文科省がアカハラ対策に本腰か?~衆議院議員 河野太郎「さてと研究者の皆様へ 」公式サイトより~
〈本記事の内容〉
1.はじめに
大学・大学院では、早いところで仕事開始から一週間ほど経つころでしょうか?部局によっては、新年会という名の交流会をされているところも、あるかと思います。
お酒の席では、「今年こそ、上司先生の実験や作業のノルマを達成して、アカハラ回避するぞ!そして、別のところに内定ゲットするんだ!」と、下の画像の白猫さんみたいに、酒杯を飲み干す勢いのポスドク、助手の方がおられるかもしれません。
その横で、柴犬さんのような院生が心配そうに「白猫さん、今年も実験や雑務、何とか踏ん張りましょう!」と、生ビールを持って、声をかけをする。日本のどこかに、そんなワンシーンがあるかと。
(イメージ画像:ガチャポンのフィギュア「アフター5の動物たち 2軒目~今週もお疲れさまでした~」の「22時のシロさん」と「19時のシバさん」の出演による、執筆者の撮影)
アカハラことアカデミック・ハラスメントについては、先日、「ブラック研究室」に関する日野氏の記事を紹介しつつ、私自身のいた研究室のことを振り替える記事を書きました。
研究テーマとかけ離れた仕事について、大学教員が、行き過ぎた量の労働を研究室所属の学部生や院生などの学生、そしてポスドクや助手といった研究職員などの部下に課すこと。また、上司が部下に対し、実験や作業を妨害したり、要指導とはいえ、罵倒や度を越した叱責をしたりして、部下の学生や研究職員の心身にストレスを与え、不調を招くこと。このような言動についても、アカハラだといえるのは、本ブログで幾度か、書いてきました。
残念ながら、アカハラについては日本の数多くある大学には、「風通しの悪いところ」があり、学生や研究職員が自ら命を絶つ「事件」が続いてきました。その事実がなかなか報道されにくい現状、およびアカハラ発生の背景、個人レベルでの対処法については、私の拙記事の次をご参照ください:「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp
大学内の自治の尊重、立件したくとも相談しに行く適切な場所が分かりにくいこと、および外部からの実態把握の難しさ等、日本の現在の大学では組織上、構成員同士のしがらみもあるようで、アカハラの防止や対処は、こうじにくい現状がありました。
こうした状況の中、衆議院議員の河野太郎氏に、集められたアカハラ情報が伝えられ、河野氏が文科省に実態調査および対策の要請をしていました*1。
そして、本日、河野氏の公式サイトの以下のページにて、
アカデミックハラスメントについて、文科省が本腰を入れて対策をとります。
ということが発表されました↓
前置きが長くなりましたが、本記事では、上の河野氏の報告を通じて、文科省がアカハラに対して行っていること、および対策などついて、簡単に紹介します。必要があれば、現在までの拙記事を引き出しつつ、文科省の動きに言及致します。
ちなみに、今回の冒頭画像がアニマルなのは、先日のブラック研究室の記事の画像が刺激の強いもので、次はマイルドな印象にしようかと。ということだけ、お伝えして本題に移りましょう。
2.文科省のアカハラに対する現状
2-1. 旧帝大の休学率および満期退学者を除く中途退学率
河野氏の報告では、文科省はまず、旧帝大*2の7つの国立大学において、文学・人文社会学、理学、工学、医学の四分野における博士後期課程の休学者・中途退学者の数が調べられました。整理すると、次のようになります。
1. 休学率:
文学・人文社会学系:16%-34%、
理学系1-8%、工学系2-9%、医学系:2-10%が休学
2.満期退学者を除く中途退学率:
文学・人文社会学系で1-6%、
理学系で2-6%、工学系で1-4%、医学系で1-2%が中途退学
「満期退学者を除く中途退学率」については、主に文系の博士院生(理学や工学の理系の院生もいる)について、基本的な最大在籍年数6年を超え、「博士満期取得退学(あるいは単位取得退学など)後、博士学位論文を提出して、審査をパスして博士号を取得する」という、日本独特の博士号取得の慣習が、きちんと調査に反映されていました。調査に日本の大学院の事情が把握されている点では、ある程度、信頼できると思われます。
休学率については、河野氏が示唆するように、確かに文学・人文社会学系が高いと、私も思いました。事情として考えられるのは、博士(後期)課程になると、特に文系の場合、博士院生は資料調査やフィールドワークほか、研究テーマのために長期留学するため、休学する人が多いと考えられます。加えて、文系の大学院では今まで、拙記事「大学院に行きたいと思ったら知るべき「初歩」のこと~大学院の進学システムと就活~」の「大学・大学院生の在籍可能年数と文系院生の「博士課程満期取得退学」で説明しましたが、
「博士論文とは、人生の研究を集大成する業績である」と考え、数十年かけて論文を書きため、ある程度まとまったら本にまとめて審査に通し、「論文博士」になる人が一般的でした。
(拙記事「大学院に行きたいと思ったら知るべき「初歩」のこと~大学院の進学システムと就活~」より引用)
という慣習があったため、理系に比べて、研究目的での休学者が多い傾向があるのではないかと推測できます。
なお、今回より前には、国公私立大学を合わせた休学、退学の調査が文科省から出ていたそうです。詳しくは、次のリンクページをご覧ください。
2-2.アカハラに対する以降の文科省の取り組み~特に学外の専門機関に関して~
文科省のアカデミック・ハラスメントに対する調査は、大学ごとの対応も合わせて「文科省がが調査を続けています。」とのことでした。続きの説明では、
窓口はあるが抑え込んでいるだけではないかといったことや、相談があった場合に加害者にその旨を告知してしまっていないか等といったことも、きちんと調査中です。
学内だけでの対応で十分なのか、学外に専門的な組織を作る必要があるのか等も含め、検討する予定です。
とあります。引用部の前半については、窓口がアカハラ相談を抑えているだけではダメであったり、相談があった場合の被害者を守るといった観点からアカハラ報告があったことを加害者側に通告しないようにしたり、といったアカハラをキャッチした後、どのように、被害者と加害者の間に立つ大学・大学院の部署や職員が対応したらいいのか。まず、アカハラ相談・立件の対応ガイドラインを細かく作る意識を、各大学の運営側にもたせられるといいでしょう。
引用部後半の「学外に専門的な組織を作る必要」に関しては、私はむしろ作らなければ、今の日本の「風通しの悪い大学」がある現状では、アカデミック・ハラスメントに苦しむ人は減らないと考えました。既存の労働監督局、事案によっては裁判所が令状を作って大学の外部から調査できるような、専門的な組織を学外に早急に作る必要があります。
例えば、以前、「人力はてな」の投稿には、外部の研究助成団体に院生個人が自分の名前で研究助成金を申請して獲得した助成金について、その院生の所属研究室の教員が無断でその助成金を、研究とは無関係のところに使ってしまったことが、大学院の担当部署への確認で発覚した、というトラブルがありました。詳細は、次の2つの拙記事で取り上げたことがあります↓
これが日本の「風通しの悪い大学」だと、トラブルを大学院の所属部局、そして財団にに告発した場合、教員側が不正をしたとして処分を受ける、あるいは院生が助成金管理の甘さの責任を問われて大学院を辞めさせられる処分が下されるが、ということになります。前者の処分では院生が指導教員を失う、あるいは研究室での人間関係の悪化により、本分である研究を続けるのが困難になる恐れがあり、狭いアカデミックという「ムラ社会」では博士号が取得できても、その後のアカデミックポストへの就職が厳しくなる可能性があります。一方、後者の処分では、本来なら助成金を勝手に流用された被害者の院生が責任を押し付けられることになり、院生は研究者への道を諦めざるを得なくなる上、以降の人生にもマイナス面で影響が残ると考えられます。
このほか、次のような問題についても、第三者機関は必要だという声を聞いています。
特に研究費という金銭が絡む問題については、外部の専門機関が中立的な立場に立って調査を行い、公正な観点から判断を行い、適切な処分を該当者に下す。場合によっては、司法的な解決も可能な権限を持たせてもよいかと。こうした私の考えは、行き過ぎでしょうか?
3.河野太郎衆議院議員の活動と日本のアカデミア問題
そもそも、日本の研究者に関する問題に対して、衆議院議員の河野太郎氏が最初のほうで取り組んだのは、大学や研究機関などの研究者が申請する科研費の書類の所謂「神エクセル問題」でした。私が噂に聞くところでは、とある研究者が河野氏に、
「科研費申請用の書類がネット上で配布されているんですけど、そのテンプレートの書式が、エクセルの方眼のマス目に一文字一文字、PCで入力していかないといけない、非常に労力を割く非効率的な仕様なので、何とかなりませんか?」
と相談したところに端を発するようです。河野氏の働きによって今回の報告にあるように、次のように改善・全廃されるそうです。
応募書類等の罫線問題、三月一日から始まる「研究活動スタート支援」の公募から、罫線、枠線のない書式がスタートすることを文科省が確認しました。
また、文科省関係の神エクセル書式もあわせて全廃されることが確認されました。
一人の議員に相談したら、その議員が動いて改善してくれたという結果を契機に、大学の先生方をはじめ、日本中の研究者たちが河野氏に要望を送り出した!そして、河野氏も興味を示していたのか、国の研究費の問題、たくL研究員ほか若手研究者の雇用問題、そしてアカハラ問題にまで取り組んでいくようになった。でも、要望が集まりすぎちゃって、少し困惑してしまっているのでは?というのが、私の邪推している河野氏の姿です。
「大学院に行きたいと思ったら見極めるべきこと~指導教員の選び方について:主に文系向け~ 」でも書いたように、経歴から日本のアカデミックな問題に対し、目を向けやすかったのが、たまたま、河野氏だったと思われます。
あと、河野議員が日本のアカデミアの諸問題に関心を持つのは、博士学位はご自身、お持ちで無さそうですが、欧米の大学や研究機関に留学されていたから、その経験が生きているのでは?と私は邪推しております。
昨今の衆議院議員の河野氏への研究者からの問題解決の依頼について、様々な見方が研究者の間ではあるようです。
- 一人の衆議院議員に相談し、合理的かつスピーディーに改善・解決していく姿勢には、疑問を持つ研究者の方々もいると小耳にはさみました。
- 旧文部省はじめ官庁の職員には、問題があるなら官庁の然るべき部署に意見や要望を届けるべきだが、こちらが待っていても、当の研究者たちから相談が来ないので、対応ができない、という文句も聞いたことがあります。
- ある研究者は、デモや署名などの運動をして政治的に訴えを起こし、問題を改善していくべきだとも、言っておられたそうです。
1に関しては、効率重視の研究者の方には、官庁に訴えるよりも議員に働きかけ、動いてもらった方が、早く問題が解決してよい、という意見が以前からあったようです。2に関しては、言っちゃ悪いですが、然るべき部署や窓口って、抱えた問題によっては非常に分かりにくいですし、訴えても、官僚さんたちも他の業務で忙しくて、重視してくれないんじゃないかと、現場の大学教員には諦めている人たちもおります(訴えるエネルギー使うだけ、ムダという諦観)。3に関しては、政治的に訴えを起こしたとしても、社会保障や少子高齢化といった他の問題が優先されがちなのは目に見えるため、何年かけたら、研究者の抱える問題がいっこうに解決していかなかったかと。近い手段として、政財界に影響力のある名家出身の博士号持ち研究者を衆議院議員の選挙で立て、その候補者を衆議院議員に送り込んで、問題を解決していく方法が考えられます。が、なかなか、そういった影響力のあるお家の方を国会に送り出すのは、難しいのが現状です。
そういうわけで、1の意見の方々の言うように疑問を持ちつつも、現役の衆議院議員の河野氏一人だけでも研究者の声を聞いて、文科省などの官庁と折衝する人物がいるだけで、少しは日本のアカデミア問題は改善してきているわけです(改善していない研究費関係、あと依頼した研究者と河野氏との問題に対する見方の差のほうが、大きいと言う意味で、不安要素はありますが)。
もし、どんどん、日本の研究者が抱える問題がある程度、解決していった場合、河野議員は依頼をしてきた研究者たちに、見返りとして何を要求してくるのか?現段階で、不安視している人も、ネット上にはいるようです。そういった不安は確かにありますが、日本だけでなく、社会も政治的な変化も速いこの世界。私自身は、アカハラ問題に関する情報を発信しつつも、直接的な支持はしないで、今は中立的な立場くらいで、河野氏の動きを冷静に見ていこうと思いました。
4.最後に~研究者たちのアカハラ問題等への動きに関する告知~
大学院の研究室や指導教員の変更をする際の注意~旧指導教員の推薦状提出の件~
↑の記事最後に書きましたが、イエナ大学の山本裕子さんを中心に、アカハラの実態と問題点を集めていらっしゃるそうです(詳細は、下の山本さんのリンク先の固定ツイート等を参照のこと)。
山本さんは、ご自身のリサーチマップのほうで、様々な方からハラスメントの事例を収取され、レポートの形で公開されていらっしゃいます。
また、山本さんは卓越研究員の問題についても、河野議員と意見交換をされたり、他の研究者の方々と話し合って、活動されていくようです。ご自身の今春以降の就職先も未定という状況だったなか、こういった問題への対処で中心になって動いていらっしゃって、スゴイです!
私としましては、Twitterアカウントに言葉を入れていますが、このブログでの情報発信を続けつつ、ここをベースにして大学院生の就職問題、院卒者の生き方(自分を含むノラ博士の見身の振り方)など、いずれはそういった分野ごとの情報が整理され、より沢山の方に来ていただいて、意見交換できる、大きなサイトを立ち上げたいと妄想しております。
今回は、ここでお終いです。お付き合いくださり、ありがとうございました。
〈上記に挙げた以外の関連記事〉