仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

公立図書館、特に都道府県立図書館の蔵書超過問題~「蔵書荷重超過で床にひび 静岡県立中央図書館、3~4カ月休館」(静岡新聞)ほか~

<今回の内容>

1.はじめに~蔵書問題の話題、再び~

皆さま、いかが海の日をお過ごしでしょうか。私は夏コミの漫画原稿のデジタルアシスタントの休憩時間に、本記事を書き始めました。その間、別の漫画を読んだり、ニュース記事をネットで見直したりしていました。すると、蔵書問題が再び、ニュースになっておりました。

 

前回、複数の記事にわたって、桑原武夫の蔵書が廃棄された問題を取り上げたことがありました。その問題を分析・考察した後、寄託・寄贈する場合、生前に持ち主、そして遺族がどういったことに気を付けたらよいか、といった内容をまとめたと思います:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

f:id:nakami_midsuki:20170717181920j:plain

 

今回、改めて読んだニュースは、静岡県立中央図書館の2階閲覧室の床にヒビが見つかり、臨時休館することになったというものでした。以下、第2項でこの件に関する2つの報道記事を通じて、実は在野研究者も利用することが多いと思われる、公立図書館の蔵書問題超過問題を考えてみたいと思います。

 

 

2.公立図書館の蔵書超過問題を考える~静岡県立中央図書館を例として~

 2-1.「蔵書で床が抜けそうに…「静岡県立中央図書館」が臨時休館」(週刊新調)

最近、Twitterでもまわってきたニュースで、本日、改めて読んだのがこちらの週刊誌のネット記事です。

蔵書で床が抜けそうに…「静岡県立中央図書館」が臨時休館

週刊新潮 2017年7月20日文月増大号 2017/7/12発売

 

 床と一緒に腰も抜けてしまいそうな話である。静岡県立中央図書館の2階閲覧室の床に、最大で幅1・4ミリ、長さ3メートルにわたる複数のひびが発見され、3~4カ月の臨時休館を余儀なくされた。静岡県教育委員会の担当者によれば、

 

「県立図書館は築48年になるので、今年の4月から6月にかけて長寿命化に向けての施設調査を行い、発見しました。ひびは職員も以前から認識していましたが、古さゆえのものと、危ないとは思っていませんでした」

 

 放置すれば、床が抜けることにもつながりかねないという。古い建物に東海地震への懸念もあるが、

 

地震に対しての補強はすでに行っており、耐震性については県の基準を満たしております」(同)

 

 だが、安心することなかれ、今回の“ひび”は、図書館が抱える根源的な問題とつながっているというからヤッカイである。

 

「今回の調査では、本の荷重がかかりすぎているという指摘がされました」(同)

 

 閲覧室の床の構造は1平方メートルあたり荷重が300キロまで耐えられる設計になっている。ところが、ここには約20万冊の本が収蔵され、1平方メートルあたり560キロの荷重がかかっていたのだ。

 

「本が増えてもそのくらい耐えられるだろうという認識だったのです。続々と新刊が出る中で、資料保存を使命とする図書館は蔵書量がどんどん増えていきます。ほぼ満杯になってしまった現状をどうするか、数年来の懸案でした」(同)

 

 県政担当記者が言う。

 

「三選が決まったばかりの川勝平太静岡県知事は浜岡原発について、再稼働反対の方針を打ち出し、波紋を呼んでいます。一方、図書館建て替えには数十億円の予算がかかる。こちらは目途も立っていない状態です」

 

 それこそ汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)の蔵書をお持ちであろう学者知事に、難題が降ってきた。

 

www.dailyshincho.jp

 

冒頭の「床と一緒に腰も抜けてしまいそうな話」とありますが、私がこの図書館の職員だったら、ぎっくり腰になってしまいそうな事実です。

 

2階閲覧室の床に、最大で幅1・4ミリ、長さ3メートルにわたる複数のひびが発見され」たって、見つけていないまま放置していたら、2階の床が抜けるどころか、下の階の天井に穴があくことになり、けが人が出ていたところじゃないでしょうか。とりあえず、被害が甚大になる前にひびが見つかってよかったです。休館3~4ヶ月は、仕方がないと思いました。

 

静岡県県立図書館の関係者である静岡県教育委員会の担当者が話すには、

 「県立図書館は築48年になるので、今年の4月から6月にかけて長寿命化に向けての施設調査を行い、発見しました。ひびは職員も以前から認識していましたが、古さゆえのものと、危ないとは思っていませんでした」

とのこと。個人の住宅では、10年に一回、老朽化のチェックをしましょう!というお話を、私は実家のリフォームの際、雑誌の高齢者向けリフォームの特集記事で見かけた気がします。公共施設の場合は何十年に一回かはわかりませんが、今回の施設調査よりも前、ひびに職員は気がついていたけれど、さすがに建設業や建築士等の専門家でない限り、どの日々が危ないものか、というレベルが分からなくてもしょうがない、と私は思いました。

 

 で、困ったのがひびの原因が、「本の荷重がかかりすぎているという指摘」でした。

 

具体的な数字と、どのくらい、この県立図書館の職員が困っていたかというと、

閲覧室の床の構造は1平方メートルあたり荷重が300キロまで耐えられる設計になっている。ところが、ここには約20万冊の本が収蔵され、1平方メートルあたり560キロの荷重がかかっていたのだ。

 

「本が増えてもそのくらい耐えられるだろうという認識だったのです。続々と新刊が出る中で、資料保存を使命とする図書館は蔵書量がどんどん増えていきます。ほぼ満杯になってしまった現状をどうするか、数年来の懸案でした」(同)

(蔵書で床が抜けそうに…「静岡県立中央図書館」が臨時休館 | デイリー新潮)

ということです。

 

閲覧室の床の1平方メートルの耐重が300キロで、20万冊の本の収蔵により、実際は560キロの荷重だったということですから、耐えらえる重さよりも230キロもの重さが常時

かかっていたことになります。ヤバイ重さですね。担当者は、増えても耐えられると思って、「資料保存を使命とする図書館は蔵書量がどんどん増えていきます」と言って、現状でほぼ満杯になっていたと。

 

蔵書が増えすぎて、ほぼ満杯だったところに、施設の安全性を揺るがすひびが見つかったということで、現場の職員の方々は、これから様々な対応に追われそうです。外野の私が言うのは何ですが、土木やインフラ管理などの専門家の方に、早い段階で相談していた方がよかったと。

 

ほぼ満杯の蔵書問題については、静岡県立図書館の臨時休館中、工事で運び出して別の場所に保管しておかなければならない大量の本が心配です。先の桑原武夫の蔵書の廃棄問題では、京都市各図書館の工事が相次ぎ、蔵書がたらい回しにされていく中で、状況的に「誤って」廃棄が行われた見方ができると、今の私は認識しています。また、【2017.4.29_1330追記】続・死後の人文学者の蔵書問題~「「先生の学問体系失った」 桑原武夫氏蔵書、無断廃棄」(京都新聞)を中心に~ - 仲見満月の研究室の「3-1.遺族の要請で寄贈本が全て返還された岡山県高梁市のケース」では、

 市教委によると、通常、蔵書登録した寄贈本はおおむね1カ月以内に貸し出す。藤森さんの書籍は当時、約7万冊を収蔵していた高梁中央図書館の蔵書として登録したが、スペース不足で西に約8キロ離れた旧成羽高体育館に保管。貸出時に取りに行く人員が割けないことなどから蔵書検索の対象から除外していたという。

 新図書館開館(2月)に伴う蔵書整理で、夏目漱石内田百けんの全集、所蔵していない備中松山藩山田方谷の関連資料などを除き大半の廃棄を決定。これを知った遺族が全ての返還を求め、現在は藤森さんの市内の実家に置いている。藤森さんの弟、日出雄さん(78)=大阪府枚方市=は「兄が心血を注ぎ集めた本ばかり。市民のために役立ててほしいと思ったが残念でならない」と話す。

(寄贈本1万6千冊を10年間放置 岡山・高梁市教委、遺族要請で全て返還 (山陽新聞デジタル) - Yahoo!ニュース、リンク切れ)

 という背景がありました。「約7万冊を収蔵していた高梁中央図書館の蔵書として登録したが、スペース不足で西に約8キロ離れた旧成羽高体育館に保管」していたことから、今回の静岡県立中央図書館の蔵書は、満杯不足が解消される前に、今回の工事で、一部の資料を古い県立公共施設に持ち込まれ、一時的な保管をされる可能性が高いでしょう。その中で、貴重な郷土資料が散逸する恐れがゼロではありません。

 

静岡県立中央図書館の「建て替えには数十億円の予算がかかる」そうですから、改修工事をして、しのぐしかないかもしれません。浜松原発の再稼働反対をめぐり、県知事の今後が気がかりではありますが、県立図書館は、各都道府県で郷土資料をはじめ、貴重な資料をまとめて保存しているケースがありますし、県下の市町村立図書館同士を繋ぐセンターとしての役割も持っていることが多いでしょう。そういった観点から、県担当者の方には県知事に進言していただいたいと思います。

 

 2-2.「蔵書荷重超過で床にひび 静岡県立中央図書館、3~4カ月休館」(静岡新聞)

週刊新潮』のオンライン記事で、かなり詳細な情報が出ていました。今度は、7月3日に公開されていた、次の静岡新聞の記事で新しい情報を探しましょう。

 

www.at-s.com

 

蔵書荷重超過で床にひび 静岡県立中央図書館、3~4カ月休館

(2017/7/3 18:50)

 

 静岡県立中央図書館(静岡市駿河区)の資料棟2階閲覧室の床に複数のひび割れがあることが3日までに、県教委の調査で分かった。蔵書が設計時の積載荷重を超えた状態が続いたことが主因とみられる。県教委は同日以降、図書館を臨時休館し、蔵書の移動による荷重軽減とともに、床の状態の詳しい調査を行う方針。
 県教委が4~6月に実施した補強可能性調査で床のひび割れが見つかった。閲覧室の蔵書は20万冊で、設計時の積載荷重の10万冊を大幅に超過し、床に大きな負荷が掛かっている状態という。
 緊急対策として、半地下階の書庫の蔵書を外部保管場所に移した上で、閲覧室の蔵書を書庫に移動する。臨時休館は3~4カ月程度を想定している。
 県立中央図書館は1969年の建築から48年が経過し、施設の老朽化が著しい。収蔵量は84万5千冊に対して82万冊以上に達し、2022年度には限界になる見通し。県教委は有識者会議を設けて中央図書館の在り方を検討し、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」に図書館機能の一部を移転する方針を示している。

蔵書荷重超過で床にひび 静岡県立中央図書館、3~4カ月休館|静岡新聞アットエス

 

週刊新潮』に出ていなかった情報として、次の4つのことが挙げられます。

  • 設計時の積載荷重の10万冊だったこと
  • 緊急対策として、半地下階の書庫の蔵書を外部保管場所に移した上で、閲覧室の蔵書を書庫に移動する
  • 県立中央図書館の収蔵量は84万5千冊に対して82万冊以上に達し、2022年度には限界になる見通しだということ
  • 県教委は有識者会議を設けて中央図書館の在り方を検討し、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」に図書館機能の一部を移転する方針

上の3つは、先の『週刊新潮』の記事に出ていた情報について、より細かい数字、および「緊急対策として、半地下階の書庫の蔵書を外部保管場所に移した上で、閲覧室の蔵書を書庫に移動する」ことが出ています。2-1のところで、私が指摘した「書庫の蔵書を外部保管場所に」移動する対応策が出ていました。静岡県立中央図書館から遠く離れた、古い県立公共施設の倉庫等は、本の保存状態を考えると冷暖房や湿度調節機能がないところでない限り、避けたほうがいいとは思います…。

 

2022年には収蔵量が限界になるということは、4つ目の「JR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」に図書館機能の一部を移転する方針」と合わせて、計画を具体的に打ち出すことができるんじゃないでしょうか。

とはいえ、その前に、「三選が決まったばかりの川勝平太静岡県知事は浜岡原発について、再稼働反対の方針を打ち出し、波紋を呼んでいます」と先の『週刊新潮』の記事にあり、静岡県の県政の先行きを考えると、いろいろと静岡県立中央図書館の図書館機能の一部を移転方針の実行には、不安要素が見え隠れします。

 

静岡県民ではない私ではありませんが、せめて、静岡新聞に出ていた4つ目の図書館機能の一部の移転方針が実行されることを願っております。

 

 

3.最後に

今回は、静岡県立中央図書館の蔵書荷重問題を取り上げました。懸念事項は、施設の改修工事をしている間に、資料の仮置きで郷土資料をはじめとする貴重な蔵書が散逸することや、傷んで読めなくなることがありました。また、都道府県立図書館は、その下の市町村立図書館をネットワークで結び、さらその中枢としての機能を持っているところが全国的に多いと思われ、静岡県立中央図書館が蔵書問題によってダメージを受けると、何かしらの形で、静岡県下の市町村立図書館に影響があることが考えられます。

 

実は、今回の件についてTwitter上の反応を見るとですね、例えば図書館の協議会で会議をすると、毎回、所蔵本が満杯で、既に本の保管場所に困っている図書館の話題が上がるそうです。なかには、寄贈をすべて断っている公立図書館もあるそうで、ひょっとしなくても、静岡県立中央図書館だけでなく、それ以外の公立図書館も蔵書による荷重超過で施設が危ない状態になっているところはあり得るかもしれません。

 

実は、第1項で書いたように、公立図書館は在野研究者がよく利用するところです。郷土史研究家の場合、地元の資料を所蔵している図書館が研究対象の情報を資料として保存していることが多いから、そこを利用します。特に、都道府県立図書館は、その地域独特のデータベースを持っていたり、地元名士の寄贈書を文庫としてまとめて持っていたりすることがあって、図書館学の授業レポートを書く際、私も利用したことがありました。

 

以上のような観点から、公立図書館はできるだけ早く、蔵書の荷重が図書館施設にかけている負担を調べたほうがよいでしょう。その上で、使用の散逸・汚損を防ぎながら、改修工事、および将来的な資料保存と受け入れについて、対策を立て、自治体の首長に報告・進言をして頂きたいと思います。よろしくお願い致します。

 

今回は、ここでおしまいです。最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

  

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