仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

続・博士卒のアカデミックポスト就職の現実~「ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる」(河北新報オンラインより)を起点に~

本記事は、下の就職の現実を書いたエントリ記事の続編に当たります。

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不安なニュースばかりを取り上げてしまい、申し訳ありませんが、大学院生や院卒者の就職に関することが本ブログのメインの一つであり、避けることができませんでした。今週、春分の日に次のような厳しい現実を突きつけるニュース記事が、またもや、ネット上の波にのって、やって参りました↓

 

社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース

 

話題の中心は、「大学院、とりわけ博士課程を終えた「ポストドクター(ポスドク)」」という「3年や5年といった期限付きの研究職」のことです。「常勤の研究職が見つからないまま」、任期付きの職を渡り歩くため、非常に「身分が不安定な」上、「就職難を考えると、いかに日本社会が人材を粗末にしているかが分かる」と、河北新報のニュース記事では指摘されています。

 

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このポスドク、けっこう院生時代の私には身近な存在で、隣の研究室、食事をたかりに行っていた実験系の研究室に一人ずつおられました。いずれも任期が3年で、前者のポスドクさんは旧帝大で特定助教をされ、後者の方は国立の大学院付属研究所で特任准教授をなさっています。「特定」・「特任」という言葉が付属しているとおり、どちらも任期付きのアカデミック・ポストで、不安定な身分です。

 

ポスドクのことが詳しく分かる作品がありまして、それが生命科学博士で研究員をしている主人公の日常が描かれた次の漫画です。

 

主人公を含む、特に任期付きの研究員について、作中では「流動研究員」という呼び名が登場します。主人公のカキオ(表紙画像の右側)は、パートナーのサエコ(同画像の左側)と暮らす日常シーンにおいても、食糧を買いに行けば、学生時代に買っていた100円ギョーザに手がのびかけ、サエコに阻止される…。けっこう、身につまされる内容でした。

 

 カキオのような研究員やポスドクの人たちは、

有期の在任期間に成果を上げなければ、研究職を続けられない可能性もあり、精神的には常に追い詰められている。腰を据えた研究に取り組みにくい状況は学術研究のレベル低下をも招く。

(社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース)

ということで、こういった任期中に成果を上げることを求める厳しさがアカハラだけでなく、ポスドクの下の院生たちが他の業界へ就職していってしまうことにも繋がっているのではないでしょうか。昨日の更新記事で取り上げた「ますだ」記事に挙がっていた、日本の科学研究の失速とも無関係ではないと邪推しております。

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河北新報が報じるところでは、博士課程後期修了者が就職難となる「ポスドク問題」には、

国が進めた「大学院重点化計画」による定員の大幅な拡大がある。1993年度の大学院博士課程修了者は約7400人。それが今や1万5000人を超えるまでに増えた。急拡大した「入り口」の一方で、「出口」の充実策は不十分だった。

(社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース)

という、政策の失敗があったと考えられます。「出口」について、国は「ポストドクター等1万人支援計画」と称し、有期雇用の職を各研究機関に打診し、職はできたけれど、任期付きのポストばかりで、不安定な雇用状態のポスドクが増え、「流動研究員」と化したのでしょう。肝心の准教授や教授のポストが増えないまま、「財政悪化」や「少子化」で大幅に予算が削減されていき、現在に至るようです。

 

Twitterで拾った噂では、団塊世代の大勢の大学教員が退職した後、特に国立大学ではそのポストを減らしていき、若手の就職口が急速に無くなってきている、とのこと。表向き、ポストの削減が分からないのは、学部や研究科の統廃合やカリキュラムの改編を合わせて実施しているとも、私は妄想しております。

 

 なお、「大学院重点化計画」につきましては、高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)等の書籍で論じられてきましたので、本記事では割愛致します。ところで、これら高学歴ワーキングプア、今回の「ポスドク問題」を取り上げる文章では、

肝心なのは博士号取得者の就職ルートを多様化させることだ。高度な専門知識や技術を身に付けた博士号取得者を大学という組織の枠を超え、社会全体で受け入れるようにしていく必要がある。

(社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース)

という提言がされていることが多いのです。日本の博士人材採用の現実については、

 企業が採用する博士号取得者は米国などと比べ極端に少ないという。企業側が年齢の問題から博士課程修了者を敬遠する傾向が関係している。

(社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース)

と報じておらます。年齢もありますが、次のツイートのリンク先にありますように、「高学歴な博士様がコンビニや居酒屋のアルバイトに応募してくるとは、バカにしているのか!」という、世間の「偏見」も一部であると思われます。

つまり、他業種のアルバイトに就けない現実があり、「流動研究員」状態を続けられるようにするか、早い段階でどこかに安定した職を得られるようにしないと、研究が続けられないどころか、生活が成り立っていかない危うさがあるのです。年齢に関しては、

 ポスドクの3分の1は35歳以上という数字もある。不十分な出口対策は、不安定な研究者の高齢化問題をも生んでいる。

(社説|ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる | 河北新報オンラインニュース)

という、次の職で採用される困難さを抱えた人の多さを突きつけています。35歳といえば、失業しても日本の多くの自治体では「若者」ではないとされ、就職支援制度を受ける年齢を超えてしまっています。

 

加えて、返済型奨学金を受けていた人たちには、月々の返済が心配です↓

 

先の研究者マンガ「ハカセといふ生物(いきもの)」の続編では、カキオが学部から大学院博士課程まで、借りた奨学金が結構な額であり、本の売り上げの印税は返済に充てないといけない事情のお話がありました↓

ameblo.jp

 

今回の「ポスドク問題」は、日本の研究業界が非常に厳しい状況にあると、改めてお伝えしたく、取り上げました。本記事を読んだ学部生の皆さん、研究業界が斜陽であると認識した上で、進路はよーく考えて選択しましょう。

 

 

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