仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

ジャーナルと院生をめぐるお金の話~掲載料のこと~

はじめに

本日のテーマは、院生の研究業績とそれを積むのにかかるお金の話。具体的には、院生が研究成果を文章にまとめ、それを投稿論文の形で学会の発行する学術雑誌やジャーナルに提出し、審査を通過する=査読に通り、その査読論文が掲載される時に発生する掲載料のお話です。

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 この数日間ほど、(主に文系分野の)大学院と研究者をめぐる制度やシステムについて、いろいろと書いてきました。先に、今回のテーマに関わる記事のリンクと、各記事内で本記事と関連のある項目を挙げておきます。適宜、ご参照してください。

 

↓「1.まず、学会、それから大会やシンポジウムって何?」の項目参照

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 ↓「大学・大学院生の在籍可能年数と文系院生の「博士課程満期取得退学」」の

 項目参照

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 お待たせしました。いよいよ、これからが本編です。

 

 ジャーナルと論文審査のシステム

 論文審査のシステムと査読論文の掲載について 

院生を含む研究者は、上の記事で開設した学会等の発行する学術雑誌、ここではジャーナルと呼ぶ冊子の発行元に、自分の研究成果物である論文を投稿します。この投稿論文は発行元の「ジャーナル編集委員会」という審査に中立的な立場の委員が届きます。委員会は、投稿論文のテーマやキーワード、投稿の際に執筆者が決めた細目分野をもとに、会員等から審査員を数人選び、審査を依頼します。審査を依頼された人によっては多忙だったり、近い分野であるものの審査が難しいと判断したりして、依頼を断ることがあります。こうなると、次の審査員が選ばれて彼らに依頼が行き、やっと審査が始まります。

(審査を依頼された人が断り続け、審査員を引き受ける人が現れるまで、数か月経つこともあるそう)

 

審査員はジャーナルによって人数が変わりますが、だいたい、2人以上は選ばれるようです。とあるジャーナルでは、審査員が2人以上になる場合、1人目が「掲載可」(アセプト)、2人目が「不可」(リジェクト)というように判定が割れると、3人目の審査員が立てられ、3人目の判定によって掲載の可否が決まるといった、丁寧で時間のかかるシステムを持つと言われています。

 

 

審査が終わると、審査員の判定結果と審査コメントが通知されます。その通知を読んだ投稿者(執筆者)は、掲載可否に関わらず、コメントを参考に原稿を修正できる場合があります。もし、掲載可となれば、修正箇所・コメントへの返答をまとめた文章を書き、それに修正原稿を添付して、編集委員会へ送ります。掲載不可の場合は、コメントをもとに原稿をリライトし、再投稿して審査結果を待つことになります。

 

査読が通って、掲載決定となると、掲載原稿を発行元と投稿者の間でやり取りし、校正作業を重ねます。ジャーナルごとに書式が決まっている場合、投稿者の肩書から本文のフォント、ヘッダーやフッターの幅まで、細かくチェックし、相談をして校正を進めます。

校正が終了し、ジャーナルが発行されると、掲載号と共に掲載料の請求書が送られてきます。投稿者は、請求書と支払い案内に従って、決まった額の掲載料をジャーナルの発行元に振り込みます。

 

査読が通り、投稿論文が掲載されるまで、ざっと以上のような流れになっています。

(関わりのある分野のジャーナルの例です) 

 

編集委員会や発行元との連絡のやり取りは、今は担当者と投稿者がメールを使って行うのが主流です。投稿についても、審査用のワード原稿ファイルをジャーナル専用のサーバーに上げる電子投稿タイプ、ワード原稿ファイルをCD-Rに入れて郵送で編集委員会に郵送する記憶媒体郵送タイプ等、様々あります。

 

 掲載料なしのところやジャーナルの種類

投稿論文を受け付けてるジャーナルには、審査はあるけれど、投稿者の掲載料を無料としているところもあります。例えば、小規模な学会で出しているジャーナルの場合、会員だけに送付するある種の同人誌的な位置づけで、学会全体で見れば会員への郵送料が少額で済むため、掲載料を無料にできるケース。あるいは、特定の大学学部・研究科や学科、研究機関や美術館・博物館において研究成果を載せる場として発行されている定期刊行物(いわゆる紀要の類)のようなジャーナルでは、上層部や運営団体からの助成金で発行されるので、掲載料を徴収しなくても発行できるケースがあります。

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ただし、上記のようなケースのジャーナルには、審査が簡素だったり、そもそも審査がなかったりするところもあるそうで、学術的水準を低く見られるジャーナルもあるらしいです。

 

学術的水準の高い論文が掲載されていると見なされるのは、やはり歴史がある程度あり、審査システムの精度の高いジャーナルにその傾向があります。知り合いの方々が投稿した雑誌から紹介すると、歴史学分野では『史学雑誌』(隔月発行)、中国哲学・文学関係だと『日本中国学会報』(年一回発行)あたり、学術的水準が高いと聞きます。

 

理系分野のジャーナルはよく知りませんが、下の漫画にいくつか出ていた思います。

実 験太朗 ・ 立花 美月 『研究者マンガ「ハカセといふ生物(いきもの)」』技術評論社、2012年

 

 

掲載料の支払いは経済的負担~院生とお金のシビアな事情~

院生は、少しでも博士論文のもとになる投稿論文を査読に通し、業績アップを しようと、いろんなジャーナルに投稿している人もいます。探すと、審査は厳しいものの、年に数回発行している『史学雑誌』のようなジャーナルも確かにあり、査読が通れば、後々の研究職へのキャリアを考えるとプラスになります。

(ちなみに、ブログ管理人は『史学雑誌』に投稿経験はありません。あくまで、上のような評価は知り合いの方々の話や様子から推測したものです)

 

ただし、複数のジャーナルに投稿するデメリットに気を付けておいたほうがよいでしょう。それは、ズバリお金がかかるということ。冒頭の関連記事学会大会中の託児室に書いたように、ジャーナルを発行している学会には年会費を払う必要があり、査読を通そうと、研究内容を詳しく知ってもらおうと定期的に学会大会で発表すると大会参加費、宿泊代、交通費が発生します。もちろん、晴れて掲載が決定すると、掲載料が発生します。

 

詰まるところ、研究業績を上げようと考えると、たくさんのお金がかかるんです。昨今、話題として大きくメディアに挙がる大学生の返済型奨学金(実態は学費ローンと言われる)ですが、院生になってからも返済型奨学金を申請し、継続して借りて大学院に通っている人も大勢、います。そういう、経済的に苦しい中、さらにキャリア上の業績を積もうとすれば、プラスで研究活動にかかるお金がのしかかり、更に経済的に苦しむ可能性だってあります(実際、苦しんでいる人がいました)。

 

まとめ

もちろん、大学院では研究補助と経済的援助を目的としたティーチング・アシスタント(主に修士生が対象の雑務アルバイト、TA)、教員の研究調査を補助を目的としたリサーチ・アシスタント(主に博士生が対象の調べ物アルバイト、RA)の制度、それから学術振興会の特別研究員等の諸々の支援制度、民間の財団が募集する研究助成金や給付型助成金等、経済的に院生を支援するためのシステムは挙げられます。

ですが、TAとRAは大学院にアルバイト用の予算がつかなければ雇ってもらえませんし、院生の研究に充てる時間が削られるといった問題があります。さらに民間の各種助成金は、応募できる分野が限られたり、応募資格に年齢制限があったりするうえ、雑誌懸賞プレゼント企画に応募して、一等賞に当選するくらい、競争率が高いものばかりです。

 

もし、この記事を読んでいる方で、文系分野、あるいは理系で文系に近い分野の大学院博士課程に進学し、博士号取得を考えていらっしゃる方がおられたら、学費や生活費以外にかかってくる「ジャーナル掲載料」等、研究業績をつくるのにかかるお金について調べておいてください。その費用が、果たしてあなたの将来に投資となって利益があるのか、どうなのか。親御さんや配偶者、お子さんといったご家族を巻き込んで、電卓をたたき、ノートに書き項目を書き出して、しっかりした計画書を作成されるのを、おすすめ致します。

 

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今回のお話は、ここで終わります。お付き合いいただき、ありがとうございました。

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