仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

心理学の就職について~文系院生の就活・『逃げるは恥だが役に立つ』中の院卒者の生き方①~

〈本記事の目次〉

1.はじめに~心理学は学問上、どこにある?~

学問で言えば、文系に区分されることの多い心理学。文学部の専攻の一つに入っている大学が今も多くあります。ここ最近の改革で、心理学部として独立したり、社会・福祉系の学部に組み入れられたり、文理総合系の学部に統合されたり…。単純に文系の中の文学・歴史学・地理学・考古学等の人文科学系というより、法学・経済学・福祉学等のより実践的な社会学系のポジションにあるように思います。その社会学系の中では、アンケートだけでなく、実験を用いることから理系に近い立ち位置にあると言えるでしょう。

 

今回、そんな心理学の就職について、今期のテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」をもとに、少し、紹介したいと思います。なお、ネタバレを含んでいるため、未視聴・原作未読の方は、ご注意ください。

 

2.『逃げるは恥だが役に立つ』の作品紹介と主人公について

 2-1.ドラマ版と原作の紹介

2016年10月11日22時にスタートした、TBS系列で放送されている火曜ドラマ。

www.tbs.co.jp

上の公式サイトの「イントロ」によると、ストーリーの導入部はこんな感じでした。

 職ナシ彼氏ナシの主人公・森山みくりが、恋愛経験の無い独身サラリーマン・津崎平匡と、あることがきっかけで 「仕事としての結婚」 をすることに。
夫=雇用主、妻=従業員の雇用関係で恋愛感情を持たないはずが、同じ屋根の下で暮らすうち、徐々にお互いを意識し出す妄想女子とウブ男… はたして契約結婚の行方は !?

原作は、講談社の『月刊KISS』に連載中の同名漫画。略称は「逃げ恥」↓

 

海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ(1)』講談社、2013年

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 1巻の表紙の背景に文字が出ているように、原作では主要人物の森山みくり、津崎平匡を中心に、周りの人たちを巻き込み、今の日本社会が抱える問題を扱っています。つまり、私としては

というくらい原作とドラマ共にプッシュしたい作品です。

 

それでは、次に主人公・森山みくりについて、見ていきたいと思います。

 

 2-2.主人公の森山みくりってどんな人?

ドラマ版で新垣結衣さん演じる主人公・森山みくりは、大学で心理学を学び、就活では企画の部門を目指すも不採用だらけ。文系大学院に進み、臨床心理士の資格を得るも、二度目の就活でも採用されずに終わってしまう。何とか得た派遣社員の仕事も、クビになってしまい、父親の栃彦が仕事関係で見つけてきた家事労働の職を得る。その後、いろいろなタイミングが重なり、家事労働の雇用主・津崎平匡と利害が一致し、入籍はしないで、みくりが住民票を津崎の自宅に移し、2人が同居する「契約的事実婚」を企てることになった。

 

真面目で気がつくところは気がつき、家事ができる主人公。ただし、妄想が逞しいところがある模様。ドラマ第一回が「情熱大陸」みくり版で始まったところを鑑みると、妄想力は逞しい上、本人が志望していた企画部門のアイディア出しに使えそうなレベルかと思います。

その発想力は逆境にも生かされます。両親の千葉県館山移住で、せっかく掴んだ家事労働の仕事を辞めざるを得ない状況になります。が、ここで先の「契約的事実婚」に繋がる提案をするところ、いざというとき、アイディアを出せるところと実行に移す行動力は、目を見張るものがあるかと。

 

このように、発想力と行動力を発揮する主人公ですが、そもそも、彼女が専攻していた心理学の人たちは、どのような進路に進むことが多いのでしょうか?みくりが歩んできた道を振り返りつつ、私の周りの心理学の人たちのことも交えながら、少し話してみます。

 

 

3.心理学の進路について

 3-1.細分化されている心理学

冒頭で書いたように、心理学は文系実学分野の中でも、理系に近い位置にあると考えられます。それは、人間の成長や脳の認知、それから精神的な健康に関する問題を扱う、発達進路額、認知心理学、臨床心理学といった医療分野に近い分野を含んでいるからでしょう。つまり、人間が健やかに成長し、日常生活を安全かつ健康にに生きるため、心、あるいは精神の状態について研究する目的を負う側面が、心理学にはあるのです。

 

今作の主人公・みくりは学部で心理学を専攻後、就職が決まらなくて、大学院に進み、臨床心理士の資格を取得しています。この臨床心理士はカウンセラーであり、クライアントの相談を受け、心や精神の状態改善を援助する仕事だといえます。

 

上に挙げた細目のほか、心理学には様々な下位分野が存在するようです。が、今回はテーマの関係上、ほかの細目については割愛させていただきます。

 

 3-2.心理学専攻の人たちの進路

ドラマの中で、みくりは学部・大学院を通じて民間企業の企画部門を目指していたようです。確かに、企業で企画を立てるには、ユーザー、消費者が求めているものを分析する際、心理学は応用できそうです。加えて、みくりの発想力と実行力は、現場でも役に立ちそうではあります。

 

それでは、実際の進路学専攻の人たちは、どのような進路を歩んでいるのでしょうか?

 

 より具体的には、コンサルタント、調査会社に入った人は、学生時代に学んだアンケートの手法、心理学の理論を仕事に応用しているようです。私が聞きに行った院生向け就活セミナーのOBの方は、臨床心理学専攻の院卒の方で、結婚相談所に勤務されていました。そのOBさんは、臨床心理学で学んだカウンセリング方法で登録者の特性、求める条件を面談で聞き、アンケートや相談によってクライアントが求める本当の条件は何か、また、クライアントの魅力を高めて成婚に結び付けるにはどういうアドバイスをしたらよいか、分析する時に学んだことを生かしているそうです。

 

学んだことをよりストレートに生かす道としては、民間企業等のカウンセラー、自治体に採用される形で児童相談所の職員、小中高の相談室で様々な問題解決に当たるスクールカウンセラー(学校臨床心理士とも呼ばれ、非常勤の場合が多い)、心理学専攻の大学教員や研究機関職員、合わせて各種教職免許を所持する人は小中高の学校教員・養護教員の仕事があります。

 

 同じくストレートに心理学を生かす道として、次のような進路もあるようです。創作活動で身を立てたいと考えている方は、いかがでしょうか?

@naka3_3dsuki (執筆者ツイート前略)博士卒だと研究職のほか、ミステリー作家になっている人も。綾辻行人先生がその代表。#逃げるは恥だが役に立つ

 

 3-3.臨床心理士について少し紹介

本項目の3-1で触れた臨床心理士に関して、ここで少し補足説明します。臨床心理士とは、小中高や大学といった教育機関、まちの病院やクリニック、民間企業にカウンセラー(産業臨床心理士とも呼称される)として勤務する時、必要な資格です。公益財団法人「 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会」が認定する民間資格です。この資格を持つ人は、学校、病院やクリニックに勤務して「先生」と呼ばれることもあり、学校教員や他の医療受持者と同じく、生徒や患者、クライアントの心理的な支援を行う仕事を主に担当しています。他者の支援を心理的な面で行うため、自身の精神にも負担がかかりやすいと考えられます。

なお、病院勤務の臨床心理士を知りたい方には、次の作品をおすすめします。

 

 

私が学部生のころ、臨床心理士になるには、まず指定の大学で心理学専攻に入学し、所定の科目単位を修得し、申請すると得られる認定心理士の資格所持が前提となっていました。認定心理士の資格を得た人は、定めた大学院で臨床心理学を学びます。この指定大学院には第1種と第2種があります。第1種指定大学院は、修了後に資格試験に合格すると臨床心理士の資格が得られるところです。第2種指定大学院は、種修了後に所定期間の勤務を経てから試験合格で資格取得となるところです

 

ここ十数年の間、臨床心理士の資格取得システムは専門職大学院が登場したり、ほかに新たな心理士の資格設置が検討・実施されていたり、目まぐるしく変わってきています。参考として、昨今の臨床心理士のことについては、次のサイトをご覧ください。

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会

 

「逃げ恥」の主人公・みくりは、大学院修了後に臨床心理士の資格を得ているので、おそらく第1種指定大学院を修了後に試験に合格し、資格を得たと思われます。

 

 3-4.心理学専攻の人は就職しやすいの?

医療分野に近いこともあり、また実学に属する面もあって、人文科学系の専攻に比べれば、就職の幅は広いと言えます。さまざまな仕事での応用も利きやすいためか、ここ十年近く、多くの大学で既存の学部から心理学専攻を道立させて学部に格上げしたり、既存の社会学系学部に組み入れたり、医療系学部と合わせて学部を新設したり、心理学は注目されています。

 

文系分野学問でも、先に取り上げている考古学地理学と並んで理系寄り(あるいは理系)なため、心理学は就職するには潰しがききやすいでしょう。ただ。先に説明したように、人の心理的な支援を行ったり、問題を解決したりする要素を持つ結婚相談所の職員、それから臨床心理士といったカウンセリングを行う仕事は、従事者にも精神的に負担がかかると考えられます。つまり、他の仕事より心にストレスがかかる傾向があるということです。

 

 

4.まとめ

以上、ドラマ&漫画『逃げるは恥だが役に立つ』の主人公・みくりを通して、心理学を学んだ人の就職について、見てきました。文系分野でも実学にある心理学は医療分野とも接し、理系寄りで就職の幅が広がりやすい分、カウンセリングを行う仕事を選ぶと従事者に精神的なストレスかかかる傾向があるということを書きました。

 

教職課程で執筆者がカウンセリング論を担当する先生に聞いたところ、臨床心理士の仕事は精神的にきついことが常ですが、生徒やクライアントの心理的負担を少しでも軽くでき、彼らに喜ばれる数少ない瞬間があり、やりがいを感じることがあるそうです。その先生は、毎週複数の自治体の学校に非常勤で回り、大学の授業を受け持つという、多忙な方でした。別の教育心理学の先生は、複数の児童相談所と大学とに同時期勤務されていたことがあり、体力面でもハードだったと聞きました。

また、昨今の公務員非正規化(一部では官製ワーキングプアともいわれる)の流れの中で、自治体の臨床心理士も非常勤職員が増え、給与も減額傾向にあるそう。個人的には、保育士、図書館司書と合わせて自治体の臨床心理士も労働条件の向上を求めたいところです。

 

精神的なタフさ、時に体力的な強靭さも必要な臨床心理士という仕事。もし、少しでも興味のある方がいたら、ご自身でも調べてみてください。養成システムや勤務の形が最近、刻々と変化しているところなので、また資格取得方法や働き方が変わってくる可能性はあります。

 

ところで、「逃げ恥」の作品は、院卒者の生き方について、まだ私がしゃべり足りない部分があるので、続編を書くつもりでります。長くなったので、ここらへんで本記事を締めます。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

(2017.1.17)

『逃げ恥』のDVDとBlu-ray、今年3月にボックスで出るそうです。うちでは録画してためて、家族で見返したりもしていたんですけど、未公開映像集とか特典映像があるなら、ちょっとのぞいてみたいところですね。

 

 

 

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