仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「世間」の眼差しと子ども~石川結貴『ルポ子どもの無縁社会』~

本格的な夏休みに突入して、数日。ポケモンGoを(いろいろ試行錯誤して)始めた私の横で、幼稚園生くらいの姉妹らしき女子が2人、それぞれが丈の長い虫取り網とプラスチックの虫かごを持って、同じ虫取り道具を持った父親と共に、セミを捕まえようとしていました。場所は公園で、近くは割と色んな世代の人たちが集まり、休憩するようなベンチもあって、この親子を含めて、和やかな雰囲気でした。
 
その一方で、学生時代に読んだ新聞記事では、声がうるさいからという理由からか、地域によっては子どもが近寄らないよう、商店や飲食店等のお店が駐車場に機械を使って、幼児が嫌がるというモスキート音を流し、間接的に追い払うようなところもあるとか…。また、友人に聞いた話では、その人が学会イベントで地方に行く新幹線の車内で、乳幼児を抱きかかえた女性が必死に泣き続けるのをあやしていたということを思い出しました。女性の付近の席にいた中年男性は「うるさいじゃないか!」と言い、「すみません」とその女性は言って、泣く乳幼児を抱きかかえて隣の車輌に出て行ったそうです。
(*あくまで、以上のことは私が読んだ媒体、周囲の人の体験談によるものです)
 
こういった話を一部のケースとはいえ、聞くたびに、「ひょっとして、社会全体が殺伐としているのでは?」と感じ、その疲れから来る苛立ちが子どもへ向かっているように思われました。そんなことがきっかけで、今回の本が思い浮かび、取り上げることにしました。
 
 
このルポに出てくる主人公の一人の元声優志望の女性。彼女は、ソーシャルゲームで出会った男性と結婚し、妊娠。誕生した子どもをあやしながら、ゲームをプレイするのが難儀となり、やがてゲームで築いてきた人間関係の崩壊に悩む。母親となった女性は、やがて自分の両親に子どもの世話を頼むようになり、夫と共にゲームに励む。子どものつかまり立ち、離乳といった成長に気がつかないまま。

 

元声優志望の女性のエピソードを読んだ感想として、SNSを通して感じていた負の部分である人間関係のむなしさ・寂しさが子どもの無縁社会にも影を落としているようで、危機感を感じざるを得ませんでした。
 

それから、育児をしている人、保育を仕事としている人。学校教育に関わっている人たち。子どもを育てることに関わっている人たちに対して、世間には思いやりのない非難を浴びせる人が増えてきている。本書後半で触れられているが、日本の少子化に拍車をかける重要な問題ではないだろうか?とも考えました。

今の日本社会で子育てをしたいとは到底、思わない。そういう人たちが増えていても、不思議ではない。もちろん、本書で書かれていることは日本社会の一部で起こっているわけだから、日本社会のどこでも問題が起こっているわけではないでしょう。

だけど、今の日本では子育てに「やさしい」寛容な人の集まった地域を探し、そこに子どもを連れて引っ越していくことが、どれほど困難なことだろう…。

そんなことを痛感した一冊でした。

(読了日:2012年11月下旬)
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