仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【ニュース】「一橋大から香港科技大に移ります」という職業研究者の話と「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

<4月半ばのニュース>

1.話題が多くて、まとめて取り上げることにしました

2017年4月半ばの今週、こちらの本の話題↓ 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

に加えて、本記事のタイトルに入れた2つのニュースが出てきまして、記事を1つずつ、立てるには時間がないため、まとめて取り上げることに致しました。

 

①「一橋大から香港科技大に移ります」川口康平氏の話

blogos.com

 

②「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

togetter.com

 

 

2.ニュース①:「一橋大から香港科技大に移ります」川口康平氏の話

一橋大学経済学研究科の経済学の川口康平氏が、オファーを好条件で出してきた香港科学技術大学ビジネススクールへの異動を決めた、というお話です。ご本人がツイートであれこれ、一橋大学と香港科学技術大学の待遇差をされており、その内容が下のtogetterまとめになっていました↓

togetter.com

 

これまでの一橋大学の待遇は、現在の講師職で

  • 給与は昨年,各種手当を全部ひっくるめて634万円
  • 四学期制で五限目の開始時間が17:10になったことで,この時間に開催されているセミナーに乳幼児を抱える研究者の出席が難しくなった.

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめより)

だそうです。給与はともかく、子育てをする環境としては、厳しいなと私も感じました。一方の香港科学技術大学は、同じくテニュアトラックAssistant Professor(≒講師?)で、

  • オファーはというと,USD144K,日本円で1500-1600万円
  • 大学内にファカルティハウスがあって,年収の10%を支払えば,100平米ぐらいの3LDKに召使い部屋と駐車場が付いた部屋を借りられるそうです.
  • しかも,キャンパス内に保育所が完備されており,子育てもし易いようです.

ということで、一橋大学の時よりも、給与は2倍以上、おまけに年収の1割である150~160万円を払えば、学内の上記設備のファカルティハウスが借りられる。更に、キャンパス内に保育所完備とくれば、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス経済学部に留学経験のある川口氏なら、 サクッと決断して移っても、何ら不思議ではないでしょう。特に、香港はクイーンズイングリッシュが話されていますから、言語的な部分でも、適応が早そうです。

 

この香港科学技術大学は、川口氏曰く

香港科技大は近年シンガポール国立大学の後塵を拝しつつあるものの長らく経済学ではアジア太平洋地域のトップ校で,大学総合ランクでも2015年のTHEでは東大を上回っています.とはいえ,研究環境面で一橋が特別負けているとは思いません,じゃあ何が違うのかというと,あれですね,給料です.

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめ)

ということで、アジア太平洋地域で東大をランキングで抜かす大学、かつ待遇がよければ、そりゃ、香港の大学に出ていくでしょう。

 

この話題を受けて、書かれたのが先のブロゴスのニュース記事です↓

大学教員の報酬、それで充分? 一橋大講師の年収額にネット「うちの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」

ニュース記事には、川口氏のツイートへの反応が取り上げられており、ロンドンの先の

同大学は経済学の研究で世界トップレベルの教育機関と言われている。そうした大学で研鑽を積んだ研究者が、一橋大学の講師職では年収600万程度という事実に、ネットユーザーから驚きの声が上がっている。

”「ウチの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」
「634???安っ!」”

2015年度の同大学講師の年間給与は、最低額が約595万円、最高額が約803万円、平均が約693万円と発表されている。634万円は、同大学の水準として特別安いわけではないようだ。

(大学教員の報酬、それで充分? 一橋大講師の年収額にネット「うちの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」)

という話がされています。先のtogetterでは、

いろいろあると思うので、経済系の先生の一事例であまり一般化はしないほうがいいよね。 

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめ)

という指摘があるものの、支払う給与に倍以上の差があれば、海外に移れる優秀な研究者は、どんどん日本を出ていってしまうでしょう。

 

今回の話は、経済学の研究者の話でしたが、今後は別分野の日本の研究者についても、待遇次第で海外に出ていく人は増えていくでしょう、現に、日本でずっと専業非常勤だったとある任期付き助教先生は、最初の正規の職に就いたのが東南アジアの大学でした。英語と中国語が話せる方だったため、適応が早かったそうです。

 

私の個人的な意見としては、以前に書いた【追記】人文学の「価値」を「正面から問うこと」の一連の議論について - 仲見満月の研究室で書いたように、人文学について、このままでは日本で消滅しても不思議ではない、と感じていて、もし日本の研究者が海外に渡るのなら、それはそれで何らかの形で日本の研究が残る可能性があると考えています。悪くないんじゃないでしょうか?

 

Twitter上で見かけた意見には、先のブロゴスのニュース記事のコメント欄を読むと、よくも悪くも、日本の一般の人たちが(職業)研究者をどう見ているかがよく分かるそうです。ぜひ、ご覧ください。

 

 

3.ニュース②:「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

今週に入って、話題をさらったポストTwitterとも言われていたSNSこと、マストドン (ミニブログ) - Wikipediaです。

 

f:id:nakami_midsuki:20170416011413j:plain

 

詳細は、Mastodon(マストドン)ってTwitterのなんなのさ! 使い方の解説や、早くも開催された非公式オフ会の情報が寄せられています - 週刊はてなブログを見て頂きましょう。あ、そうそう、マストドンは2017年4月16日現在、登録者およびインスタンス管理者ではアカウント削除・退会ができないようです。登録の際は気をつけてくださいね。

github.com

Mastodon(マストドン)のアカウントを削除する方法が用意されていない問題について

 

13日の午後、私が登録しようと日本語のインスタンス(サーバー)を探していたところ、日本のインスタンスで、最も登録者数の多いmstdn.jpが非常に重く、登録に時間がかかる状態になっていました(結局、登録はできなかった)。さて、どうしようかと、そこから一日ほど情報取集をしていたところ、何とmstdn.jpの管理者・ぬるかる氏の奮闘を伝えるtogetterを見つけました。それが、冒頭のtogetterまとめです。

mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) - Togetterまとめ

 

油揚げが好物で、②のまとめ1ページ目の情報では「院二年で、自鯖で運営しているらしい。」ということと、「支援,親の扶養外れない程度にお願いします」とぬるかる氏ご自身が発言さていました。この事実が本当なら、インスタンスの管理者として、非常に大変だと感じました…。

 

そのうち、mstdn.jpは人気が出すぎて、13日の23時台には登録者数が1万6000人を突破し、複数のMSのクラウド担当者の方に声をかけられ、自宅サーバーから、さくらのクラウドへ移転するというお知らせが出ました↓

togetter.com

 

そして14日の14時、さくらのクラウドへmstdn.jpが移行したようでした。この行こう宣言に対して、

ぬるかる氏の移行宣言を受けmstdn.jp鯖のローカルタイムラインが既に終わりゆく村と次の移住先に向け支度を始める遊牧民族みたいな感じになってる

(mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) - Togetterまとめ)

という言葉が飛び出すほどの「大移動」だったようで、まるで歴史的事件のその場に立ち合った気持ちになりました。まとめられているツイートを見ていても、最大4万人ほどの登録者のいるインスタンスを管理していたわけですから、現実の人口規模でいうと、自治体の中の大きめの町の町民が一気に移住するわけで、規模としてアカウントの登録し直しを考えただけでも、おおごとっちゃ、おおごとですね。

 

ひとまず、ぬかるさん、お疲れさまでした。管理者として、登録者が増え続ける自宅サーバーの様子を把握しながら、インスタンス新規登録者受付の調整をし、申し出てきたMSのクラウド担当者にTwitterで連絡をとり、さくらのクラウドへ移行する時にはTwitterでも移行宣言を出したんですから。これ、町役場の住民票登録の受理、自治体の移転、移転先の土地での移転宣言(Toot内容がリセットされると、アカウント登録し直してください、とか)、およびこの間にかかったメンテナンス等を含めて、様々な方々からご支援を受けつつも、さばききったわけです。

 

相当の知識と技術に加えて、状況判断ができなければ、できなかったでしょう。ここまでは、大学院生にしては、あっぱれ!としか言いようがないです。

 

これからのインスタンス管理を考えると、大学院生のようなので、こちらpixiv社がマストドンでpawoo.net運用開始 一方日本最大規模のmstdn.jpはデータがリセットされる - Togetterまとめで指摘する方がいらっしゃるように、ぬるかる氏自身が何かしらの運営法人を設立するとか、企業に売却するとか、安定したメンテナンスができるように何らかの方法を考えていかなければならないでしょう。

 

mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) (2ページ目) - Togetterまとめに「余談:Mastodonに望まれること」にも出ていましたが、mstdn.jpのサーバーは肥大化していくでしょうし、これからは法人がインスタンスを設立し、社員や従業員のアカウントを管理するようになっていくかもしれません。

 

私は引き続き、マストドンの動向を見続けようと思っております。

 

 

4.最後に

今回は、職業研究者の海外への転職に関する話、そして院生のmstdn.jp管理者が支援を受けつつ、自宅サーバーからさくらのクラウドへの移行への奮闘ぶりを、最大4万ほどの人口を抱えた町移転とその住民の移住をさばいた町役場(の職員)に喩えて紹介しました。

 

どちらも、今回は別のところから、べつのところへ移ることに関する話題でした。片方は現実世界、もう片方は電子世界での話で、偶然とはいえ、同時期にこのようなニュースが重なったことに、興味深さを感じずにはいられません。

 

そのようなわけで、今回は4月半ばに起こったニュース2件を紹介致しました。

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