よく知られていない学芸員の話 その2:学芸員の仕事となり方について~美術館を中心として~('20.5.22、2時台にリンク切れ確認と #リンク貼り直し 済み)
2字<その2の内容>
5.その1の内容について
本記事は、下の記事の続編となります。
【2017.4.20_1310更新】よく知られていない学芸員の話 その1:山本地方創生担当大臣の「学芸員はがん」発言から - 仲見満月の研究室
↑その1の記事では、4月16日に滋賀県主催の地方創生セミナーで、山本幸三地方創生相が、
文化財観光の振興をめぐり見学者への案内方法やイベント活用が十分でないことを指摘し、「一番がんなのは学芸員。普通の観光マインドが全くない。この連中を一掃しないと」と発言した。
(「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル、以下ニュース記事①)
こと(翌17日に謝罪と撤回)を通じて、学芸員の仕事は一般の人たちに知られていないよね?ということを意識させらたことを書きました。その上で、本ブログに合わせて主に人文・社会学系の学芸員について、その仕事となり方について、今回のその2のほうで紹介していこうと思います。
(イメージ画像:ルーブル美術館と月)
6.学芸員の仕事とは?
6-1.人文・社会学系の学芸員の仕事の概要
その1の記事にも引用した朝日新聞のニュース記事①に載っている学芸員の仕事とは、
学芸員は博物館法で定められた専門職員で、資料の収集や保管、展示、調査研究などを担う。
(「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル、ニュース記事①)
というものです。この他にも、展示品の運搬指示と設置に携わったり、展示品の解説文章や図録に載せる論文を執筆したり、別の施設の特別展に展示内容に関係する時代の戦士のコスプレしていってギャラリートークをしたり、新しい収蔵品の購入が決まったら保存方法の打ち合わせや受け入れの準備をしたり、裏方仕事が多く、一般の来館者にはその仕事を知られることは少ないようです。
引き続き、調べていたところ、主に人文学系の栃木県立美術館、および那須野が原博物館の学芸員の仕事が掲載されている次のオンライン記事を見つけました↓
● 「学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞」(YOMIURI ONLINE、'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
www.yomiuri.co.jp
ここでは、まず、読売新聞のオンライン記事の栃木県立美術館の学芸員(職名は特別研究員)の杉村浩哉さんの仕事を紹介させて戴きます。
6-2.栃木県立美術館の学芸員の仕事
杉村さんが学芸員になるきっかけとなったのは、就職活動中に、栃木県立美術館が「デイビッド・ナッシュという彫刻家を奥日光に招待し、そこで制作されたものを展示しているのを知ったこと」でした。杉村さんは、地元林業に携わっている人と外国の作家の交流に感動し、このような仕事がしたいと志望したそうです。就職後は、もともと、「近いイギリスの古い風景画の最高傑作や、現代アートの巨匠の作品」に関心が近かった杉村さんは、バブルがはじけて予算が厳しくなってから、やっと栃木県内や地元のものの方向に目を向けるようになったそうです。予算が厳しくなって、やっと作品に目を向けるようになったというのは、現実的ですが、ありそうな話です。
さて、地元に目を向け始めた杉村さん。例えば、偶然知った油彩画家・清水登之の調査をしたところ、アメリカやフランスで評価されただけでなく、非常にユニークな人物だということが分かったそうです。「従軍画家として戦意高揚を図る絵を多く描かされた人」であった清水登之について、従軍の様子や逸話を日記を読んで研究。こうした「一人の芸術家にひかれて調査を進める経験が」、別の栃木県出身の画家・関谷富貴の発掘にも繋がったことがありました。なお、読売新聞オンラインの記事にはありませんが、栃木県立美術館 - 企画展 [関谷富貴の世界]が開催されたようです。このように、知られていなかった郷土の画家を見つけ出し、紹介するのも美術館の学芸員の仕事です。
学芸員の仕事には、展示内容に合わせた展示方法やイベントを行い、来館者を楽しませることも含まれています。杉村さんが実行した工夫でウケたのは、2014年1~3月の日本近代洋画展での「その名も「栃木の春は、鮭二本」。
近代洋画と言われても、お堅くて嫌になってしまう。そこで、高橋由一のサケの絵を2枚並べました。何の脈絡もありません。ただ、「なんだこれ」と気にかけてもらえます。新巻きザケの旬の時期でもあり、来場者は前年の95%増でした。
(学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み )
どうも、高橋由一は私の中では「鮭の画家」のイメージが定着していて、今回のオンライン記事を読むと、脈絡もなくポーンと鮭の絵が二枚並べているところに出くわすと、驚いて動けなくなると思います。その年の夏には、栃木県小山市出身のタムラサトル氏の体験型展示を設置。同期の学芸員と、その夏の遊びに行く先に入れてほしいと願いを込めて「真夏の遊園地」と名付けました。「真夏の遊園地」のほうも、好評だったそうです。
- 地元出身の画家について、日記や作品等の調査研究を行い、発掘する
- 発掘した地元出身の画家の企画展を行う
- 季節や時期に合わせて展示品の位置を工夫して来館者を驚かせ、あるいは体験型の展示には合う名前を付け、とにかく来館者を楽しませる
ということが挙げられます。
栃木県美術館の例は、地元出身の画家を意識したものでした。その他、私が学芸員課程の授業で見に行った妖怪画に関する巡回するタイプの特別展では、巡回する土地の美術館や博物館の企画展として、その土地の怪談を絵本風にしたイラスト、地元の妖怪が出てくる絵巻物、妖怪が出るという池や山を描き込んだ地図を展示するところもありました。特に、民俗学資料館や歴史博物館だと、地元の歴史上の有名な人物にまつわる説話と絡めた展示を作り、来館者に楽しんでもらえるように工夫するところもあるようです。
6-3.東京都現代美術館の学芸員の仕事
続いては、栃木県の隣の東京都の美術館の学芸員の仕事について↓
日本のミュージアムの現状に疑問を感じ、ニューヨークの大学院へ留学を決意した著者。日本で「雑芸員」をしてた時の状態に始まり、次はアメリカの大学院へ留学するのに必要なTOEFLの点数獲得のための勉強法を披露。英語はクリアしたものの、どこの大学院に留学するか、選ぶ段階の迷い。いざ渡米し、住むところを決めたものの、ルームメイトとうまくいかなくて、交替してもらったことも、赤裸々に書かれています。実際の大学院の授業では、ディスカッションが中心でした。著者は、こうして博物館の経営を学びながら、日米の文化の違い、そこから発生する差を冷静に見つめます。著者自身は、日本のデパート美術館について関心が高く、そのあたりを大学院でやろうとしていたようです。
留学中、何と2001年のアメリカ同時多発テロに遭遇。騒然とするニューヨークの街で、大学院が休みとなり、著者は日本に戻ることを考えます。
実は、学生時代に私が学芸員課程の授業レポートに使った本でした。エッセイということで、学芸員として博物館を運営する側の視点を知ることができ、そのような意味で非常に有り難い本でした。また、人文科学系で、博物館学に興味があって、留学を考えている人には、少し古いため、次の岡崎匡史氏の本との併読をおすすめ致します。
文系大学院の博士課程に進もうと思うなら読むべき本~岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』:その1~ - 仲見満月の研究室
文系大学院の博士課程に進もうと思うなら読むべき本~岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』:その2~ - 仲見満月の研究室
7.学芸員のなり方
さて、ここまで読んでこられた方々には、「学芸員って、面白そう!」という印象を受けた方もおられるでしょう。ここからは、学芸員の資格の取得方法と就職の仕方のお話をさせて頂きます。先に書いておくと、学芸員資格は教員免許よりは取得しやすく、図書館司書の資格程度には取得が大変で、就職については、
【2017.2.17追記】文系(特に人文科学系)博士卒のアカデミックポスト就職の現実と求人情報掲載先の紹介 - 仲見満月の研究室
の「5.高学歴者の労働ダンピングについて2017217追記」に書いたように、最低修士修了、博士修了が応募資格として求めらるわりに、殆どが契約職員や非常勤職員という非正規ばかりの求人、かつ、どこも倍率が数十倍が当たり前の狭き門というのが現状です。ある意味、図書館司書以上に高学歴で、食べていくのが大変な人が多いと言えそうです。
7-1.学芸員資格の取得方法
まず、学芸員資格の取得法は、読売新聞オンライン記事に書いてあったので、そのまま、引用させて頂きます。
学芸員になるには、国家資格を取得し、自治体やミュージアムの採用試験に合格しなければならない。「学芸員養成課程」を開講する全国300の大学や短大で、実習を含む所定の単位を修得すれば資格が得られる。この課程を終えなくても、認定試験に合格すればよい。
(学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)、'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
私も大学院の「学芸員養成課程」を受講し、必修単位を修得して、卒業と同時に学芸員資格を得ました。教員免許の取得に必要な科目と、学芸員資格に必要な科目が一部、重なっており、教員免許課程の科目単位を学芸員の必要科目に充当させることもできたのです。が、現実はそんなに楽ではありませんでした。先に、文科省が定める学芸員資格の取得に必要な、【博物館に関する科目の単位について】見てみましょう。
大学で修得するべき博物館に関する科目の単位は、以下のとおりです。
科目名
単位数
生涯学習概論
2
博物館概論
2
博物館経営論
2
博物館資料論
2
博物館資料保存論
2
博物館展示論
2
博物館教育論
2
博物館情報・メディア論
2
博物館実習
3
(博物館に関する科目について:文部科学省、20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
文科省の上の表を見たら、「何だ、科目単位を取得するの、楽勝じゃん!」という方がおられるかもしれません。一見、全部で19単位を学部生の4年間で取得すれば、いいのでは?と。
実際の「博物館に関する科目」の単位は、大学の学部、大学院の部局によって、例えば「博物館資料論」が「博物館資料論A」・「博物館資料論B」と二つの科目に分割されており、A・Bが各1単位と設定されて両科目の単位を学部2年次までに取得しなければいかないとか、一番下の「博物館実習」の受講には4年次までに「生涯学習概論」から「博物館情報・メディア論」までに相当する大学・大学院の開講科目をすべて単位修得しておかなければ、「博物館実習」を受講できないとか、けっこう、制限がかけられています。
ちなみに、「博物館実習」とは教員免許課程でいうところの教育実習に相当する科目であり、3年次までに実習を希望する美術館や博物館に、実習受け入れの内諾活動をして、受け入れの許可を頂く必要があります。院試とぶつかりそうな人がいて、調整が大変だと同期の人に聞いたことがありました。
おまけに、これらの「博物館に関する科目」は、実技重視の実習形式の授業が多く、週一回のペースで2000~3000字の課題レポートを課してくる先生もいました。城跡のフィールドワーク、博物館の特別展見学をバシバシ投げてくる先生もおられ、「欠席したら、単位なしね。都合が悪いなら、受講するな。見学した施設や史跡のレポート締め切りは、次の座学の時です」というスタンスをとり、厳しい評価が待っている授業もありました。頭と身体をフルに使わないと、単位がとれない授業がけっこう、存在していたのです。
そもそも、学芸員課程の受講前に、学生に志望理由書を書かせて審査を行い、定員を設けている大学・大学院があるそうです。この審査に合格できないと、学芸員課程を受講することはできません。
また、私の行っていた学部では、「学芸員課程の関連科目」というものが設定されており、学芸員の仕事をする上で必須となる美術史や考古学、民俗学、文化人類学等の科目が合計20単位、必要でした。これらの科目は、学部の要卒単位に入れられたため、大変助かりました。が、こちらの科目も課題レポートの嵐で、学部2~3年次は毎週末、教職か学芸員のどっちかの課程、あるいは両方の課程の授業レポートを書くか、実習に行っていたように思います。
私の行っていた学部のような、割とハードな学芸員課程を置いていたところは、他にもあったようです。例えば、ある大学での学芸員資格取得には、博物館学概論と実習のほか、博物館経営学や展示論やら、生涯学習概論など30単位に加え、さらに選択科目として文系理系の科目8単位以上が必要、というツイートを目にしました。それなりに、ハードなんですよ。
大学在学中に学芸員資格の取得が難しいなら、もう一つの認定試験があるではないか!次に紹介するのは、認定試験による学芸員資格の話です。
「学芸員になるには:文部科学省」('20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)のページによれば、【学芸員資格認定について】のところに、「1)試験認定」があり、その条件は、
- 学士の学位を有する者
- 大学に二年以上在学して六十二単位以上を修得した者で二年以上学芸員補の職にあつた者
- 教育職員免許法第二条第一項に規定する教育職員の普通免許状を有し、二年以上教育職員の職にあつた者四年以上学芸員補の職にあつた者
- 四年以上学芸員補の職にあつた者
- その他文部科学大臣が前各号に掲げる者と同等以上の資格を有すると認めた者
(学芸員になるには:文部科学省より。'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
となっています。大卒者以外では、もしくは大学に2年以上の在籍で、62単位以上修得していた学芸員補*1、あるい二年以上学校教員をしていた教員免許の普通免許状所持者、文部科学大臣が1~4に掲げる人と同等以上の資格を持っていますよと認定した人、ということになります。
つまり、認定試験を受けるにも、大卒か、美術館や博物館に一定期間以上勤務する、あるいは 教育現場で教員免許を持って学校教員をしていた実務経験者が条件として、求められているということです。
他にも、「2)審査認定」という方法がありますが、必要な学位が博士だったり、大学教員の講師や助教以上の職に一定期間在職していた人だったり、ハードルが試験認定よりも高くなっています。気になる方は、「学芸員になるには:文部科学省」('20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)の続きをお読み頂けたらと思います。
7-2.学芸員としての就職の仕方
正直に言いますと、学芸員の資格がなくても、資料の収集や保管、展示、調査研究などを担う職のある美術館や博物館に就職すれば、学芸員と同じ仕事はできます。図書館司書の資格がなくても、図書館員になっている人がいるのと同じです。こういった無資格の人が学芸員の仕事内容を行う職に就くケースは、よくあるのが公務員等の採用試験を受けて、合格して国公立の美術館や博物館に着任する場合です。
実は、7-1の「試験認定」については、公務員等で美術館や博物館に勤務する人が取得する場合が多いとされています。例えば大卒で地方公務員試験に合格し、翌年度から「はてな県立美術館」に着任したAさんがいたとします。このAさんは特に学芸員を目指していたわけではありませんが、最初の配属先が「はてな県立美術館」に決まりました。先輩職員の指導で、この美術館で扱う現代美術にAさんは少しずつ詳しくなっていき、仕事の技術を習得しました。2年が経った頃、先輩職員からすすめられて、Aさんは勉強に励んで試験を受け、学芸員資格を取得しました。その後、一年ほど学芸員として、資格を取得してから仕事に邁進していたある日、Aさんに辞令が出て、県立美術館から観光課に異動することとなりました。
修士卒でとある県の職員となった古林海月氏の公務員エッセイ漫画『わたし、公僕でがんばってました。』(ちなみに著者の専攻は民俗学)によると、自治体職員は数年単位で部署異動があることが挙げられていました。数年ごとの異動は、国家公務員から市町村の自治体まで公務員は同じようにあるとのこと。問題は、せっかくAさんのように、資料の収集や保管、展示、調査研究などのノウハウを習得し、学芸員資格を持った人が育っても、正規の公務員であれば、はてな県立美術館から異動でいなくなってしまうため、長期のプロジェクト継続や仕事技術の継承がうまくいかないケースがあるということです。私が博物館実習でお世話になった美術館の学芸員資格を持つ学芸員の方は、たまたま、その地方の美術史の専門家でしたが、その自治体の正規職員であったため「あと一年したら私は異動になるから、新人に引き継いでおかないといけないなぁ」と心配されていたことを思い出します。
部署異動が当たり前の地方公務員に比べ、契約・非常勤職員の求人枠が多いのが、専門職としての学芸員、あるいは研究職員です。この非正規枠の職員の中には、学芸員の資格+専門分野で最低修士、最近多いのが博士の学位を持っていることが採用条件として、多くなってきています。契約は、長くて数年ですが、中には一年ごとに更新で、最長三年、かつ時給が1000円台の求人が珍しくありません。いわゆる「労働ダンピング」と言われる条件です。
(詳細は、【2017.2.17追記】文系(特に人文科学系)博士卒のアカデミックポスト就職の現実と求人情報掲載先の紹介 - 仲見満月の研究室)
実際に非正規の学芸員として働く人の声を聞くと、不安定な雇用形態のせいで、長期的な仕事ができず、また仕事量自体は多いと言います。
県内の公立博物館で非常勤として働く男性学芸員(29)は「いつ常勤になれるのか不安。長期的な研究や資料収集ができないし、非常勤でも仕事量は多い」と語る。1枠の常勤の募集に数十人が殺到することもよくあるそうだ。
(学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)、'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
ひとつの枠に数住人が殺到することが当たり前なのは、 好きなこと、研究してきたことで給与をもらいたい高学歴求職者には、他に応募できる求人がないという側面があるんです。
また、日本の学芸員が「雑芸員」として多い仕事をこなすことも、問題となっているようです。
日本博物館協会の下田重敬事務局長は「教育普及はミュージアムエデュケーター、調査研究はリサーチャーと細分化された欧米と違い、日本では学芸員があらゆる仕事を一人でこなしている。制度を見直し、労働環境や就職状況を改善していきたい」と話している。
(学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)、'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
つまり、日本の学芸員は、一人で教育業務・調査研究、そして収蔵品の充実まで、何でもこなさないといけない現状なんです。また、運よく正規職員になれたとしても、施設の経営状態が悪化して、リストラされてしまうことだって、あります。
公務員として美術館や博物館に着任しても、数年後には異動になってしまい、好きな仕事ができなくなってしまう人文・社会学系の学部卒の学芸員がいる一方、専門で学位まで取得したのに非正規な雇用かつ薄給で不安を抱えながら働くしかない学芸員もいるのです。
8.最後に
一般の方に、あまり知られていない学芸員の仕事となり方について、美術館を中心に、ざっとお話をさせて頂きました。いかがだったでしょうか?
仕事にしても、大学・大学院で資格を取得するにしても、学芸員の仕事は頭と身体をフルに使います。来館者は大人から子どもまで、老若男女さまざま。よく知られていない学芸員の話 その1:山本地方創生担当大臣の「学芸員はがん」発言から - 仲見満月の研究室でインバウンドの話が出たように、最近は、外国人のお客さんも見かけることが増え、資料の貸し出しや論文以外でも、外国語を使うことが増えてきているんじゃないでしょうか。
ところで、山本地方創生大臣が言っておられた「観光マインド」を学芸員に持ってほしい、ということです。が、マインド云々より前に、先に挙げた栃木県立美術館の学芸員の方々をはじめ、日本全国各地の美術館や博物館等の職員の皆さんは、来館者の方々に楽しんでいただけるよう、しっかりお仕事をされていらっしゃいます。調査研究によって、地元の画家が掘り起こされることだってあり、地域おこしにも貢献されているのではないでしょうか。
もっとも、山本大臣が求められているマインドが、本記事で紹介した美術方面ではなく、文化財の観光方向への有効活用であるというのを承知で申し上げれば、大学院修士課程以上の専門研究をしてきた院卒者を公務員上級別枠の学芸員技術職で採用し、他の部署異動の多いゼネラリスト的な自治体職員とは別で育成していく制度を、もっと広めて頂きたいということです。研究教育機関以外で、各自治体の文化財の担当部署、公立の美術館・博物館等に学芸員技術職の正規枠を常に置くようなシステムを作ってください。様々な法律を遵守し、文化財を次世代へ繋げていく専門知識と訓練を受け、技術を持った学芸員を、まずは異動のない公務員として雇う枠を用意するよう、地方自治体に伝えて頂きたく思います。
合わせて、今の日本の各所に共通する次の問題について、考えていく必要性を今回の「学芸員はがん」発言で痛感いたしました。博士号所持者が政治家で見かけるレベルにしていかないと、次の記事を拝読して思いました↓
なぜ日本は高度教育を受けた高機能人材を排除したがるのか - 狐の王国
(河野議員だけでは、間に合わない!!)
9.余談:地方公務員と地域振興の仕事について
東京の大学卒業後、地元の市役所に就職した新人の水野くんが、なぜかネコ姿の上司・吉田係長のもとで市役所職員として成長していく物語。巻末に、市で見つかった化石をもとに、水野くんが恐竜でまちおこしに若手たちで突き進もうとするも、仕分けに合いそうになったり、予算をとるのに苦労したりする話が出てきます。地方公務員あるある!な一冊です。
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