません。
このたびは、長々と失礼いたしました。読んでくださって、ありがとうございました。
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